3.言質
「赤羽ちゃん。今年のペアは石松さんよ」
「よ、よろしくお願いします」
いきなりでまだ完全には整理がついていないけど、図書室のカウンターに戻り、頭を下げて赤羽先輩に挨拶をすると、桜井先生を睨んだ後機嫌が凄く悪そうな顔でスマホに視線を戻しながら一言返される。
「あっそ」
それを聞いてなんとも言えない悲しい気持ちになると、桜井先生が一歩近付いて赤羽先輩に上から言葉をかける。
「ちゃんと、挨拶しなさい。赤羽ちゃん」
低い声と立ち姿に一瞬赤羽先輩よりもやばいオーラを感じてゾクッとすると同時、赤羽先輩も負けじと睨み返し、桜井先生のほらという一言に面倒くさそうに私を見ると、赤羽先輩は口を開く。
「赤羽亜月だ。面倒かけるなよ」
「赤羽ちゃん? 」
「分かったよ。はいはい、よろしく」
「ふふっ、良く出来ました。石松さんに変な事したら、分かるわよね?」
「はっ、こんな陰キャに手なんか出さねーよ」
「そんな事言わないの。ごめんなさいね、石松さん。でも、言質は取ったから、ね?」
淀みないやり取りで優しい声色なのに中々の事を言う桜井先生にぎこちない笑みを返すと、おいでと手招きされ、なされるがまま体を操られ赤羽先輩の隣へと座らせられる。
「それじゃ、本の貸出表の書き方について教えるわね」
そしていきなり貸出カードの書き方を教えられ、すんなりと理解し覚えると、桜井先生はニコッと笑って言ってくる。
「それじゃ私は会議があるから、少しここを空けるわ。二人で仲良くするのよ?」
「えっ?えっーと、あの、はい」
「ふふっ、ばいばーい」
戸惑いながらも取り敢えず頷くと桜井先生は手を振って図書室を出て行き、私と赤羽先輩の二人っきりに。
物凄く気まずい中どうしようかと座ったまま考えていると、いきなり赤羽先輩がカバンを持って立ち上がり、私を見下しながら言ってくる。
「だるいし帰るわ。一人でどうにかしろよ」
「あっ、は、はい……」
驚きながらもかろうじて返した私の言葉を最後まで聞かず、放課後なんてまだまだ始まったばかりなのに、スタスタと図書室を出て行った赤羽先輩に呆気に取られながらも、まあ私と一緒なんだから仕方がないかとどこか自分の心を丸め込み、静かな図書室で一人ぼっーとする。
そうして段々と春の穏やかさのせいで眠気に襲われうとうとしていると、いきなり図書室の扉がばっと開いて赤羽先輩が不機嫌そうに戻って来て、席に付くなり舌打ちを一つ。
それに私はまた驚いて眠気が吹き飛び、もう三日経ったのかと頭を混乱させていると、次いで桜井先生が図書室に入って来て、ある程度は何があったのか理解する。
「次逃げたら、仕事がある日は全校放送で呼んであげるからね。赤羽ちゃん。ふふっ」
楽しそうに恐ろしい事を言う桜井先生が、また手を振り図書室を出て行く。
一方、先生に見つかって戻って来た赤羽先輩はそれからずっと更に不機嫌そうにスマホを弄り、重い雰囲気の中放課後の時間が静かに過ぎて行く。
そして放課後を終わらせる音楽が流れ始めると、赤羽先輩は立ち上がって一言言われる。
「早く出ろ」
「は、はい」
赤羽先輩の一言に私は急いで図書室のカウンターを片付けて、カバンを持って外に出る。
するとバンッと扉を赤羽先輩は閉めて鍵をかけ私には目もくれずに、廊下を歩いて階段へと消えて行った。
私はその背中を見送って、赤羽先輩と一年やっていけるだろうかと心配に思いながらも、私も家に帰ろうと廊下を歩き始めた。
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