ざまぁする必要がなかった件について〜令嬢と令嬢、ビンタで繋がる絆〜
夏の駄作だね!女の子が主人公だよ!!大事な婚約者に、ガールフレンドがいる?!粛清だ!そう思ってたら、予想外のことが起きちゃった!そんなお話!
私の婚約者、フレンリー様には、もっと似合う方がいると思う。成績優秀で誰よりも優しく、平民にも貴族にも別け隔てなく接するフレンリー様に、嫉妬深く沸点が低い私は似合わないから。
そう思っていたある日、私は彼と、ある少女が楽しげに話しているのを見かけた。確か、男爵令嬢のアリアムーン様といっただろうか。貴族女性にしては珍しい、短く切りそろえられた髪と、キリッとした目がよく映えるご令嬢だ。しかも制服もズボンを履いているので、その容姿から男装の麗人とよく言われている。
容姿だけでなく性格まで好青年のようだと有名な彼女が、フレンリー様と恋仲なんてこと無いのではと最初は思いもしたが、あんなに楽しそうに話す彼を見たのは始めてだった。
ショックはあった。けれど、これが私と身分も見た目も対して違わないご令嬢だったら、私はもっと我を忘れて怒り狂っただろう。相手は、位が私より低く、私より魅力に満ちた女性だ。なんだか怒る気もなくなった。
兎にも角にも、これは早いところ婚約を解消して、次の生活のことを考えたほうが良いだろう。私はフレンリー様を放課後の東屋に呼び出した。
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「単刀直入に言います。婚約を解消しましょう」
「え……嘘、だよね?」
「本当です」
「僕、何かしたかな…嫌だったら直すし、教えてほしいんだけど…」
誤魔化しているのか、わからないのか、反省しているのかわからないけれど、たしかに彼は動揺している。どうでもいいと思われてはいないことに、少しホッとした自分がいた。でも、もう決めたことだし、卒業までにややこしいことは済ましておきたい。
「仲の良い、女性がいるでしょう?私よりも、はるかに信頼できて、魅力的な方が」
「いや、誰…それ…?」
「髪を短く切りそろえていて」
「うん…?」
「涼しげな目元で」
「…」
「剣術に秀でていらっしゃる…」
「ねえ、それってリアンだよね?」
やっぱりあだ名で呼び合うほど仲がいいじゃないか。誰それなんてよく言ったものである。
「もう良いのです。私は実家に帰りますので、アリアムーン様とお幸せに」
「いやだから違うって!!」
「何がちゃうんじゃ!こんのボケナス優男!!!!!往復ビンタでサヨナラすっか?!?!?!」
「ボケナス優男?!?!その前に話聞いてよ!」
怒りに支配され立ち上がったが、かなりショックそうな顔で叫ばれては私のこれからが危ない。話を聞いてやろう。私は座り直した。
「ええっと、リアンね、君と友達になりたいんだって」
「?」
「前から、君のビンタの素早さには一目置いてたらしくて。だからまずは、一番ビンタを受けてる僕に色々聞いてきたんだ。そしたら仲良くなって、剣術とか、色々教えてもらえることになって…ちょうど明日、決意を固めてカチこむとか言ってたから、紹介しようと思ってたんだけど…」
「びん、た…」
私は沸点が低くよくキレるので、フレンリー様にも幾度となくビンタをかましてきた。それをニコニコ受け入れる彼も彼だと、喧嘩両成敗で済むと思っていたこの不祥事。ナナメ上の方向で役立っていた。
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「私とお友達になっていただけませんか?」
「あの、なぜ?」
「それは…貴女がフレンリー様にするビンタを見ていて…そのすばやい身のこなしに見惚れてしまったからです。あんなに美しい平手打ちを、私は見たことが有りません」
次の日本当にこんなことになってしまったから不思議だ。幼子のように瞳をキラキラさせて、ビンタについて語ってくる男装の麗人。部外者であれば笑えるシーンだが、私はポカンとするしかないのだ。
「わかりました…ただ、ビンタのことは、他言無用で。あれは一応、乱暴の部類ですから」
「はい!あの、厚かましいお願いですが、握手を…」
「そこは平手打ちではなくて?」
「たしかに!」
「ほら、手を出して。最初だから、優しくしてあげます」
こうして私は、恋敵だと思っていた男爵令嬢とタッチをして、友達になってしまったのだ。
人肌恋しくない季節ですが、いかがお過ごしでしょうか。この度、夏の駄作シリーズ、冬の駄作シリーズを統合し、季節の駄作シリーズといたしました。