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君の物語

 

 対話を経て、両親とオギーはいつもの調子を取り戻した。

 姉がその様子を部屋の外から微笑ましく見つめ、そしてすぐ寂しそうに俯いて自室へ入っていく。扉に賭けられたネームプレートが揺れ、暗転した画面の中央にプレートと同じ名前——『ヴィア』の字が映った。


 そして同じ日のヴィア視点の物語が始まる。


「ヴィアってお姉ちゃんか。視点切り替え?」


「そう。切り替えが演出が洒落てて好きなんだ」


「確かに、いいね。ずっとオギー視点だと思ってたからびっくりした」


 驚いたと言っているが、反応からして“感心”の方が強そうだ。意外性と粋な演出で客の心を引き付ける——名作たる所以再びだ。


「これ多分あと二、三人切り替えあるでしょ。オギーの学校で一人と、今言ってたヴィアの疎遠になった親友もありそう……あとは、お母さんとか学校の先生」


「ど、どうかな?」


 鋭い。

 黒江はシナリオ構成が巧みな作品が特に好きだ。綿密な伏線回収であったり叙述トリックがあるものを観た後はテンションが高いし、今のように先の展開を予想しながら観るからか俺が初見では気づけなかった細かい要素にも気が付く。

 たまにやる今のような展開予想も“いい線いっている”ことがほとんどだ。

 これだから彼女と観るのは楽しい。——小賢しい計画やら悩みやらも忘れそうだ。



 ——— ——— ———



『宿題はママに頼らないし、試験ではパパに心配かけない。勉強は病室か待合室でやった。私は世界一手のかからない子だって——そうかな?』


『仕方ないって知ってただけ』


『私から見ると、ママの描く宇宙はオギーが中心。ママはとてもいい目をしている』


『一度でいいから、私を見て欲しい』



 ——— ——— ———



 両親はオギーに付きっきり、自分を一番愛してくれていた祖母はもう亡くなってしまった。さらには親友で一番の理解者だと思っていたミランダは夏休みのサマーキャンプに行って以来、自分を避け始めた。

 家族は好きだが、誰も自分を見てくれないように感じてしまう。


 家庭内不和という程ではない居心地の悪さ、絶望と言うには軽い悲しみ。ヴィアというキャラクターはそんな緩やかな息苦しさを抱えている。


 大多数の視聴者はオギーよりもこのヴィアに心を寄せ、共感するだろう。人生の全てが順調に進むことなどない。多くの人はそこで足踏みをしたり、引き返してしまったりする。

 だが彼女は真っ直ぐに愚直に進む。それはオギーという存在を身近に見てきたからだ。


 ヴィアは俯きながらも前に進み、新しい挑戦として演劇部に入る。そこで一人の男子生徒と仲を深めて恋人になった。

 そして、最後には劇の主役として見事な熱演を披露して喝采を浴びる。当然客席には家族も居て、彼女の成長を想い涙している。彼女は自分の努力で関心を取り戻したのだ。




「すごい」


 黒江はその姿を見て、そう呟いた。横目に見やれば頬には一筋の涙が伝っている。


 泣き顔なんてもう何度も見ているのに、こればかりは中々慣れない。毎回、彼女の涙の意味を考えすぎてしまうのだ。

 特に今回は家族の話、ましてや母と娘の不和が解消されるという話だ。自分が選んでおいて勝手なことだが、彼女が“喰らって”しまっていないか不安にもなる。


 これを観て「ヴィアみたいに頑張って母親と和解しろ」とか「もっと辛い思いをしている人が居る」とか言いたいわけじゃない。でもそう受け取られても仕方ないと思う程度には、この映画は黒江の状況に近しい要素が多い。

 “母と娘の不和”だけではなく、“夢の中断”なんて話も出るし、“違う自分を演じる”といった部分はここ最近の黒江の様子そのものだ。




 そして物語は黒江の推測通り、オギーの初めての友達、それにヴィアの幼馴染ミランダの視点を経てラストシーン——オギーの修了式へ向かっていく。

 一年間、どんな逆風に晒されてもめげずに学校へ通い続けた彼は、なんとその年の最優秀生徒にまで選ばれる。


 全校生徒と保護者の前で登壇し、表彰されるオギーの独白で本作は幕を閉じる。

 大喝采を浴びながら、最後に一つの格言が視聴者に向けて投げかけられる。


『人をいたわれ、みんなも闘っている。相手を知りたかったら方法はひとつ——よく見ること』


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