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第十一話

 ブーツを脱ぎ捨てた場所から距離を取る。

 幸いこの部屋は謎の力で音が殺され聞こえない。動く際の背嚢に付けている剣がガチャガチャと当たる音も聞こえないだろう。


 ブーツはさっき辿った辺りの壁際に投げ捨てておいた。

 相手からしたら私が壁を背にして警戒しているように見えるはず。

 だから私はその裏をかく。

 これまでの相手の動きでより正確に部屋のおおよその広さと位置は掴んだ。

 さっきはあの辺りから攻撃して来た。これまでの位置も含めて考えると次は多分……。


「そこっ!」


 しばらくした後、当たりを付けていた場所からこれまでで一番強い気配がしたので即座に攻撃。

 状況的に見て、私が動かなかったからチャンスと見て最大級の攻撃をした、って感じかな?

 おかげでこちらの攻撃の手応えはあった、悲鳴は当然ながら聞こえない。

 だがそれまで攻撃する時にしか感じ取れなかった気配を今はわずかに感じる。

 私の攻撃を受けて気配を消し切れてないが懲りずに移動しようとしている。

 ここは追撃して一気に仕留める!


「ふっ!」


 滅多斬りにした結果、完全に気配は消えた。

 こいつはいったい何だったのか?

 この暗闇では確認のしようがないがこいつはこの暗闇の部屋で唯一見える光に向かって的確な攻撃をして来た。

 あの光の正体は多分触手が出していた白濁液だ。

 ブーツにもかけられたし、身体にもかけられた。

 今はカピカピの服を着ているから見えないけど、胸元を開いて見れば一目瞭然なくらい光っている。

 この部屋に入る前に服を着ておいてホント良かった。もし着てなかったらブーツでなく、的の大きい体を狙われていた。下手したら一撃で致命傷だったかもしれないし。


 さて、斬りつけた時の感触から人型のようであった。だからトドメの意味で首だと思われる辺りを一応切り取っておこう。


「あ、眩しっ!」


 不意に明かりがついた。

 今まで真っ暗闇だった部屋に光と音が戻って来る。


 私の足元には顔のパーツで目だけが異様に大きく、上半身がホブゴブリン、下半身がゴブリンな奇妙なゴブリンの死骸。

 武器も何も持っていない両手のひらには見たことのない魔法陣。


「何この、異形種」


 なるほど、こんなのに襲われていたのね。

 武器らしいものは持ってないけど、魔力弾でも撃ってきたのかな? 

 しかし、なんで突然部屋に明かりが点いたのだろう?

 私、何かスイッチ的なのを無意識のうちに押した?

 それともこのゴブリンを倒してから規定の時間が経ったから?

 ……いや、もしかして滅多斬りにした段階でゴブリンはまだ生きていた、とか?


 いや、いいや。

 考えてもしょうがない。

 とりあえずこの迷宮ではじめてのまともな魔物なのよね。

 お、魔石化したね。魔石は回収っと。

 は? 触手? あんなのは魔物とは認めないよ?


 〜イロイロ教えて! のコーナーその二〜


「はい、リズ姉さんです」

「おぃーす、えるせてぃだぞ! オラまたでばんがあるとはおもわなかったぞ!」

「私もびっくりしてます。さて、今回は迷宮と魔石について簡単に説明します」


「めーきゅーとませき。ふははは、じけんはめめきゅーいりだ!」

「その使い方はちょっと違うかな。というか迷宮入りしちゃダメでしょ、ちゃんと解決してね? 迷宮とは世界の各地に存在する、内部で魔物が自然発生して、様々なお宝が眠っている場所の事です」

「みんながよくしっているめーきゅーとおなじでだいたいおけまるだよ」

「えるちゃん、身も蓋もない楽な説明しないの。主だった事を箇条書きで説明しますと、迷宮内には魔物がいます。倒して少しすると魔物の肉体は魔石に取り込まれ、魔石が手に入ります。魔物の部位、素材が欲しい場合は仕留める前に切り取っておく事が必要です。ですが命を失った肉体は一定時間で迷宮に取り込まれるので素材の回収には注意が必要です」

「ませきをこわすとまものはしぬ」

「その場合、魔石は手に入らないけど素材は丸々手に入ります」

「そざい、げっとだぜー」

「ちなみに迷宮の外にいる魔物は倒しても魔石にはならず、死骸が残ります」

「おにく、げっとだぜー」


「次に一般的に迷宮内は明るくないので冒険者側で明かりが必要となります。元から明るい迷宮もあります」

「こんかいのめーきゅーがそうだよね。まりょくとうがあるからまっくらじゃないよ」

「宝箱が置いてある事もあります。迷宮の奥には迷宮主がいて倒すとお宝が手に入り、帰り道が現れます」

「わーぷなんてらくはさせてくれないのじゃよ」

「そうね、あくまでも帰り道。ショートカットなイメージです。迷宮主は倒しても一定時間で再出現します。ごく稀に迷宮自体が無くなることもあるようです。魔物の体の部位を切り取った素材は武器や防具、様々な道具の材料などに利用されています」


「よくぎるどのうけつけのおねえさんたちが『こんなきたねぇしがいをかうんたーにのせんじゃねえよ! こんこんちきがっ!』っていってるよね」

「ちょっ!? 言ってません! 少なくともファーネフィはちゃんと案内してるから受付ではなく、素材引取カウンターで皆さん出してくれてます」

「そだっけ? ま、いか。で、ませきってなぁに?」

「魔石とは魔物の核であり、いわゆる本体です。我々が人の世界では必要不可欠な素材として扱われています」

「みんなませきをもってかえるけど、なんにつかってんの?」

「魔石は冒険者ギルドで引き取り、鍛冶屋さんや道具屋さん、そして国に卸しています。小さい魔石はランタンとか生活の一部で使われていますね。あと魔物素材を用いた武器防具の作成や加工しづらい道具作成の時に魔石を使っている場合があるそうですよ」

「へー、でおくにはませきをなににつかってんの?」

「…………さあ?」

「おぉう、こいつぁなんかやべーにおいがぷんぷんするぜ!」


「ということで冒険者さん達は迷宮に入って魔石を持ち帰ったり、依頼によっては魔物の素材を持って帰ることで生計を立てています」

「みんな、れあませきやれあそざいのいっかくせんきんをねらってやがります」

「ま、まあそういう方も中にはいますよ。それではこの辺で。今回の迷宮と魔石の説明、お相手は」

「えるせてぃと」

「リズがお送りしました」

「あいるびーばっく!! b」


 閑話休題


 ゴブリンにしては大きめの魔石を回収し、足元に転がっている魔石にならなかったゴブリンの頭部を持ち上げる。


「頭は魔石にならなかったかぁ。このまま放置すると迷宮に取り込まれちゃうんだよね。珍しいというか私も見たことがないゴブリンの頭部だし、めんどくさいけど持って帰ってみるか。どこかの好事家に需要があるといいな」


 背嚢に頭部が落ちないように括り付け、ブーツを回収しに向かう。


「くわぁ、ゴブリンのやろうめ。私のブーツに恨みでもあるのか。ボロボロ過ぎて履かない方が動き易いくらいになってるじゃないの」


 ブーツの底には穴が数カ所開き、片方のアッパーとソールは剥がれて歩くたびにつま先が見えてしまう。


 考えればブーツだけが光っていると言う状況だったからこそ被害としてはブーツの破損と言う程度で済んだのかもしれない。

 これがもし体の方まで白濁液を浴びて光っていたら、果たしてどうなっていただろうか。

 下手をすればあの靴底の穴は私の体に入っていたかもしれない。


「あーやめやめ。被害はブーツだけ、体は無事。それでオッケー。余計なことを考えるのはやめましょう。次の扉も見えてることだし、さっさと次へ行きましょうか」


 ペタペタと足音を鳴らしながら扉へ向かい、これまでと同じ扉を押し開ける。

 やはりというか何というか短い通路。


 幸いさっきの暗闇の部屋ではブーツこそ失ったものの体力は温存されている。

 このまま進んでも問題はない。


 押し開けた先に広がっていたのは真っ直ぐな通路。私の身長の三倍程の高さの位置で魔力灯が煌々と奥へ向かって連なっている。

 道幅は私が両手を横に広げても片側手のひら一枚分くらい足りない。

 何というか、シミ一つない無機質な壁にとても圧迫感を感じる。


「これは……床に無数の石が埋め込まれている? いったい何の意味が? もしかして罠? いや床と同色とはいえ、罠にしては見つけ易すぎるか」


 色々調べてみたが床から爪くらいの高さで丸みを帯びた石が等間隔で不規則に並んでいる。石は切ったり砕いたりしても一秒もせずに元通りになる以外は普通の石だ。

 乗ってみたが異変は起こらない。

 そんな床が遥か彼方に見える次の扉まで続いていた。


「これは何も無さそうね、よかった……ってそんなわけないでしょ! これまで散々人を喰ったような仕掛けがあったのにここだけ無いわけが無いわ! きっと何かあるに違いない。注意して進まなきゃ」


 慎重に何が起きても対象出来る様にゆっくりと一歩一歩確実に進む。

 時折、止まって後ろや上方も異変が無いかを確認する。

 足元がデコボコなのでやや踏ん張りが効かない。もしかしたらそれが狙いなのかもしれない。

 攻撃する際はどうして足を地面にしっかりつけて、それこそ地面を蹴ることが出来るくらいの足場が必要だ。

 ここではそれが出来ない。

 その上、こんな狭い通路で剣を振れば間違いなく壁に剣が接触し威力が殺されるだろう。


「ふふん。なーるほどなるほど。この通路の仕掛けが見えてきたわね。仕掛けが先に見えれば対処の仕方や心構えが出来る。つまりは今までようには行かない、って事よ。今回は簡単にあの扉までたどり着いてやるんだから。見てなさいよ!」


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