思い出の親子丼の話をしようとした仙弥の話は今日も横道に逸れる
僕の名前は姫もr
「ちょっと待て。その感じで行くのか?」
アツシが仙弥にツッコミを入れた。
「はい、そうですけど?」
すまし顔で仙弥はアツシに返す。
「いいけど……もうちょっと、お前の感じでいけよ。何?僕って」
「ああ、そういうこと?オッケー。わかったわかった」
俺の名前は姫森仙弥。虎卯兎学園に通う高校一年生だ。ちなみに今は二年生だから、これは当時の話ね?そこの所、勘違いしないようによろしくお願いします。その日は俺の親友キュウの剣道部の大会があった日だった。俺は大会が開かれるとある会場にキュウの応援に駆け付けていた。
「仙弥くーん」
ちょいとお間抜けな声の親友キュウが俺を呼んだ。
「キュウ!!来たぞ、キュウ!!喉渇いたからなんかちょうだい!!」
「あっはは。はい」
キュウは優しく笑いながら俺にスポーツドリンクを渡してくれた。
「おお、これが姫森か。噂の通り、でっけえ声だな」
俺は袴のあの独特の匂いをプンプンさせた、やたら姿勢が良くて目がぎらついている剣道部の男先輩連中に取り囲まれた。
「取り囲まれたって何ですか?」
ユキが笑いながら仙弥の思い出話に疑問を投げた。
「いや、コイツはよく取り囲まれるんだよ。実際。俺、今でも忘れられないのが中学の頃」
「おーい!!アツシさん。その話は、今はちょっと」
「ああ、まあ……女子もいるしな?」
仙弥たちは、またもや当人たちにしかわからないやり取りを始めた。
「全然わからないんですけど、それは会場のどこで取り囲まれたんですか?」
ちよが話を本筋に戻そうと仙弥に質問した。
「えーっとね、普通に二階の観客席みたいなところ。その時は学校ごとに座席に陣地があって。ちょっと離れた所に女子部の方のエリアもあって。そこでの一幕だね」
体育会系の歓迎は威圧感もあったけれど、大体の場合は無関係な俺の応援を歓迎してくれる。この学校の剣道部の場合も俺のことを歓迎してくれた。
「……ところで皆、剣道の大会って生で見たことある?」
キュウ以外の全員が首を横に振った。
「あの、予選……予選がすごいの!!」
仙弥は興奮気味に机を叩いた。
「一面のコート、コートでいいのかな?そこで一斉に皆が試合を始めるの。なっ?」
仙弥がキュウに同意を求めた。
「全試合ではないけどね。何試合もまとめてやるね」
「すげぇ、時短だ」
「そう!!もう、あっという間!!あちこちからツェェェェイ!!みたいな人斬りの雄叫びと、竹刀と防具のぶつかり合う音がして!!見てるこっちはアドレナリンが……」
仙弥は目を閉じ恍惚とした表情を見せていた。
「うわ、コイツ勝手に気持ちよくなってる」
「……誰にも呼ばれてないくせに」
アツシと果穂が好きなように仙弥のことを評価した。
「それでキュウはボクシングでいう所のカウンター使いみたいな、そんな感じなんだよね?」
「そう。返し技っていうんだけど、それが得意で。でもよく怒られちゃうんだ」
「なんでですか?」
ちよが話を拾ってしまった。
「相手の攻撃を待っちゃうから。それが癖になっちゃってて、よく怒られてます」
キュウがはにかんで説明した。
「こいつが……性格的にというか、人柄が絶望的に武道に向いてない」
さらに仙弥が拾われた無駄話を広げる。
「あー、なんか……でも、わかる気がします」
ちよが納得した様子で仙弥に同意した。
「それでも強いんだけどね!?地元では」
仙弥は自分で落とした相手のフォローをした。
「そう、地方大会の男」
キュウはにこやかにそれに続いた。
「やっぱ全国はキツイ?」
「うん、無理」
「ほら、こういうところ!!」
「でも上位の人たちって本当にあの……そういう人たちと当たっちゃうと、ね?」
キュウがふわふわと喋り出したかと思えば、もやもやとした結論を出した。
「でもまあ、お前がやりたいって親に頼んで入ってるから退路が無いんだよな?」
「そう、やめるにやめられない」
「大学まで剣道やる?」
「ううん、もうやめます」
「よかった。そしたら、またいっぱい遊ぼうな?」
「うん」
「お前らさ、隙あらばイチャイチャすんなよ!?」
たまらずアツシが二人の間に割って入って会話の流れを止めた。
「違う!!これは俺がどれだけキュウが好きなのかを、皆に見せたいだけだから!!」
「違わねぇじゃねぇか!!」
「だからあのー……特におちよなんかは、キュウと付き合ったりしないでください」
「うぇっ!?」
会話の矛先が突然自分に向いたちよが鳴き声をあげた。
「俺の相棒同士がくっついちゃうと、俺一人ぼっちになっちゃうから。俺を置いてかないでください。キュウにはウチの妹をあげることになってるから」
「うわ……恋愛脳」
先日仙弥いっていたことが嘘だったとわかると、果穂は彼をゴミを見るような目で見た。
「あはははは」
ユキが明るく声を出して笑い始めた。