幕間 親友登場
今回の登場人物
・姫森仙弥 普通科の二年生。男子。声が大きいだけの人。
・鬼束ちよ 芸能科の一年生。実はネクラな女子。仙弥の事が好き。
・諸星キュウ 体育科の二年生。剣道部の男子。仙弥の親友。
・工藤アツシ 商業科の二年生。軽音部。仙弥と中学が同じ。
・西園果穂 商業科の二年生。女子。モンスター。
・眞城ユキ 被服科の一年生。男の娘。見た目は一番可愛い。
「さぁ、そういうことで皆さん、本日もよろしくお願いします」
その日集まったメンバーは仙弥を含め、総勢6名。姫森仙弥はその場でペコリと全員に向けて頭を下げた。
「早速ですが、新メンバーです。わたくしの向かい側、ユキちゃんの隣に座っているのが西園果穂選手、商業科所属。アツシ以外は初めましてだね?」
仙弥がそういうと、各々が軽い会釈をした。
「果穂、こちら芸能科の一年生、おちよです。おちよ、彼女が果穂さんだよ?」
自らの隣に腰かける鬼束ちよに西園果穂を紹介し、仙弥は人見知り同士をめぐり合わせた。
「あ、あの、初めまして!!」
「……よろしく」
二人のぎこちない様子を見て仙弥は満足そうに頷いた。
「そしてもう一人の一年生、被服科のユキちゃんです。えーっと、彼女と初めましてのメンバーは……キュウと果穂だね?」
窓際にアツシと並ぶようにパイプ椅子に座っていたキュウと呼ばれた男子生徒と、仙弥の向かい側に座る果穂に今度はユキを紹介した。
「ユキです。初めまして」
ユキは仙弥が思ったよりもスムーズに自己紹介をすませた。
「……よろしく」
「こんにちは」
「ユキちゃん、初対面なのに『こんにちは』とかいう変な挨拶をしたこの男が、俺の親友のキュウです」
「そんな変かなぁ?」
「あはは、なんか……」
ユキは不思議そうな顔でキュウの全体を観察するように見ていた。
「どうした?もうキュウの変なところを見つけたか?」
「そうですね……見た目と喋り方が一致しない人なんですね」
「それ、よくいわれる」
ユキの少々突っ込んだ指摘に、キュウは穏やかに笑いながら答えた。長身痩躯、知的でクールな印象を与える整った顔立ちは、彼の持つ内面とは真逆のものだった。
「それはね、ちょっとだけキュウの過去に関係する話になるから、またあとでね?」
「そうなんですか?」
「うん、僕は中学」
「あーダメダメダメ!!まだ、それぞれの紹介が終わってないんだから!!」
なにやら話し始めようとしたキュウを仙弥は慌てて制止した。
「えーっと、あと初めましては?アツシは、全員知ってる?」
「知ってるよ。そんなには知らないけど」
窓際の奥側のパイプ椅子に座っている、髪色を明るく染め制服を着崩した、見るからにやんちゃそうなアツシと呼ばれた男子生徒が、口を開いたついでに仙弥に一つ提案をした。
「ユキちゃんの説明しないの?」
「あ、そうか。ユキちゃんは男の子です。男の、娘って書く、あの男の娘」
「えぇっ!?」
「すごーい」
のどかな感想を述べたのはキュウで、悲鳴に近い声をあげたのが果穂だった。
「ほとんど女子だから、あんまり気にしないで?これから男子、女子で分かれてなんかする時は、女子グループに入れるから。仲良くしてあげて?」
仙弥がそう説明する最中も、果穂はしげしげとユキの横顔や体を見ていた。
「……マジ?」
果穂がユキにだけ聞こえる小声で話しかけると、ユキはにこやかに笑って頷いた。そのやりとりを見て、仙弥はイタズラな笑みを浮かべた。
「彼氏もいんだよ?」
仙弥が果穂に新たな情報を与えた。
「えぇっ!?……いや……そりゃ、いるか」
果穂は驚いた自分を数秒後に否定した。
「……どんな人?」
「あのー、そこだけで仲良くなんないでくれる!?こっちに先日の林間学校で、友達がいなさすぎて地獄の2泊3日を過ごした、かわいそうな子がいるから!!」
仙弥が隣に座るちよを親指で指しながらいった。
「おちよ、今日あっち座れば!?女の子だし、3人座れるだろ!?」
「えぇっ!?」
ちよが嫌そうな声をあげると、仙弥以外の全員が笑った。
「お前それは二人に失礼だぞ!?なんでそんな嫌そうな声を出した!?」
一人だけ真意を図りかねた仙弥がちよに詰め寄った。
「え……なんかこう、落ち着かないじゃないですか!?いつもと違う席とか、並び方とか!!」
「……それは、そうだな」
身に覚えのある回答が返ってきた仙弥は納得して引き下がった。一方で、ちよと他のメンバーはドキドキと心臓を鳴らしていた。
「自己紹介はこんなもんかな?それじゃあ、今日は何を話そうかな」
「アレ、話せよ。キュウが来たぞ?」
アツシがニヤニヤしながら話題を振った。
「……そうだ!!キュウが来たのか!!それじゃあ、キュウが中学生のころ太ってたという話を」
「どう考えても、それじゃねぇだろ!?首輪の話だよ!!」
「……あの、皆はさ、人づてにさ、自分の事好きだ、みたいな」
「おい、無理無理!!今日はもう、皆それ目当てだから!!いい加減、腹くくって話せって!!」
アツシは仙弥を逃がさなかった。
「……キュウ?」
仙弥はほとんど声にならない、吐息のような声をキュウに向けて出した。
「うん……仙弥君、ごめんね?」
「いいよ、お前のせいじゃないんだから」
当人同士しかわからないやり取りを交わした後に、仙弥は軽く頭を下げた。少し間を空けると、彼は机を軽く二回手で叩き、再び顔を上げた。
「えー、あれは1年前のことでした……」
腹をくくった仙弥は一同に視線を向け、その悲しい事件のことを話し始めた。