スレスレの恋 中編
今回の登場人物
・姫森仙弥 普通科の二年生。男子。コイバナ大好き。
・西園果穂 商業科の二年生。女子。ちょっと怪しい感じになってきたお話の中心人物。
「ゴメンゴメン。俺が邪魔しちゃったから、わけわかんなくなっちゃったね」
休憩を終えた仙弥と果穂は再び向かい合ってソファに座った。
「えーっと、いつもと違うネカフェに行ったら、共有スペースみたいな、開けた座席にショー君が偶然いてって所までだったね?」
「うん。それでそのまま彼だって気づかないで、一人で鍵付きの個室に入って」
「んで、そのまま硬いマットレスに倒れ込んだ、と」
「うん、そんな感じ。……で、やっぱりその時は色々重なってて、寂しかったんだと思う」
「果穂のママが結婚するって話になったし……孤独感があったんだ?」
「うん。誰か、助けて……って。そう思ってたら涙がスーッと出てきて。で、そのままショー君とまーちゃんの過去の動画を見てさ。動画見ながら、ショー君、助けて……って。心の中で叫んでたんだよね。本当に……キモいかもしれないけど」
仙弥はぶんぶんと首を横に振る。
「それで動画見てたらさ、気付いたんだよね」
「やっと!?幸せがすぐそこにあることに!?」
「ふふふ。まぁその、動画にはショー君の顔は映ってないけど、体の一部とか後ろ姿だけが映ってるっていったじゃん」
「いってたいってた!!」
「脳がさ、頭の中で勝手にそのシルエットの照合を始めて」
「ショー君の人体パズルを!?脳が勝手に!?」
「そう。あれ?ってなって。すぐ、ものすごく直近でこのシルエット見たぞ……ってだんだんそうなって」
「そこで気付いたんだ!?」
「そう!!あの人だ!!って」
果穂が今日一番力強い声を出した。
「で、ダッシュだ!?」
「ううん。そーっと、バレないように、こっそりと、あのワイシャツ姿で少女漫画読んでたお兄さんの所まで行って」
「ははははは。ストーカーの才能がリアルにまで!!」
「ふふ、そう。そうなんだよね。ショー君のリアルストーカーを店内で始めたの」
「どうすんの?そこから」
「そのショー君の座っている席って漫画の本棚が近くってさ。その本棚で姿を隠しながらチラチラ席の方を見たりして」
「ははははは!!マジでストーカーじゃん!!」
「シルエットはものすごく、限りなくショー君というか、私の本能が絶対そうだっていってたんだけど、まだ確信が持てなくて。声さえわかれば一発なのに、と思って」
「証拠がないのか。声を聞いて好きになったみたいなこといってたもんな?」
「そう。で、本棚の間をウロウロしてたら、ふいに少女漫画を片手に持ったショー君と鉢合わせして」
「向こうから来たか!!それで!?ショー君、どんな顔してたの!?」
「とても力のない目をしてた。顔もちょっと青白いというか、すごい疲れてる顔してた」
「ははははは!!イケメンとかじゃなくて!?」
「うーん……イケメンなのか、ギリギリわからないぐらいの特徴のない顔なんだよね。清潔感はあるんだけど。とにかくその時は、すごいくたびれ果てた成人男性のご尊顔をされていて」
「ははははは、社会人だからだ!!もしかして、ブラック企業にお勤めの方ですか!?」
「うーん……そこまでブラックでもないと思うけど。たまたまその時は忙しかったらしくって」
「あー、そういうことね」
「でもショー君、その時も全然声を出してくれなくて。あ、スイマセンみたいな、すれ違った時にするようなジェスチャーだけで……それで、どうしようどうしようって。漫画の入れ替えをしてるショー君の後ろ姿を見ながらドキドキして」
「それで、声かけたの?」
「ううん、何もせずに部屋に戻った」
「意気地なしぃ!!意外と……もーう、そこまでやっておいて!!」
「で、もう一回動画を見て」
「確認作業を念入りに?」
「うん。それでまた、本棚の陰からショー君の姿を見て」
「おお!!そこでついに!?」
「で、また部屋に戻って」
「なんだよぉぉぉ!!??」
「何回もそれを繰り返して」
「はやく声かけろよ!!頑張れ!!」
「でさ、もう何回目かもわからないけど、本棚の間をウロウロしてたら、男の人に声かけられて」
「え!?向こうから!?」
「いや、ショー君じゃない。別の知らない男の人」
「ええ!?怖!!なに!?なんで!?」
「その人に『さっきからウロウロしてるけど、暇なの?』って、声かけられて」
「ナンパだ……ほら、だからいったじゃん。お前は人に見られる側の人間なんだよ」
「そういうこと……だったのか」
「えっ?気付かなかったの?ナンパだよ、それ」
「うーん、その時はただ怖かった。怖いし、キモ……かった」
「いいよ、キモいで。俺もそいつキモいと思うから」
「それで、その人が急に私の方に手を伸ばしてきて」
「おいおいおい!!一大事じゃん!!」
「……私がその人に掴まれる寸前に、ショー君の背中が私の目の前にバッ!!って、現れて」
「うわっ!!割って入ってくれたんだ!?マジ!?カッコイイ……」
「そう!!ショー君が助けてくれたの!!」
果穂が完全に乙女の声色を使った。
「それでショー君は相手に向かってたった一言『どけ』って……それが完全にあのショー君の声だったの!!」
「そこでやっと確定したんだ!?やった!!長かったなぁ!?」
「その瞬間、もう……過去の嫌な記憶が全部……ショー君が助けてくれた記憶に変わっていって」
「どういうこと!?記憶改ざん能力の持ち主ってこと!?」
「わかんない。もう、その時は気持ちがハイになりすぎてて……」
「思いが募りすぎて、だ?それまで気持ちが弱ってたし、な?」
「たぶん、そう」
「それでナンパ野郎、というか痴漢野郎は!?」
「逃げた……んだと思う」
「なんだそりゃあ!?なぜそんな曖昧な!?」
「よく見てなくてわかんなかった」
「はぇ!?なんで!?」
「私、そのまま泣きながらショー君に抱きついてたんだよね」
「ええええ!?さっきまで、あんなにしおらしくストーキングしてたのに!?」
「完全に感情がおかしくなってたんだと思う。痴漢怖い、助かってホッとした、ショー君カッコイイ、それで安心が欲しかったんだと思う」
「そういう……もんなのか」
「いや、本当は下心もあった」
「うんうんうん、よかった。納得できた」
「それで、結構騒ぎになったというか、店員さんも来ちゃって。警察呼びましょうか?とかいわれちゃって」
「そりゃあ、そうなるだろう。それで?」
「警察は大丈夫です、って。大ごとにしたくないから断って。でもやっぱりまだちょっと怖いのと、ショー君に会えた感動で体が震えっぱなしで」
「そうかぁ……やっと出会えたもんな」
「うん。お連れの方にお任せします、みたいな感じになって、店員さんもいなくなって。ショー君の席で二人っきりになってさ」
「来たよ来たよ、チャンスが!!」
「別になんかするわけでもなく、ショー君はずっと少女漫画を読みながら私のそばにいてくれて。たまに『大丈夫?』って声をかけてくれてたんだけど、だんだん私も落ち着いてきて。そうなってくると、一つのことしか考えれなくなってて」
「何を考えてたの?」
「……ここから、どうやってショー君と結婚できるんだろうって」
「うわぁあ!?怖ぇぇ!!お前……ヤバいな!?」
「うん、私けっこう……ガチっぽいんだよね、その……」
「オーケー、大丈夫!!プラスに捉えると、一途なんだな!?」
仙弥は果穂を手で制した。
「なんか……ショー君以外の男の人がどうしても考えられなくて」
「それはガチだな……それで、そっからどうしたんだ?リアルストーカー果穂の、次なる一手は?」
「抱きついたときにショー君のワイシャツに私のメイクがついて汚れちゃってて。だから、クリーニングして返しますっていったの」
「あっ……連絡先か、もしくは住所狙いだ?」
「うん。でもショー君は強めに断ってきて」
「おっと?もしかして警戒されてる?」
「思いっきりしてたって。最悪痴漢と結託して私が何かよからぬことを企んでる可能性も考えてたって、後で聞いたら彼がそういってた」
「頭いい人だなぁ。それとも社会人って、皆そうなのかなぁ?」
「ショー君は頭いい人だよ。聞けばなんでも教えてくれるし」
「ちゃんとした大人なんだな。危機管理能力が高いというか。高すぎて予測は外れてるけど、よからぬことを企んでるってところは当たってたんだね」
「ふふ、まあね」
「住所開示は失敗しちゃって、それで?」
「時間も遅くなってきて、家まで送ってもらうことになって」
「ああ、いいね。いいじゃん」
「その帰り道でも緊張して何も話せなかった。だから、めちゃくちゃ焦って」
「このままだと、終わっちゃうもんね?」
「そう。それで考えて考えて、家のアパートの目の前まで送ってくれて、バイバイして、小さくなってく彼の背中を見て、そこで決心したんだよね」
「……なにを?」
「つけよう、って」
「ははははは!!!!やべぇ!!!!でも、それ、すごいわ!!!!めちゃくちゃ成功確率高そう!!」
「そうなんだよね。ショー君のマンションまで、ものすごく簡単にあとをつけることが出来て」
「ははははは!!!!当たり前だな!!だって、さっき家まで送った女の子が自分の家までつけてくるって、普通は思わないもん!!」
「本当に何の苦も無く、すんなりいって……あれって、そういうことだったんだ」
「お前、すごいよ。無自覚にそんなことできるなんて。天才……天才ストーカーだ」
「どうしたの?」
何かを迷っているようなそぶりをみせながら笑い続ける仙弥を見て、果穂は尋ねた。
「いや、俺はこの話すごく好きなんだけど……万が一、この先の人生で果穂がこの話をもう一度する時が来たら、その部分はもう少しマイルドに変えた方がいいと思う」
「……そっか」
果穂もそのことはわかってはいた。彼女は嘘がつけなかった。
「うん。ちょっとその晩は月がキレイで、たまたまお散歩をしたらショー君がとあるマンションに入るところを偶然見かけて、みたいな。そのままだと刺激が強すぎるかもしれないから。俺は好きなんだけどね?原作のままの方が」
今日この場を欠席している後輩が聞いてもショックを受けないようなシナリオを仙弥は即席で作り上げた。
「うん、わかった」
「ごめんごめん、続けてもらっていい?ショー君のマンションがわかった後、果穂はどうしたの?」
「えと、そのマンションは道路を隔てて、すぐ前が公園になってて」
「うん」
「だから後日、ショー君のお仕事が休みであろう土日にヤマをはって」
「ふふふ……ダメだよ、果穂?」
仙弥は果穂が何をするのか想像をして、笑いをこらえきれないでいた。
「その公園のベンチに座ってマンションを眺めてた」
「ははははは!!!!もうダメだ!!完全にダメ!!好きだよ!?俺は!!そういうの!!」
仙弥は邪悪な笑いにのめり込まれた。彼はしばらくの間、腹を抱えてソファに顔をうずめながら笑い続けた。
「はぁ……はぁ……こんなに笑ったの、久しぶりだわ。完全体だったんだな。ごめんよ、笑ったりして。果穂は真剣なんだもんな?あと、ありがとう。今日会ったばかりの俺を、こんなにも信頼してくれて」
「いいんだよ。自分でも過去の自分がおかしいことしてるってのは、わかってるから。でも、当時の私はとにかく必死でさ……」
「色々勘違いしてたんだもんな?目の前のショー君を逃したら終わりだって、そういう精神状態だったんだもんな?大丈夫、今日は史実通りに行こう。俺があとで、もっとマイルドにしたシナリオを果穂に渡すから。それが完成するまで、誰かにこの話はしないでね?」
「やっぱ、マズいよね?だからあんまり大人数には聞かれたくなかったんだけど」
「いやあのー……俺は好きだよ?なんていうか、綺麗事とか正攻法っていうのは、人と人との恋路に対しては、そんなに効果的ではないと思っている部分もあるんだ、俺は。多少は自らの手を汚さないと手に入らないパターンが存在してもいいと思ってる。果穂のした事って、犯罪行為なのかもしれないけど、実際には捕まってないじゃん?っていうことは、誰も被害に遭ってないってことでしょ?結果的にそれをしたことによって、ショー君と果穂は結ばれたわけじゃん?もし果穂がその時、何もしないでいたら何も起こらずに終わってて、ここでこうして俺と話すこともなかったわけだし、最悪の場合さ、まだ話を全部聞いてないからわからないけど、ママの彼氏と果穂の和解もなかったかもしれないじゃん?だから俺はこの場合、セーフだと思う。ショー君が迷惑だからやめてくださいって、その場でいってきたら、それはアウトなんだけど」
「ありがとう……アンタなら味方してくれると期待してたから、嬉しい。だからなるべく全部、包み隠さず話すね」
「ホント?それはありがとう。それで、ホシはいつマンションから出てきたの?」
「二日目だったから、日曜日の午前中。割と早い時間に、普通にまーちゃんと公園に来たんだよね」
「で『偶然ですね』つって、声かけて?」
「細かくは覚えてないんだけど、大体そんな感じだったと思う。その時のショー君が目を見開いて口を開けて絵に描いたように驚いてたってのは、よく覚えてるんだけど」
「バレてるよ、それ。ストーカー行為が」
「その通りだったんだけど、その場では特に追及される事も無くて。私はバレてないと思ってたから『まーちゃん、こんにちはー』なんていって、呑気にまーちゃんとお喋りしたりして」
「名前呼んじゃってんじゃん。会ったことないはずのまーちゃんの名前を」
「そうそう。そういうミスをしていることにも全く気付かないで、まーちゃんと仲良くなればショー君と仲が発展すると思って、一緒に遊び始めてさ」
「世界一不純な保育だな!?子供を使ったわけだ!?」
「いや、まーちゃんのことも好きだったからさ。ちゃんとした保育だよ」
「あ、そっか。ユニットが好きっていってたもんな」
「そうだよ?まーちゃんは当時年長さんで、今は小学生になったばかりなんだけど、もう……可愛くって。人懐っこくて、すぐ仲良くなれて」
「へぇ~……その時のショー君の様子はどんな感じだった?」
「まーちゃんに夢中で、あんまりそっちに気はいってなかったけど、あんまり……そういわれると、口数が少なめだった気もする」
「うーん……」
「で、お昼ぐらいにまーちゃんが疲れたし、お腹空いたから帰りたいっていって。私もそのままちゃっかりマンションの中までついていったの」
「すごいな、ネカフェの時とは別人のような行動力じゃないか」
「なんていったらいいんだろう……その時どうするかが、自分がその時何のために動いてるのか、そういう意識がちゃんとしててさ。私はその時、ショー君の家に入りたいということと、連絡先の交換がしたい、っていう欲望がちゃんとはっきりしてたから」
「迷いがないのか!!すごいな、恋の力は!!」
「まーちゃんの家の前までいって、お母さんが出てきて。それでこの人が結構な恋愛脳というか」
「俺じゃん」
「いや、もっとすごかった。会うなり、私のことショー君の彼女だ!!って。へぇ、いいじゃんいいじゃん!!って」
「カプ厨だ!!俺、それだけはしないように注意してるんだよ!!」
「それで私も気分良くなってさ、そうですって答えて。それで私がいなかったら、将来的に本気で自分の娘と、まーちゃんとショー君を結婚させようと考えてた、なんてそのお母さんが話し始めて」
「うわぁ厄介だな、カプ厨。でもその時、ショー君は何もいわなかったの?」
「はいはい、みたいな感じで。流してた」
「慣れてるんだ」
「うん、それで……まーちゃんとお母さんはそこでバイバイして」
「二人っきりだ」
「そうなんだけど……そのあとショー君が一部屋分ぐらい歩いて、私もそれについていって」
「うん」
「そしたらいきなりバッと私の方に振り返ってきて『君は何者だ?』って」
「渾身の疑問だ。それはそうだよ。それでなんて答えたの?」
「そこで私は考えて、考えてたらお腹が鳴ってさ」
「え……ああ!!まさか、お前……二日目っていってたな!?」
「前の日から、何も食べてなくて。すごい恥ずかしかったんだけど、その時に閃いて」
「なにぃ?」
「これを武器にしようって。だから私は『目の前の優しいお兄さんがお昼ご飯作ってくれたら、喋れる気がする』って」
「かわ……いいじゃん。でもそれって、犯人がカツ丼食って自白するのと同じだからな?」
「ふふ、同じこといわれた。『何の犯人なんだ、お前は!?』って、ショー君がいって」
「ノリがいいお兄さんだな。で、どうなったの?家に入れてくれた?」
「怒りながらだけど、結果的には入れてくれた。でも、親の承諾がないと入れられないって、それだけは譲らなくて」
「そうか、やっぱちゃんとしてる人なんだな」
「うん、最後までそこにこだわってたよ。で、私はその場ですぐママに電話して」
「ママになんて説明したの?」
「年上の彼氏が出来て、家に入りたいんだけど、ママの許しが無いとダメっていってる、って」
「その場でそんな電話したの!?それで許可取れたんだ!?」
「うん。その時ママ仕事から帰ってきてベロベロに酔っててさ、昼間だったし、そういうこといってくれてる人なら大丈夫かってことで」
「あっさりだ」
「その時はね。帰ってから結構面倒なことになったけど」
「どんな感じになったの?」
「ママがしつこく彼に会わせろっていい続けてきて、結構ケンカ気味になっちゃって」
「心配なんだよ、果穂のことが」
「そうなんだけど、私としてはまだ途中というか、彼とそういう関係にまだなりきれてなかったから」
「煩わしいだけだったんだ?」
「そう、だね。私が嘘が苦手っていうのもあって……結構苦しんだ期間でもあった。自業自得なんだけど」
「そうやって……人って強くなるんだな」
「ふふふ、なにそれ?」
「人って傷ついて強くなるんだなって、なんかそう思った……ごめん、また長い話しそうになった。それで、ショー君の家に入った後は、どうなった?」
「あったかいおそばを作ってくれて……」
「ははははは!!自白メシだ!!」
「そう、鶏肉とネギ入ったあったかいおそばで。それが美味しくって……つゆまで飲んで」
「空腹でな?しかし、すっかり犯人だな。うん、それで?」
「全部話した。私はあなたのファンですってところから話し始めて」
「うん」
「ショー君、私の話に全部リアクションしてくれるの。アンタもだけどさ」
「ははは、でも俺とは全然違う大人の感じででしょ?」
「それが結構、明るい感じというか、なんか少年のような感じで。笑ってくれたりもしたし」
「意外な……感情豊かな人なんだね?」
「そうだったんだよ。それで……ちょっとズルいんだけど、私の身の上話というか」
「あー、あのママの元カレとかのヤツね?」
「そう。その話をできるだけ、具体的というか、もっと……より悲惨に聞こえるように」
「あっはっはっは!!同情させようとしてる!!」
「そう、泣き落としみたいな、そういう話もして」
「それで!?その話を聞いたショー君はどうなった!?」
「落ちた」
「ははははは!!!!落ちたってどういうこと!?具体的にお願いします!!」
「『俺に出来ることがあったらするから、人に迷惑かけるようなことはするなよ』っていってくれて」
「ふふふ、言質だよ、それ。ショー君も男の子だね」
「そう。その言葉を引き出せたから私は、じゃあ連絡先交換してください!!って声高に叫んで」
「で、ゲットしたんだ!?」
「うん。大成功……それで、この話の時点で、まだ高一の時の話なんだけど」
「うぇぇい!!すげぇ大作だなぁ!?まだあと一年あんの!?俺ちょっと胸焼けしてきたよ……休憩していい?」
「うん、いいよ。私も少し喉渇いたから」