スレスレの恋 前編
今回の登場人物
・姫森仙弥 普通科の二年生。男子。プレハブ小屋の主。
・西園果穂 商業科の二年生。女子。おじさんと付き合っているという噂の人物。
私立虎卯兎学園。生徒数2000人超を誇るマンモス高校の広大な敷地の隅の隅にプレハブ小屋がある。今日は珍しく人影が少なく……。
「あ、君が噂の西園果穂さんだね?はじめまして。今日は無理いって来てもらってゴメン……あれ、アツシは?」
姫森仙弥は『おじさんとJK』という奇跡の組み合わせのコイバナを聞く準備をすでに整えていた。彼の小さな城内の机の上に設置された大量のお菓子と飲み物がその期待値を表していた。
「軽音部に顔出さなきゃいけなくなったって」
少し目つきの悪いボブカットの女子生徒、西園果穂は倦怠感のあるハスキーボイスで答えた。
「えぇ……こっちもいつもいる女の子が林間学校でいなくてさ。まいったな……どうする?今日はやめとく?」
「いや、逆に助かる。ずっと誰かに聞いてほしかったけど……そんな大人数には聞かせたくないし」
「そっか。じゃあ、奥に座って」
仙弥は掌で奥の来客用のソファを差した。果穂は小屋の中を見回しながら奥のソファに向かった。プレハブ小屋の中は彼女が外から見た印象よりも広く感じた。壁際にはホワイトボード、一番奥にロッカーと本棚、そしてパイプ椅子がいくつか折りたたんで置いてあり、少し古そうだがエアコンまで設置してある。
「ここが噂の……」
「うん。俺の秘密基地」
「これ全部ひとりで?」
「いや、あのねぇ……話すと長くて。ほぼ一年かけてここ完成させたんだけど、俺らが一年だった時の生徒会長覚えてる?桐生先輩っていうんだけど、その人が手伝ってくれた」
「噂通り、怖いもの知らずなんだね」
「いや、俺にも怖いものはあるさ。あと決まりごとがあって、掃除をきちんとする事と、最後まで残らない事、これさえ守れば好きに使っていいって。そういう約束を桐生先輩としてて」
「ふぅん……」
果穂がソファに腰かけると、仙弥がわんぱくに向かい側に座った。
「他にもいくつかルールはあるんだけど……あ、それ、今日は特別に奮発したから、好きに飲み食いして」
果穂は目の前のテーブルに並べられたお菓子と飲み物にはあまり興味を示さず、仙弥の背後へと視線を送っていた。
「そこはなんで空けてるの?」
全体的にバランスよく家具が配置されているのに、唯一不自然な空間があった。それが仙弥の座るソファの後ろだった。
「最近ここに来る人が増えてきてさぁ……俺専用のデスクセットを置くか迷ってるんだよね。それを置くためのスペースなんだけど」
「へぇ……」
「どう思う?置いてもいいかな?でもこれ以上物を置くと、狭くなっちゃう気もするし迷ってんだ」
「……土禁にしてるんだし、クッションみたいなのでもいいんじゃない?マットかなんか、敷いてさ」
「はっ!!そうか!!人をダメにするあれか!!それ、採用!!さすが女子!!これだけでも今日呼んでよかった!!」
大喜びする仙弥の姿を見て、果穂は心の中の扉が少しだけ開いたのを感じた。
「そうなってくると、模様替えが必要になるな。その時は手伝ってもらえる?」
「……考えとく」
果穂が苦笑しながら答えた。
「ところで、なんて呼べばいい?西園さん?」
「果穂でいいよ。皆、そう呼んでるし」
「じゃあ果穂、話してくれ。君のコイバナを」
「そういわれても……困るよ。どこから話したらいいか、わからないし」
「じゃあ、質問方式にするわ。俺がインタビューするから答えてくれ。最初はそれでいこう」
まるでB級映画の監督のように仙弥がはりきり始めた。
「まずそうだな……出会いは?どうやって出会うの?そういう……大人と」
「うーん……私、とある家族のネットストーカーだったんだけど」
「あっはっはっは!!ネットストーカー!?何それ!?詳しく聞かせて!?」
「うん……あの……私ずっと母子家庭でさ、いつもいないお父さんのことをずっと……」
「あー、なるほど。どこかにお父さんの影を探してたんだ?ネットとかで」
あまりにもすんなり自分の境遇を受け入れられた果穂は新しい感覚を味わった。仙弥のそれは果穂が今までに体験したことのないものだった。
「……うん。それで出会い系みたいな怪しいサイトとかも、もう……ずっとだよ。小学生のときから」
「えっ!?小学生で出会い系サイトを!?」
「いやいや、実際には使ってないよ。ちょっと掲示板を覗くだけ、みたいなことをしてて」
「だよね、だよね?あー、良かった。ドロドロとした重い話を聞かされるのかと思った」
「ふふっ。アンタさ、面白いよね。アンタのこと、ずっと噂で聞いてたよ」
「え?いや、いいよ。俺のことは。今日は果穂が主役だから。で、ネットストーカーになった原因は?」
「……その家族のことを知ったのはSNSの動画だったんだけど。どうやってその動画にたどり着いたかまでは、きっかけはもう覚えてない」
「そら、そうだろうな」
仙弥はチョコレート菓子を頬張りながら話に同調した。
「その動画にはお父さんがいて、お母さんがいて、小さな女の子の子供が二人いて」
「理想的な家族だな。それが果穂の理想の家族像だったんだ?」
うんうんと頷きながら仙弥は果穂に自分の食べていたチョコレート菓子を勧めた。彼女はそれを黙って受け取り口に入れた。
「……うん。羨ましいなぁって思いながら、その動画を何回も見て。で、新しい動画が投稿されたらすぐチェックして」
「ははは、ファンになってんじゃん。ストーカーじゃないよ、それ。ただのファンだよ。もっと自分に自信を持て。お前は何も悪いことはしてない」
「ふふっ。で、その家族の動画を見ているうちに、気づいたことがあって」
「気づいたこと……何?怖い系の感じ?」
「いや、そういうんじゃなくて。その動画に、たまにお父さんではない男の人が出演することがあったんだよね」
「それってまさか……不倫!?」
仙弥は目を見開いて驚いた。
「いや、違う。でも私も最初そう思った。っていうのも下の子が、とにかくそのお父さんではない男の人に異常にメロメロでさ。その男の人と家族の関係性は後にわかることなんだけどさ。とにかく気になっちゃって」
「俺も気になる。でも後にわかるんだね?その……第三の男が」
「うん。で、その男の人と下の子のやり取りだけの動画とかもあって。私はそのユニットが大好きになっちゃって」
「ユニットって。なんかアイドルみたいだな」
笑いながら仙弥が果穂にペットボトルの飲み物を選ばせた。
「とにかくその二人だけの動画がほっこりするやり取りだらけで」
「へぇ、どんな?」
「えっと……例えば、まーちゃんのこと好き?って、下の子が『まーちゃん』っていう女の子なんだけど、そういう直球の質問をその男の人にぶつけて、でその人は子供に慣れてないのか、答えに詰まっちゃうの。で、まーちゃんが泣いちゃって。慌ててその男の人が大好き大好き、っていいながら抱きしめてその子をあやすんだけど……そういうやりとりを見てるうちに、私はもうキュンキュンしちゃって」
「今、話を聞いただけの俺もした。その動画、見てみたいわ」
「今は……まだ見れるのかな?ちょっとわからないけど」
「まあ、それは置いておこう。続けて?」
「とにかく、その男の人のことが気になって仕方なかったんだよね。落ち着いた大人で、優しくて、子供に好かれて……」
「まさか……その人が!?」
「ふふっ、まあそうなんだけど」
「ちょっと待って。その人、何歳!?」
「32歳」
「意外と若いな!?おじさんって聞いてたから、俺はてっきり40代から50代ぐらいのガッツリおじさんだと思ってた」
「あはははは、そこまでおじさんじゃないよ。おじさんだけど」
「じゃあ、頭は禿げあがってない!?」
「うん。普通に短髪」
「中年太りしてない!?」
「うん。筋トレしてるから」
「私服もダサくない!?」
「ううん、ダサい。最近は少しマシになったけど」
「ははは、ダサいのか。いいじゃん」
「そう、そこがいい」
果穂は幸せそうに歯を見せて笑った。
「横道に反らしてゴメン。続き、聞かせて?」
仙弥は身振り手振りで謝罪の意を伝えた。
「……うん。で、その人のことが気になって気になって、何千回何万回、動画を再生してるうちに気が付いたら、その人の声を聞くだけで幸せになる体にさせられてた。顔もわからないのにさ」
「その人の顔、映ってなかったんだ?てめぇの子供の姿は全世界に晒すくせに?」
「そうそう、そうなんだよ。私もふざけんな、って思って」
「ははははは!!そら、そうだ。なんでそこだけリテラシー守ってんだよ、なぁ!?」
「ホントだよ……その人の足だけとか、後ろ姿だけとか、そういうのばっかりで。この人、どんな顔してるんだろうって。ずーっと想像させられて」
「それは苦しいね。ガチ恋ってやつだ?」
「うん。で、そうなったのが一昨年ぐらいの話。そのままネットストーカーだった私の中三が終わったの」
「まだ中三の話!?もしかして、ものすごく壮大な話か!?で、高校入ってからはやめちゃったの?動画の追っかけ活動は」
「追わなくなったというか、追えなくなっちゃったんだよね。その家族の動画がだんだん更新されなくなってって」
「おわ~……えぇ……終わっちゃったじゃん。どうやって出会うの?そっから」
「それが出会えたんだよ。本当に奇跡が起きて……」
果穂は遠い目をしながら窓の外を眺めた。
果穂は紅茶のペットボトル飲料を一口含んだ。対して仙弥はスポーツドリンクをぐびぐびと半分以上飲んでから新しいお菓子の袋を開けた。
「……うち、母子家庭って、最初にいったじゃん?」
「うん、いってたね」
「私が小五の時にママが彼氏を家に連れてきて。で、何でかは忘れちゃったんだけど、その人と少しだけ二人きりになる時間ができて……その時、その人にちょっと気持ち悪いこといわれて……」
「うわぁ……マジであるんだ、そういうの……。最低だな、そいつ」
仙弥は不快と怒りの混じった表情を露わにした。
「……ありがとう。で、その後に私、そのことをママに密告してしまって」
「密告って、お前……お前は悪側じゃないんだから。そういうのは、密告っていわないんだよ。それは通報といいます。お前は正しい事をした。自信持てって」
「ははは……ありがとう。でもやっぱり、ママには幸せになってもらいたいからさ。結果的にその人とママ、別れちゃってさ。その後も、ママの新しい彼氏たちが続々と家に来るんだけど」
「続々と!?お前のカーチャン、モテるんだな!?」
「ママ、スナックやってるから。男には困らないんだと思う」
「あぁ、なるほど……なるほど、なのか?偏見じゃないか、これ。大丈夫?」
「ふふふ、アンタ変わってるよね」
「あのー、よくいわれます。俺はそうは思ってないけど」
「ははは……それで、私に変な事をいってきたり、してきたりする人っていうのは全員じゃないんだけど、結構高い確率でいて」
「なんでそんな……酷い話だな」
「うん……そういう人たちって、大体お酒が入って酔っ払ってくると、そういうことをしてきて」
「あぁ……」
「そのうちの一人に触られ……触られ、かけたことがあるんだよね」
「あぇ!?だ、大丈夫か、その話!?無理やりしなくてもいいんだぞ!?」
「ううん、彼以外にも聞いてもらいたくなった。でも、他の人にはあんまりいいふらさないで?」
「……わかった」
仙弥は果穂の信頼を裏切るまいと堅く返事をした。
「そういうこともあってちょっと苦手なの。そういうお酒を飲んだ状態の……」
「酔っ払いが?」
「うん。もっというと、酔っ払った状態の大人の男の人が」
「ああ、なるほど」
「さっきもいったけど、それとは別にママにはちゃんと幸せになってもらいたくって」
「お前……いいやつなんだな」
西園果歩という人間が好きになっていた仙弥は心の底からそういった。果穂は照れくさそうに笑うばかりだった。
「でもママとしては彼氏とうまくやっていきたいという気持ちと、私を守りたいという気持ちの両方があって」
「複雑なんだ」
「うん。幸い、今付き合ってるママの彼氏はそういうタイプの人じゃなくて、真面目な白髪のおじさんなんだけど」
「よかった。とりあえず俺はその情報が聞けてホッとした」
気が付くと仙弥は目の前の優しい人物が傷つくことに耐えられなくなってきていた。
「その人もたまに家に来るんだけど、どうやら本格的に結婚をするって」
「果穂のママがその白髪のおじさんとだね?」
「そういう話もあって。私が高校卒業したら、籍を入れて家も建てるって話も聞いて」
仙弥は少しだけ眉間にシワを寄せながら黙って果穂の話を聞いた。
「その話を聞いた私の中で……ちょっと引っかかるものがあって」
「だよな!?俺も思った。当てていいか!?」
「ふふ、いってみて?」
「なんで卒業後なのって話だろ!?別に、すぐすりゃいいじゃん。家はすぐ建たないけど、籍入れるなんて役場行けばすぐなんだし。なんかその話、どっかで果穂をさ……」
仙弥はそこで言葉を濁した。それ以上はとても彼の口からはいえなかった。
「そうなんだよね。明らかに私がいない環境を前提にしているというか……家を建てるにあたって、私の部屋がどうとか、そういう話も出たんだけど。なんかもう、その人にもあんまり会いたくなくなっちゃって」
「あぁ……もう、なんだよ。なんでお前がそんな……傷つかなきゃいけないんだよ」
「……な、泣いてるの?」
「ちょっと……感情移入しちゃって……でも、気にしないで。俺、いつもこんな感じだから」
仙弥はグイグイと手で涙を拭いた。
「でもそれは私の勘違いで……それも後でわかったことだったんだけど」
「え、そうなの?」
「うん、あの……なんか在学中に苗字とか変わると色々煩わしいだろうから、っていう二人の気遣いだったんだよね」
「そういうことか……優しさのすれ違いだ」
「そうそう。だから今はもう、そのおじさんとも普通にうまくやってる」
「よかったぁ」
「でも当時はそんな事知らなかったから、私は勝手にふさぎ込んでて……」
「いや、誰でもそうなるって。ずっとお父さんの影を求めて求めて……求め続けて、嫌な思いとかもしててさ……それはしょうがないって」
仙弥はまたしても涙ぐんでいた。果穂はそんな彼のことをすっかり信頼していた。
「私、ママの彼氏が家に来る日って、大抵ネカフェとかで時間を潰してたんだ」
「……ああ、夜までいられるし、いいよね、ネカフェ。ドリンクバーあるし」
「ふふ、まあそうだね。それでいつも鍵のかけられる個室で、時間いっぱいまでいたんだけど」
「へえ、リッチじゃん」
「お金はママが出してくれてたからさ。ちゃんと安全な部屋にしなさいって」
「いいママだな」
「うん。それで……その日は、いつも行ってるお店の鍵付きの部屋が空いてなくて」
「あら、どうすんの?」
「どうするか迷ってたら、店員さんが系列店の情報を調べてくれて。ちょっと遠い所だったんだけど、ここなら空いてますよ、って教えてくれて。じゃあそっちに行ってみます、って。その紹介された店舗に行くことになって」
「えぇ!?そんなことしてくれんの!?いい店員さんだね」
「うん。しかも……女の店員さんだったんだけど、私にとって出会いの天使みたいな人でもあるんだよね」
「キター!!ついに!?ということは……いたんだ!?そこに!?」
果穂が表情一つで仙弥の期待に応える。
「……最初は全然気づかなかった。ネカフェって、番号を渡されて自力で部屋を探して辿り着くでしょ?その途中で、なんていったらいいんだろう……部屋になってない、仕切られてないゾーンみたいな」
「ああ、わかるわかる!!カフェスタイルみたいなスペースの所でしょ!?相席上等みたいな、あのスペースね!?」
「そうそう。そこにワイシャツとスラックスのお兄さんがいて」
「その人が!?」
「そうなんだけど、まだその時点で彼だと認識してなくて。でも、変な組み合わせというか、スープとお水を飲んでで、しかも少女漫画呼んでて、四コマ漫画もちょっとキープしつつみたいな、変な……ふふふ」
「おお!!結構……癖、強めだ!?」
「そう。ふふふ……それで、変わったお兄さんだな、って。それでなんとなく視界に入ったというか」
「あ~……ついに出会ったのか」
「いや、でもまだ私は彼……ショー君っていうんだけど」
「おお、いいね。ついに名前が」
「私はまだその人をショー君だと認識してないから、そのまま鍵付き個室までいって。鍵をかけて、そのままマットに寝ころんだの」
「あの硬いマットでな?」
「ははは、ネカフェのマットって硬いよね。で、その硬いマットで横になって……色々考えちゃってさ。卒業したらもう本当に一人なんだなって」
「いや!!お前はもう一人じゃない!!今日から、少なくとも俺のことは友達だと思ってくれてかまわない!!いつでもここに来てくれていいし、困ったら家に遊びに来てくれて全然いいから!!妹もいるし!!俺よりうるさい妹と母親が、きっとお前を歓迎するだろう!!」
「ははは、友達か……そうなんだよね。結局、気が付いたら私のまわりには、そういう人が一人もいない状態でさ。ネクラなところがそういう結果になったのかもしれないけどね」
「いや!!お前結構……いってもいい?」
「なに?」
「ちょっとキモい表現になるけど、ゴメンね?お前は男子にも女子にも評判がいいと聞いてる。顔もなんかカッコイイ系というかキリッとしているし、どことなく陰のある雰囲気もいいし、それなのに仕草が女子らしいというか、可愛らしさも兼ね備えてて、声も大人っぽくていい感じだし……結構、君は自分が思っているよりもいい女ですよ?」
「え……そう、だったんだ」
「そうだよ!?だから俺は最初っからいってるけど、もっと自分に自信を持てって。たぶんお前と仲良くなりたいやつ、いっぱいいるんだと思う。だからおじさんと付き合ってるって噂が出回るんだと、俺は推測した」
「……どういうこと?」
「うーんとねぇ……俺のただの推測にすぎないけど、果穂って自分から今日みたいな話したことないだろ?」
「今日みたいな?」
「おじさんと付き合ってますって、正面から誰かにいったことないでしょ?」
「……うん。それさ、不思議に思ってた。どこから情報が漏れたんだろうって」
「それはお前が誰かに見られているという意識がないからなんだと思う」
果穂の表情は仙弥のいっている言葉の意味がわかりかねるという様子だった。
「プラスでもマイナスでも、魅力的な人ってさ、自然と人に見られるんだ。果穂もそういうことない?町中とかでも電車とかでも、普通の人よりも美醜の振れ幅が大きい人、見ちゃうことない?」
「うん、ある」
「それに引っかかる人なんだよ、君は。つまり人によく見られる側の人間ってこと。この場合はプラスの魅力的な人という意味でとらえてね?」
「あは、ありがとう」
遠回しに褒められたということがわかった果穂はこそばゆい気持ちになった。
「で、果穂がショー君と一緒に一番行く場所ってちなみに……スーパーとかだったりしない?」
「……そうかもしれない」
「はい!!そこです!!あなたはそこでショー君と一緒にいる所をこの学校の人間に目撃されています!!現場を見たそいつは衝撃を受けた!!そいつが誰にその目撃情報を流したか、そこまではわからない。しかし!!他人に他人の話をするというのは、話題の焦点にある人物が魅力的な人間でないと成し得ない!!ちなみにこの場合の魅力的というのはプラスでもマイナスでも成立します!!意識の共有をしている者同士というべきか!!だべか!!」
「え……と」
熱く語る仙弥を始めて目の当たりにした果穂は圧倒され、言葉を失った。
「……ごめん。俺の悪い癖が出た」
「あはは、でもなんか説得力あった。そういうことだったんだね」
「腕、組んでるか……手ぇ、握ってるだろ?」
「え?」
「スーパーで。ショー君に」
「う、うん。なんでわかるの?」
「……エスパーだからさ、俺」
これ以上、持論を展開すると良くないと思った仙弥はそういってごまかした。
「さて……ちょっと休憩しようか、だいぶ長くなりそうだ。トイレ遠いのだけが難点なんだ、ここ」
そういって二人は各々休憩をとることにした。