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幕間 コイバナが無い日もある

 



「……そうなんだよ!!『みそっぱ』って知ってる!?医学科のハルト君、そういうの医学用語でなんていうの?」

「ランパントカリエスですか?」

 仙弥とみよの向かい側にあるソファに座った筋骨隆々の大男、ハルトは答えた。

「ですか?っていわれても、俺ら答え知らないけどね」

 仙弥がへらへらと笑いながら茶化すと、ハルトはポリポリと頭をかきながら自らの隣に座る小柄な女子生徒の顔を見下ろした。その女子生徒はニコニコとハルトに微笑みかけるだけで特に何もいわなかった。彼女の名前はユキ。ハルトの恋人であり、男の娘でもある。

「ははははは、確かに」

 窓際のパイプ椅子に座るアツシが笑った。制服を着崩していて、いかにも活発そうな男子生徒だ。

「っていうか、なんで知ってんだよ。授業で習うの!?」

「習わないです」

「自分で勉強して得た知識だ。偉いなぁ……じゃあ芸能科のおちよさん、今数学の授業で何やってるか、皆に教えてあげて?」

「分数の算数です」

 大好きな先輩の隣で大人しく話を聞いていたちよは、虚を突かれながらも彼女なりの最短時間で答えた。

「ははははは!!分数の算数ってなんだよ!?」

 パイプ椅子をきしませながらアツシがその答えに大喜びした。

「ちょっと……俺も想像してない、予想以上の答えが返ってきた。おちよ、お前やっぱすごいわ。でもわかったでしょ?今の答えで。今集まってるこのメンバーだけでも、これだけの学力差があるってのが」

「間違えただけですから!!本当はかけ算です、分数のかけ算!!」

 慌てて訂正するちよを仙弥は笑顔で眺めた。

「でさぁ、俺だけ普通科で皆が羨ましくって。専門科目っていうの?そういうのがあって。キュウも体育科だし」

「お前ホント、キュウ好きだよな。わかんないだろ、一年生組は」

「いや、おちよは会ったことあるもんね?」

「はい、あのーカッコいい、イケメンの人ですよね?」

「そうそうそう。あ、二人はもちろん知らないよね?キュウって俺の親友なんだけど。小学校からずっと一緒のヤツがいるの。今日はいないけど」

 ハルトとユキは仙弥の説明に大人しく聞き入った。

「ホントね、キュウは……あのー……ホント、いいヤツなの。ちょっとあのー……下手すると、おちよよりもポンなんだけど」

「ポン?」

 言葉の意味がわからなかったハルトとユキが仲良く首を傾げた。

「ポンコツ」

 アツシが略語を復元して説明した。

「そう、バカってこと」

 仙弥がそれをさらに直訳した。それを聞いたちよは不機嫌な表情を仙弥に向けた。

「違うよ?悪い意味じゃないよ?俺、バカ好きだから」

 仙弥はちよに向かって慌ててフォローになっていないフォローをした。

「ならいいです」

 普通なら火に油を注ぎそうな言いまわしを、ちよは許した。「好き」という部分が気に入ったのだ。

「で、アツシは商業科でしょ?ハルト君は医学科で、ユキちゃんは被服科で、おちよは芸能科で……もう今、闇鍋状態じゃんか」

「お前、そういうの気にするんだな」

「気にはしてないよ?俺が気になってるのは、専門科目ってやつ。皆授業で何をやってるの?って話。皆一体何と戦ってんだ、つって」

「俺の場合は、普通に簿記、会計でしょ?それと情報処理、あとマーケティングとか。そういうのやってる」

「うーん、わかんない。全然想像できない」

「なんだそりゃ、自分で聞いといて。それでいったら、俺はちよちゃんの芸能科の授業が気になるけど」

「芸能科はね、おちよの説明だと全然わかんないからやめとけ?」

「ははははは、なんだよそれ。お前、なんでちよちゃんの事、そんな扱いなの?」

「そうですよ!!歌とかダンスとか、あとお芝居とかやってますよ?」

「問題は医学科だよ。芸能科もなかなかレアだけど、ハルト君、医学科は何してるの?」

「いや、俺は……医学科つっても他の学校でいう所の特進とかと同じなんじゃないかな……って思ってますけど。思ったより英語が難しいぐらいで」

「強めに勉強してる?」

「そうっすね」

「強火で?」

「はい」

「ちなみに……医学科の偏差値は?」

「73です」

「なっ……!!??!!?」

 三人が絶句した。ユキだけはニコニコしながらハルトを見ていた。

「気を取り直しまして、最後はユキちゃん」

「はい」

「被服科って、普通の授業以外はどういうことやるの?」

「え……なんだろう。お洋服作ったり……デザイン系の授業とか、図面とパソコンを使ってしてますね」

「デザインの授業があるんだ!?美術とかじゃなくて!?」

「はい」

「色々あるんだな」

「面白そうだなぁ」

「73か……」

「アツシ、それ忘れよう……73か……」

「忘れてねぇじゃねぇか」

「ハルト、今度、教科書持ってきて!?」

「あ、何なら今持ってますけど、見ますか?」

「いや……やっぱいい!!」

「逃げた。現実から」

「先輩も人のことバカにできないじゃないですか」

「……ダメだよ、73は。チートだもん。一気に俺の中のパワーバランスが崩れたわ。ハルトはもう俺の軍師ね?」

「はぁ……」

「何かあったら頼むわ。合戦とかあったら」

「ははははは、全生徒2000対ここに集まるやつら十数人で?ねぇよ」

「俺の城が……人材が補強されると、俺の存在価値が下がっていくんだ……」

「でも先輩いないと、皆集まりませんから」

 ちよが真っ先に元気づける。

「ああ、それはあるかもな」

「間違いないっすね」

「聞いてるだけでいいっていうのも楽ですよ」

「みんな……ホント!?」

 大げさに嬉しがる仙弥をその場にいる皆がほほえましく思っていた。

「おちよも!?俺がいないとここに来ない!?」

「はい」

「ありがとう……時代はおちよなんだな!!キュウじゃない!!」

「だからここにいないヤツの話すんなって」

「キュウ先輩、最近来ないですよね」

「部活の追い込みが忙しいらしくって……剣道部の」

「剣道部といえば」

「その話はキュウがいる時しかしたくない!!」

「ダッハー!!そうか、ゴメン」

「二人だけで盛り上がってズルい、何の話ですか?」

「いや、これは……」

「君たちは初デートの相手に首輪をつけられそうになったこと、ない?俺はあるんだけど」

「だはははははははは!!!!」

「この話だけはしたくないんだよ。トラウマになってっから。キュウがいれば多少はフォローしてくれるから、俺もちゃんと話せる……と思う。だから今日は勘弁して?あ、そうだ。アツシ、今度例の女の子、連れてきてくれない?」

「例の?」

「お前のクラスの、おじさんと付き合ってるって女の子」

「ああ、果穂?まぁ、いいよ……本人の許可が取れ次第だけど。でも多分お前が思ってるより」

「いい!!それ以上いわないで!!」

「わかったわかった」

「それじゃあ、今日はこのへんで解散するか」

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