突然の最終回
今回の登場人物
・姫森仙弥 普通科の二年生。声が大きい系男子。主人公。
・鬼束ちよ 芸能科の一年生。ほほえみ系女子。アシスタント。
・工藤アツシ 商業科の二年生。やんちゃ系男子。ツッコミ担当。
・西園果穂 商業科の二年生。パンキッシュガール。切れたナイフ。
・眞城ユキ 被服科の一年生。男の娘。ゲラ担当。
校内の敷地の隅の隅にあるプレハブ小屋。この日は3つの人影がそこにあった。
一人の男子学生が楽しそうに室内のソファに腰かけ、楽しそうに友人と後輩に向かってなにやら話している。彼の名前は姫森仙弥。おしゃべり好き、人好き、そして何よりもコイバナが好きな高校二年生だ。彼の隣には可愛らしい後輩の一年生、鬼束ちよが今日もニコニコと愛想よく座っている。
「で、この前のさ……あ、電話だ。ごめん、ちょっと出るわ」
仙弥が別の話題に切り替えようとした時、彼のスマホが鳴り響いた。
「ああ、いいよ」
仙弥たちの向かい側に股を開いて座っていたアツシはそれを快く承諾し、ちよは黙って事の成り行きを見守った。
「はい……はい、あ……マジっすか……そうっすか……わかりました。え?本当ですか?あー、それはありがとうございます。いやいや!!全然ありがたいっす。あ、はい。じゃあ、その時はよろしくお願いします!!頑張りますんで!!はい……はーい、失礼しまーす」
「誰?」
アツシが電話の相手を気にして訪ねた。
「ちょっと……上からの電話」
「上?」
仙弥の口から出た聞きなれない人名に、アツシもちよも首を傾げるばかりだった。
「うん……えー、突然ですがお知らせです。本日、最終回です」
「何が!?さっきからお前の言ってること、全然わかんないんだけど!?」
「なんか、どうにもならなくなったらしくって」
アツシのツッコミに対してお構いなしに仙弥は説明を続けた。
「だからまず、あらすじの欄に『不定期連載です』って一言書いておけば、こういう事にならなかったらしいんだけど」
「なにを言ってんだ、お前は?」
「だからいったん終わらせて、で、また新しく仕切り直したいんだって。不定期更新で」
「お前の言ってることが全然わからないっていってるだろ!?話をどんどん進めるなよ!!」
「なんですか?なにがわからないんですか?」
澄ました顔で仙弥はとぼけた。
「上って誰なの?」
「上って知らない?あのー、あれ。領収書とかで」
「会社ってこと!?」
「まあまあまあ、会社というとちょっと……運えい、運営です。我々にとっては」
「運営から電話がかかってきたの!?」
「まあ、そういう存在。概念」
「……うさんくせぇ」
「他にご質問は?」
「……最終回って、何?」
「俺たちの人生とは関係ないし、終わらないよ?終わらないけど、最終回なんです」
「何なんだよ、全然わからねぇ!!」
「だから今日、この……まさかの3人で」
「最終回!?このメンバーで!?」
「今まで集まったメンバーの中でもダントツで暇な3人です」
「トップスリーか……まぁ、大体この3人多いもんな」
「そうなんだよ、意外と。で、次に多いのが誰も来ないパターンね。俺とおちよの二人だけ。こうなるともう早めに帰っちゃうもん、ね?」
仙弥がチヨに同意を求めた。
「はい。でも、最近はユキちゃんがよく来てくれますね」
「あー、ユキちゃんね。ゲラ担当として結構優秀な」
アツシがユキの上手い立ち回りを褒めた。
「ここだけの話さ……俺、最近ユキちゃんをエッチな目で見てるときがあって」
突如、仙弥が謎の告白をした。
「最低!!」
「お前……人の彼女というか、恋人だろ」
「違う違う、あのー……違わないけど、違うの。聞いて?ユキちゃんって、かわいいじゃん?」
「こんにちわー」
タイミングよく話題の人物が部屋に入ってきた。
「おー、来た」
余りのタイミングの良さにアツシは驚きながらも自分の座っていたソファを横に詰め、ユキの為に場所を開けた。
「よろしくお願いしまーす。今日も笑いに来ました」
仙弥の斜め前に座る形でユキがそこに腰かけた。
「ユキちゃん聞いて!!先輩がエッチな目でユキちゃんのこと見てる、っていってるんだよ!!」
ちよが怒りながら仙弥のここだけの話をあっという間に暴露した。
「えー!?」
当然、ユキは驚いた。
「違うんだ、ユキ。違くないけど。聞いて?」
仙弥は話を仕切り直した。
「だから、ユキは可愛いじゃんか?」
「いや、ちよちゃんも可愛いだろ」
アツシが仙弥の言葉の綾を訂正した。
「そうなんだけど、そうだけど……そういう意味じゃない。違うよ、おちよ?俺が言いたいのは、ユキがちょっとドキドキする位置にいつもいるな、っていうことが言いたいの」
「あ~、いつもボクの事、なんか見てますよねぇ?」
その場で仙弥の言いたいことがわかったのは当事者のユキだけだった。
「そう!!いつもユキが視界に入るんだよね。それで、いつも俺の話に結構……笑ってくれるじゃん!?」
「はい。先輩、面白いですから」
そう言いながらユキはすでに笑っていた。
「あぁ……ありがとう。こういうこと」
仙弥は掌全体でユキの方を指した。
「……わかんねぇよ、それがなんでスケベにつながるんだよ?」
「だからそれは……リニューアルした時の、男子会あたりで話そうか?」
「あはははは、なんですか?リニューアルって」
ユキが笑いながら質問した。
「あ、実は今日最終回で。今度、リニューアルしてまた仕切り直すことになったらしくて」
「え!?そうなんですか!?よかったー、間に合って」
「なんですんなり受け入れてんの!?意味わかってるの!?ユキちゃんは」
「わからないけど、ノリですよ、ノリ。ねえ、ちよちゃん?」
「え、うん」
「……入っていい?」
倦怠感のあるハスキーボイスが部屋の入り口の方から聞こえた。
「おー、果穂!!いらっしゃい、入って入って」
部屋の主の仙弥は果穂を大歓迎して中へ入れた。アツシは自分の座っていた場所を果穂に譲り、窓際にパイプ椅子を広げてそこへ座った。
「もうちょっと女子のメンバーを増やしたいと俺は思ってるんだけど、女子組はどう思う?」
「……私はあんまり大人数になると疲れちゃうかも」
「あー、わかります。ボクもそうです」
「私も同じです、気が合いますね」
「お前ら……結構キャラが違うのに共通点あるのな?じゃあ、しばらくは女子はこの3人が準レギュラーってことでいいか?」
「あはは、最終回に準レギュラーを決めるんですか?」
「最終回?」
当然、果穂が疑問を持った。
「じつは今日、最終回らしくって」
仙弥が何度目かの説明をした。
「ふーん……」
「興味なし!!」
たまらずアツシが果穂にツッコミを入れた。
「あ、そうだ!!この前、スーパーでお前とショー君見たぞ!?」
仙弥が興奮気味に話し始めた。
「え……」
「何!?お前のあの格好!!」
「えー、どんな格好だったんですか?」
「フリフリ付きの網タイツと猫耳のパーカー着てたろ!?」
「……やめてよ」
果穂は顔を赤くして恥ずかしがった。
「ちょっと恥ずかしくて俺は話しかけられなかったけど、お前幸せそうだったな」
「アンタは誰といたの?家族?」
「キュウとキュウのお母さんと俺の3人」
「なにそれ」
「その時、久しぶりにキュウの家泊りに行っててさ。で、ちょっと普段いかない遠くのスーパーに行くことになって。それでお前を目撃することになったんだけど……お前、やっぱり目立つな」
「……そうなの?」
「うん、すごい……魅力的。お似合いだったよ」
「……ありがと」
「さて、最終回っぽく主要なメンバーも揃ったし、そろそろ話を締めるか」
「キュウ来てねぇじゃん」
アツシが隙を突いた。
「残念ですが、キュウは来ません。部活で」
「まあ、しょうがねぇな」
どうにもならない事情がそこにはあった。
「……で、再開はいつになるの?」
意外なことに、その話題に一番興味のなさそうだった果穂が質問した。
「えーっとね……ちょっと間が空くかもしれません。でも俺たちは一学期のまま。果穂さんはだから、純潔を保ったままです」
「バーカ」
果穂は辛辣だった。
「ちょっとリフレッシュしてから始めたいらしくて。温泉行って、焼き肉食いに行って、キャンプ行って。で、ちょっとダラダラして」
「ダラダラしてんじゃねぇよ。そんだけ遊んだあとに」
アツシのツッコミが冴えた。仙弥はたまらないといった様子で笑みを浮かべた。
「だからひと月後ぐらいですかね、我々がこうしてまた集まって、なんか喋って、で、ちょっとダラダラして」
「天丼ヘタクソか、お前」
アツシのツッコミに仙弥が嬉しそうに笑った。
「それでは最後になりますが……あ、そうだ!!この前話した親子丼の店、あるじゃん!?あの後、ちよと二人でその店行ってさ。そしたらなんと、このご時世だからなのか、500円値上がりしてて……」
室内にある5つの人影は今日もまた、雑談に花を咲かせた。彼らの青春の日々は、まだまだ続く。