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思い出の親子丼の話がやっと始まりそう

 

 高1の時にキュウの剣道の試合に応援に行った俺はまわりの迷惑も顧みないほどの大声で同じ高校の人を全員応援してたら女子の先輩にすげぇ気に入られてデート誘われてご飯食べてそれ食べ終わったらその先輩が店の中でカバンからおもむろに首輪を取り出して君を飼いたいとかわけわかんないこと言ってきたから俺はただ一言ごちそうさまでしたっつって逃げて帰ってきた。


「……っていう話」

「最悪か、お前は」

 仙弥の態度のあまりの酷さに、アツシは怒りの言葉を吐き出した。

「さっきまで関係ない事、ベラベラベラベラ楽しそうに喋ってたヤツがよ!!なんで一息で全部言ってクソつまらなくしようとしてんだよ!?」

「うわぁぁぁ~~」

「いや、発狂したフリしてごまかすなって。俺とキュウは全部知ってんだからな?」

「すうぇぇぇ~~」

「もういいわ!!俺が代わりに話してやる!!桜井」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 アツシが話を取り仕切り始めると、仙弥が今度は本当の拒絶反応を示した。

「桜井」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「……桜井」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「……さく」

「……」

「名前がダメなのか。わかった名前は伏せよう。そうだなその人の名前を……チェリー先輩とでもしようか」

「チェリー先輩はお前……男っぽくなっちゃうから」

「発狂してねぇじゃねぇか。で、桜井先輩」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「……ひまりせんぱい」

「……」

「下の名前は大丈夫なのか。意味不明だな。ひまり先輩っていう剣道部の美人で有名な先輩がいて」

「うん、僕とか仙弥君でも美人ってわかるぐらいの、すごい美人な先輩」

 アツシとキュウが協力して話を始めた。

「へぇ~、どんなご尊顔をされているんですか?」

 ユキが身を乗り出して男子組に質問した。

「顔は……大和撫子、じゃなくて、こう……仙弥君、ああいう人の事なんて言うんだっけ?」

「凛とした、ロングポニテの、美しい、か、怪人です」

「怪人は失礼だよ。凛とした美人か、うん。それでしっくりくる気がする」

「いや、怪人もあながち間違いではない気もする。なんか、どことなく悪の組織にいそうな感じの美人だから」

 男子組の出す情報はおぼろげなものだった。

「キツい感じの美人ですね?」

「そう!!キツかった!!わかってくれるか、おちよ!!」

 おそらく『キツい』の意味で行き違いが発生していたが、仙弥はちよの意見に大いに賛同した。

「で、最初はどうやって誘われたんだっけ?」

 アツシらしく雑な質問を仙弥に放り投げる。

「僕が、だからその、先輩に言われた通りに仙弥君を紹介しちゃったから……そんなことになっちゃって」

 申し訳なさそうにキュウが下を向いた。

「いや、キュウは悪くない。大会の後日に俺がそのうわぁぁぁぁ!!」

 仙弥が話の途中で身体を硬直させて叫び声をあげた。

「ゴメン。ホント、ゴメン。脳裏にあの恐ろしい笑顔が勝手に浮かんできて、こうなっちゃうの」

 主に女子たちに向かって謝る仙弥は時折窓の外を確認したり、身震いさせて常に何かに怯えていた。

「もう無理して話さなくていいよ、お前は。俺らの質問にだけ答えてくれれば」

「オッケ、オッケー」

 気合を入れ直した顔で仙弥は質問を待ち構えた。

「その先輩とのデートの日の朝、お前はどうしたんだっけ?」

 アツシが何とかうまい具合に話を引き出そうと試みた。

「待ち合わせ場所のボウリング場に……約束の時間が10時だったから、俺は服を揃えて、でもまだ時間があったから、それは着ないでいて」

「どれぐらい?」

「1時間以上はあった」

「その時、お前はどんな恰好をしていた?」

「部屋着だった。Tシャツとハーフパンツで、そんな洒落たものは着ていなかった」

「……そうですか。姫森仙弥さん、あなたは約束の時間まで何をしていましたか?」

 ここでアツシのエンジンがかかった。まるでどこかの調査員が被験者に尋問するかのように、彼は丁寧な口調で仙弥に対して質問を続けた。

「スプレーとシートで汗を抑えようとしていました。それに、いい匂いをさせた状態で彼女と会いたくて……彼女、美人だったものですから」

「そうですか。それは実現できましたか?」

「……いいえ。ぼちぼちそれをしようか、と思った時でした。スマホが突然鳴ったのです」

「あなたはそのスマホに?」

「……はい、出ました」

「電話だったのですね?」

「はい。メッセンジャーアプリではなく、電話でした。相手は件の彼女でした」

「彼女は、電話でなんと?」

「たった一言」

「……」

 調査員が黙って被験者の次の発言を待った。

「今すぐ家から出ておいで、と」

「……すると彼女は、待ち合わせ場所ではなく、直接あなたの家に?」

「…………はい」

「あなたは彼女の言う通り、家の外へ?」

「はい。玄関を開けると、そこに彼女がいて」

「彼女はあなたの家の場所を知っていた?」

「いいえ。彼女を紹介してくれた親友も教えていないですし、彼女が知るはずはありませんでした」

 その場に緊張が走り、誰かが息をのむ声が聞こえた。

「あなたはその時、どう思いましたか?」

「その時は、怖いなって。でも、最近学んだんです。世の中にはそういう……目的を達成するために、手段を選ばない、恐ろしい行動力を持った人間がいるんだって……」

「……それで、家の外で待っていた彼女はあなたに会ってなんと言いましたか?」

「時間がない、と。それだけ言って、彼女は私の手首を掴んでそのまま歩き始めました」

「振りほどこうとしましたか?」

「もちろんです。満足に身だしなみも整えていない、着替えも済ませていない、そんな状態で出かけたくはなかった」

「……つまり、振りほどこうとしても、振りほどけなかったわけですね?」

「はい。彼女、剣道をやっているせいか、ものすごく握力が強くて。結局、目的地のボウリング場にたどり着くまで、彼女は私の手首を離しませんでした」

「あなたの手首は、どうなりましたか?」

「一日中、彼女の手の跡が残り続けました」

「ボウリング場にたどり着いたときの、あなたの状態は?所持品や服装を教えてください」

「何も持っていませんでした。財布はおろか、スマホも、何もかも全部家に置いてきたままでした。服も部屋着のままで、Tシャツとハーフパンツで……」

 調査員が同情したように息を吐いた。

「彼女の様子は?何か、変わったところはありませんでしたか?」

「……彼女は私の手首に残る自分の手の跡を見て、満足したように、うぅっ……笑ってうわぁぁぁぁぁ!!!!!」

 被験者の絶叫が響き渡った。


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