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最後は頼れるツッコミ役

 

「入院っていっても、二日間だけだよ」

 のんびりとした口調でキュウは当時の自分の状況を説明した。

「で、俺はキュウのお母さんが来るまで、ずーっとさっきみたいに叫び続けて」

「あはははは。仙弥君の声だけ、よーく聞こえもん」

「ごめぇぇん!!キュウぅぅぅぅ!!!!って。キュウの枕元でずっとそうやって、叫び続けた甲斐もあって……」

 キュウ少年は親友の必死の呼びかけのおかげで、無事に意識を取り戻した。話を知らない3人の女子たちはそう予測した。

「もう次の日には病院出禁です」

「騒いじゃダメだからね」

 仙弥とアツシの見事な連係プレイに女子たちは笑いを堪えきれなかった。

「……あ、だから退院の日、病院の外で待っててくれたんだ?」

 一人だけテンポの違うキュウが当時のことを思い出して再び感動していた。

「受付で門前払いされて、そうしました。あの時は本当にごめんな?」

「いや、もう大丈夫だから」

「キュウ……」

「仙弥君……」

 仙弥とキュウが作ったような甘い声でやりとりをすると、無言でお互いに熱い眼差しを送り合った。

「お前らのそのBL芸、なんなんだよ。気持ち悪ぃ」

「え~?ボクは好きですよ。ね、ちよちゃん?」

「う、うん。私もけっこう、好きです……」

「私は気持ち悪いと思う」

 その場の評価は綺麗に二分化した。

「これについてはね、また別の話なんだけど、中学の時の女子の先輩に教え込まれた芸なの。な?」

 仙弥がキュウに同意を求めた。

「そう。こういうことをやるとお小遣いをくれる人で」

「え!?お前ら、そんなことしてたの!?」

 二人と同じ中学出身のアツシが初めて聞くその情報に驚いた。

「最初はお菓子くれたりとか、その程度だったんだけど。だんだんコンビニで肉まんとか、駄菓子屋でもんじゃとか、どんどん奢ってくれるものがレベルアップしてって」

「そうそう。それで、最後の方は直接現金を貰ってたんだよね」

「怖ぇなぁ、もう……どんなことさせられてたんだよ」

「……」

「……」

「言えよ!!怖ぇから!!」

「まぁ、そんな大したことはしてない……俺たちからしたら、な?」

「うん……写真とか撮られて、そんな感じだったかな」

「んだよ、それ……中学の頃の話だろ!?間食禁止どこ行ったんだよ!?」

「確かに!!そういわれると、結局メチャクチャ間食してたな!!」

「僕はちゃんと、晩ご飯とかで調節してたよ?」

「まあ、成功したんだから、いいか」

 仙弥は、かつての鬼コーチの影も形もない一言で話に節目をつけた。


「……それで結局、退院した後はどうなったの?」

 その場で一番冷静な果穂が話の続きを促した。

「キュウが退院した後は……やってた事自体は、倒れる前とそんなに変わらない。水泳と自転車とマラソンを中心にやって。ただ、運動量はもっとセーブしてやってた。今度は倒れないように。あと、ちゃんと水分補給して、ご飯もきちんと食べて」

「今度は僕のお母さん主導の元でね」

「そう!!キュウのお母さんはホントにすごい人で。きちんとカロリー計算してくれて、消費と摂取の管理をきっちりしてくれてさ!!毎月、キュウのお母さんの言ったとおりに体重が減っていくんだよ!!すごかったよな!?」

「うん、なんか僕のお母さん、色んな資格持ってる人で。栄養士とかヨガ講師とか」

「何でそれができるのにキュウの事、太らせたままだったんだろうな」

 アツシがもっともな意見をいった。

「それはね、キュウが家族に異常に愛されてるから。お姉ちゃんとかヤバいもんな?」

「う、うん……」

「へぇ~……キュウ先輩のお姉さんって、美人っぽそう」

 ちよは頭の中に浮かんだ言葉をそのまま口から出した。

「それ!!俺何度か会ったことあるけど、キュウのお母さんも、姉ちゃんも、超美人!!」

 アツシが珍しく興奮気味にちよの言葉に反応した。

「そうらしいね」

「よくいわれてるよな」

 おとぼけコンビはいまいちそのことにピンと来ていない様子だった。

「お前らは美人センサーがぶっ壊れてんだよ!!」

「アツシ君、それよく言うよね」

「それって……この二人が単に鈍感なだけじゃない?」

 鋭い指摘をしたのは、もちろん果穂だった。

「いやいやいや、果穂さん?果穂さーん?なんですかぁ?ケンカですかぁ?」

 彼女の指摘に仙弥が突っかかった。その間、ちよは仙弥以外の全員の視線が一瞬だけ自分に向けられたことを察知した。

「果穂さん、あなた、結構……言葉が、ちょっと鋭いから気をつけて?簡単に泣くんだから、俺なんか」

「ふふふ、ごめんごめん」

 果穂は笑いながら仙弥に謝った。しかし、その場にいるほとんどすべての者は彼女の言葉に納得していた。

「で……どこまで話したっけ?キュウのダイエット成功?」

「まだしてない……かな?」

 話す方も聞く方もそれぞれが曖昧な言葉を口にした。

「だから、そうやって一年ぐらいかけて、キュウは今のような、爽やかな……」

「眉目秀麗?」

 果穂が助け船を出した。

「そう。眉目秀麗な姿を手に入れた、ってわけ」

「剣道はいつから始めたんですか?」

 ユキがキュウに質問した。

「中二の夏からだね」

「キュウが俺とやる他に運動習慣を身につけたい、っていい始めてさ」

 仙弥が少し拗ねた様な言いまわしをした。

「それって、すごくないですか?普通部活って一年生から始めますよね?」

 ちよがキュウの異色の経歴に感嘆の声をあげた。

「すごいよ、コイツ。だって中学では3年の時の大会しか出てないのに、この学校の剣道部入って1年の時から試合出てんだもん」

 仙弥がキュウのことを自慢げに話す。

「個人戦だけ、ね」

 キュウが謙遜するように言った。

「え、めちゃくちゃすごくないですか?」

 ちよが素直な感想を述べた。

「中学2年から3年の時にかけて、バキバキに身長が伸びたんだよな?」

「そう。中学の剣道って身長があるとメチャクチャ有利になるから、結構いい所まで勝ち進めて」

「高校は違うんですか?」

「いや、有利なことには変わりはないんだけど、なんというか……強い人の、上限値が上がっているというか。身長差をものともしない、強い人がたくさんいるんだよね」

「今は形だけの天才剣士やってるんだよな?」

「そう。一年の時にチヤホヤされて、今はもうポンコツ扱い。僕、身長高いだけだから」

「そんなことはないっ!!お前はいい所、いっぱいあるよ!!」

「仙弥君……」

「キュウ……」

「はい、ダメー。BL芸やめろ。っていうか、そろそろあの話に戻れよ」

 痺れを切らしたアツシが突っ込みながら話のベルトをワシ掴みにして無理やりレールへと戻した。

「……皆、ホントに聞きたい?……その話、大したことない話だよ?」

 仙弥がなんとか話題をレールの外に持っていこうとした。主に女子3人が力強く頷き、それを見た彼は諦めたように大きく息を吐いた。


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