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横道、横やり、横○○

 

 仙弥の出した大声はその場にいる全員の鼓膜を振動させ続けた。

「お前、ホントに声でかいよな……あ、そうだ。文化祭でやるバンドのボーカル、お前に頼めっていわれてたんだった。やってくれ」

 アツシが仙弥の話に横やりを入れた。

「断る。それでさ、俺はキュウと」

「おい!!断るのかよ!?」

「だって俺、歌うまくないもん。歌ならキュウが超絶上手いだろ」

「そ、そうなの?」

 キュウが自分の評価に対して驚く。

「知ってるよ。キュウが歌上手いことも。俺はお前の声のでかさが欲しいっつってんだよ」

「わかった。じゃあその話は、また後でにしよう?で……それから俺はキュウと一緒にダイエット生活を始めて」

 仙弥が逸れに逸れた話の軌道を少しだけ修正した。

「とにかくキュウと毎日毎日一緒に走って」

「今も夜、一緒に走ったりするもんね?」

「そうそう。運動公園が家の近くにあるから、そこで、な?今もう、全然立場逆転しちゃって。置いてかれちゃうんだから、俺の方が」

 嬉しそうに語る仙弥の横顔が、ちよには輝いて見えた。

「夏休みぐらいまで、朝晩一緒に毎日ランニングしてたんだけど。それで夏休みに入っても、コイツ一向に痩せる気配がなくて」

「あはははは」

 キュウが自嘲するように笑った。

「おかしいじゃん!?それだけやったら、ちょっとぐらい腹がへっこんだりするじゃん!?」

「普通は、ね?」

 話を知っているアツシが、リアクションに困っている女子たちのためにその場を盛り上げた。

「それでその時俺、あることを思い出して。こいつの家のちょっと特殊なルールというか、普通の家庭ではありえない環境なんだけど。それを思い出して。キュウ、ちょっと説明して?」

「あのー……」

 キュウが笑いながら説明を始めた。

「僕の家、おやつの時間みたいなのが存在しなくて。そのー、いつでも、食べ放題という環境でして」

「どういうこと?」

「うらやましい~」

 果穂とちよは困惑し、ユキだけが羨ましがった。

「お菓子、果物、ジュース。こういうものたちを好き勝手に食べてました」

 キュウが自らの悪事を吐露した。

「え……お金持ち、ってことだ?」

 果穂がキュウの家の懐事情を推測し、それを口にした。

「いや、そこまでじゃないんだけど」

「いいえ、キュウの家はとんでもない金持ちです。というのも、お父さんの職業がパイロットで」

「船長、ね?」

「そうそう。貨物船の船長。あのさぁ、キュウのお父さんってキュウ以上にこう……天然というか。俺がおじさんにさ、初めて職業聞いたときに『パイロット』って、おじさん本人が言い間違えて俺に教えてさ。それがずっと擦り込まれちゃってて」

「まあ、ね?」

「おじさん、次いつ帰ってくるの?」

「今年は……帰ってこないんじゃなかったかな?来年の二月、三月ぐらいだったと思う」

「えー!?」

 女子たちが悲鳴に近い声をあげた。

「そうなんです。キュウのお父さんって、ドカンと3か月ぐらい家にいる時期があって。あとはずっと外国の海にいるっていう。そういう、ちょっと一般の家庭と違う環境で」

「さみしくならないんですか?」

 ユキがキュウに質問した。

「いや、そんなには……それが普通だし、家にはいつでもお母さんもいて、まあ今は一人暮らししてるからいないけど、お姉ちゃんも家にいたし」

「キュウの姉ちゃんがまた……いや、ゴメン。この話はまた今度にしよう。とんでもない人とだけ、言っておくわ」

「ははは……それに仙弥君がいつもいるし、さみしくはないかな。どっちかっていうと親の方が、お母さんがさみしそうにしている時があるよね。あと小っちゃい頃は、テレビ電話でお父さんと通話する時間もあったしね。今でもたまにしてるけど」

「おじさんが帰ってくる度に、最初の一週間ぐらいは謎の緊張感が生まれるんだよな?」

「そうそうそう。なんか自分がお父さんとどう接していたのか、毎回忘れちゃってて。仙弥君の方がお父さんと仲がいいというか、すぐに人と打ち解けちゃうから」

 思い思いにその話を受け止める時間が流れた。その間に仙弥は机の上のお菓子と飲み物を新しいものに変えた。

「で、まあ……隠れて食っていたわけでもないんだけど、そういう悪しき習慣がキュウを太らせていた、と。それを理解した俺はすぐにそれをやめさせて」

「間食禁止」

 キュウがぼそりと呟いた。

「そう、間食禁止。あ、気にしないでみんな食べて?この前の余りがいっぱいあるから」

 前回の果穂との対談の為に用意したお菓子と飲み物のストックの処理を、仙弥は全員にお願いした。

「それで遅れを、無駄にした分を取り返そうと思って、俺がキュウに無茶をさせちゃったの」

「鬼コーチだ」

 アツシが話に合いの手を挟んだ。

「トライアスロンって知ってる?アイアンマンレースっていって、水泳と自転車とマラソンをする競技があって。それを毎日キュウにやらせようとしました。具体的に説明しますと、自転車で市民プールに行って泳がせて、夕方ぐらいになったらまた自転車で結構な距離を走らせて、そのあとマラソンをさせたわけです」

「うわぁ……」

 ユキがいかにも嫌そうな顔をして拒絶の声を出した。

「3日目のプールで事件が起きました。キュウが意識を失って水の中に沈みました」

「……え、普通にヤバいじゃん」

「はい」

 果穂の指摘に、仙弥はすまし顔で答えた。

「いや、はいじゃなくて」

 アツシにさらなる指摘をされた仙弥は、ゆっくりとキュウの方に顔を向けた。

「……ゴメン!!キュウぅぅぅ!!!!」

 仙弥が突然泣き始めた。

「あはははは、まだ謝ってくれるの?もう大丈夫だって」

「熱中症と脱水で意識を失ったキュウ少年はそのまま病院行きになって……」

「えぇ!?救急車ですか!?」

 ちよがやっと事の重大さに気がついた。

「そのまま入院です」

「えぇーー!?」

 その場が驚きと絶叫に包まれた。

「俺は一生忘れられないよ。監視員さんに助けられた親友がプールサイドでぐったりしてて、水着からは横チ〇が出てて……」

「横〇ンとか、今言わなくていいだろ」

 混沌とする現場の中でも、アツシのツッコミは冴えわたるのだった。


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