ショートホラー第14弾 「肝試しの帰り道」
あの日、大学生だったあたしは彼氏や友人らと一緒にドライブに行っていた。
アメリカなんかは大学を卒業するのはマジで大変な作業だという。
日本でも難しい大学なんてのはあるけどあたしらの学校なんかボーナスステージみたいなもの。
毎日適当に授業に出て勉強して学食でおしゃべりをして。
夜になれば車を持ってる友達とドライブに行く。
卒業までに必要な単位さえとればそれでいいという学生生活だった。
「ネットで見たんだけどさぁ。マジでヤバい心霊スポットがあるわけよ」
男友達と彼氏がそんなことを話していた。
あたしはスマホをいじりながら適当に相槌を打っていた。
肝試しとかくだらないなぁ。
隣に座る女友達に同意を求めようとするが……
「きゃー、怖い!でも面白そうかも?」
何やら盛り上がっている。どうやら心霊スポットとやらに行くつもり満々らしい。
「ねぇ、カナも行こうよ!みんなで行けば怖くないって!」
「……あのさ、そういう所って危なくない?何ていうか昔、心霊スポットに行った大学生が行方不明になって大分経ってから海で発見されたとか言う事件もあったじゃん。ヤバそうな連中がたむろしてたらどうすんの?」
そんな危ない橋は冷静に考えたら渡りたくないじゃん。
「大丈夫だって!俺、ジム通ってるし」
彼氏がそう力こぶを作るポーズをとる。
「そうそう、俺ら鍛えてるし!それに何かあったら守ってやるよ!」
「あはは、頼りにしてるよ~♡」
そう言って笑い合う連中。
はぁ……こいつらホントバカだなぁ。
まぁ、いいや。あたしも暇だし付き合ってあげますか。
□
連れて来られたのは田舎にある打ち棄てられた古びた一軒家。
玄関は締まっていたけどぐるりと周囲を回ると裏口が壊れていたのでそこから入った。
「うわー不気味ぃ」
女友達のサキが大げさに怖がって車を出したシュウの腕にしがみつく。
はいはい、バカップル乙。
家の中に入ると床板が腐っていたりして歩きづらかった。
懐中電灯を持って先頭を歩くあたしと彼氏、その後ろに友人たちが続く。
まあ、想像はしてたけどここを『ご利用』してる連中は他にも居たらしく壁はあちこち落書きだらけ。
床もあちこちにセンシティブな物体が落ちていて心霊スポットなんてこんなもんよね、とあたしは思った。
リビングらしき部屋を通り抜けてキッチンに向かう。
台所には食器棚や冷蔵庫などの家電製品が置かれており、流し台には生ゴミなどが放置されていた。
ここで酒盛りしてごみ捨ててった連中が居るなぁ。持って帰れよ。
結局、ヤンキーとかが荒した家の中を一回りして帰路につくことに。
「サキ、チョー怖かった」
車の中で騒ぐサキ。
「いやー、マジ雰囲気あったわ。呪われちゃったらどうするよ?」
「やだー!やめてよー!」
ゲラゲラ笑う連中。
何が面白いんだか。ていうかあたしは何でこんな連中とつるんでるんだろう?
別に彼氏だって好きでも何でもないんだけどな。
まあ、理由を言うならそういう『枠組み』だから。
『枠組み』は重要だ。そこに居る事で安心できるのだから。
『次、左です』
カーナビの声に従って車が山道を走る。
「あれ?」
何かおかしいな。
「カナ、どうったの?」
「あのさ、さっきの曲がるとこだっけ?何かこんな道通ってない気がするけど……」
「そうかぁ、でもカーナビが言ってるんだぞ?」
いや、あんた達来た道くらい覚えておけって……
「ほら、カーナビは最短距離を案内するだろ?そういう事さ」
でもなぁ……
『次、右です』
またカーナビから案内音声が流れる。
あたしはスマホを出して地図アプリを開いて現在地を確認する。
絶対に変だ。それに窓の外を見たってどんどん山奥に向かってるように見えるんだけど。
瞬間、耳元で声が聞こえる。
『……左……』
女の声だった。空耳?
そして次の瞬間、カーナビが告げる。
『次、左です』
背筋が凍り付いた気がした。
「ちょ、ちょっとストップ!!」
叫ぶが運転しているシュウは笑い飛ばす。
「大丈夫だよ。だってカーナビだぜぇ」
「馬鹿っ!どう考えたっておかしい状況でしょうがッ!!」
だが皆笑っているのみ。
おかしい。明らかに空気がおかしい。
正常性バイアスが働いているとかそんなレベルじゃない。
あたしだけが感じているこの違和感は何なんだ!?
車は坂道を登り始める。もう嫌な予感しかしない。
坂の上には古びた大きな鳥居があった。
その先には何もない荒れ地が広がるのみ。
「マズイッ!どう考えてあれくぐったらヤバイ奴じゃんッ!ストップ!ストップだってば!!」
「大丈夫だって。ジム通ってるしさぁ」
「違うって!そうじゃなくて……!」
あたしは必死に説明するが誰も聞く耳を持たない。
『そのマま……鳥居を真ッすグ……』
カーナビから明らかにおかしい音声が流れてあたしの焦りは頂点に達する。
「止めろって言ってんでしょぉぉぉぉおおッッ!!」
あたしは近くにあった炭酸飲料を振るとシュウの方に向けて蓋を親指で弾き飛ばした。
吹き出した炭酸がシュウに直撃する。
その瞬間、車が急ブレーキをかけて止まった。
「うわっ!?」
「何だっ!」
「きゃぁぁあっ!」
車内の全員が一斉に悲鳴を上げた。
「おいカナ!お前いきなり何すんだよっ!!」
怒ったシュウがあたしに怒るがすぐに周囲の状況に気づく。
「ちょっ、何だよここ!?」
どうやら正気に戻ったらしい。
あたしは乱暴にカーナビを切るとシュウを怒鳴りつけた。
「いいからさっさと車だしてッ!!帰りはあたしがナビるから!!」
「え?だけど?」
「さっさとしないとあんたの○○を××するわよッ!!!」
「ひぃぃぃいいいっ!」
慌てて車を発進させるシュウ。
耳元で、声がした。
『あと少しだったのに…………』
その後、あたしのナビで無事街まで戻って来る事が出来た。
もうあんな思いはごめんだわ……
あれはなんだったのか。もし鳥居をくぐっていたら………
「よくわからなかったけどスリルあって楽しかったなぁ」
「またあああいうの行きたいよねぇ」
「じゃあ今度はさ……」
ああ、この『枠組み』はダメかもしんない……




