06.己が力は主へと宿る
「お…俺も行きます!」
「駄目じゃ!!おぬしは戦えまい、ここで待っておれ!!」
「俺はまだ自分のスキルを完全に把握してません…離れると発動しない可能性だってあります…それだと意味がないじゃないですか!!」
領主様はマッチョになっていない。
この時点で予想外の出来事が既に起こってしまっているのだ。
条件は何なのか。具体的に何が起こるのか。
それを把握する為にも同行したい。
「一理ある!!帯同を許す!!」
「ありがとうございます!!」
***
現場には荒れ狂う大型の猪が一頭。
体長は外壁の半分程。とはいえ一帯の建物よりは遥かに大きい。
咆哮がこだまし、空気がびりびりと震える。
「超弩級のワイルドボアじゃな…」
外壁には大穴が空いていた。
が、透明の壁のようなものが外敵の侵入を阻んでいた。
それでもワイルドボアはしつこく体当たりを繰り返す。
遂に壁にヒビが入る――その瞬間。
「シヴァ!!防壁が破れる!!おかわり!!」
「御意!」
シヴァさんが両手をかざすとあっという間に新たな壁が出来上がる。
心なしか辺りがひんやりと冷たい。あの壁は…氷壁か。
新たな障害の出現にワイルドボアは一層荒げる。
ようやく討伐対象を目前に捉えた領主様が深呼吸をする。
すると彼女の周辺に閃光が現れる。
「来い、雷神!!!」
呼応するかのように火花が弾け、纏う光が稲妻へと変わる。
「終わりじゃ!!今のわしは…強いッッッ!!!」
絶叫とも取れる詠唱と同時に対象目がけて雷槌が落ちる。
あまりの爆音に思わず耳を塞いでしまう。
ワイルドボアは堪らず唸り声をあげ―――やがて動きを止めた。
「シヴァ!!冷凍処理!!」
「御意」
あっという間に特大の猪が地に根を張るように氷漬けになる。
「…でかしたァ!!大漁大漁!!今夜は祝杯じゃ!!」
食べるのか。
魔物らしいが見た目は猪そのものだ。食べるのだろう。
「カゲトラ!!感謝するぞ!!」
「え…俺はただ見てただけですが…」
「おぬしのスキル…凄まじいぞ!!わしとて普段はここまでの事は出来んのじゃ!!」
「ええ。威力、所要エネルギー、発動までの所要時間、どれを取っても過去最高かと」
「うむ!やはりわしの狙いに狂いはなかったのぅ!」
「それなら………良かったです……!!」
お役に立てたようで一安心だ。
どうやら俺のスキルの効果は相手によって違うらしい。
領主様の場合は純粋にスキルの効果値が上がった、という事か。
距離の件も含め要検証だな。
これで食いっぱぐれる事はないだろう。
何よりこの一件で街の一員になれた気がする。
それが嬉しくて誇らしくて…何だかむず痒い気持ちだ。
「しかし…この大きさは…」
「解体工の出番ですね。足場の手配をします」
「うむ…よろしく頼む!」
***
日が登ると猪の解体ショーが始まった。
捌かれた肉はシヴァさんの指示に合わせ人々に配られてゆく。
遠くでその様子を眺めていると領主様がやって来た。
「驚いたかの?魔物は貴重な食料なんじゃ」
「ほんの少し。でも納得しています」
「かっかっか!適応が早くて何よりじゃ!ステーキにすると絶品じゃぞ」
「是非食べてみたいです。あの…」
「何じゃ?」
「遠征って…ああいう魔物と戦うんですか?」
「そうじゃ。と言ってもあそこまで大きな魔物は初めてじゃがの。普通のワイルドボアはせいぜいわしの背丈程度の大きさじゃ」
来訪早々のイレギュラーだったようだ。
「おぬしのスキルがなければ危うかったやもしれん」
討伐に貢献出来て何よりだ。
…ただ寝て起きて立っていただけとはいえ。
「というわけでな…今後とも右腕としてよろしく頼むぞ!」
「ええ、領主様…喜んで!」
「ミスティカでよい」
「え、でも…」
「よいのじゃ!右腕に過剰に敬われるなぞ小っ恥ずかしいわ!」
「では…ミスティカ様」
「様もいらん!!呼び捨てにせい!!」
「えぇ…じゃあ…」
この人について行こう。俺はそう決心した。
無双するのは俺じゃない―――小柄で偉大な我が主、ミスティカだ。