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04.スカウトはまっすぐ目を見て強引に

昨日はうっかり食事を忘れてしまった。

衝撃の連続に食欲が湧かず、というのが正しいか。

シャネルさんに奢る約束もした事だし、レストラン極楽亭に足を運んでみる。


…今までの建物と違い実にわかりやすい。

看板には俺のよく知る日本語で"極楽亭(ごくらくてい)"と書かれている。

扉を開けるとベルがカランカランと鳴る。



「へいらっしゃい!お、稀人の兄ちゃん、よく来たね!」


「初めてなんですが…このネックレスで飲食出来ますか?」


「ああ、もちろん!食べたいモンはあるかい?」



黒髪黒目の陽気な女性がメニューを差し出す。

看板と同じくメニューも全て日本語表記だ。



「それじゃあ…ハンバーグプレートを」


「あいよ!」



彼女はそのままカウンター越しに調理を始めた。

10分ほど待つとジュージューと音をたてながらステーキ皿が運ばれて来た。



「お待ちどうさん!熱いから気を付けてね!」



香ばしい香りが食欲をそそる。

ナイフを入れると透明な肉汁が溢れ出てくる。



「……うまっ!!!」



思わず声が出た。

醤油ベースのソースはさっぱりとした味わいだ。

ジューシーな焼き立てハンバーグと合わさり絶妙なハーモニーを奏でている。

白米と合わせて飲むように食べれてしまう。



「へへ、当店自慢の逸品でさぁ!」



そう言うと彼女は誇らしげにくしゃっと笑う。


食事が美味しいと思ったのはいつぶりだろう。

俺の胃はいつしか重たいものを受け付けなくなっていた。

食事を摂る暇もなかったからな。胃が縮んだのだろう。

…つまらない事を思い出すな、俺。それよりも。



「ごちそうさまでした!すごく美味しかったです!」


「あいよ!ありがとさん!」


「こちらこそ…ありがとうございます!」



今は幸せを噛み締めたい。

食事は命の源だ。

食べる楽しみを思い出させてくれた彼女に感謝しなくては。



「あの…このメニュー、日本語、ですよね」


「おぅよ!稀人ってヤツぁ何故か日本人ばっかだかんな!」



ほう。それは初耳だ。



「もちろんアタイも日本人さ!ナギってんだ!兄ちゃんは?」


「カゲトラです。よろしくお願いします」


「おぅ、よろしく!今後とも贔屓にしてくれよ!」



底抜けに明るい人だな。

こういう人ならこの世界でも身ひとつで暮らせそうだ。


俺は…一体何ができるんだろう。

何せ前職はしがないプログラマーだ。

そもそもこの世界にコンピュータはあるんだろうか?


今後について思い耽っているとカランカランと音がした。



「らっしゃい!あれ、領主様じゃないか!何食べてくんだい!?」



領主だと?

扉の前には背が高く線の細いイケメンがいた。

透き通るような水色の髪の毛は彼が現地人である事を示していた。


この容姿ならさぞモテるんだろうな。

同じ男としてつい嫉妬してしまう。

細さなら負けないが。俺の場合原因は不摂生だが。


いかん。張り合っている場合ではない。

聞きたいことが山ほどある。



「領主様、あの」



「いかぁぁぁにも!!わしが領主じゃ!!」



可愛らしい声が不遜な物言いをした。

誰だ?イケメン………ではないよな。



……ふと下の方を見ると、イケメンの半分程の背丈の少女がいた。



「おぬし、カゲトラか?」



少女は俺の名を呼ぶ。



「何でぇ、兄ちゃん領主様と顔見知りかい?」


「い、いえ…」



そんなやり取りの間に少女はつかつかとこちらへ向かって来る。

やがて椅子に座った俺の前に陣取りこちらを見上げる。



「……シヴァ、箱じゃ!!」


「御意」



イケメンが何処からか箱を取り出すと、少女がそれに登る。

ようやく俺と目線が合い満足げだ。

そういえば、どうして俺の名前を知っているんだろう?

などと考えていたら。




「カゲトラ、おぬし、わしのモノになれ!!!」




彼女は俺の目をまっすぐ見据え、そう言い放った。

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