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03.初めてのベッドイン、そしてスキル発動

夜も更けた頃、鑑定所で貰った地図を片手にとある建物を目指す。

大通りから少し離れた所にそれはあった。



(ここは…そういう店、だよな)



いわゆる娼館。夜の店だ。

地図にはハートの記号が書かれている。

結婚相談所や相席居酒屋でない事を祈りながら向かったがビンゴだった。


店内はいかにもラグジュアリーな雰囲気だった。

壁には官能的なポーズのバニーガール達のパネルが並ぶ。

玄人含む童貞完全体には刺激の強い光景だ。

そわそわしていると黒服の男性に声を掛けられる。



「稀人様、ようこそお越し下さいました。ご希望の娘はおりますか?」


「いえ…特には…」


「かしこまりました。こちらのお部屋でお待ち下さい」



凄いな。このネックレスはこんな場所でもフリーパスなのか。

それなのに童貞卒業したら死ぬ。悔しい。

なるべく無になろう。俺は童貞のまま。期待するな。何も起こらない。

悟りを開いているとやがて一人のバニーガールが現れた。



「はじめまして♡担当のシャネルです♡」



そう名乗る彼女は実にいい体つきをしており、改めて己のスキルを呪った。



「よ…よろしくお願いします…!」


「それじゃぁ早速お部屋にいきましょーねぇ♡」


「あの…お部屋についたらお願いが…!」



***



「…あらぁ…アタシは構わないケド…ホントにいいのかしらぁ?」


「はい…今日は手を繋いで添い寝だけで…」


「コッソリサービスするのも駄目なのね?」


「はい、絶対に添い寝だけでお願いします!!」



心の中で血涙を流しながら頼み込む。

サービスなんてされたら我慢できる自信がない。


鑑定所の受付嬢曰く、眠る時は女性と肌を合わせる必要がある。出来なければ死。

ならばそれを職業とする相手に頼むのが一番確実。

ここに来たのは決してスケベ心によるものではない。断じてだ。



「ふふ…それじゃぁ…一緒に寝ましょーねぇ…♡」



シャネルさんはベッドに入るとギュッと俺の手を握る。もう昇天しそう。



「おやすみなさぁい♡また明日ね♡」



ギンギンに昂ったあれこれを鎮めるように瞼を閉じ、妄想の世界へとまどろむ。

そういえば、"相手のエネルギーを増幅させる"がどういう効果なのかまだ分かってなかったな。

でも文面通りなら悪い効果ではないはずだ。

疲れが吹き飛んでシャネルさんに感謝されるのも悪くな…い……



……

………



朝か。シャネルさんは……

…いない!?俺死んだ!?!?



「おはようございますぅ…」



いた。

隣にシーツを被った塊がある。

きちんと夜通し添い寝してくれてたんだな。



「おはようございます…どうしたんですか?」


「やっ…見ないで下さい!!!」


「ハッ…ハイ!!!」



慌てて俺も毛布を被る。



「少々お待ち下さいねぇ…!」



そう言うとシャネルさんは俺の手を離す。

ギシ…とベッドが軋む。朝の準備をしに行ったようだ。

女性はすっぴんを見られるのを嫌うらしいので化粧が落ちてしまったのかもしれないな。


眼鏡を外すとほぼ何も見えないから心配しなくてもいいのにな…と思いつつ、起き上がって枕元の眼鏡に手をかける。

瞬間、ガチャリと扉が開く音がした。

ふと振り返ると――



隆々とした筋肉がそびえ立っていた。

男なら一度は憧れるボディビルダー顔負けの逆三角形。

なんというナイスバルク。完璧に仕上がっている。

ではなく。



「お待ち下さいって言ったじゃないですかぁ!!!」



筋肉の上に乗ったシャネルさんの顔が叫ぶ。

魅惑のボディはそこにはない。

あるのは―――圧倒的な筋肉のみ。



「…あの、シャネルさん…ですよね?」


「はい…シャネルですぅ…」



エネルギーってこういう事なのか。

俺のスキルは、共に寝た女性をマッチョにするスキル、なのか―――。



「……ごめんなさい、俺のスキルのせいです……」


「極楽亭のディナーと飲み放題で許しますぅ………」



中央通りのレストランか。

奢るからには稼がないといけない。

しかし、このスキルを活かせる職が果たしてあるのだろうか?



名刺を受け取り退店すると涙が頬を伝う。

朝日が眩しいからだと自分に言い聞かせる。

あれほど激しかった昂りはいつの間にかすっかり治まっていた―――。

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