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01.夢にまで見た異世界転生

眠るのが好きだ。

まどろみに身を委ねると全てを忘れられた。

目覚めたくなんかないのに、世界はそれを許してはくれなかった。


……

………



「あー、稀人かね。」



遠くで知らない声がした。


うっすらと目を開けると雲ひとつない青空が広がっていた。

俺はさっきまで会社のデスクで仮眠を取っていたはず。

ならこれは夢なのかもしれない。


身体を起こし立ち上がる。

冷たい風がすうっと背中を撫でる。心地よい。

そういえば久々にぐっすりと眠れた気がする。

置かれた状況とは裏腹に悪くない気分だ。


辺りを見渡す。

目の前には軽く10mを超えるレンガ製の外壁。

後ろには同じくレンガで舗装された道。遠くには森らしき場所が見える。

少なくとも日本ではなさそうな事だけは分かる。


寝る前にファンタジー小説を読むのが習慣だった。

いつか主人公のように異世界へ行けたら…

そんな空想をしながら眠りにつく。

夢に馳せて夢に縋る日々。


ここは俺の願望を具現化した世界なのかもしれない。それなら腑に落ちる。



「失礼、少し検査させて貰うよ。眩しかったら手ェ上げてね」



ぼーっとしていると鎧に身を包んだ中年男性がこちらへ駆け寄って来た。

先程の声の主のようだ。

返答するより先に眼鏡をずらされ目元を覗き込まれる。

ライトのようなものを当てられるも不思議とそこまで眩しさはない。



「うん…稀人だね。これ、首から下げといて」



そう言って渡されたのは透明な石が嵌め込まれたネックレスだった。

有無を言わさぬ空気のままどんどん事が進む。

圧倒されながらも言われた通りにそれを装着する。



「街に入ったら右手に鑑定所があるからそこでスキルの鑑定して貰って。その石が黒く濁るまでは一通りの施設も使えるから。宿屋の場所は…」


「あ、あの…ここは何処ですか…!?あと“マレビト”って何ですか…!?」



意を決し、淡々とした説明を遮って質問を投げかける。



「ああ、すまんね。ここは要塞都市ガルド。お兄さんから見たら異世界ってヤツだね」



外壁に守られた街か。警備は厳重みたいだな。

それなのに俺みたいな怪しい奴を招き入れていいのだろうか。



「稀人ってのは違う世界からのお客さんの事だね。ちょうどお兄さんみたいなね。稀とは言うけど今じゃ増えすぎて珍しくも何ともないんだよ」



なるほど。日常的に転生者が現れる世界観か。雑な対応にも頷ける。

警戒心の薄さから見るに、俺たち転生者…もとい稀人とやらに、いわゆるチートスキルのようなものは備わっていないのかもしれない。

鑑定を勧めるからには何かしらのスキルは授かってそうだが、程度は現地人と同等かそれ以下と予想する。


スキルによる無双や現代知識無双は出来なそうだな…と、ついついメタ的な見方をしてしまう。

それでも自分だけチートスキルを授かって…と妄想するまでがお約束だ。



「しっかしお兄さんガリガリだねぇ。ちゃんとご飯食べてるかい?」



食べてない。

ブラック企業勤めで食事や睡眠もままならなかったからな。

今の俺は不健康の権化と言ってもいい。

ん、待てよ。つまり容姿はそのままって事か。

せっかくなら理想のマッチョ体型になれれば尚良かったが…贅沢は言えないか。



「この街の近くに出たのは運が良かったね。中央通りのレストランは名店だよ。メニューは豊富だしどれも美味い。好きなもん食わして貰いなよ」


「ありがとうございます。お世話になります!」



今までの話が本当なら相当過ごしやすそうな世界だ。

なんなら多少の嘘や誇張があったってお釣りが来る。

現実と比べりゃどこだって天国みたいなものだろう。


そもそもこれが異世界転生なのか醒めない夢なのかすらわからない。

夢にしては主が置いてけぼりな気もするが、とにかく俺の存在を受け入れてくれる場所があるのは何より有り難い。


どうせならこの世界の一員という立場を満喫したい。

ここは現実ではなく異世界。

俺は田村景虎ではなく稀人のカゲトラ。

これから夢にまで見たファンタジーライフが幕を開けるのだ。




………確かにそう思っていた。

俺の持つスキルの内容を知る、その時までは。

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