1-9 強い魔法
治癒する魔力を見つけてからアドエルは更に魔力に興味を持った。
魔法の発動を阻害する”微弱な魔力”が自らを治癒する能力を有することはあまりにも予想外だった。魔法を発動せず、魔力単体として何かしらの効力を持つというだけでも大きな驚きだったのだが、今回の結果は斜め上を遥かに超えていた。
一度は勘違いかと思い、自ら手に傷を作ってみたりもしたが、流れているのは”微弱な魔力”で間違い無かった。
そこからしばらくはそれらの効果の共通点を探してみたが全く見当もつかなかった。魔法の発動の阻害と治癒ではあまりにも効果が違い過ぎる。この時は、魔力の中にはそう言ったかけ離れた効果を併せ持つモノもあるのかもしれないと考えるほか無かった。
(ってことは、逆に魔法を発動する魔力はその魔力だけでケガしちゃうような魔力なのかな?)
アドエルのこの素直な予測は当たらずといえども遠からずといったところであった。
もしかしたら自分を傷つける可能性があるため少し怖かったが、アドエルは魔法を発動するための鼓動を探してみる事にした。既にいくつかの魔法は扱えるが、もっと様々な魔法が使えるようになれば、今より便利になる事は間違いない。
発動する魔力の鼓動が見つかればその鼓動を基準として、今より遥かに多くの魔法が発動できるようになるかもしれない。その中には最大魔力に関係なく使える強い魔法があったらいいな、とアドエルは期待していた。
さてどのようにして魔法を発動する鼓動を見つけようか。
風魔法など、既に発動できる魔力の鼓動があるのだから、そこから見つけることができないかとも考えたが、いつも試行錯誤ばかりで時間がかかるため、もう少し良い方法はないかと考えていた。
そこで思いついたのは、まず魔法の発動を阻害する”微弱な魔力”を配置し、その近くに弱い魔力の風魔法を配置する。これまで通りであれば魔法を発動しようにも”微弱な魔力”が邪魔をして魔法を発動できないはずである。その状態で魔法を”発動する魔力”を”微弱な魔力”に重ねてやれば、魔法を発動できるようになるのではないか、というものだった。
まぁその”発動する魔力”の鼓動を探すのはいつも通り試行錯誤なのだが・・・。
そうとは言え、風魔法などの長い鼓動から目的とする鼓動を探すよりは楽に思えた。”微弱な魔力”の鼓動は簡単で短いため、その反対の”発動する魔力”も同じように簡単なものではないかと考えたからだ。
とりあえず”微弱な魔力”の鼓動と対になるような鼓動で良いのではないかという安直な考えで鼓動を作ってみた。
すると何と一発で成功した。
魔法が発動したのだ。
これまでの長い魔法訓練の日々の中で、こんなに簡単に出来たことは初めてであり、その魔力は自身を傷つける可能性があるという事も忘れ、アドエルは呆気にとられていた。
正確には魔法を発動する前に、”発動する魔力”を”微弱な魔力”に重ねた途端、その二つの魔力は相殺されるかのように消え去ったのだ。アドエルはどのような結果になるかまでは予測していなかったが、今回の結果は最もわかりやすい形となった。
(一発かよ……まぁ簡単に見つかって良かったな)
そこでアドエルはふと思い出した。”発動する魔力”は自らを傷つける可能性があったのだ。
怖いという気持ちもあったがアドエルは試してみることにした。もう既に魔力の中心から”微弱な魔力”を置いていた指先までは移動させていたため、そこまでの移動には何ら問題は無さそうであった。忘れていたため気が付かなかったが、そこそこ危険な冒険を既にしてしまっていた。
そこで、”微弱な魔力”を置かずに、指先まで”発動する魔力”を移動させてみた。しかし、ただ移動させただけでは何も起きなかった。
そこでアドエルは魔法を発動しようとしてみる。
すると、以前に怪我を治癒した時の様なしびれる感覚と共に、”発動する魔力”は消滅した。
(このしびれる感覚は……多分ダメなやつだな。)
この感覚の意味をアドエルは察していたが、一応試しておくことにした。ただし怖かったので”微弱な魔力”をできる限り近くに配置し、いつでも治癒できる準備は万端にしておいた。
その状態で”発動する魔力”を指先へと送り続け、連続で発動してみる。すると、想像通り指先が切れ、血が出た。
(大した傷じゃなくて良かった……)
やはり”発動する魔力”は体を傷つける効果も持ち合わせていた。
ただ、”微弱な魔力”との違いはあった。”発動する魔力”は風魔法などの魔力と同様で、傷口の手前までしか移動させることができなかった。
これらの魔力が”人体の治癒”と”魔法の発動”という似ても似つかぬ効果を併せ持つのはなぜなのか。アドエルはこれまでに分かった内容からこの”微弱な魔力”と”発動する魔力”について考えていた。
”微弱な魔力”は魔法の発動を阻害する効果と傷を治癒する効果を持つ。
”発動する魔力”は”微弱な魔力”を相殺する効果<これが恐らくは魔法を発動する効果>と人体を傷つける効果を持つ。しかし、勝手に魔法が発動するわけではなく、魔法を発動するという意思が必要となる。
そして傷口には通常の魔法の魔力だけでなく、今のところ”微弱な魔力”しか移動させることができない。ただし、移動させた途端にその”微弱な魔力”は消失してしまうため、自由自在に動かせるというわけではない。
元々は体の中であればどこでも魔力を移動させることができた。体の中だけでなく石や木の葉などの物質にも移動させることができ、移動させることができないのは空気中くらいだった。
傷口は体の外なのかと思ったが、”微弱な魔力”を移動させることができることから体内のはずだ。それでも移動させることが出来ないとなると、この傷口部分は体内に満たされた”鼓動するモノ”とは別の何かであるようだ。
”魔力”基準でこの世界を考えるならば、どんな魔力でも自由に移動させることができる”鼓動するモノ”の空間と、”微弱な魔力”だけが移動できる傷口の空間、全く魔力を移動させることができない空気中の三つの空間が考えられる。
しかし、”魔法”基準で考えるとこの世界は少し変わる。
魔法の効果を発生させることができない”鼓動するモノ”の空間と、魔法の効果を発生させることができる空気中の二つの空間だ。
傷口の空間にはそもそも魔法の魔力を移動させる事もできないため、魔法基準で考えた場合は”鼓動するモノ”と同じと考えるべきか、それとも魔法では干渉できない無関係な空間のように考えるべきか。
アドエルにはどうしても無関係な空間とは考えることは出来なかった。そもそも、その傷口の空間を発生させるのは魔法を”発動する魔力”なのだから。
試してはいないが、”発動する魔力”を大量に発動させれば、おそらく傷口はどんどん大きくなっていくだろう。
つまり、”微弱な魔力”以外は移動させる事すらできない空間が広がっていくという事であり、逆に言えば魔力を移動できる”鼓動するモノ”の空間が狭くなっていくということだ。
そう考えると”微弱な魔力”と”発動する魔力”の意味合いも変わってくる。
”発動する魔力”は”鼓動するモノ”を消し去る、もしくは傷つける魔力であり、”微弱な魔力”は”鼓動するモノ”を作り出す、もしくは再生する魔力と仮定することができる。
ここで”鼓動するモノ”は人体と同一のモノだと考えれば、”鼓動するモノ”を傷つける事は人体を傷つける事であり、修繕する事は人体を治癒する事であるということに結びつく。
そう考えれば、アドエルが最初にした『”発動する魔力”は人体を傷つける魔力』という予想は正解であったということになる。
少し違和感が残るが、この時点では他に考え方も思いつかなかったので、これで納得することとした。
考えるべきことはまだまだあるような気がしたが、とにかくアドエルは待望の”発動する魔力”の鼓動を手に入れた。とは言え、やはり自分の体で未知の魔法を試すのは怖い。
(……あ。)
もっと早く気が付けばよかった。
そもそも黒石などの別の物で試せばよかったのだ。自分の外で魔法を発動する鼓動を火魔法に加えることで、自分の外で魔法を発動できるようになることは既に確認済みであるため、”発動する魔力”に”外で発動する鼓動”を加えればきっと上手くいくだろう。
その鼓動はその日のうちに完成した。
黒石で確認してみるとその効果はよくわかり、魔法を発動した直後に黒石の魔力が消費され、”微弱な魔力”が発生し、消滅していた。とりあえず、自分の体では怖くてできなかったことを試してみることにした。
まず、”発動する魔力”を大量に送り続ける。
予想では傷口がどんどん大きくなると考えていたが、それと似た感じだった。ただ、黒石は人体と違い、一度魔法の発動のやりすぎにより、欠けたりヒビが入ったりしても、その損傷に対しては”微弱な魔力”は発生しなかった。
これは、魔法を使わず、物理的に黒石を割ってみても同じで、”微弱な魔力”が発生し、傷を修復していくなんてことはなかった。加えて、この損傷はアドエルが”微弱な魔力モドキ”を送ったとしても修復できなかった。どうやら黒石などの物質には”傷口の空間”といった特殊な空間は存在しないようだった。
黒石が割れたりした場合には、人体と違い”微弱な魔力”が発生していないことは少し意外な結果だった。つまり、物質にとって物理的損傷は”鼓動するモノ”を傷つけ、失わせるものではないということになる。
それでも黒石から魔法を発動した際には”微弱な魔力”が生じていた事を考えると、”発動する魔力”は”鼓動するモノ”を損傷させるが、その損傷すべてが物質に影響しているわけではなく、ある一定値を超えたときに物理的損傷は生じていると考えることが出来る。
この考えを人体にも適用するなら、人体も”鼓動するモノ”と同一では無いという事になる。
であるならばなぜ傷は完治したのか。
考えられたのは、人体は黒石と違い”鼓動するモノ”が人体を包み込むように存在しているということ。
つまり、”鼓動するモノ”の損傷は直接的に人体には影響せず、大きく”鼓動するモノ”が消失した時にだけ人体に傷が付くということになる。
そして、そのおかげで”鼓動するモノ”を修復する事で中途半端に傷が残る事も無く完治してくれたという事になる。
人体と物質を同様に考えていいものかどうかはわからなかったが、これ以上の手掛かりのない現状ではこの考え方が最もシックリきた。
また、何度も魔法の発動を試していてわかったことだが、損傷しない程度の魔法の発動であっても、黒石が宿す魔力が”微弱な魔力”を下回ってしまった場合は黒石は朽ちる。
これはアドエルが追加で魔力を送ることで回復できたが、送る魔力の鼓動は黒石の本来宿す魔力の鼓動と似た鼓動である必要があるようで、適当に送った場合は回復せず、そのまま朽ちた。
ただし、鼓動を黒石に合わせて魔力を送った場合、その魔力はもう回収できなくなった。送り込んだ魔力は黒石に吸収されてしまったように識別できなくなり、もうアドエルには操作ができなくなっていた。
(魔力が取られた……逆にコッチが取ったりできたらいいんだけどな)
色々と考えてみたが、どうすることもできず、とりあえずは新しい魔法の鼓動を探していくことにした。
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しばらく粘ったが、なかなか新しい魔法を発動できる鼓動は見つからなかった。作り方としては”外で発動する鼓動”と”発動する”を重ねた鼓動に対して、適当に鼓動を重ねていくだけなのだが、何も発動してくれない。
ただ、律儀にも魔力は消費され”微弱な魔力”が生じていることから、目にも見えず何も感じないが魔法は発動しているようだった。当てずっぽうに鼓動を重ねているだけとはいえ、何かしらの魔法が偶然みつかってくれればイイなと期待していたアドエルの期待は裏切られた。
そこで、アドエルは風魔法など既存の鼓動に立ち返ることにした。どうせできるのは風魔法になるだろうとはわかっていたが、偶然の産物に期待した。
まず、風魔法と火魔法、土魔法の鼓動を見比べた。これらの鼓動には”発動する魔力”と”風魔法の魔力”の鼓動が共通して含まれているはずである。
加えて、火魔法には”熱を操作する鼓動”、土魔法には”外で発動する魔力”の鼓動と”風を渦巻にする鼓動”が含まれているはずであった。
今ある情報から三つの魔法の鼓動を見比べ、共通する部分を抜き出し、これまで注目していなかった鼓動に着目することで何かわからないかと考えた。
しかし鼓動を見比べてみても、そもそも共通であるはずの風魔法の鼓動がそのまま使われているわけではないようだった。
似ていそうな部分を抜き出してみると、火魔法では風魔法の鼓動は三つに分割されており、熱操作の鼓動とまだわかっていない鼓動によりそれぞれ区切られているように見えた。加えて、末尾の方にもよくわからない鼓動が付けられており、全体的に風魔法より長い。
次に土魔法ではさらに多く分割されており、五つから七つに分割されているように見えた。土魔法は風魔法よりはるかに長いため、分割数についてもいくつかのパターンが考えられた。もし火魔法と同じように区切られていると考えるなら分割数は六つとなる。
その中で確定的な部分としては”外で発動する魔力”の鼓動であった。これは以前にも試していたので、どの部分が該当するのかは既にわかっている。
とりあえず一つずつわからない部分を適当に変化させてみて、発動する魔法がどのように変化するのかを観察した。
その結果、火魔法からは次の鼓動を見つけた。
・効果範囲を変化させる鼓動
・効果時間を変化させる鼓動
・若干の威力を変化させる鼓動
魔法を継続的に発動するのにはかなりの苦労を要したというのに、それを操作できる鼓動があったのだ。しかし、変化させることが出来るのは数秒程度までのようで、永続というわけでは全くなく、数秒発動してみただけで黒石は朽ちた。傷だらけになりそうだったので、到底自分の体で発動する気にはなれない。
それでも、魔力効率から言えばかなりの利点があり、1回分の魔力で事足りるのはありがたい。しかしその反作用としてか、効果時間を長くするとその分魔法の威力は下がるようで、むしろ効果時間を可能な限り短くすることで大きく威力を増大することができた。
この効果時間を変化させる鼓動に関しては、同じ魔力で威力を大きくできるという点が最も魅力的だった。
これは効果範囲を変化させることにおいても似たような効果があり、効果範囲を狭くすることで、魔法の威力は増大した。これもなかなか役立ちそうな鼓動であったが、最後の直接的に威力を変化させることができる鼓動は大したことはなく、確かに変化はあるが、そう大きな変化には感じなかったので、微調整ができるという点で使えそうな鼓動であった。
次に、土魔法からは今まで以上には新しい鼓動は見つからなかった。分かったことと言えば、元々あった渦巻きを発生させる鼓動を変化させる事で、渦とは言えぬ右曲がりの風となったり左曲がりの風となったり、渦の方向が逆になったりした。
効果範囲などと比べると、どう扱ってよいのか悩む鼓動であった。
他にも鼓動の中にはよくわからない部分がいくつか残ってしまっているが、今回分かった部分だけでもかなり良い成果だった。これまで最重要課題であった、魔力不足により強い魔法が使えないという状態を少しではあるが解消できる気がした。
最後に、アドエルは風魔法の鼓動を調べてみることにした。火魔法や土魔法の基礎となっている鼓動であり、その中には”発動する魔力”の鼓動が含まれているはずだ。
予想としては、火魔法の鼓動に効果範囲や効果時間、威力に関する鼓動が含まれていたため、風魔法の鼓動にはそういった威力に関する鼓動は含まれておらず、全体として風魔法を作っているのではないかと考えていた。
つまり、この風魔法の鼓動から”発動する魔力”の鼓動を差し引いた部分を変更していけば、様々な魔法に結びつく可能性があると期待していた。
し かし、得られる変化は魔法が発動するか否かといった感じで、役に立ちそうな変化は得られなかった。
(やっぱ風魔法しかダメなのかー。もっと強そうな魔法ができてくれれば嬉しいんだけどなー)
ほとほと疲れ果てて困っていた時、いくつかの場所を変化させると、風魔法の威力が一気に弱くなった。風魔法にも威力に関する鼓動があったのかと思い更に変化を加えていくと、風魔法はこれまでと一気に様子が変わった。
風魔法は風を送り出す魔法であったが、できた鼓動は何と風を吸い込んでいたのだ。
吸い込むと言っても吸い込まれた物がどこかへ消えてしまうわけではなく、魔法を発動した部分に吸い付く形で残っている。
どう使おうか悩んだが、吸引魔法で吸い付けれる物であれば重い物でも全く重さを感じず持つことが出来る。手で連続発動した場合は腕を振っても離れないため、物を運ぶ際にはとても便利そうだった。以前イノシシを狩った際は重くて背負うのも大変であったが、この魔法が強い魔力で使えれば複数体を狩った場合でも問題なくなるだろう。
一通り既存の魔法の鼓動を観察した後、アドエルは狩りに使えそうな魔法を考えてみた。
まず威力が最大となるように鼓動を調節するなら、火魔法の鼓動を基準として、効果範囲と効果時間を最小にして、熱と威力に関する部分は最大とする。
アドエルは鼓動を作成し、試しに手から発動してみた。
”パァァァゥン・・・”
何かが弾けるようなとても大きな音がした。余りにも唐突だったためかなり驚いたが、何よりも驚いたのはその威力であった。
(矢なんかよりずっと強いぞ……これ……)
強烈な破裂音とともに手から放たれた火の矢の魔法は木の皮を軽くえぐっていた。その速度は非常に早く、矢よりも早く感じた。
また、その魔法はかなり遠方まで飛ばすことができ、30m程度であれば大きく威力が低下しているようには感じなかった。実際には矢と同程度の威力といったところだろうが、アドエルは少し贔屓目にその魔法を評価していた。
(これなら十分に狩りに使える! もう石なんか投げなくていいや!)
”弱い魔力”と”強い魔力”では威力に数倍以上の差が生じる。こんな魔法を”強い魔力”で発動したらどれ程の威力になるのか……アドエルはとても楽しみだった。
次に火魔法ではなく風魔法で同じ調節をしてみたところ、風の矢は全く目には見えず、威力は火魔法と同程度だった。火魔法であることにはそこまで意味はないようで、目に見えない分、風魔法の方が強そうに感じた。
また、効果範囲を最大にして、効果時間を最小にしてみると、思った通り威力は大きく下がり、魔法を発動したときの音も鈍い破裂音へと変わり周囲の木の葉を吹き飛ばした。強い威力の広範囲魔法を使うにはやはり魔力が必要そうであったが、音だけでも獣は驚いて逃げてくれそうであったため、囲まれた時には逃げる隙を作れそうだった。
また、これまで使っていなかった冷たい風魔法も使ってみた。冷たい風魔法も火魔法と同様に調節することで肌に刺さるような冷気へと変わる。しかし、アドエルはこれまでこんな冷気を見たことも体験したことも無かったため、どう使っていいのか困っていた。
アドエルが住む地域は年中通して比較的温暖な気候で、気候に季節感は無く、森も年中同じ姿を見せる。そのため雪や氷をアドエルは見たことが無かった。
とりあえず火魔法と同様に威力を上げて木に飛ばしてみると、火魔法と同様の破裂音とともに、木の皮をえぐった。何も違いは無いのかと思いアドエルがその木の傷口を見てみると、その傷口周辺はカッチカチに固まっていた。
そしてその傷口に触れると痛いほど冷たかった。
(なんだこれ! どうなってるんだ?)
何か悪いものに触ってしまったかと思い、アドエルは急いで川で手を洗った。これだけの痛みがあるなら狩りにも使えるのかと考えたが、アドエルはこの痛みの正体を知らなかった。