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タガサイヲ・ナゲウルカ  作者: tbl
父さんとの約束
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1-7 母さんの魔法

 しかし、何日経っても相変わらず火魔法は使えなかった。それでも毎日様々な鼓動を試してみたところ、いくつかの暖かい風魔法の鼓動を発見した。暖かい風魔法は、服を乾かすだけでなく、朝方の冷えた体を温めるにも非常に重宝した。逆に冷たい風魔法もあったので、それもメモしておいた。


 ある日、メモした鼓動から暖かい風魔法と普通の風魔法を見比べていると、ちょっとした違いに気が付いた。その違いは風魔法と火魔法の違いの一つでもあるため、上手くいけば火魔法が発動しないかと期待した。


 ダメ元ではあったが、それからはその部分が優先的に火魔法の鼓動と一致するように鼓動を作っていった。そして数回の失敗の後、発動されたその魔法は触れていなくてもその熱さがわかる程の熱を帯びていた。ようやく火魔法に繋がりそうな違いを見つけることができた。


 とは言え、優先した部分以外の鼓動はまだまだ似ていると言えるかどうかのレベルであったため、まずはそこから修正していくことにした。


 しかし、修正を重ねたが、風魔法が火魔法になることは無く、風の強さや効果範囲が変化した程度で、熱さに大きな変化は無かった。やはり熱さを変化させる鼓動は初めに気が付いた部分であり、鼓動全体として熱さを表現しているわけではないようだった。


 そうと分かればと、熱さを変化させる部分を色々と修正してみた。すると熱くなるだけでなく冷たくもなり、やればやる程面白かった。そして遂に火魔法が発動した。


(やっぱり出来たんだ! 風魔法だけじゃなかったんだ!)


 そして、その火を発動させた鼓動はやはり風魔法と似ていた。


 火魔法が出来たことは風魔法以上に嬉しかった。風魔法は狩りに到底使えそうになかったが、火魔法は使えるだろうと感じていたからだ。それにこれまでの訓練の甲斐あって、弱い魔力であれば制限はあるもの連続的に発動することもできる。火魔法が連続的に使えれば松明のようにも使えるため、獣に対しては良い威嚇となる。少しでも自分の身を守る手段が増えることは、今の生活において重要だった。


 発動した魔法はこれまでの火魔法とは少し違った。鼓動に違いがあるため違いがあることは当然ではあったが、これまでの火魔法より新たに作り出した火魔法の方が少し大きかったのだ。嬉しい違いではあったが、不思議な事もあった。


 熱さに関する鼓動を変化させれば少し弱い火になったりしないかと考えたが、火はそれ以上弱くすることができなかった。弱くなるのではなく、火が発生せず、熱風となる。これまでに火と風は似た者同士なのではと期待していたことがあったが、どうやら正にその通りであるようだった。


 しかし、それではなぜ火の大きさに違いがあるのか。この時はその理由を見つけることはできなかったが、熱さを変える鼓動と火の大きさを変える鼓動はまた別物なのだろうなと考えることにした。もし魔力の強さを変えることなく魔法の効果を変化させることができればこれまで以上に大小様々な魔法が扱えそうで便利だったのだが。


 そして、この新しい鼓動での火魔法は強い魔力では到底再現できなかった。魔力の扱いはかなり上達したと思っていたが、複数の強い魔力を同じ場所に集めることはまだできなかった。やはり頼みは弱い魔力なのか。


 とりあえずは火魔法の鼓動を見つけることができただけでなく、風魔法の熱を操作する方法も知ることができたのは大きな成果だった。




 その後は土の魔法の鼓動を作ってみることにした。正直、土を耕す魔法が出来たところで今の生活に何の役に立つのかは疑問であった。そのため、アドエルはこれまで土魔法に積極的にはなれなかったが、火魔法から得られた熱操作のように、何かのヒントが得られないかと期待していた。


 土魔法の鼓動を作るのはやはり苦労した。似ている部分を同じように作ってしまうとどうせ風魔法になってしまうだろうと思い、作り方をどうするのかも悩んだ。と言っても試行錯誤以外にできることは無いに等しい状態なのではあるが。


 風、火魔法と土魔法の大きな違いは、魔法が発動する場所だった。これまでも風魔法を足から出すことはできた。しかし、自分の体表面以外の、土の中で魔法を発動するということはこれまで経験したことがない。実際には無意識で土魔法が使えていたので、”意図的に発動することは経験がない”と言うべきか。


 アドエルは土魔法と風魔法は本質的に違うモノである気がしており、風魔法が発動することに意味は感じていなかった。しかし、とりあえず風魔法でもいいから何かしらの魔法が土の中で発動してくれる鼓動を探しみることにした。


 しばらく試してみても土の中で魔法が発動している感じはしなかったが、思いもよらぬ変化があった。風魔法が渦巻くようになったのだ。いったい何がどうなればこうなるのだとアドエルは頭を悩ませたが、小さな竜巻はとても興味深いものだった。


 これまでの風魔法と違い、渦巻く風魔法は連続で発動することでそこそこ大きな竜巻のようにできたのだ。強い魔力ではこれまで作った鼓動の魔法が使えない現状では、一番強そうであった。


 しかし出来そうな事と言えば、落ち葉を巻き上げ、目隠し程度にしかなりそうになく、実用的とは言えなかった。


(木の上までひとっ飛びーみたいになれば楽だったんだけどなー)


 何はともあれ、アドエルは渦巻く風魔法を覚えた。




 ――――――――――――


 それからも土魔法の鼓動を作り続けた。鼓動を作るときに気を付けているのは、”どこの部分を優先して作るか”であった。いくつかの鼓動を重ねる都合上、いくつも重なっている部分はそれだけ複雑となり鼓動も不安定となる。


 そのため、優先的に作る部分を最初に作り、そこを変更しないように周りの鼓動を作っていくのが一番わかりやすかった。その方法が逆に鼓動全体としての完成度を下げている気もしたが、この時点では他に手段が思いつかなかった。


 それからもとりあえず風魔法と土魔法で違いがありそうな部分を一つずつ選択し、その部分が残るよう鼓動を組んでいった。火魔法ではこれで結構上手くいったのだが。


 そしてある日、遂に魔法が”自分以外から”発動した。足元の少し先の地面の中に魔力を移しておくことで、そこから風魔法が発動したのだ。


 ただ少し不安定であり、同じ鼓動であるにも関わらず、毎回発動するわけではなかった。元々の土魔法も数回に1回は失敗するのは普通だったので、こんなものかと考えたが少し違うようだった。魔力を置く位置により発動したり発動しなかったりするのだ。


 ただしその現象は地面の中でだけ起こり、自分の中に魔力を置いている場合はまったく別の結果となった。今回できた鼓動は不思議な事に自分の指先など、体内に魔力を置いていた場合は全く発動できなかったのだ。


 このことから今回注目した鼓動は魔法の発動場所を自分の中か外かを分ける鼓動なのかと考えた。しかし、これは外であっても発動が不安定な理由にはならなかった。


 そこで魔法の発動条件を知るために何度も”同じ位置”で”同じ魔法”を使ってみた。


 しかし地面で発動する魔法はそれでも不安定だった。そもそも前回と同じ位置に送るというのが出来ているのかよくわからなかった。同じ位置に魔力を集めるのと違い、何もない位置では基準も無いため難しい。


 そこで黒石で試してみることにした。黒石であれば魔力を送っても朽ちることなく耐えることができる。


(ん……? ちょっと待てよ……まぁ後でいいか。)


 新たな疑問が生じたが、今はまず発動が不安定な理由を考えることにした。


 黒石は手に取れる程度の大きさであるため、毎回”ほぼ”同じ位置に魔力を置くことができた。そして、失敗することなく魔法を発動することが出来た。


 黒石と地面の違いなのかとも考えたが、魔力を置く位置を黒石の中心付近へ移動させると魔法が発動しなくなった。


 自分から魔法を発動する時は、魔力を置く位置について神経質にならずとも、適当に置いておけばその付近の体表面から魔法が発動していた。これが黒石ではそうではないようだった。


黒石の表面付近、つまり媒介となる物質の”鼓動するモノ”の空気中との境界付近に魔力を置いておかなければ魔法は発動しない。自分から魔法を発動する場合と外で発動する場合の違いだった。


 そこで先ほど気が付いた疑問に立ち返る。


(なんで地面には魔力を送れてたんだろ……? いや、これまでも出来てはいたん

だけど、木の葉とかすぐ枯れちゃうのに……)


 黒石は元々少量ではあるが魔力を宿しており、アドエルが隠れ住む森の周囲では魔力をある程度送り込んでも壊れない数少ない物質だった。それに対して地面にある土は特に魔力を宿している感じも無く、手に少量の土を載せて魔力を流すと砕けてサラサラとなる。


(やっぱり土には魔力流せないな。でも地面はいける……なんでだ?)


 色々と考えている時に、ふと木の葉の事を思い出した。木の葉に魔力を流すと木の葉は朽ち果てるが、木の葉が生い茂る木であれば魔力を流しても木の葉も木も朽ち果てることは無い。


 そこでアドエルは木から木の葉を切り離さずに木の葉に魔力を流してみた。やはり木の葉は朽ち果てることが無かった。そして魔力を流したまま木の葉を引きちぎってみる。すると切り離した途端に木の葉は朽ち果てた。これは予想通りだった。


 それであればと、アドエルはたくさんの木の葉をかき集め、そこに魔力を流してみた。十数枚程度では朽ち果ててしまったが、何十枚も木の葉を重ねることでやっと弱い魔力を流すことができた。


 つまり弱い魔力すら持たせることができない物でもたくさん集め、それらを接触させることで魔力が移せるようになるということのようだった。


 そこで、試しに黒石を地面に接触させた状態で魔力を流してみた。するとこれまでとは比にならないほど魔力を送っても全く問題なかった。そして、それを手に持ち浮かせたところ、思った通り黒石は朽ち果てた。魔力を流せるはずのない土であっても、地面に魔力を流せる理由がわかった。




 色々とスッキリしたところで、再び土魔法を訓練していくこととした。とりあえず自分の体以外から魔法を発動させることができ進展はあったものの、発動されるのは風魔法という状態であった。そこでふと思い出したのは渦巻く風魔法の鼓動だった。


 あの鼓動も土魔法の鼓動を作ろうとしている時に見つけた鼓動だった。他に目新しい鼓動を見つけることもできていなかったので、とりあえず渦巻く鼓動と自分の外で魔法を発動させる鼓動の二つを組み合わせた鼓動を作ってみることにした。


 これまでと違い2ヵ所を優先して鼓動を作っていくことは更に難しかったが、出来た鼓動で魔法を発動したアドエルはとても驚いていた。魔力を置く位置が地面の深くだとよくわからなかったが、浅い場所に魔力を置き、魔法を発動すると渦巻く風魔法が土を動かし、結果として土を耕していたのである。


 土を耕す魔法は風魔法だったのだ。


(だから鼓動も似てたのか! なんだ風魔法だったのか!)


 これまでも土魔法がいったいどのようなモノなのか不思議に感じていたが、その疑問が一つ晴れた。


 そしてもう一つ。


 あの日母さんが手を当ててくれた時に上手く魔法が使えていたのは、どうやら母さんの魔法だったようだ。


 母さんが教えてくれたのは土魔法だけではない。風魔法も火魔法も、母さんは自分の外で魔法を発動させる事ができたのだ。


(母さん……僕魔法上手くなったよ)





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