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タガサイヲ・ナゲウルカ  作者: tbl
父さんとの約束
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1-6 魔法の鼓動

 これまでも、弱い魔力を集めた場合には”強い一つの魔力”としても”弱い複数の魔力”としても感じることができていた。


 今では”魔力の強さ”は魔力から感じられるものであり、”鼓動”は”鼓動するモノ”から感じられるものであるため、と理解しているが、そう理解する以前から実は感じることが出来ていたというのはアドエルにとって少し複雑だった。


 これまで色々な事を試し、考えながら過ごしていたアドエルにとって、考えずとも、意識せずとも”出来ていた”と言うのは何か腑に落ちなかったのだ。


(そう言えば別に考えなくても出来ることって色々あったな。)


 魔法で風を起こし、火を起こし、土を耕せること。


 そして何より、そもそも魔法が使えるということ。これは村では普通の事で、練習すれば誰でもできることだっただけに、これまで”何故使えるのか?”なんて考えることは無かった。


 村では幼い頃から大人達から魔法を教えてもらう。もちろんはじめからできるわけではないが、手取り足取り教えてもらうことで、出来るようになっていく。それはとても自然なことであり、”魔法が使えないかもしれない”ということを言う者も考える者も無かった。


 魔法を教えてもらっていた頃を思い出しながら、アドエルは考えていた。まだ魔法を上手く使えなかった頃でも、母さんが手を重ねてくれた時は魔法を上手く使えた。今となっては確認する術は無いが、大人達は今の自分のように魔力を移動させることが出来ていたのだろうか。


(あの時出てた魔法は僕の魔法? それとも教えてくれていた母さんの魔法?)


 魔法は基本的には自分からしか発動しない。最近ではもう少し詳しく分かっており、自分の中に満たされた”鼓動するモノ”と外(空気中)の境界から発生している様だった。


 例外は土の魔法だけ。


 土の魔法は足から地面に魔力が流れ、魔法が発動する位置で土が耕される。風、火、土の魔法、それぞれの魔法は魔力の鼓動が異なる。しかし、それぞれの魔力の鼓動はどこか似ており、そこまで大きく違うようには感じられなかった。


(まぁ三つしか知らないし、そういうものなのかな……)


 試しに枝を持ち、枝の先から魔法を発動してみようとした。すると、枝は魔力に耐えきれなかったようで瞬時に枯れ果てた。やはり魔力の移動に耐えれる物でないとダメなようだ。


 次に黒石で試してみる。


 黒石は弱い魔力程度であれば何度か送っても問題ない。試しに風の魔法を使ってみたところ、魔力を送るまでは問題なかったが、魔法は発動しなかった。


(って事はやっぱりあれは母さんの魔法じゃなくて僕の魔法だったのかな?でもそうならなぜ母さんが手を当ててくれてた時だけ上手く魔法が使えたんだろ?)


 しばらくよく考えてみたが、この時はヒントになりそうな事もあまり思いつかなかった。しかしどうにもあれが自分の魔法だとは思えなかったので、母さんが何かしら特別な魔法を使っていたのではないかと考えた。


 そこで考え付いたのは”魔力の鼓動の違い”だった。


 魔法によって魔力の鼓動は違うが、いつも使う風魔法と母さんがやってくれた魔法が違うなら、鼓動も違うはず。だとすると普通の風魔法の魔力を黒石に送っても魔法が発動しないことには納得できる。


 しかし、ではどうすればよいのか。


 そもそも様々な鼓動があるが、魔力の中心から感じる鼓動はいつも同じものであり、風魔法などの独特な鼓動がどこからきているのかはよくわからなかった。感覚としては、魔力が中心から切り離される時に鼓動が変化している様だった。


 アドエルは魔力を任意に切り離すことが出来るが、これまで鼓動をどうするかを考えたことは無かった。


 そこで、魔力を”自分で考えた鼓動の魔力”として切り離せないかと考えた。これまでも火、風、土の魔法と、鼓動を使い分けることが出来ていたのだから、無理だとは思わなかった。


 しかしこれが中々の難題だった。


 魔力の鼓動は言葉に表すことは難しいが、しいて言うなら風の弱い魔力なら『タンタターン・タタターンタン……』のようなものであった。特に難しいものではないと考えていたが、いざ試みてみるとこんな複雑そうなものどうやればよいのかと途方に暮れるレベルだった。


(『タンタターン』って何だよ! 『タン』しか出来ないよ!)


 少し投げやりになり不貞腐れている時、不意に気が付いた。


(……そうだよ。『タン』は出来るんだよ!)


 『タンタンタンタンタンタン……』


 簡単な鼓動であれば出来ていた。これは魔力の中心から発している鼓動とは別モノで、独自に作られた鼓動だった。そこで色々試してみた。


『タンタンタンタンタン……』『タ・・・ン・・・タ・・・ン……』『タン・・・タン・・・タン……』


 色々な鼓動を作ることは出来たが、やはり複雑なものは難しかった。こん単純な鼓動でも何かできないかと魔法を発動してみたが、何も起きなかった。


 これまで風の弱い魔力であれば、発動しようと思った時に魔法を発動できた。魔力さえ送っておけば、後は意識次第で発動するものなのかと考えていたが、そう単純ではないようだった。


(この使えない魔力はいったい何の意味があるんだろう……いや、意味なんてないか)


 とりあえず何のヒントも無いので、いっぱい集めれば何か変わらないかと思い、たくさんの単純な鼓動の魔力を集めてみた。たくさん集めることが出来るのは弱い魔力の利点だ。しかし魔法を発動しても特に変化はなく、いつも通り何も起きなかった。


(やっぱダメなものはダメかぁ~……)


 アドエルはこの”ダメな魔力”をどう扱えばいいのか困っていたが、嫌いではなかった。魔法としてはダメな魔力であったが、その鼓動は面白く、村の宴で聞いた太鼓のようだった。


 村では特に決まった祭りなどは無かったが、狩りで大物がとれた時や収穫日には時々皆で集まり食事を楽しんだ。その時に、何人かの大人が楽器を使い場を盛り上げてくれるのだ。村人は食事や踊りを楽しみ、アドエルもとても楽しかった。


(この”ダメ魔力”であの時の太鼓みたいにしてみよう!)


 魔力の鼓動は音がするわけではないが、体に響くような感覚があり、感じていて心地良かった。そこで少しは音楽になるよう、適当ではあるがいくつかの魔力の鼓動を重ねてみる。


 『ターンタンタンターンタンタンターンタンタン……』


 イイ感じである。


 早い鼓動や遅い鼓動、ゆったりとした鼓動などいろいろ作り重ねてみる。


 『タタタンターン・タタターンタンタン……』


 より一層音楽っぽくなってきた。村で聞いた音楽とは全然違ったが、あの時音楽を聴いていた時のような心の高鳴りを感じていた。


 しばらくの間、アドエルは夢中で作曲活動に取り組んでいた。いつまで経っても昔聞いた音楽とかけ離れた曲しかできなかったが、自分で様々なリズムを作り出せることがただただ楽しかった。作曲遊びは音も出さず動く必要もない。森での隠居生活に最適とも言える娯楽だった。




 ――――――――――――


 そして数日が経過し、いくつかの”アドエル節”を生み出した後、アドエルは重要な事実に気が付いた。風魔法の魔力のような複雑な鼓動を、”ダメな魔力”を重ね合わせることで作り出せていたのだった。もっと早く気が付くべきであったが、楽しかったのだから仕方がない。


(今ならこのアドエル節で今までは出来なかったような魔法が……)


 誰に聞かせても恥ずかしくない立派なアドエル節であったが、残念ながらどれも魔法は発動せず、アドエルの期待は裏切られた。これまでよりかなり複雑な鼓動にはなってはいるが、相変わらず”ダメ魔力”であった。


 そこで、改めて風の弱い魔力の鼓動を作ってみようと再び思い立った。前回は複雑な鼓動を1つの魔力で作ろうとしていたが、今回は弱いダメ魔力をいくつか重ねることで鼓動を複雑にしていく。


 どのように重ねれば思った鼓動になるのかもよくわからなかったので、試行錯誤で色々と試すしかなかった。一つ一つ鼓動を重ねていく。


 すると不思議なもので、出来上がっていく鼓動はアドエル節より心地よい鼓動に感じた。


 アドエルがその日の気分で重ね合わせたアドエル節より、一つずつ丁寧に重ねられた鼓動の方が心地よく感じることは普通の事かもしれなかったが、アドエルは少し悔しさを感じ、同時に”次こそは”と意欲的になるのであった。


 しばらくして、とりあえずそれっぽい鼓動が出来た。30程の魔力を重ね合わせることで作られたその鼓動は、複雑過ぎてアドエルにはこれ以上どうしたらいいのかよくわからなくなっていた。


 そこでとりあえず魔法を発動してみたところ、初めて魔法が発動した。しかし、発動した魔法はいつもの風魔法とはどこか違った。”強さ”なのか”効果範囲”なのか、”暖かさ”というか”柔らかさ”と言うべきか。


 その違いを具体的に感じることは難しかったが、違いがあるとはいえ、確かに魔法が発動した。何日もよくわからないまま鼓動を重ね、あーでもないこーでもないと苦心続けた結果の成果だ。


 これはアドエルにも大満足の結果だった。


(でももうちょっと簡単にならないかな。複雑すぎてもう覚えてないよ……)


 それからはもっと少ない魔力で風魔法の鼓動を作れる方法を探した。前に作った鼓動は何をどう重ねたのかを思い出すことができず、致し方なくと言うのが本音であったが、とりあえず似たような鼓動を作ろうと思っていた。もちろん本来の風魔法の鼓動と全く同じものが作れれば良かったが、それよりもとにかく魔法が発動できるものが欲しかった。




 ――――――――――――


 それからは適当に鼓動を重ねては魔法を発動できるか確認する日々だった。時には風魔法だけでなく火や土の魔法でもやってみたが、いくつか成功して魔法が発動できる鼓動が見つかっても、発動する魔法は風魔法の出来損ないのような魔法だった。


しかし、重ねる必要のある魔力は10も無く、使いやすそうであったためとりあえず木にメモしておいた。


 ただ、なぜどれもこれも風魔法なのか。火や土はどこへ行ったのか。


 思い当たる節はあった。元々の風魔法と火魔法、土魔法の魔力の鼓動は違うモノであったが似た部分もあったため、鼓動を作る際にその似た部分を同じ鼓動で作っていたのだ。


 もちろん同じ魔力の鼓動で作っていたとしても、その他の魔力の鼓動を重ねると、最終的に出来上がる鼓動は少し変わる。それでも元にしたのは風魔力であったため、それが全てを風魔法にしてしまっている原因かと考えられた。


 そこで、風魔法の事は忘れて、新たに火魔法の鼓動を作ってみることにした。その後、魔法が発動できる鼓動ができようになるまで数日を要した。そして発動された魔法は……風魔法であった。


(やっぱダメかー……まぁ鼓動が似てる部分もあるし、実は火と風って似てるのかも。土魔法でやれば良かったかな。)


 とは言え、火魔法と風魔法の鼓動を似ていると言うならば、風魔法と土魔法も似ていると言える程度には似ていた。そんなことを考えながらも何とか火魔法の鼓動を作ろうと少しずつ改良を加えていった。改良なのか改悪なのかも怪しい日々が続いたが、少しずつ鼓動は変化していった。


 そしてその日も風魔法が発動していたが、その日の風はいつもより暖かかった。


(暖かい? 暖かい風! 暖かい風魔法って服乾かす時に使える! とりあえずメモだな!)


 魔法の訓練を始めてもうどれだけ経ったのかわからなかったが、この時初めて実用的な魔法の鼓動を作り出すことができた。それと同時に、アドエルに更なる意欲を与えた。





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