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タガサイヲ・ナゲウルカ  作者: tbl
父さんとの約束
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1-3 狩りと魔法

 身を隠すにあたって、まずは寝床を探すことにした。洞窟を探そうかと思ったが、川沿いから離れるのは少し怖い。それに既に他の獣の住処となっていそうなのでダメだ。


 村のように木の防壁に守られていれば、夜であっても騒がしくさえしなければ襲われる危険は減るし、いざという時に逃げ込むことができる。そこまで強靭な防壁でなくとも少しでも頑丈なものが欲しい。


(まずは木を切ってみるか……でも、どうやって?)


 斧など無い。


 あったとしてもあんな重いもの到底扱えない。鉈でもあれば少しは違っただろうか……。


 身近にあって木を切れそうなものと言えば……石くらいしかない。川の方から手ごろなサイズの石を拾ってみたものの、斧のように刃物としては期待できそうにない。


 しかし、とにかく石で叩いて木を切ってみることとした。


”ゴンッ……”


 鈍い音がして幹を僅かに傷つけたが、直径40cmはあろうかという木の幹はビクともしなかった。その反面、自身の手には凄まじい痛みがあった。


(いっっててて……なんて硬さだよ! 木ってこんなに硬かったのか……)


 家の手伝いで薪割りをすることはあったが、鉈で叩いてやれば簡単に割れた。そのため、石であっても思いっきり叩けば折れるのではないかと考えていたが甘かった。”折る”と”割る”では全く違うのであった。


 もっと細い木なら折れるだろうか……。


 いくつかの木で試してみたところ直径5cmくらいの木でも折るのはとても大変だった。石で叩いても全く折れる気配が無く、結局川の方から大きめの石をゴロゴロ転がして運び、木の根元に置いて足場とし、反動をつけて木に体重をかけて何とかへし折った。


 本当は石を木に投げつける予定だったが、持ち上げることができなかった。


 へし折った後は手持ちの石でガシガシ叩けばイイ感じに根から切り離すことができた。余計な枝を折るのにも石は役立った。とりあえず何もないのは不安なので、この石は持っておくこととする。


 しかしこの木……何に使おうか。直径5cm程度だが、使えそうな長さは1mちょっと。


(防壁に使うにはちょっと弱そうだな。せめてもう少し長い木を折ってこようか……)


 いつもなら薪かおもちゃの槍として使いたいところだった。そんなことを考えていると、森での寂しさや不安が少しは紛れた。


(森の中に作る僕だけの隠れ家……)




 そんなアドエルの些細な楽しみを奪ったのは3頭の狼だった。気が付いた時にはすぐ目の前にいて、こちらを威嚇しているようだった。


 狼はよく出没する獣で、以前にも森で出くわしたことはあるが、襲い掛かられたことは無かった。今回も逃げて行ってくれないかと期待しつつも、肉を食べたいという期待もあった。


 すぐに襲い掛かってこないところを見ると、狼はかなりこちらを警戒しているようだった。狼にとってこの木の槍は警戒すべき脅威だったのだろうか。アドエルとしてはとても頼りないものなのだが。


 正直、3頭に同時に襲い掛かられてはかなり厳しい。1頭であれば槍で叩き殺すこともできるかもしれないが、3頭となれば逃げるが吉だ。まだ距離があるうちに木に登ってしまえば、上から一方的に槍で突けるので、すぐに逃げて行ってくれるだろう。


(でも肉が……)


 迷いながらも辺りを見渡し、すぐに登れそうな木には目を付けておいた。


(何とか1頭だけでも……とりあえず槍で殴ってみるか。頭を何発か殴れば、ヤレる気がする。槍を奪われたら木に逃げよう!)


 3頭の狼は威嚇しつつアドエルを囲もうと動き出した。囲まれてしまうと分が悪い。アドエルは回り込まれる前に、槍を振りかぶり、一番近くの1匹の頭めがけて渾身の一撃をブチ込んだ。


 へし折ったばかりの生木は水分を多く含むため、よくしなる。鞭のように、とまではいかずともそのしなりは槍の先端を加速させた。その結果、想像以上に激しく狼は吹き飛び、木に叩きつけられ、その場に倒れた。

 

(えっ……この棒強い!)


 それを見た他の2頭は我先にとその場から逃げ去った。


 人生で初めての狩りであった。アドエルは狼が逃げ去ったのを確認しながら、少しばかり興奮した息を整える。


 倒れた狼は死んでいるのかわからなかったので、とりあえず足元にあった石で頭を砕いておいた。そこで少し冷静になった。


(動物の死骸を近くに置いておくのはまずい。他の獣が寄ってくる。早く安全な場所を探して移さないと)


 しかし、何処へ行けばいいのか。もうしばらくすれば日没となる。それまでに血抜きをし、できれば解体したい。獲物の後処理は村でよく手伝っていたので問題ないはずだ。しかしナイフ1本すらない。


 取り急ぎアドエルは狼を抱え、川へ向かった。川の周辺の石を叩き割り、程よく尖った石を手に入れた。更にその石を他の石で研いでやれば、ナイフ程ではないがそこそこ使えそうなものができた。


 昔、父さんが遊んでくれていた頃、こういうものをよく作ってくれた。作り方を教えてくれたことは無かったが、見様見真似で何とかそれっぽくなった。


(父さんみたいに上手くはできないや。でももう少し大きければ木も切れるかな……)




 かなり苦労したがなんとか毛皮を剥ぎ、肉を切り分けることができた。石の刃は切れ味が悪く、切り裂くというより引きちぎっている感じではあったが、とにかく毛皮と肉が欲しかった。


 本当はこのまま肉を焼き、食べたかったが、日没も近いため川で血を流し、今日のところは木の上に退避することとした。


(明日は朝から肉が食べられる……今晩生き残れればだけど)


 そんな浮ついた気持ちを抑えつつ、この日の夜はいつもより警戒していた。これまでとは違い、血と肉の匂いがある。狼を解体した残りはそこそこ離れた森の中の方に置いてきたので、そちらの方が匂いとしては強烈なはずだが、油断はできなかった。


 しかし時間が経つにつれ、緊張感は薄れてゆき、頭の中は肉に支配されていった。火を起こすのは魔法があるため、薪となる枝さえ集めれば問題ない。


(鍋とかも無いけど、鉄板の代わりになりそうな石板落ちてないかな。無ければ直火だな)


 この石ナイフではこれ以上細かく肉を切るにはかなり手間がかかりそうだ。でも今のままでは肉は塊であるため、できればもう少し細かくしたい。焼くにしても干すにしても時間がかかりすぎてしまう。


(もっと切れ味のいいモノが欲しいな……森に落ちてないかな)


 アドエルは村では料理や畑の手伝いで魔法を使っていた。大人と比べるとかなり弱々しいものであったが、薪に火をつけたり、風を送ったり、畑を耕したりといった手伝いでは十分だった。狩りにも魔法は使われているようだったが、どのように使われているのかは聞いたことがなかった。


(戦うための魔法が使えればもっと狩りが上手くなるかなぁ……そう言えばカミア兄ちゃんが魔法で走るのが早くなるとかそんなことを言ってたような……)


 少なくとも肉をキレイに切り分けれるような魔法ではなかったと思う。


 魔法は誰でも使える。しかし使い方は人それぞれで、大きな魔力を持つ人しかできないようなこともあるようだった。一般に魔力は体の成長に伴って次第に大きくなり、大人になる頃にはもうほとんど変わらなくなる。


 アドエルの魔力はまだまだ微弱であり、大きな魔法を使うこともできないし、小さなものでも何度も使うことは難しい。


(訓練すれば少しは使える魔力が増えたりしないかな……)


 いくら訓練しても魔獣を焼き殺せる程の大きな炎を起こしたりすることはできないだろう。それでも、少しでも狩りに役立つ魔法を使えるようになりたい。しかし、訓練するにしても村では特に魔法の訓練なんてしている人は居なかった。


(どうしようかな……ん? これ飛ばして少しは怯ませたりできないかな)


 手元の石の刃を見る。狩りにおいて獣を怯ませる意味は無い。獲物に逃げられてしまうだけだ。しかし、森では自分が獲物となる場合もあるため、牽制できる手段があるのは心強かった。


(よし、魔法で風を起こしてこの石を飛ばせるようになろう!)


 試しに手の平に石の刃を乗せ、風で浮かせてみることにした。空気中に魔法を発動し、上昇気流を起こした。


(……浮かない。動いたかすら怪しい。いや、少しくらいは……)


 確かに風は起こっていたが、弱すぎて話にならない。矢のよう勢いよく石を飛ばすイメージだったが、初回とはいえ、現実との差に落胆した。


(これなら普通に石投げた方が強そうだな)


 そもそもこの魔法は火を起こすときに風を送るために使っていた。長時間風を送ることもできず、強さはそよ風レベル、濡れた服を乾かすことも難しかった。


 それでもアドエルは魔法の訓練をしていくことにした。夜は木の上でじっとしているだけで、怖いながらも毎日退屈していた。もちろん魔獣や獣を警戒しなければならないので、大きな音や明かりを付けることはできない。


 その点、風を起こす程度であれば、森であっても全く目立たない。寝付けないのであれば少しでも明日に役立つことができる方が有益に感じられた。


 こうしてアドエルの日常はまた少しずつ変化していくのであった。


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