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81.いつかの雨の夢






◇◇◇



 あの日は激しい雨が降っていた。


 痩せ細った肌に打ち付ける雨が痛い。これ以上、痛めつけようというのか。


「あ、……ぁ…………あ……………………」


 枯れた声で泣き続ける。もう声も出ないのに涙だけはとめどなく出る。それともこれは雨だったのだろうか。途方もなく心細い。


 闇夜の雨の中、座り込むアルティーティにひとつの影が重なった。


 傘だ。


「…………ぐぅ……ヒッ……じょぅ…………」


 どうしよう、と言ったつもりが呻き声にしかならず、頭上を見上げるしかできない。傘を差し出してくれたその人物は、出会った時と同じ無表情でアルティーティを見つめた。


「…………忘れろ」

「……ぅ……?」


 言われたことが理解できず、首をこてりと倒す。


「これから別人として生きるつもりなら、今見たことは忘れろ。だがお前として生きるつもりなら、思い出せ。そしてその責任を果たせ。どちらを選んでもいいが、お前はどちらかを選ばなければならない」


 しゃくり上げていた呼吸がすっと止まる。意味はよくわからないが、とても重要なことを言われている気がした。


 考えろ。家を追われた自分が、どうすべきなのか。


 忘れても忘れなくても、恐ろしい。どちらを選んでも怖いし、どちらか選ばなければならないことはもっと怖い。


 だがここにずっと居続けることはできない。


 やがて涙を拭い思いを口にすると、ただ短く「そうか」と返事が降ってきた。


 差し出された手を握る。妙にリアルなぬくもりにほっと息を吐くと、強く握り返された。


 冷たい雨音はずっと鳴り止まない。泥だらけの体はとうに冷えていたが、傘の中だけは温かく感じた。


 


◇◇◇

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