26.彼の怒り
ジークフリート視点
ジークフリートが訓練所の門をくぐった時、奥の方から地鳴りが聞こえた。
(何事だ……?!)
今日はこれから王立学校の小等部から見学が来る予定だ。そんな日に何か事故でも起こったら困る。生徒が巻き込まれでもしたら──。
ジークフリートは駆け出した。走っているうちに状況が見えてくる。
様子を伺うように道の端に固まっている引率者と子供たち。
無造作に放り出された練習用の武器の数々。
戸惑い、息すらできず一点を見つめる隊員たち。
でこぼこになった演習場の地面。倒木。
舞い上がる砂ぼこり。
その中心に彼らはいた。
(……! あいつら……?!)
ジークフリートは赤髪が逆立つ思いがした。
防御の姿勢も取れずさらされたヴィクターの脇腹に、低い姿勢で飛び込んだアルティーティ。しかし脇腹を薙ぐ直前に、彼女は石像のようにぴたりと止まってしまった。
冷や汗で髪までびっしょりのヴィクターはいい。問題はアルティーティだ。角度的に小さな背中しか見えないが、問題は──。
(あいつ……剣を……!)
「勝負あり、かな」
いつの間に隣にいたのか、それとも自分が彼の隣で立ち止まったのか。
カミルの声に意識を引き戻された。その両隣には、残念そうなミニョルと静かに驚いているアレスがいる。
いや、そんなことはどうでもいい。
ジークフリートはカミルの胸ぐらを掴んだ。
「なぜ……! なぜ止めなかった……!?」
自分でも八つ当たりだとは分かっている。この場を離れた自分への苛立ち。カミルに当たったところでそれが解消されるわけでもない。
声を荒げたジークフリートに、彼はいつもの微笑を浮かべた。
「止めたところで止まらないよ、あんなの。君もわかるだろ?」
当然だ、と言わんばかりだ。ジークフリートの拳に力がこもる。
新人たちが仲が悪いことは、薄々気づいていた。
ジークフリートとて、カミルと最初から仲が良かったわけではない。
衝突を繰り返し、今の関係がある。
理解し合えるまで大いに衝突すればいい。その点では、カミルと同意見だった。
しかし限度がある。特にアルティーティは別の問題も抱えている。そのことに気づいた今、彼女を止める他ない。
ジークフリートはカミルを突き放した。
「あいつは……あいつは剣が使えないんだぞ!」
身を翻し、駆け出したジークフリートをミニョルとアレスは半ば茫然と目で追った。
「隊長ったら何言ってんのかしら……」
「アルト、剣使用中」
口々に言う彼らの横で、服の乱れを払ったカミルはひと知れずつぶやいた。
「……君がそこまで必死になるとはね」




