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17.若き日の彼の慟哭
ジークフリート視点
まさか。
若き日のジークフリートは、その光景に呆然と佇んだ。
部屋の中央に転がるそれは、彼の知る彼女とはあまりにかけ離れていた。彼女ではない、そう思いたかった。
『ウソ……だろ……ブリジッタ……!』
力なく歩み寄り、頬を撫でる。
上品に笑う口元はだらしなく開かれ、幾筋もの赤い液体が流れている。深い海のような青い瞳は閉じる力さえ失われたのか、暗闇を鈍く映していた。
柔らかい栗色の髪はおびただしい量の液体にまみれ、胸元には無数のナイフが刺さっている。
ウソだ。そんなはずが。
抱き上げようと肩に手を当てたその時、ころりと何かが転がった。
彼女の、もう握られることのない手のひらから落ちたそれを凝視する。
……知っている。覚えている。俺はコレを。だからか。だから彼女を──。
『……ぁ……あ……! ああああああああ!!!』
ひとつの可能性に行き着いた彼は、押し寄せる悲しみと後悔を吐き出すように叫び続けた。
指の先が真っ白になるほど握りしめながら。
──穏やかな元婚約者は、凄惨な最期を迎えた。




