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【一章完】傭兵楽隠居-楽隠居にはまだ早い! 妾達にしたことの責任はきっちりとってもらうぞこの宿六!-  作者: 福郎


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【現在】衝突

 矢の雨が降り注ぐ。距離の暴力が振るわれる。


「グオオオ!?」

「ボアアアアア!?」


 単なる弓矢ならオークの脂肪とオーガの筋肉を貫くことはできない。だが、人類が弓につがえた矢は、魔法使いや聖職者達が力を込めたことによってより鋭さを増したものだ。


 鏃は肉に深々と突き刺さり、運が悪ければ目から矢羽が咲いている。そして特に運が悪い怪物は、頭蓋骨が砕けて脳をまき散らした。


「虎の子の長弓隊。機能しているようだな」


「はい。張り切っている様です」


「うむ」


 ジャクソンが側近に話しかける。


 その頭蓋を粉砕している矢は、弓の精鋭であるロングボウ隊によるものだ。通常よりも大きな弓より放たれる矢は、魔法によって強化されたことも相まって、化け物たちの強固な頭蓋骨すら粉砕していた。


 その長弓隊は各国に存在するが、バンベルト王国も例外ではない。だが訓練の結果、左右の腕の大きさが明らかに違うほどまでになる長弓兵を、そう簡単に育成できるはずもなく、どこも虎の子の存在だった。


(全部操作が簡単なクロスボウにってのは無理だよな。メイスは剣に勝てるけど、ロングボウは発射間隔が段違いだし)


 グレンは降り注ぐ矢の雨を眺めながら、メイスのような扱いが簡単で欠点のない存在など、他に無いと一人思う。


「魔法攻撃放てえ!」


「風の刃よ!」

「岩の巨砲!」

「聖なる光よ!」


 化け物達はどれだけ矢が刺さろうと足を止めず、運悪く死んだ同胞を踏み砕いて進軍を続ける。それ故に弓より射程距離が劣るが、より強力な人類の技。魔法攻撃の嵐に突入した。しかしその輝きの中に、魔法の中で最強と謳われる火は存在しない。


 川を挟んでいるとはいえ野戦であるため、自軍を巻き込む恐れがある火の魔法は使用できない。戦場という火の勢いを全くコントロールできない環境で燃え広がり山火事などに繋がると、下手をすればオークとオーガが齎すであろう被害に匹敵してしまう可能性があった。


 だが問題ない


「ギャアア!?」


 川を渡る直前に、切れ味鋭い風の刃で腕が切り落とされるのはマシ。頭部が首から切り落とされたり、巨大な岩に押し潰されるもの、果ては清めの光に浄化されて消え去るオークもいた。


「闇よ」


 そして秘密結社地平線の面々による闇の力によって、オーガがぐずりと溶けてしまう。


 余談だが、川を利用して魔法による感電死を狙えないかと考えた者もいた。しかし、神の力の中で最も力強いとされる雷の魔法を行使できる存在は非常に少数であり、川全体に電流を流せる力もなかった。


「投石器放てえ!」


 更には準備されていた投石器までもが巨大な岩を発射する始末だ。


 まさしく雨が空を覆っていた。


(やっぱ人間が一番危ないわ)


 古龍や真なる巨人すら討伐した実績のあるグレンは、統一された意思の下で技術という武器を行使できる人間こそが、最も恐ろしい存在であると再確認する。


「水の精霊よ!」


 それでもオーク達がなんとか川に足を踏み入れると、精霊を操る術に長けた者達によって、川の水が騎士甲冑を纏った精霊を形作り、オークとオーガに襲い掛かった。


「グギャアア!?」


 その水の剣は的確に怪物達の急所である首筋を狙い、川に赤き血が流れだす。


 だが勿論、接近戦ならばオークとオーガも負けてはいない。粗末な棍棒や巨大な拳を振り下ろして、水の騎士の兜を叩き潰そうとする。


 ぶにゅり。


「ウゴ?」


 化け物達はあっけにとられた。知能が低いとはいえ、剣が肉を裂くほどなのだから鎧甲冑も硬いと思う程度は出来る。だが相手は水なのだ。確かに水騎士の兜は潰れたが、それは弾力のある水が潰れただけで、中身に人間のような頭も脳もない。


「グギャ!?」


 当然ながら、水の騎士はなんの影響もないとばかりに反撃し、化け物達の命を摘み取る。


 だが化け物達の軍勢は歩みを止めない。


 そして20万という膨大な兵数で、しかも各国と各組織の連合である人類側は完全な指揮系統など望めず、極端な話をすれば押すと引くしかできない集団なのだ。


 更には谷間のような地形もなく、20万の兵を収容できる大要塞など存在しない以上、後にできることは一つ。


 粉砕である。


「ブオオオオオオオオオオ!」


 化け物達の一部が集団から抜け出し、防塁と柵で遮られた陣地に突撃する。しかし、その場にいた人間達が視線を向けているのは、涎を垂らすオークでも、憤怒の表情で走るオーガでもない。


 野戦陣地から一人抜け出し、化け物達と人間の軍の間で突っ立っている優男だ。


「!?」


 オークもオーガも、断末魔を上げることすら出来なかった。


「王……神……帝……」


 誰かがポツリとその忌み名を呟く。


 一瞬の出来事だ。オーク達がある境界に、王神帝レースの間合いに入った瞬間、10の胴と首が分かれた屍が出来上がった。


「さて。久しぶりに先達(せんだつ)が見てるようですし、ぼちぼちやっていきましょうかね」


 変わらぬ微笑みを浮かべながら、黒と白の長い剣を左右で一振りずつ。古代に失われた聖剣と魔剣なのではと噂される獲物を持ちながら、新たに屍を生み出した。


 一方。


「童顔め。まだまだだな」


 ……足元に転がる50を超えるオークとオーガの屍を気にすることなく、人間大の死が、千万死満がメイスを振るった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだまだなのかぁ~w 一瞬で10匹 このおっさんなら何匹かな?w 100や200ではおさまらんだろ?w [一言] 遠距離攻撃は必須! が おいちゃんには必要ないかw
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