beauty-B-T-arbitrary-buddy4
段々と道が明るくなっていく。我ら初心者の産道から、彼ら狗尾草の修練所へと場が切り替わりつつあるのだ。
このまま進めばやがて青空が所々から見えはじめ、草木が繁り出し彼らの縄張りたる温帯の荒野へと姿を変える。狗尾草などと蔑称されない、粟の民と自らを呼ぶ強力な氏族の土地だ。
「ここで良く水浴びしていたんです。透き通っていてキレイなんですよ」
言うや革鎧を脱ぎ捨て、鎧下に手を掛ける。確かに、ここまで早足で敵を蹴散らして来たので汗だくである。布地の前をはだけると上気した白い肌と芳しい若草の香りが俺を歓迎した。敵地にてなんたる剛胆。流石は未来の闇の君主。
洞窟の薄明かりを淡く照り返す裸身で、狗尾草がゴクゴク飲んでるであろう水場を堂々汚している。これは、もっと汚せねばなるまい。これは使命だ。神よ御笑覧あれ!あなたの信徒が今この使命を果たします。
ふふふ、狗尾草ども。ゴクゴク飲んでるな。愉快愉快。
岩の窪みに黒装束を馴染ませて潜む。なるほど、人外より人間の方が怖かった邪聖少年は、こうやって半年やり過ごして来たのだろう。
しかし、もはや人中人外に怖いものなし。あるとしたらその内側、怪物染みた価値観の精神性のみである。まあ人の内なんて隠すのは容易よ。誰が他者の心なんて知ることが出来るというのか。人は無力だ。ただし附子以外な。
今はただ心の底から湧き出る凶暴性に任せて狗尾草を蹴散らすのみである。水の岸辺に脳漿を染み込ませてやるぜ。
まずは《雌伏》によるハイディング状態からの狙撃であるが、邪聖少年が完全に手持ち無沙汰になるので、こちらの手に余っていた携帯性重視の小型ボウガンを手渡した。これもおねーさんズからの貰い物なのだが、なんとこれ、狩猟用ではなくガッツリ暗殺用なのである。何で《ノーバディ》発動しない物くれたんだよ。まあ、嵩張らないし結果役に立ったけども。
犬食いの姿勢で頭が下がった所に矢、投げ棍棒、投石がそれぞれ刺さる。そのまま水場に体液を撒き散らす3匹。
その死体の横、運良く残った円らな瞳のやつが驚愕に口をあけるが、運の悪いことにその口の中にナイフが吸い込まれて憐れな4匹目。すぐさま岩陰から、首に小さな樽を括り付けた衛生か輜重担当らしきゴツくて頼もしい奴が飛び出してきて大楯で仲間を庇う。残念だが全員もう死体だ。
備え付けのテコで弦を引き終えた邪聖少年が小降りながらも見事なその得物で盾を貫く。相手にダメージはないが注意を引き付けた。その隙に回り込んで《アンブッシュ》を仕掛ける。何だかんだ重たい鎚矛持ってて良かったな。こんな逞しい敵に貧相な短剣じゃ返り討ちだったかもしれん。
バッキバキの狂暴な得物でタフマッチョを天国に連れていってやり、これで5匹目。
一息ついて得物を放り出し、地べたに尻ぺたを押し付け草臥れた様に座り込む。
この油断した格好は誘いだ。俺は6匹目の、《狩人》系職業独特の、攻撃的な《ハイディング》系スキルの臭いを感じ取っていた。
さあ来い出歯亀野郎。
シッポが昂って持ち上がりそうになるのを押さえつけ、闖入者を待ち受ける。