hot spring winter spot summer of fall 2
「あのダンジョンは装備制限があって、浴衣でしか侵入することが出来ません」
条件付きとは厄介な。武器が使えるだけまだマシか。それに条件付きダンジョンはそこで難易度が上がっている分、モンスターは弱かったりするしな。
「ぴぃぎーあぁー」
糸を振り子のようにして木々を渡り、ソテー氏が合流してきた。すげぇなそれ。きっと成体の時は体重の関係で使えなかったんだろうな。
「ピギィ。実は糸で盗聴してました。私のスキルで高性能浴衣を作成しますね」
何でも出来るなソテー氏。渡された浴衣がノースリーブだったりミニワンピだったり、各人によってまちまちだが全部セクシーだったのが玉に瑕だがな。趣味に走りすぎだ。
「ピギフゥー。またしても、素材を極上に高めてしまいました。自分の才能が怖い」
何か言ってるよ服飾の魔王。流石は《ヴォーグ》。我欲に忠実な悪魔の鑑だぜ。
ソテー氏の能力もあって、宿に潜み未亡人少年を監視していた魔物たちを仕留めた。これで、未亡人少年の裏切りがバレるまでに猶予が出来ただろう。このまま一息にダンジョンを制圧して本物未亡人を救う算段だ。
産道を模した入り口を降り、ダンジョンの第1階層へ。
碑と銘の代わりに白い看板に踊るようなペンキで《温泉湧く湧くランド》と書いてある。どうやらここは土地に因んだダンジョンのようだ。
「みんな、ご当地名物や伝承モチーフのモンスターやトラップが出てくるぞ。気を付けろ!未亡人、いや、野老の少年、何か気付いたら解説を頼む」
「はい、神様。早速ですが前方を」
こちとら附子なので夜目が利く。前方奥の小部屋、六角形の格子が並んでいるが、これは!
「巨大ハチノコだぁぁぁ!うまそぉー!」
「ギャアァァァァァ円らな瞳ぃぃぃぃ」
俺と、牝柿母♂、草臥れジト目は、喜び、邪聖少年は滅びの絶叫をあげた。
俺のスキル、《猿真似》によってデッドコピーした熱魔法で巣ごと蒸し焼きにする。無食子しかり、這鼠刺しかり、ダンジョンに住む生き物は美味と相場が決まっているので楽しみである。
「神様気を付けて!働き蜂が戻ってきました!」
「成虫はエビみたいなもんだね。美味しそう」
邪聖少年。ハチにはケロリとした顔だ。ちょっと残念。
人間サイズのデカ蜂を愛用の鎚矛でぶん殴る。金ピカの鎚頭部で蜂頭部をグシャグシャにするが数が多いな。
邪聖とジト目、盾鎧が装備出来ない君主系の2人はそれでも職業の特性で体がそもそも頑丈なので特製浴衣の袖で大群の突撃を受け止め、1匹1匹確実に仕留めていく。
邪聖少年はこの巡幸のために、蜜蜂薄荷の知識と無食子の技術で作られた合金製の剣を新調したのだが、草臥れジト目は何かしらのペナルティだとかで通常は支給品しか装備出来ず、初期装備のままだ。
それもお鍋の蓋だったり布の鎧だったりと本来君主系が得る装備よりもワンランク下の物しか用意されておらず、点数こそ多いがハリボテ感が強い。
身の丈に合わないぞ、というこの古い古い国の母神からの忠告なのかもしれない。
今も支給品の薪雑棒で、棍棒ですらないその棒切れで、殴っている。防具が浴衣のみというダンジョンの制限のお陰で、かえって防御力は上がっているのではないか。
牝柿母♂は錫杖でペチペチ叩いているがあんまりダメージ通ってない。さすが《法王》。まあまあ、魔法、法力の類いは温存しといて貰おう。ソテー氏がいるので攻撃力に不足は無いしな。
「B兄ちゃん!抜かれる!」
邪聖少年の注意。
蜂を1、2匹ずつ、計画的に後ろに流していた邪聖とジト目。その2枚の壁を乗り越えてまとめて突っ込んでくる蜂の大群。
牝柿母とソテー氏、後衛2人は紙装甲なのでオールマイティーたる俺が第3の壁となる。まあ、精気吸ったら回復出来るかな?
「ひとひらの雪のように」
鎚矛で千本ノックしてやろうと構えていたら、浴衣を脱いで手に巻き付けた未亡人少年が俺を背に立った
「ひらり」
浴衣を華麗に跳ね上げる。
すると、蜂の大群が浴衣と同じ方向に、軌道を変えた!
「攻撃を反らした?野老の少年。スキルか?やるね!」
「《英雄》系派生職《文化英雄》系《闘牛士》。生と死の狭間をダンスするのが仕事の、職業なのです」
ハラハラドキドキ。なるほど、確かに恋の魔法なら使えているのな。
「いかな俺とてダンジョンを全裸で闘うのは無理だ。流石は《英雄》系職業だぜ。気に入った。名前はなんて?」
「ゼイアン、ゼイアン=オフィーリアと申します。神様」
善い名前だ。なんか、献身的で幸薄そうで。




