beauty-B-T-arbitrary-buddy3
魔法を試したくて仕方ない。ムラムラと沸き立つ情動を、しかし宿屋おねーさんママンに押さえつけられ2日は焦らされた。
これは邪聖少年ビューティーがずっと孤独な野宿で消耗していたであろうことへの配慮で、本当なら最低1ヶ月は療養して欲しかったようである。年齢変わるくらいドレインした事で心身の磨耗もリセットされたようなので、そこら辺で免除された形だ。
1人でダンジョン潜ろうとしたらお兄ちゃんなんだから側にいてあげなさいと引き留められて冒険にも行けず、この幼くなった兄弟の世話に色々ぶつけることで発散した2日間だった。
色々は色々だ。色欲とかなんじゃないかな。
少年少女に支給される武器防具は《必要最低限の性能を維持》というぶっ壊れスキルが付いているので、邪聖少年の黒革鎧も一晩の内にサイズぴったりに自動調整されている。街の端を、何かちっこい黒いのがトコトコ後ろを着いてきて可愛い。堪らず《強奪》スキルで腰鎧を剥がしたりなどイタズラしつつダンジョンへ向かったり等々した。
等々は等々だ。レベルは奪ってない。レベルはな。
さて、初回の冒険同様、ダンジョンを縦に浅く、横に深く潜っていく。二人とも同じ様に探索していたので勝手知ったる動作でスイスイ進んでいく。
未来の闇の君主、恐ろしく優秀である。
職業や種族による能力の適性があるわけでも無いのに、この半年の野営生活とおそらくは更にその前の初心者の街以前の逃避行の経験からか悪漢の俺に問題なく着いてくる。確実に盗賊関係のスキルが発生している動きである。
諸外国ではいざ知らず、神が明確に適性を示すこの古い古い国で、己の領分外の能力を、才能の有無は別としてそれをスキルとして所持する事は滅多にない。これは個人の能力の高低では無く信仰のあり方の問題でそうなっている。
邪聖少年は、絶対的な存在から与えられたもの以外を自由に自得するという発想が、表層はどうあれ根底にある者、という事だ。神が与えたものと己が得たものの価値がイコールだと、元来思っている者であるという事だ。
怪物として手が付けられなくなる前に懐柔してお手付きにしといて良かった。
狗尾草達を小さな炎の壁で囲み、若干上がった脚力で駆け抜け、微弱なオーラを纏う武器で仕留めていく。《悪漢》の魔法《猿真似》によって、神官職や魔術師職の補助魔法の更にデッドコピー、を発動していく。勿論本職に劣るが、我ら悪属性兄弟はめちゃくちゃステータス高いのでそれで充分なのである。お互いの背中を守りつつイケイケ・ドンドン、火の様に攻めて狗尾草どもを雑穀米に炊いてやったわ。全然レベルは上がらんが。
左手に付けた革の籠手で狗尾草の剣をスウェー。姿勢の崩れた相手に、重たい鎚矛をぶん回して最後の一匹を仕留める。受付おねーさんに頑なに持ってきなさいと言われしぶしぶ今回も使っている。祭具だし、撲れば撲るほど功徳でも積まれていくのかもしれない。嫌だな。そんな祈りは。
「ここら辺は僕の庭みたいなものです。割には野犬が多いけどね。兄さん、こっちです」
勿論、マップ埋めた過去生なんて何度もあるが得意気な邪聖少年は凶悪にかわいいので言われるまま着いていく。
実は狗尾草たちの上位種とか出てくる方向だけど、ピンチに焦ったり、ミスに落ち込んだりする邪聖少年もきっと狂暴にかわいいであろうからそのままにしておく。今世は過去最高にハイスペックなので安全第一、手堅く行こうと考えていたのだが、ムラムラに沸き立つ情動は押さえきれなかったよ。