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「最近、ライ君に構ってばかりでビューティーとかみんなを可愛がってない気がする」
「へ?そんなことないよB兄さん。ていうかライ君は悪実だから保ってるだけで、あんなに毎日可愛がられてた僕死んじゃうよ」
「そうですね。グレートマザー教父様には十分愛を注いで頂いてます。ライ君と違って飢えてないので月2ペースぐらいがちょうど良いです」
「もうちょっと増やしてくれよ。ライ君の次に多いから、流石にキツいんだガウ」
「みんなしてイジる!ルーシーちゃんの真似しないで!でゴザル!」
けけけ。相変わらず、苛めると良い反応を返す奴だぜ。今晩もルーシーちゃんの姿になろ。
しかし、おねーさんのお手伝いとかでバッティングすることは多いが、みんな自由時間ってなにしてんだろうな。聖歌うたってたり、鎮魂歌うたってたり、青春を謳歌してたり、遠吠えしてたりしてるのは知ってるんだが。歌ってばかりの陽気な仲間たちだぜ全くよ。俺?俺はもっぱら声出させる側だからな。黄色い悲鳴とか、嬌声とかな。
1日のルーチンワーク、か。個人の時間空間は尊重したい。何もかも知ることが良い仲間良いパーティーってわけでもないし、誰にだって踏み込んでほしくない領分がある。特にウチは悪属性の曲者揃い。曲がってんだからむしろ不揃いか。俺自身個人主義だからみんな好き勝手ヤれば良いと思っている。思想しているとすら言ってもいい。しかし、だが、それでも、好奇心がムクムクとそそり立つ内容でもある。ここは折衷案として皆が見せても良いと思った範囲だけ、そのルーチンを御開帳せてもらおうか。ルーチンを。ポロンと。
まずは弟たる邪聖少年からだ。絶対裏で暗躍とかしてるからな。街のスラムでヤベェ薬買ってそう。むしろ売りさばいてる側かもしれん。そうやって人を貶めていく手段をどんどん増やしているに違いない。
さて、邪聖少年の1日のルーチンをなぞっていく。朝起きたら牧場で家畜の世話。これはウチのパーティーでは日によって交代しながらやってる。この牧場も少年少女が居なくても仕事が回るようにできてるから、お手伝いといっても職業訓練や社会勉強させてもらってるようなもんで、それで肉たくさん貰うからありがたいやら申し訳ないやらだ。ウチとしても肉は別として手に職つけたほうが困らないので牧場の仕事は一通り学ばせることにしてる。どうせ100年はコキ使うんだ、知識は多いほうが良い。図書室も全制覇しちゃおうかね?
「本当に大きいよね。神様を近くに感じられて飢えることもない、理想郷のようだよ」
平原を眺めしみじみと呟く邪聖少年。そりゃ、神様の肝煎りだからなこの街は。俺も同じ方を見る。遥か遠くに麦畑を世話してる連中が見え、そこに紛れ込んだヒツジをあわてて牧童役の少年が群れに連れていく。好奇心旺盛な利かん坊ヒツジなんだろう。そういう奴の方が愛嬌があって可愛いもんさ。まあ、最終的には食べるんだか。
「兄さん。いや、B-T。僕は貴方のパーティーにいて善いんだろうか」
何か悩んでるのでドレインを開始した。普段の鎧ならさしもの悪漢とて盗賊スキルを駆使しても剥がし難いが、今はお手伝いのためにフルフェイスの兜しか装備してないので、剥がし放題なのだ。てか人相隠すためとはいえ、物凄く怪しい格好である。家畜を相手するので防具つけてても違和感ないといえば無いのだが。
「兄ちゃん。誤魔化さないでよ」
「成長しちまったからあれこれ悩むのさ。しばらくそのちっちゃ可愛い姿で無邪気に生活しな」
まあ、一部邪悪凶悪な姿をしてるがな。流石邪聖少年。邪聖しやすい形状をしているんだな。
邪聖少年のルーチン。お昼は図書室だ。牧場で貰った乳酪と卵をお土産にちびっこ達の世話をする。暴れん坊どもにたらふく食わせ、この美声で寝かしつけるだけの楽な仕事だ。早々に済ませ、見守りを他所の少女に交代してから邪聖のとこへ向かう。今日は、年が上の連中は邪聖少年が本など読ませ勉強会だ。もうすぐ初心者の街に呼ばれるような年頃の奴らなどは、邪聖を先達の冒険者として熱心に質問などしている。
土産の乳酪と薄い薄い麦酒で頭に栄養送りながら議論する姿は頼もしい。ここの連中は孤児であり、英才教育を受けた神の子でもあるから、連中の互助会経由でどっかの偉い職場に着く。優秀な奴なんかはそのまま出世しまくるので今のうちに唾つけときたいぜ。過去生での元教え子とかいないかね?錬金術士時代の心のノートは開きたくないが。
「やってるねぇ」
車座に尻ぺたを捩じ込んで席を開けさせ、地面にどかりと座る。右隣の指から食いかけ乳酪をかっさらい、左隣から残り少ない麦酒を奪った。お返しに頭と尻を撫でてやる。ふふふ、そう顔を赤くして怒るでない。あとで我が血と肉でもってもてなしてやろう。ママのおっぱいが恋しい、というか、ママのおっぱい飲んだことも触れたことも無いだろうからな。一肌諸肌脱いでやろう。
「ちょうどよかった。みんな、先輩の意見を聞いて見よう。B兄ちゃんはどう思いますか」
ほほう。このケイケン豊富なお兄ちゃんにナニかね?
「我々がこれからも信仰を拡大しつづければ、他のいなくなった神々も戻ってくると思いますか」
「んー、食い切った乳酪も飲み干した麦酒も戻って来ないだろ。いやもしかしたら凄い魔法とか錬金術とか使えば戻せるのかもしれないけど」
子守り用に借りてたポンチョを脱ぎ捨てる。いつもの外套を羽織る前に、車座の中央に置いてきぼりの、麦酒が入っていたであろう瓶を引き寄せた。
「おんなじで、いなくなった神様呼び戻すより、新しく神様つくった方が低コストで楽だぜ多分」
要は拠り所が必要なんだろ?存在しないママより、おっぱいついた俺様に甘えた方が簡単だし楽じゃねぇか。テキトーに新しい神様ですよって言って神殿に像増やせば良いんだよ。法とか光とか、うちの神様じゃ対応してないニッチな属性はそういう新しい神様の像が対応してますって事にすれば良いんだ。今までも居なくても世の中回ってたんだし。
諸肌晒して子守り用に大きくしていた胸を絞り、瓶に乳酒を溜めていく。みんなドン引きした顔していた。俺も墓場のおねーさんに乳搾れ言われた時はドン引きしたな。大丈夫。そのうち病み付きになるさ。気にせずどんどんビュービュー出していく。議論は頭使うからな。ちゃんと補給しないから頭が茹だって極論に走り、神様を呼び戻すだの畏れ多い事を考えてしまうんだ。先鋭化の第一歩だぞよろしくない。甘い飲み物でも飲んで、一旦小休止しなさい。
「ほら飲め。俺の血にして肉だぞ」
先輩命令だ。こぞって瓶から各々器に移して飲み出す。
斜向かいの賢そうなちびっこが震えながら口を開く。そんな怖がらんでも。
「つまり、B-T様は、今一度地上を神のものにする為には、新しく神を生み出すべきだと」
「え?そうだな。それならすぐにでも出来るし」
おお、とどよめくちびっこ達。ふふふ、美味かろう俺の乳は。
「やはり、そのお年で女神官様から宗派を託された方。僕も帰依します。何卒その末席にて学ばせて頂きたい」
…?いや、いいけどよ。増えるのはありがたいし。ただ、教育上善くないんだがウチの宗派。すぐ死にたがるお化けネズミが最大派閥だしな。




