Start-Different-Night
異人の夜
怪物、ディファレント=ナイトも、怪しい物、ローズ=デイズも互いに傷だらけだ。
「ふふふ。獣同然の知性でも気づけたか?体が縮んでいることに。一夜漬けにしては上手くいったなB-T少年!」
邪聖少年の検証と同じように、一帯に布を張り《暗転》の魔法で未だに夜が続いているように偽装していた。この目の前の怪物を騙すために。
「逃げ時を見誤ったな。さぁてそろそろ戻るぞ、情けない、我らの成れ果てた姿に!」
2匹の怪物が徐々に縮んで行き。一方は二足歩行のネコへ、もう一方は、耳も尾もなく、しかし骨格の特徴から郁子と判る男へと変貌した。
怪物でもあるし、そうでないとも言える。バライロ=デイズは、過去の深い絶望から心が引き裂かれ、神の威力か某の悪意か、精神が人間性を失ったに併せて肉体も獣性を得たのだそうだ。半分精霊に近い郁子だから起きた奇跡的な変異。いや不運な事故、か。
今日の夕方、マシュマロを焼きながらの、なんて事ないように始めた彼の語りを思い出す。
「附子の妻を教団とかにゃ乗る奴らに殺されてね。そこから気付いたらこの夏梅の姿ににゃっていたんだ。ショックで先祖帰り、というか、もう人間でいたくにゃかったんだろうねわたしは」
焼けたマシュマロをバクバクかぶりつくバライロ=デイズ。ネコ舌では無いらしい。美味そうに食うなしかし。
「そして、悲しみから死と闇に近づいた為か、この新しい肉体は、夜は化け物の姿ににゃる事に、大分、後ににゃってから気付いた。気付くのに随分かかった。昼も夜もにゃく当てどもにゃく彷徨っていたから、変化に気付く切っ掛けも必要もにゃかったのさ。もしかしたら、ディファレント=ナイトも未だに自分が化け物であることに気付いてにゃいかもしれにゃいにゃ。郁子にゃる者から寄る辺にゃき怪物、ふふ、そう、夜辺、夕さり、ふふふ、黄昏を惑う、夕去り夜辺もにゃい怪物とにゃってしまったのだにゃ」
「詩人かなにかだったのかい?文字に起こしてくれねぇかな。ナニイッてるか全然わかんね」
「そんにゃこんにゃで、この忌まわしい肉体を利用して、その教団とにゃ乗る連中の活動を邪魔して回ってきた。ずいぶんにゃがい間ね。ライフワークが復讐だにゃんて健全じゃにゃいが、仕方にゃい」
人間を辞めてしまうくらいには、憎かったんだから。
「日夜人知れず暴れまわるカッチョイイわたしだったが、ある時、気付いてしまったのさ。どうにも、自分の事だと思っていた噂のにゃかに、別人のものが混じっているぞ、と」
マシュマロ齧りながら皆で聞き入る。各々、ちびちびと齧ったり頬袋に詰めたり忙しないが、それでもバライロ=デイズには耳だけは傾けさせるような重みというか積み重ねがあった。見た目よりずっと年上なのだろうか。朗々とした語りが強い潮風と混ざりあって乱れ、そこに嗄れ声の老人の姿を幻視した。
「噂の出所を探っているうちに見つけたのがディファレント=ナイトさ。どうにもわたしは、身のほうも心に準拠して引き裂かれてしまったらしい。お昼時のあの怪物は、以前のわたしとそっくりな顔立ちをしていたよ。わたしは人間性を消失したのではにゃく、切り離してしまったんだにゃ」
逆じゃないだろうか。人間臭いネコと獣じみた人間じゃ、どちらがより人間っぽいかと問われたら、まあ、7:3くらいで意見が割れるんじゃないかね。俺か?可愛いかどうかが重要だな。可愛い方に清き一票を送りたい。
「そこからは大変さ。もう1人の自分の尻拭いのために奔走することににゃった。復讐どころじゃにゃくにゃってそのままあちこちで無差別に暴れる彼奴を追いかけ追い詰め今に至る。這鼠刺には申し訳にゃい事をした。まんまとここに逃げ込まれ、奴に辿り着くまでに多くの犠牲を出した。すまにゃい」
「いや、あんたのせいじゃないことくらい、仲間たちはみんなわかります。それにみんなの犠牲のお陰で、こうして救世主さまが現れくだすった。言い伝えの通りに。やはり神様はお見捨てではなかった。その事が、ただ生きるよりずっと大きな希望になります」
ただ生きることより大きな希望なんてそうそう無いと思うが、文化習俗の違いに理解ある悪漢なので黙っておいた。イラッとはしたが。いラット。ラットだけに。どうした?笑えよ。
「さて、そろそろ日が沈む。血のように真っ赤にゃ夕陽が海に。朝日は拝めない、去らば薔薇色の日々よ」
徐々に、日の沈みと共に姿を変えていくバライロ=デイズ。決して怪しい物ではないらしいが、間違いなく怪物だったじゃねぇか。信用ならねえ奴だな。
残りのマシュマロたちを変化してでかくなった手と口でペロリと平らげ立ち上がる。
「なかまがいるとは心強いな。久しぶりに楽しかった。今夜こそ仕留める。見守っていてくれ少年少女たちよ」
そんで、即席のお膳立てだけして一晩、周りを囲んで今に至る。怪物同士の戦いに決着はつかず、そのまま変身が解けた姿で2回戦が始まった。自慢の刺突剣と外套と羽帽子を投げて寄越してやり、長靴は履く暇ないので長靴をはいたネコじゃ無くなっちまったが、けじめをつける1人の漢として存在してるから全然問題ないな。お手並み拝見だ。




