okie-dokie-valkyrie-ladies3
日も沈みきりそうなので教会に邪聖少年を拾いにむかう。
教会のおねーさんは、最初に装備支給してくれた話のわかるおねーさんである。
少年少女たちは誕生日の朝、いつの間にか無人の馬車に乗せられて霧の定かならぬ小道を進み、お昼前ごろに街に着くという摩訶不思議な演出が入る。
そこで教会のおねーさんは朝教会で花や肉など物理的なお供え物して、受付が忙しくなるお昼に支給係、夜にお祈りや聖歌、お香とかで精神的なお供え物をするというハードワークなダブルワークをしている。常に天地人なにがしかに供給を行う流通の怪物である。やってることは卸売りに近いので街内の資源管理も仕事の範疇らしい。
まあ、何しろ神様が近いお国柄であるので、1番お手伝いの少年少女が多いおねーさんでもある。上手く仕事を振って忙しさを軽減しているのだろう。ちなみに2番目に多いのは牧場。初心者の街は全国の知識が集まりやすい場所でもあるので、村の為に最新の畜産の知識を得たり、召喚士系や魔物使い系の少年少女がモンスターの世話を訓練したりで人気なのだ。武器屋は商人職人、訓練所は武芸者か根無し草、図書室は魔導師に錬金術士と住み分けがされているのである。他少数派だが宿屋は駅路、酒場は酒造の関係者なんかが関わるようである。
全国津々浦々からまとめて一定水準に教育し、それぞれが別天地な各地域を、一国の同胞であると意識させて連帯感を生む。この初心者の街というのは、メリットの多いシステムである。
これは古い古いこの国の民には伝わりづらいが、今時、国民皆兵で教育水準が高く更に信心深い国なんていうのはおとぎ話の世界である。他所は時代の流れ社会の成熟によって封建制すらシステムとしてとっくに破綻して終わりかけている時代に、王権と神権がイコールで結ばれたこの国が恐るべき強国として未だに残っていることは甚だしく異常なのだ。王と神による富国強兵の賜物だろうと思う。
歌の奉納は終わったのか扉向こうは静かで、蝋燭の明かりと白檀の良い香りが漏れている。
「好きな香りだろうぉ?焚いておいてあげたよ」
神様の為のお香を俺の好みで焚くとかやめて欲しいんだけど。神罰下りそう。何故か俺に。
「たまには良いのだぁ。子どもたちの喜ぶ姿が何より好きな神様だからね」
「ああ、B兄さん、迎えに来てくれたのかい?ありがとう」
「なんか、ビューティーの体格戻ってない?」
会った当初の邪悪少年と初吸いで縮んだ邪聖少年の時の中間くらいな気がする。
「そうかもなぁ。神のご加護とかなんじゃない?」
そんなテキトーで良いのか神職。
「聖歌を奉じていて、つい故郷の楽しかった頃を思い出したんだ。だからかもね」
ふむ。半分実体のない悪魔のクォーターたる俺からの摩訶不思議な影響で縮んだから、自身の精神的な影響で摩訶不思議に伸びもするということか?
「あ、これぇ。墓地に供えるお花なんだけど持っていっておくれよ。後でお駄賃渡すからさ」
だいたいおねーさんたちの頼みというのはクエストとして依頼され、受付のおねーさんに報告することで報酬としてお金が貰えたり図書利用券だとか武器購入ポイントだとか金券に近いものが渡されたりというのが公式だ。
わざわざ後でお駄賃をと言ってきたと言うことは、これは個人依頼ということになる。この間、個人でのやり取りで井戸端裁判があったばかりだというのに。主に俺のせいで。いや、俺は悪くない。運命が悪いのだ。悪属性的に。
運命が悪であることと、言動が悪党であることはイコールでは結ばれないので、つまり運命関係なくただ俺が悪い可能性はあるが、そこは粋な悪漢しぐさとして棚に上げておく。
非公式の取引。怪しい。怪しいが、報酬が気になる。特にこの人は暗殺用ボウガンなんて物騒なものを寄越してきた人だ。あと隠した方が扇情的だとアドバイスしてくれた人でもある。得る物も多いだろうと、依頼を受けることにした。
取引成立の握手がやたらねちっこく両手でモゾモゾとしてくるので、何かメモか手信号かで裏の情報でも教える気なのかと思ったが、どうやら女神官たちの中でも直に人と接触することが殆どない立場だから緊張して剥がそうか握り返そうかまごついただけらしい。かわいい。