beauty-B-T-arbitrary-buddy5
倒したデカブツを観察している風に装う。勝機と見て6匹目が姿を見せれば俺の勝ちだ。
頭の潰れたタフマッチョの、大楯を貫いてその指に矢が刺さっていた。…まさかわざとかこれ?盾越しの見えないグリップを握った手を、骨格だか体勢だかで予測して狙ったのか?頭も運も腕も良くなきゃ成功しないぞ。流石、上位職のさらに特殊派生である。これくらいの天稟はあって当たり前ということか。
気配が消えた。6匹目のいた方向を見ると、短毛種の狗尾草が後ろ向きに倒れていた。こちらの誘いに乗らず慎重に撤退しようとした所を、邪聖少年が敵のハイディング状態を看破してそのまま仕留めてしまったようだ。勝負は俺の敗けであった。おのれ。
死体が消える前に身ぐるみ剥いでしまおうと、今の今まで潜んでいた暗がりから起き出した邪聖少年、の、後ろ。
そこは超絶美魔少年B兄ちゃん。経験豊富なので脊髄反射で、持ち直していた鎚矛を投げつけ敵と邪聖少年を引き剥がす。クソ重たいと文句言ってたけど、ステータス高いのでいざとなればこれくらいの馬力は出る。実際この低レベルでもリアルお馬さんごっこが出来るくらいにはパワーがあるのだ。ただめんどいから余り持ちたくないのだ。
察しの良すぎる邪聖少年はこっちが鎚矛を投げきった時には走りだし、直ぐに振り返り抜剣した。これには追撃の隙を伺う敵も一度完全に諦め距離を取る。どう見ても狗尾草の上位種である。格が違う。…どうだろう、敗けはしないだろうが。では勝ちきれるかと言われれば怪しい。
「全部受けきる!B兄ちゃん!攻めは任せた!」
ふむ?かわいい兄弟にそこまで言われちゃ退がれねぇな。円らな瞳の奴からナイフを引き抜き敵まで駆ける。
集合される前に潰してしまおうと、敵が邪聖少年を苛烈に責めるが、懐広く全て受け止める。盾と剣、時に腕や肩で相手の刀剣を捌き、織り交ぜてくる体術も重心をずらして軽減する。ダメージは確実に入っているがそれをただの気力で堪える。時間を稼ぎきった。挟み撃ちだ。
盾と剣で、無理に攻撃せず動線を狭めるような振る舞いに注力する邪聖少年、やはり立派だぜ。こちらは支給ナイフと骨製錐のレディスケルトンの二刀流でさらに間合いもギッチギチに狭めていく。
しかし敵もなかなかのテクニシャン。詰めても鍔や柄でいなされ、肘を畳んでの斬撃で距離を取らされる。まあ、後は時間との勝負だな。
ぱきん。と水場に反響した。
悪漢スキル《ノーバディ》によってクリティカルが発動し、《必要最低限の性能を維持》しか持たない、もはや一晩経つまで刃こぼれだらけの支給ナイフが敵の名刀を根元から叩き折った。
動揺に乗じて更に間合いを、とは行かず、恐るべきベテランは何かしらのスキルを発動。一気に肉体が膨張し短くなった刀身を叩きつける連続攻撃でこちらを追い詰めていく。2対1の戦いで勝つことを諦め、俺だけに集中し相討ちにもっていく腹積もりのようだ。7合、8合と撃ち合い逸らしきれずに手傷を負う、が、ここで切り札《隠忍雀》を発動させる。
このスキルは食らった技・魔法を威力そのままに発動できる代物で、ただしデメリットとして別の技・魔法を食らってしまうと、発動できる効果もまた次の技・魔法に切り替わってしまう。先ほどの敵の連続攻撃のせいで《隠忍雀》の中身が入れ替わったが、替わった先は今食らいまくってる強力なこの…えーとナニナニ?《両手剣加速装置》である。そんな名前なのか。思い切り二刀流何だが発動するのか?てか加速したのはあくまで奴の体であって、俺が食らっているのはめちゃくちゃ速くて重いがただの斬撃でしかないのだけど、判定どうなっているんだ。いやそんなことを高速で直感的に思考するのはスペックの無駄遣いである。と気持ち切り替え発動。
11合目にしてこちらの《両手剣加速装置》が発動し、敵の連撃を弾き始める。ナイフはいつポッキリしても可笑しかないのでもっぱらレディスケルトンで突っついていく。
こういう世界に一つだけの、大勢から信仰を集めてきたアイテムは神の恩寵の賜物か、何があっても壊れなかったりするので重宝する。だからといって雑に扱うと天罰がありそうで怖いが。そこに突き刺さってる鎚矛とか。
どうにも左右別々に《両手剣加速装置》は発動しているらしく、持ち前の高ステータスで敵の刀剣に錐一本で対抗し、ナイフで相手の手や指を傷つけていく。《隠忍雀》、いやさ《悪漢》のスキル全般は何ともガバカバな穴が多いようである。やがて先行で発動していた敵のスキル効果が切れ、徐々に穴だらけになりながら尚、愉快そうにして死んだ。
「楽しいな。また、会おう。あ、またアオーン」
本当に愉快な奴だった。捨て台詞それで良いのか?
「お疲れ様。…地獄で会おう。ってこと?」
「あ、いや、俺たちの参道では死なないだろ。死ぬ程の目に合わせて強くしたいんであって本当に死んで欲しい訳じゃないからな。街で甦る。狗尾草の修練所も多分そうなんだろ。何か協定でもあるんじゃないか?」
「え。それ、初心者の街でも?」
「え。ああ、そういうことか。死なないっていっても死ぬ程痛いし苦しいから、てっきりそれが死ぬほど嫌で野宿してたのかと思った」
この半年はいったい。と崩れ落ちる邪聖少年。当初の目的、ミスに落ち込む顔、頂きました。絶頂きましたとルビ振りたい。ごちそうさまです。
「痛いのも苦しいのも大丈夫だって、B兄ちゃん知ってるクセに」
むむむっ。いかん。いかんぞその顔は。
「どうせ死なないんでしょ。いいじゃないじゃあ。戦利品纏めたらまた水浴びしよ?」
とは言え倒されればレベルは下がる。それはそれでもったいないので、ただ、目の前の邪聖天使のお誘いも勿体ないので実にハラハラした水練となった。
いや、マジで良い訓練になった。レベルもうっかり上がったし。