ろく
11/9加筆訂正。
「ラ、ライラ、ライラなのか?我を癒したのは……、おおっ、麗しのミライア……」
手を差しのべる国王は王冠も左にずれ、重そうなローブも肩からずれていたが、気にせずライラに向かう。
ミライアとは、ライラの母親の名前である。国王はローブを煩わしいもののように脱ぎ捨てライラに近付くが見えない壁に阻まれて文句を垂れている。
「陛下……」
呟いた騎士団長の声に反応し振り向いた国王の目は血走り常軌を逸しているのは明らかで、アルバート王子は思わず一歩下がった。
「騎士団長!何をしておるか!これを壊せ!我のミライアが漸く戻ってきたのだぞ!」
唾を飛ばしながら叫ぶ国王に皆が沈黙した中、転移の影響で息を切らしていた王妃が復活。こちらもいつもの優雅さは欠片もない。
「陛下!公爵夫人は、既に死んでおります!」
「何を言う、目の前にいるではないか!」
ライラは扇の裏で欠伸をしながら、国王や王妃を見る目は冷ややかだった。
「さて、私ね、やられたら、倍にして返す主義なの。」
ぎゃんぎゃんうるさい国王と王妃を防音の檻に閉じ込めたライラはくいっと二本の指を天に向けて折り曲げた。
上がる悲鳴。
アイラが4メートルほど上空にいたのである。手足をばたつかせている。
助けてと叫ぶアイラ。アルバートが信じられないものを見るようにライラとアイラに視線を送る。
「ラ、ライラ、君がしていることなら、アイラを降ろしてやってくれ。」
ゆっくりライラの方に体を向けてアルバートが言うが、ライラは再び扇を広げ彼を見た。
「だまらっしゃい。あなたは、私の言葉など聞き入れることなどなかったではないですか。いつも、アイラと取り巻き達の言葉だけ信じて。見てて下さいね。」
ライラの瞳がキラキラと輝いていた。
「ねぇ、アイラ。あなたが私のお母様の形見を欲しがったのよね、」
「し、知らないっ!お姉様!降ろして!」
「んー、嘘つきは嫌い。嘘を吐く度、ドレスの裾が短くなっていくのと、髪の毛が短くなっていくのと、あばら骨が折れていくのとどれがいい?」
「どれもいや!アルバート様!助けて!っぎゃあっ!」
ボキッと言う音がした。
「五月蝿く喚くと、また一本折るわよ?さぁ、アイラ、あなた、私の物は全部自分のものだって、取り上げたわよね?お母様の形見のネックレス。おばあ様のくれたぬいぐるみ、ドレス、髪飾り、切りがない。殿下だって、気付いていたでしょう?アイラと私のドレスの差。」
アルバートが視線をずらす。
ライラは今も灰色の地味なドレスを纏っているが、ライラは若い娘に相応しいピンク色のドレスだ。
「私が自分でドレスを選んだ癖にそれを自分への妬みとして、いつも虐められているって、みーんなに吹聴したわよね?」
プイッと顔を背けるアイラだが、再びの激痛が襲う。
「嘘も無視も嫌いよ、アイラ。」
「そ、そうよ、それの何処が悪いの!私は、選ばれた人間なの!光属性の魔法の担い手なのよ!あんたは、公爵家にはいらないのよ!消えてよ!降ろせっ!」
アイラの口から聞こえる罵詈雑言。アルバートも取り巻きも真っ青になっている。
「はい、はい。落としてあげる。」
悲鳴と共にアイラの体が池に沈んだ。
「殺しはしない。けど、気を失うまで中にいなさいね。」
檻の中から見ていた王妃が解放され、前のめりで倒れた。
「で、お母様に毒を盛ったのは、王妃?それとも義母?」
再びの爆弾発言だった。
四つん這いになった王妃が憎々しげにライラを見上げていた。
「もしかして、共謀した?」
再び上空から悲鳴が上がり、豪奢なドレスを着た女が落ちてきた。
強かに体を大地に打ち付けた女は血反吐を撒き散らす。
「死ぬのは許さないわよ?」
僅かに生気の戻った女が苦し気な息を吐きながら起き上がる。
「目覚めまして?お義母様?」
義母は周囲を見渡す。現状が掴めない。さっきまで屋敷の一室にいたはずだ。胸の苦しさも経験したことがない。目の前の憎たらしい義娘の余裕のある自分を見下ろす姿も解せない。
「あなたの、娘の介抱でもする?」
勢いよく池からピンクの塊が飛び出し目の前に投げ出された。塊は大いに噎せながら大地に転がった。
「アイラ?!」
這いずるように娘の元へと向かう義母。
「なんと美しい親子愛だこと!!」
「ラ、ライラ!まさか、お前が?」
化け物を見るかのような視線。
「ねぇ、お義母様?私の本当のお母様を殺したのはあなた?王妃様?それともお二人?」
自分と同じように地べたに座り込んでいる王妃を見る。
立ち尽くす王子や騎士達の顔色は悪い。
「そう、お母様の死にあなたは関与してないのね、残念。じゃあ、王妃様、」
「こ、公爵夫人は、な、何もいってないじゃない!」
ライラの手が王妃の首を掴んだ。皆が息を飲む。
ゆっくりと立ち上がり、王妃の体が浮いた。
「早く認めないと死んじゃうよ?」