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いつでもアルバートにすがるような瞳を向けて、けれどいつからか彼は彼女の視線を疎ましく感じるようになった。王妃教育が忙しいと母親からライラとの面会は制限されていた時にはホッとした。母親は言っていた、ライラはアルバートをあまり気に入っていないようだと。それでも自分が選択肢の中から彼女を選んだのだと交流を持とうとした自分を最初に拒否したのはライラなのに、学園に入る頃になるとアルバートにすがるような視線を向けるようになってきた。常識の範囲内で接してきたがアイラに出会い、ライラから嫉妬による虐めを受けていると聞いて面会時間を無意識に減らした。そのことに自分ではなくアイラに文句を言っていると耳にしたときは呆れたものだった。
「王妃様は、魔法の使えない娘が貴方に嫁ぐことに最初から反対してたのよ、その上私は、亡き母の面影の濃い容貌ですから、国王陛下はあなたをけしかけて、私を貴方の婚約者に選ばせた。魔法の使えない娘など御しやすいとお思いになられたのでしょう。」
ライラは語る。現国王と公爵のライラの母を巡る攻防戦を。アルバートは何となく母親のライラを見る視線が厳しいことは分かっていたが誰も教えてくれなかった。
「戦いに破れた陛下が私をあなたの婚約者にしたのも、いずれは自分の側に置くため。王妃様が私を虐待していたのも陛下の執着をご存知で、精神的に弱った私に優しくして、いずれあなたに捨てられる私を手に入れたかったのでしょう。争奪戦で陛下に勝ったくせに私を身籠った途端、愛人を作って妻を心労で殺した父も大概ですわね。似たり寄ったり、本当にどいつもこいつも最低、地獄に落ちればよいのです。」
アルバートの顔は真っ青だった。王家に対する完全な不敬だがライラが気にしている様子はなかった。
「言っておきますけど、アイラには公爵家の血など一滴も流れてませんから。」
ライラの爆弾発言。
「わ、私はお父様の子よ!」
信じられないと叫ぶアイラ。
「名のある魔法師に聞いてごらんなさい、あなたの中に流れる魔力の情報を。公爵家特有の魔力の欠片もないはずよ。私には分かるの。その魔力は、あなたの母親とポーミナル子爵から引き継いだもの。お父様はあなたの母親に盲目的ですものね、」
クスクスと嗤うライラ。流れる涙を拭いもせずライラを見つめるアイラ。
「あー、ポーミナル子爵っていうのは、あなたの母親の愛人よ。お父様と結婚する前からのなさぬ仲の人よ。」
ニッコリ笑いながら告げるライラ。このやり取りの中で、主と同等に大切な存在の気配を感じた。
「ライラ、君は城に軟禁されていたと言っていた、そんな君が何処で、公爵の契約のことやポーミナル子爵のことを知ったんだ?嘘を吐くのも……、」
王子の顔には、ライラの言葉は信じがたいものなのだろう、表情に現れていた。
一国の王を目指すものが、そんなに感情を出してどうする。ライラはため息を吐いた。
「今さっき、魔力が戻ると同時に自分に仕えている使い魔達があらゆる情報や証拠を集めて下さいましたの。」
天高く待っていた一羽のカラスがライラの肩に止まった。
瞬時にカラスは一匹の黒猫に変化した。
「優秀ですの、この子。」
ライラの頬に擦り寄る黒猫。
使い魔は、魔力保有量が多く繊細な魔法が使える者にしか扱えない上級魔法の一つのはずだ。それをいとも簡単にこなしているライラ。それは、アルバートの知るライラの姿ではなかった。
「あなたが私に興味を持たないよう王妃様は私の予定を虐待レベルで入れてました。そして、アイラが近付くのを止めなかったのも私を王宮から追い出したかったから。成長していく私にいつ国王が手を出してくるか恐れていたんですわ。国王が私に声を掛けるたび色目を使ったと鞭打ちですのよ、ほんと酷い方。今回、このような目に合ったのも私が殿下の婚約者であったからです。婚約者をアイラに変えてくださいな。」
ニッコリと嗤うライラは何処までも美しかった。