ニ話
「はぁ?!500ラルド?!」
「馬鹿みてぇな声出してんじゃねーよ。あ、すいませーん。こっちに追加でエール1つ。」
「悪いけどよ、そりゃデケェ声も出るわ!人攫いだけで500ラルドだと?どんな悪どい仕事だよ!」
いい仕事があるってんで来てみたら頭の悪い仕事だ。だいたい、俺の得意仕事が殺しだって知ってる奴が、拐いの仕事を高額で持ちかけてくる時点で怪しいんだ。20とか30で取引してる殺しの仕事が馬鹿みてぇ。やめだやめだ、こんな仕事。
「受けねーよ。そんな怪しい仕事。」
「まぁまぁ、ちゃんと聞けよ。決まったやつを一人連れてくるだけでいい、ほんとにそれだけの仕事なんだよ。字が読めない馬鹿なお前でもできそうだろ?」
「受けないって言ってんだろ!だいたい、めちゃくちゃ入りにくい家にいるとか、どっかのお嬢様とかそんなんだろ。俺には頭使うような侵入もできねーしできないって言ってんの。」
「いやいや!ちょーっと囲いのフェンスが高い家に閉じ込められてるだけで、他は何も特別なことはない普通の女だよ。」
これ以上はねぇ、と怪しげな目で睨んでやるとあいつは軽い口調で続けた。
「プリンセスは外に出たがってる。出してやるってささやいてみな?」
「すげー警備だったり、大人しくこちら側にこねぇって可能性はねぇのかよ。」
これに関しては自信があるようだ。またまた得意げに話し出す。
「ないな。俺はその後そいつを売ったりもしない。ばっちり3食食わせるって保証してやる。そのくらい生きてるって存在に価値があるやつなんだよ。」
嘘クセェ話だ。ただ、俺にはそいつの価値なんかわかんねーし、俺が今日食うためならそいつがどうなっても構わない。本当に金がもらえるのか怪しいところではあるが、大きなリスクを負う仕事でもないみたいだ。どうしたもんか。
「……失敗しても?」
「はは、お前の本職じゃないからな。今回は多目に見るよ。
プリンセスの名前は ラケル・ベス・アストラエア、その写真の女だ。」
「ぜってー今回だけだからな。」
釘を刺して店を出る。やっぱり500はでかいよな。写真に名前もしっかり書いてあるみてーだが字なんか読めねーし、ターゲットの女に確認してもらうか。今は金を貯めるのが先だ。なんとしてもあの屋敷に忍び込まなきゃならない。それにはそれ相応の準備がいる。今のオンボロ装飾じゃあ警備のやつに見つかったらおしまいだ。あの人が、俺に残したものを、絶対に、取り返してみせる。
「おい、だいぶ渋ってたみたいだが、しっかり受けたんだろうな。」
「受けたさ。」
「しかし…本当に500ラルドで受けるとは…」
「蚕の相場を知らないんだよ、あいつには教養もそれを身につけるための知識も足りてないからな。」
「そんな奴に頼んで大丈夫なのか。」
「もともと今回の蚕にはそんなに期待してないのさ。ちゃんと手元に来たらラッキーだ。」
一口エールを飲んだ彼は、一息置いてから告げた。
「今度の蚕は17歳なんだよ。大金叩いて確実に、っていう年齢を超えちまってるのさ。」
近いうちがんばります




