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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王城で勇者の仲間の偽物に化ける仕事をしてるけどもう精神が限界かもしれない

作者: さば

初投稿です。

俺の名前は山田太郎(26)。どこにでもいる一般魔王城勤務者だ。

魔王城で影法師というアバター名で働いている。


新卒採用で魔王城に入った俺は、魔王城の中層イベントエリアで勇者の仲間の偽物を演じる仕事を任された。結構重要な仕事を新卒で任された理由はユニークスキル「記憶模写」のおかげだろう。このスキルは発動後に肉眼で5分見た対象者の記憶を自分の中にコピーするスキルだ。

滅茶苦茶なスキルに思えるだろうがそんなにうまい話は転がってはいない。


中学のスキル診断でこのスキルを知った俺は歓喜した。頭いい人の記憶をコピーすれば人生薔薇色エリート街道まっしぐら!目指せ世界一!脳内で歓喜の歌が流れてチャペルがリンゴンする程の大歓喜だ。しかし、医者が言うにはこのスキルも一日しか記憶はもたず、その記憶を使って新しく何かを成し遂げたとしても記憶の消去とともにそれも忘れるということだった。更にいうと記憶の模写をしただけなので呪文やスキルの契約をしたわけでもなければ筋肉量も変わらない。更に記憶の譲渡等の便利な機能もない。しかもコピーできるのは一度に一人。他の人の記憶をコピーしたければ記憶の消去をしなくてはいけない。

探偵でもしようかなぁ…離婚調停とかなぁ…と心に寒気が吹き込んだ。ナポレオンもびっくりの大吹雪であった。


そんな俺は今、魔王城で働いている。上司は魔王城古残のダークさん。中層のイベント「勇者の影」で、勇者と同じ姿形の偽物として勇者と戦う役目を長年行っている誰もが知っているけど素顔はあまり知られてない人だ。持っているユニークスキル「外観模写」はどのような人でも外観を一日だけ模写することができるといったもので、それは他者にもかけることができる。ただし、外観だけなのでステータスに変動はない。勇者と渡り合うことができるのはダークさんの力量である。すごい。

そんな外観模写も俺の記憶模写と組み合わせれば完璧な偽物となることができるのだ。ただし俺のステータスがダークさんほどあればの話だが…現実はそううまくなく、1合斬りあえたらいいね程度のステータスしかない。

それならばステータスに関係ない役目がいいだろうと魔王様はイベント層を「裏切の間」として改装し、俺は勇者パーティの偽物になりすます仕事をしている。

イベントはまず勇者パーティの分断から始まる。勇者たちにはダークさんが勇者の影として現れて戦い、俺は分断された仲間を拘束し、その隣に偽物(俺)が拘束されて同じ格好で並ぶ。勇者が来たときに偽物はこいつだ!とかこいつよ!とか言って2択を迫るのが仕事だ。記憶模写のおかげでどんな選択肢も本物同様答えることできるし、偽物からの襲撃を恐れて拘束を解くことをしない。もし間違えて俺を解いたら、仲間顔して本物を倒して裏からさくっとパーティを全滅させる。ステータス低くてもポイズンナイフでさくっとアサシンするのだ。勇者からすればなんだこのクソゲーといった2択イベントである。時々ステータスの差が大きすぎてアサシン失敗するけどその時は本物を倒しちゃったねー面白ーいなんて煽ってからアバターを退場させている。傍から見たら最悪だな俺。


「この鎖を解きなさい!許さないわよ!」


今日は女僧侶か…この仕事をしてから男女関係なく記憶を読み取るせいで性別が中性になってきているような気がする。


「な…!なんで私が…くっ!偽物になんかアルスは騙されないわ!」


勇者を信用してるんだなーと思いながら記憶を模写する俺。

ふんふん。勇者とは幼馴染で一緒の村で育ったと。

………嘘だろ?こいつ勇者と付き合ってる理由は金かよ!うっわ!勇者以外のやつも粉かけて高価なアクセサリー買ってもらってるし、パーティの資金もちょろまかしてる…えぇ…まじ?

隣でまだ騒いでる女僧侶になんでこんなやつの偽物にならんといけんのかと思う。


「ここか!助けに来たぞ!ソーニャ!無事か!」


勇者一行のお出ましだが、俺はきちんと演技ができるだろうか。


「アルス!来てくれると信じていたわ!早く偽物を倒して!私を助けて!」

「なっ!ソーニャが2人?」

「こいつが偽物よ!私の姿に化けて仲間割れさせようとしてるの!早く私を助けて!」

「あぁわかった。すぐに解放しよう」

「アルス、待て。今のままではどちらが本物かすぐに決断はできない。俺たちしか知らないことを質問するんだ。」

「なるほど…流石だなイース。偽物はそれに答えることはできない…と。」

「質問でもなんでも答えるから早く助けて!」

いつものパターンだなぁとどこか他人事のように傍観する。いつもと違うのは俺が一言も話していないということだ。

「さて、もう一人のソーニャは全く話さないがこっちが偽物じゃないのか?」

「ダルク、話すことができないよう魔法をかけられてる可能性もあるんですよ?」

「なるほど…」


なんか変な方向に進んでるな。いかんいかん。仕事放棄はしてはいけないな。軌道修正しないと


「ごめんなさい。助けに来てくれたんだとわかったら嬉しくて言葉が出なくって…助けに来てくれてありがとう…本当にありがとう!」


少し涙を出しながら嬉しさを出す!どうだ!これで戻せたか?


「そうか、辛かったんだな。魔王城で孤立し自分の偽物と一緒にされる。これほど心細いこともないだろう」

「何言ってるの!偽物のいうことなんか聞いてないで早く倒して!私を助けてよ!」

「うーむ、どっちがソーニャでどっちが偽物か俺にゃわかんねえよ」


どうやら軌道修正できたらしい。涙目がポイントだったのか勇者も魔法使いも俺を本物じゃないかと思い始めているな。美人って得だよなぁとひがんじゃいそうだ。

戦士は考えるのを放棄か。意外だな。ころっと騙されるかと思ったのにこれは俺の偏見だな。


「とりあえずなんか質問すればいいんじゃねーか?アルス、なんかあるか?」

「そうだな。初めて買ってもらった装備ってのはどうだ?」

「そんなの覚えてねーだろ。それにアルスもソーニャが初めて買ってもらった装備なんて知らねーんじゃねえか?」

「いや、私も知っているよ。なぜならソーニャに初めて装備を買ったのは私自身だからな。」


確かにあれは覚えているだろう。アルスは自分とソーニャのために村で2つの装備を買った。銅の剣と樫の杖だ。その時アルスがソーニャに対して告白をした、お前をこれで守ろうってね。つまりこれの答えは樫の杖なんだけど、


「樫の杖よ!偽物には答えられないわ!知らないでしょうからね!」

「ふむ、樫の杖か。その理由は?」

「銅の剣と一緒に買ってくれたじゃない!アルス!私未だに忘れてないわ!」

「そこまで知ってるということはこちらが本物のソーニャだな。これは偽物は知らんだろう」

「よし!流石だアルス!こっちはもう倒してもいいな!」

「違う……よ」

「なんだ?偽物はなにか言い残したいことあるのか?」

「初めて買ってもらったのは樫の杖じゃなくて金の指輪よ」

「あ?」


そうなのだ。アルスは知らないだろうが実は樫の杖は違う。この女、村にいる男という男に粉をかけていたとんでもねぇやつだ。本当のプレゼントは村に来ていた冒険者に強請って買ってもらった金の指輪だ。今はもう売って金になってるがね。


「ははは!何を言ってるんだ!初めて買った装備は私が一緒に買った樫の杖だ!苦し紛れに何を言うのか。そうだろソーニャ?」

「あ…え…?なんでそれを」

「ソーニャ?」

「アルス…ごめんなさい!実は私初めて買ってもらったのは金の指輪なの!偶々村に来ていた冒険者の人に買ってもらったの…」

「そんな誰にでもわかる嘘を言うなんて、演じるならもっと似せてくださいよ」

「そうだぜ。もしそれが本当ならアルスが知らないわけねぇだろ!アルスとソーニャは幼馴染でいつも一緒だーって自慢してたもんな」

「それに私…実は村でお金をか「アルス!早くその偽物を倒してよ!早く!」」

「おいおい、なんでいきなり叫んだんだ?話くらいいいだろ」

「偽物の話を聞いていても時間の無駄でしょ?!だから早く倒して!!」


余裕なくなってきたなこいつ。もう洗いざらい全部ぶちまけるか。


「私、それにパーティの「アルス!!早く殺して!!早く!!」」

「アルス何かおかしいですよ。少し疑問に思ってきたのですが、本当にこちらが偽物なのでしょうか?先程から何かを伝えようとしているのを邪魔されています」

「そう…だな。ダルク、話を遮らないように猿轡させるんだ」

「そんな…アルス私が本物よ?なんで私に猿轡を」

「ごめんねソーニャ。それを判別するために話を聞かなくてはいけないんだ。勇者として判断をしなくてはいけない」


そこから俺はすべてをぶちまけた。ソーニャの男の来歴とやってきた金稼ぎを、もちろんパーティ資金のちょろまかしから何やらも全部だ。

最初は嘘だ嘘だとつぶやいていた勇者もそういえば時々用事で居なくなることがあったとか、知らない装備をつけていたとか思い当たることがチラホラあったのだろう。最後の方ではどこか暗い顔で話を聞いていた。


「………皆気が付かないからまだ大丈夫まだ大丈夫ってお金を使っちゃったんだ…本当にごめんなさい!許してもらえるとは思えないけどここで偽物と一緒の部屋でいるときにこれは自分への罰なんだって!取り返しのつかないことをしてしまったんだって思って!だから…だから…!ここで偽物だって斬られても仕方ないんだって!」


涙を流しての迫真の演技ドヤァこれは助演男優賞ですわ。外観は女優だけどな!

もう心が痛いわ。もし俺が勇者の立場なら耐えられんもん。

勇者は泣いていた。魔法使いはそういえばとなにか考えていた。戦士は怒ってるのかな?


「今までアルスを裏切ってたってのか?!ふざけんじゃねぇぞ!!こいつがお前のことをどんだけ思ってるのか知らねぇとは言わせねぇぞ!!」


戦士ダルクいいやつだな。勇者のために怒ってるのか。


「アルス…とりあえず猿轡を外してください。もう片方が何を話すのかも聞きましょう」


魔法使いイースは冷静だな。さすが魔法職。勇者は手を震わせながら猿轡を解いている。


「嘘よ!偽物が言ってるのは全部嘘!デタラメよ!なんで皆そいつのことを信じるの?!今まで一緒に冒険してきたじゃない!なんで?!なんでよ?!」


感情的になってるなー僧侶。俺はどこか他人事のようにそれを聞いていた。


「ソーニャ…さよならだ」

「えっ?」


そういうと勇者アルスは俺とソーニャの首をまとめて斬った。

あぁこういう結末か。もっと後味がいい勇者パーティこないかなぁと思いながら俺はアバターを消滅させた。


風の噂ではその後勇者アルスのパーティは解散したらしい。魔王城踏破も夢ではないと言われていた上位勇者パーティの突然の解散に世間は湧いた。詳しい事は知らないが理由は魔王城で仲間を信じることができなくなったからだという。

そしてその噂と同時に魔王城の新イベント層「裏切の間」はとても恐ろしいところだと言うのも流れてきた。


「くそっ!離しやがれ!この偽物野郎!ふざけやがって!」

はぁ…今日は男戦士か。流石に連日してあんな裏事情があるパーティは来ないだろ。

うんうん。………は?まじ?こいつパーティ内で2股してんの?えっ公爵令嬢誘拐計画?は?盗賊ギルドと…あー!もうヤダー!こいつ黒すぎてやべぇよ!こいつが魔王だよ!魔王様助けて!魔王が来たよ!


今日も俺は精神を削りながら偽物になる。

山田太郎くんは警官にでもなればよかったと思うよ。

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