しりだせ! ケツバトン陸上愛好会!
空は快晴、涼しげな気候は正にスポーツ日和!
「さあ、間もなく第三十六回ひまわりリレーハーフマラソンが始まろうとしております。実況は私、毛津村正。解説は陸上に詳しい筈の北村治先生でこざいます。先生、宜しくお願い致します」
「宜しくお願い致します。今日は天気も良いですからね、好タイムが出るのではないかと期待してますよ!」
選手はスタート地点で手足をほぐし、今か今かと緊張の面持ちだ。約20kmを二人で走るリレー形式のハーフマラソンは、ペアとなる相手との信頼関係が無ければ出場するのも躊躇われるハードなマラソンだ。
「さあ、各選手スタート位置につきました…………あれ? あれれぇ? ゼッケン番号072番の選手ですが……なんとケツにバトンを挿してますよ!? これは新しい!!」
「新しいと言うか普通誰もやりませんよ、はい。走りにくいに決まってます……」
「さあ! 今スタートの号砲が鳴り響きました!」
スタートを切る選手達は、異様なケツバトンの男から距離を置くように離れ、ケツバトンの男はここぞとばかりに優位に立ち回ろうとしていた。
五キロ地点には給水ポイントがあり、ペットボトルの水が置かれている。汗に塗れた選手達は水を手に取り飲むなり頭から被るなりして納涼していた。しかしケツバトンの男はバトンの穴にペットボトルの先をジョイントしていた。
「アーッと! ゼッケン番号072番の選手! なんとケツから水分補給をしています!!」
「訳が分かりません。訳が分かりませんよ……」
「そんな所から水分を補給しても喉の渇きは癒えないのではないのでしょうか!?」
「確かに……でも問題はそこじゃない」
好タイムで次の走者が待つポイントへ辿り着いたケツ男。会場の視線は男のケツに集まっていた。
そして第二走者目前!
男はケツのバトンの穴から一回り小さなバトンを取り出し次のランナーへと手渡した!! そして手渡されたバトンをケツに入れ、第二走者のケツ男が勢い良く走り出した―――!!
「ええっ!? ゼッケン番号072番! なんとバトンからバトンが現れましたぁぁ!! 恐らくは地肌に触れていない綺麗なバトン! 親しき仲にも礼儀あり、何というエチケット精神でしょうか!!!!」
「でもケツから給水してたよね? ねぇ!?」
第二ケツ男はグングンと先頭集団を引き離し、一足先に15km地点の給水ポイントへと辿り着いた。
「先頭は依然としてゼッケン番号072番! ただいま給水ポイントへと到着です!」
ペットボトルを手にした第二ケツ男は、当然のようにそのままケツのバトンへとジョイントさせようとしたが、上手くはまらず難儀した。
「なんと! 一回り小さなバトン故にペットボトルがはまりません!!」
「これはミスですね。もう普通に口から飲んだ方が良いでしょう」
そして第二ケツ男は給水を諦めペットボトルを観客席へと投げた。
しかしそれが命取りだった。
水分補給無しに走れるほど甘い距離ではなく、第二ケツ男は徐々に追い着かれてしまう。
二位、三位と追い抜かれ、ついにケツ男の足が止まる…………。
「ゼッケン番号072番のケツ男! なんと止まってしまいました!! 限界でしょうか!?」
「ゴールは目前ですから、普通に給水してバトンを引き抜いて走って欲しいですね」
第二ケツ男は自らの足を奮い立たせ、辛うじて走り始める。そして観客はケツ男の雄姿に心を奪われ、いつの間にかケツ男の応援をしていた。
結果は16位。記録には残らなかったが、人々の記憶に残ったケツ男達は、ゴールで待ち構えていた警察に連行されていった…………
「調書取るから、正直に話すように…………」
記録にも残った―――
読んで頂きましてありがとうございました!
(*´д`*)