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19話:忘れない

 目覚めると、レイは草むらに寝そべっていた。

仰向けに倒れた状態にも関わらず、ここが草むらであるとすぐに把握できたのは、腕や首元がちくちくとしたからだ。草の青い匂いがする。その表面に付着した露が、レイの髪やシャツを静かに濡らしていた。

 シャツは汗で肌にべったりと押しつけられ、そのまま冷たくなっている。寒さを感じ、身震いをした。体の内が凍える。運動し、汗をかいたまま放置したため、体力の消耗した体が冷えて、また熱が出てきたのかもしれなかった。

 気付けばレイを、ひとつ目の怪人が覗きこんでいた。

“カメキチ”だ。レイが目を開けると、嬉しそうにシュワシュワと声をあげ、顔を引っ込ませた。

 重たい体を起こす。少し休んだためか、立ち上がることはできないにしろ、なんとか座る姿勢まで持っていくことはできるようになっていた。頭がぼんやりして、ずきずきと痛む。体のあらゆるところから襲いくる鈍痛さえなければ、その視界は、夢のフィルターがはめこまれたかのように霞がかっていた。

 レイは頭上を、見上げる。

そこにはほぼ90度の、急傾斜があった。あまりの角度に、それは坂というよりも、土でできた壁のような印象を抱いた。斜めになった地面に反抗するかのように、そこから木が真っ直ぐに生え伸びている。重なりあった木々の群れと、夜明け前の空という条件が見事に重なりあって、上の様子はまったくと言っていいほど窺い知れない。

 あそこから落ちてきたのか――レイは実感し、そして今更ながらに恐怖を覚えた。

あの高さから落下してきて、自分が骨折どころが打撲の1つも追っていないのは、カメキチのおかげであることをレイは分かっていた。視線を運べばその当の本人は今、悠を抱きかかえたまま、レイの隣で空を眺めている。悠はまだ眠っていた。その黒い髪がぼさぼさに乱れ、顔には土が付いている。自分もいま、悠と同じような顔をしているのだろうな、とレイは思った。実際に頬をこすると、指先に雨水の含まれた土が付着する。

 悠の隣にはディッキーが寝ていた。相変わらず、頭にはナイフが刺さったままだ。瞳孔が開いている。当り前だが、呼吸は、していなかった。

レイは喉を鳴らしてからディッキーの顔に手を伸ばすと、指でその瞼を下ろしてやった。その肌からは、温かみが大分薄れていた。当り前だ。もうこのディッキーは魂の抜け殻、単なる、冷えた肉の塊なのだから。

 ライは、悲しむだろうな。レイは動かないディッキーをに視線を留めながら、まだ家で眠りについているであろう妹のことを考える。

ライはレイ以上に、そして誰よりもディッキーを可愛がっていた。弟のように。本当の家族を忘れた己と重なり合わせて。

真実を知れば、ライはきっとレイを責めるだろう。怒りの形相に頬を赤らめ、喉が枯れても喚き続けるだろう。

なぜディッキーが死んだのか、なぜ助けてあげなかったのか。遠慮も周囲の目も憚らず、泣き叫びながらレイに怒りをぶつけてくるだろう。

 ライは許してくれるだろうか。自分の息子を見殺しにしたような姉と、これまでと同じように接してくれるだろうか。レイは悩み、悶え、しかしそうしても時は戻らないことに気づき、ため息を漏らす。

 ライが許してくれないことよりも、憎悪に打ちのめされたライのあの目をまた見なければならないことが、レイには憂鬱で仕方なかった。彼女が拳で畳を叩いたあの衝撃を、今でもレイの体は覚えている。また、あれが繰り返されるのか。

 レイは意識して瞬きをし、胸からこみあげてくるものを我慢してから、“カメキチ”を仰いだ。その怪人は、壁際で客からの指示を待つウェイターさながらに、気をつけの姿勢でこちらを臨んでいた。

「また、カメキチに助けられちゃったね。カメキチは、大丈夫?」

 すると“カメキチ”は悠を地面に横たえると、立ち上がり、ぴょんぴょんとその場で何度も跳びはねてみせた。さらに続けて、力瘤を作るような仕草をする。どうやら、元気であることを伝えたいようだった。

 よく見れば、蹴りを入れられた腹部にも痣1つない。自分がけがを負うことよりも、“カメキチ“が傷つけられていないことにまず、安堵の息をついた。

「そう、良かった。ここは……」

 改めて、レイは周囲を見渡した。

ここは、山の中に作られた休憩場のようだった。木や土の壁に囲まれ、円状に切りだされた広場だ。草がぼうぼうに生え、空き缶やスナック菓子の袋などが無造作に捨てられている。端の方には水飲み場と、あまり清潔ではなさそうな古びた公衆トイレが置かれている。

 相変わらず蠅とやぶ蚊の数が多く、レイの頭の上を旋回していた。あざ笑うかのように舞う羽虫たちを叩き落とす気力もなく、レイは甘んじて蚊に自分の血液を吸わせ、蠅に休息の場を提供した。もともと毛虫以外の虫に、抵抗は少ない。

 徐々に空は青みを帯び、朝が迫りつつあるようだった。カラスが鳴きながら、空を横切っていく。早起きな蝉も、山の中で鳴き始めている。命は短いのに、休んでなどいられないという意思表示なのだろうか。

 土から這い出てきたばかりの昆虫が魂を震わせているのに、レイが寝ているわけにはいかない。気概を震わせ、意識を集中させる。

夜が終わり、朝がくる。また1日が始まる。だが、レイたちの長い夜はまだ、これにて終幕というわけにはいかないようだった。

 草を踏む音が聞こえ、レイはゆっくりとそちらのほうに首を回した。

 そこには、レイたちに向かって歩み寄ってくる、“ファルス”と野球帽の男の姿があった。

「なんで……」

 レイは思わず、声を零してしまう。ポイズンテイルと一緒に山道を転がったはずの“ファルス”はあちこち泥でうす汚れ、全身の装甲が傷つき、頭には木の枝などが引っ掛かっていたものの、自分の足で悠然と歩を進めていた。そのあまりに毅然とした態度に、開いた口が塞がらない。

「まったく、苦労しましたよ。まさかポイズンテイルまでもが、あなたの手中に落ちるとは、予想外でした。だが、それもここまでです。どうせ、あなたが操れるのは怪人限定だ。ならば、当初の予定通り、私が始末すれば何の問題もない」

 ほくそ笑む敵の言葉に、レイは息を呑んだ。その意見が、的を射ていたからだ。レイが意識をかき乱せるのは、怪人のみに限られている。ファルスの言うとおりだ。

 “ファルス”は空を眺め、そして首をぐるぐると回してから、まるでこの世の幸福がすべて自分に降りかかってきたかのように、大声で笑った。

 その笑い方は夢の中に出てきたファルスそのもので、レイは背筋が凍りつくような感触を覚える。体の芯が、噛み合わない。

「朝がくれば、色々と面倒ですからね。いまは午前4時。遅くとも、あと30分で終わらせたいと思っていたのですが……。喜ばしいことに、10秒で片付きそうですね」

 男が、“シーラカンス”へと変化を遂げる。

鉈を握りしめ、レイにその切っ先を突きつけるようにした。あんなものを怪人の強力で振り下ろされれば、レイの小さな頭ぐらい、一撃で叩き割ってしまうだろう。

「亡霊め、いよいよ、あなたの終焉の時です。シーラカンス。あの娘を守る不躾な者たちを、嬲り殺してやれ」

「……あぁ。親父。あんたの頼みなら、命を賭けても」

 “シーラカンス”が動いた。草むらを蹴り、レイ目がけて急迫する。

「あなたなんかに、私は殺されない。悠をさらって、ディッキーを殺した、人なんかに。カメキチ!」

 “カメキチ”も動く。“シーラカンス”の前に立ちはだかると、その鉈による一撃を、顔の前で交差させた腕で受け止めた。

 “シーラカンス”は相手を叩き切ろうと、“カメキチ”は相手を押しのけようと、互いに力を正面からぶつけ合う。そのまま拮抗状態に持ち込まれるのかと思ったその矢先に、“シーラカンス”の腕から青白い火花があがった。その火花は掌を伝い、鉈へと注ぎこまれていく。

 レイは目を瞠った。息を呑み、それから叫んだ。

「カメキチ、逃げて! 電撃が!」

「残念ながら、すでに遅い!」

 意気揚揚と言い放つ“ファルス”が反論したように、身を引くにはもはや遅すぎた。大量の電撃が“カメキチ”に流れ込む。青白い光が、その体を包んだ。

 しかし、“カメキチ”はまったく怯んだ様子を見せなかった。そればかりか、攻撃など受けていないと豪語するかのように、“シーラカンス”の体を押し飛ばすと、続けて強烈なタックルを叩きこんだ。

 体勢を崩した“シーラカンス”に、“カメキチ”は右腕のドリルを振るった。ドリルは“シーラカンス”の胸の肉を容赦なく抉り取る。血を吐くような絶叫をあげて、よろめく敵を前に、“カメキチ”は、右腕を大きく空に突きだし、ガッツポーズを作った。

「凄い……」

レイは感服した思いで、自分の操る怪人の背中を見つめている。

“カメキチ”の体は鋼鉄のように固く、頑丈にできていることを、レイは体験している。おそらくその肉体は電撃など通さないのであろう。先ほどのように、蹴りなどによる衝撃が加えられていない、純粋な電撃攻撃に対してならば、カメキチ”はほぼ無敵なのではないか。

思いの外、戦いがこちらの優性に傾いていることに、レイは心が躍るのを感じた。

しかし、胸に大きな傷を刻まれても、尚“シーラカンス”は諦めなかった。鉈を横に構えると、再び血に飢える猛獣のごとく、“カメキチ”に襲いかかる。

 “カメキチ”は右腕のドリルで、咄嗟に鉈を受け止めた。さらにドリルに回転を加える。高速回転を始めたドリルは、その上に乗っていた鉈を軽々と弾き、“シーラカンス”をたじろかせた。金属が高速で擦れ合ったことによる火花が、雷のように、両者の間で爆ぜる。

「カメキチ、強い」

 陶然とした気持ちで、レイは呟く。だがその自惚れをかき消すように、“ファルス”が吼えた。

「いいや。断然、シーラカンスのほうが強い!」

 “カメキチ”の巨体が右によろけた。

電撃を付加した“シーラカンス”の右足が脇腹に食い込んだのだ。さらに左足を軸として半回転し、両手で掴まえた鉈をフルスイングする。

 面積のある刃が“カメキチ”の頭に直撃した。骨にひびが入る、重たい音がレイのもとまで聞こえてくる。だが、“カメキチ”はがむしゃらにドリルを振り回し、敵を退けた。“シーラカンス”は鉈を頭蓋骨から引き抜くと、ステップを踏むようにして、その攻撃を回避した。

 敵に姿勢を整える間も与えぬと豪語するかのように、“カメキチ”は肩からタックルを繰り出した。“シーラカンス”は鉈の腹でその追撃をブロックし、敵から離れる。

「操られてるだけの人形のくせして、よくやるじゃないかよ!」

 “シーラカンス”が吼える。“カメキチ”はジュワ!と威勢のいい声をあげる、

それから切磋琢磨し、2人の怪人は唸り声をあげながら、再度激突する。その激闘の横を突っ切って、レイへと駆けてくる影があった。

“ファルス”だ。彼は戦う2体の横を走って通過すると、大きく跳びあがり、こちら目がけて拳を振るいながら落ちてきた。

疲労困憊な体に鞭打ち、レイは転がって、何とかその一撃を回避する。地面に埋もれた腕を引き抜きながら、“ファルス”はその顔を、レイに向けた。その仮面越しに、今までとは異なる気概を感じ、レイは身を竦ませる。

「完璧な怪人だろうが、肉体は血の通った人間。このファルスなら、生身の貴様を殺すことなど容易い!」

 興奮に上擦った声で、“ファルス”はレイに足を踏み出してくる。その声、その動作から、レイは“ファルス”が恐怖を抱いていることを再び見抜いた。

 レイも怖い。だが、“ファルス”はレイ以上に恐怖を感じている。思えば、あの公園で出くわしたときからそうだった。彼はレイのことを亡霊と呼び、声が引きつるほど恐れていた。

 亡霊。

幾度となく、“ファルス”が口走ったこの言葉は、どういうことなのだろう。それを思案し始めた時、レイの目の裏にフラッシュバックする映像があった。

それは、天村氏と病院の休憩室での光景だ。レイは天村氏から父親についての話を聞かせてもらい、その途中でアルバムを持ってきてもらったのだ。そのアルバムの中にあった、1枚の写真に写っていた人物。両親に囲まれ、ぎこちない表情を浮かべていた、自分と瓜二つの幼女。

「まさか……」

 “ファルス”の繰り出した踏みつけを、またしてもレイは回避した。手のすぐ近くにディッキーの顔があった。横を向き、寝ころんだディッキー。もう冷たくなってしまった、レイの息子。

 レイは“ファルス”を見上げた、そして唾を呑みこみ、歯を食いしばり、目を見開いたまま、彼に向かって尋ねた。

「まさか、あなたが佐伯さんの娘を殺した……」

 言いながら、そんなはずはないと、心の中でもう1人のレイが反論する。天村氏が言っていたではないか、犯人は自首をして、牢獄の中で自殺をしたと。ニュースでも大きく報じられ、それは周知の事実なのであると。

 しかし、それを認めようとする理性をかき乱すほどに、レイの心の奥ではサイレンが鳴り響いている。それは真実を知らせる警鐘だ。いまはそれに、耳を傾けなくてはならないときだ。だからレイは、ぴんと伸ばした指先で“ファルス”の仮面を指した。それから、声高に叫んだ。

「犯人は、あなたです」

 ライの代わりに、彼女がディッキーを指し示した時と同じ姿勢で、真実を突きつけてやる。伸ばした指が激しく上下に、揺れた。

「あなたが、ひき逃げの本当の犯人、なんでしょ?」

 “ファルス”はレイの暴露に対し、明らかに尻込みをした。しばし呆然とすると、それからすぐにまた笑いだした。乾いた笑いだった。憤懣を露出させるわけではなく、驚嘆に声を失うわけでもなく、ましてや遺憾の意を表するわけもなく、一時の沈黙を挟んでから、彼は喋りだした。

「ハン。知っていましたか。そうですよ。あの娘を車で轢き殺したのは、この私だ」

 “ファルス”はあっさりと認めた。認めながら、レイの頭を蹴りかかってきた。咄嗟にお尻を引きずり、背後に逃れたが完全にはよけきれず、頬をつま先が掠めた。触れられた箇所の皮膚が裂け、血が噴き出した。

「だが、私は悪くない。あの天村が私を急かせるから。あんなことになったんだ! あの男のせいで、私は殺人者になり下がってしまった!」

 “ファルス”の乱暴に伸びてきた腕に首を掴まれ、レイは頭をしたたか地面に打ち付けた。枝が髪に刺さり、痛みが襲いかかる。呼吸を詰まらせながらも、レイはいま彼が発した告白を聞き逃さなかった。

 黒城は天村氏に会った時、相変わらずの仕事一辺倒だと彼のことを称していた。おそらく、それは仕事に関して自分にも他人にも厳しい人間だったということなのだろう。

 “ファルス”を纏っているこの男は、おそらく天村氏に何かを依頼され、早くその仕事を終わらせろと急かされていたのだろう。そして慌てて仕事を終わらせ、天村氏にその結果を報告しにいく道中で、事故を起こしたのだ。そこでレイによく似た、あの女の子を、佐伯夫妻の娘を殺してしまった。

 そしてそこまで考えて、レイは思い出した。それはまるで、つぎはぎで作った映画のように、とりとめも掴みどころもなく、脳の表面を流れていく。

天村氏から聞いた、車の所持者。待合室で、橘看護婦が真剣な表情を浮かべて見つめていた相手。そしてレイを見て怯えるこの男。

自首し、刑務所で死んだのは偽物だ。この“ファルス”こそあの事件の真犯人。そしてその正体として、浮かびあがってくるのは1人の男しかいない。

「だから、亡霊、なんだ。あなたが殺した、女の子と、同じ、顔だから。やっと、分かったよ」

 首を絞めつけられ、喉を狭められているため、途切れ途切れにしか言葉を発することができない。それでも“ファルス”には伝わったようだった。レイに顔を近づけ、憎々しげに仮面を突きつける。

「そうですよ。やっと、悪夢が消え去ったと思ったのに、あなたを町で見かけてしまったその夜から、またあの夢が始まってしまった。あなたがこの世界にいる限り、私を同じ空気を吸っている限り、私は安心して眠ることができないんですよ! お前はこの世にいてはいけないんだ。一度死んだ人間が、私の前をうろちょろするんじゃない!」

 怒気を孕ませた言葉を浴びせながらも、“ファルス”のレイの首を絞めている手は、ひどく震えていた。まるで焦点の合わない壊れたカメラのようだ。彼の肩には大きなひびが入っている。ポイズンテイルに攻撃を受けたときに、生じた傷なのだろう。装甲の内からは、スーツの布地が覗いていた。

装甲服を着た人間に首を絞められているのに、レイが簡単に絞殺されないのは、そこに理由があった。

“ファルス”から、空気の漏れるような高い声が聞こえる。どうやら彼は、呼吸さえままならない状態に陥っているようだった。

装甲服の故障という原因も重なり、気分の昂揚と、戦慄がまぜこぜになって彼の心の中を吹き抜けているため、手の力がまったく入らないのだろうとレイは予測した。確かに息苦しくはあったが、1秒2秒で殺される、という感覚は皆無に等しかった。

レイは両足を揃えると、“ファルス”の腹を思い切り蹴とばした。ぐぬ、という短い唸りをあげて“ファルス”は後ずさりする。その間隙を縫い、土の壁で体を支えると、レイは立ちあがった。

レイの両足もまた激しく震えていた。死が怖くない人間など、いるだろうか。しかしレイは顔をしっかりと上げて、“ファルス”を正面から睨んだ。“ファルス”は、肩を大きく上下に動かして、怯えていた。

「たとえ私を殺しても、私はあなたの心の中でいつまでも生き続けるよ」

 レイが一息に言うと、“ファルス”は目に見えてたじろいだ。レイは大きく息を吸うと、肺にため込んだ空気と一緒に、言葉を吐きだした。

「私を何度殺したって、恐怖から逃れられるはずがないよ」

 レイは恐怖から逃れる方法を知っている。レイの心にかかっていた、泣きだしそうな暗雲を晴らしてくれた、あの温もりを知っている。悠やライ、ディッキーの優しさに触れることでレイは恐怖に溺れることなく、この場に立っていられる。

 恐怖を1つ取り除いたところで、その体験を受けた現実が消えるわけではない。本当に大切なのは脅威を破壊することではない、脅威と向き合って自分の道を探していくこと。そうすることで、人は恐怖を乗り越え、成長することができる。レイはいま、それをこの身で実感していた。

 “ファルス”はレイの言葉にぐっと息を呑んだ。それからゆるゆるとかぶりを振りながら、微動する拳を無理やり握りしめるようにすると、レイを睨みつけた。

「貴様が、貴様が死ねばすべて終わることなんだ。貴様さえ、この世にいなくなれば!」

 一体どこに隠し持っていたのか、“ファルス”は背中に腕を回すと、イタリアの殺人鬼が愛用していたと男が自慢げに話していた、例の銀色のナイフを取り出した。

ナイフを大きく振りかぶると、意を決したように、レイへと駆けてくる。夜の中でも、そのナイフの剣先は、鈍い光を発していた。

 レイは腰を曲げると、ディッキーの方を見た。そしてその額から先端を覗かせているナイフに、その目は吸い込まれていった。

 耳の奥から、声が聞こえた。お母ちゃん、お母ちゃんと何度も呼んでいる。その声に導かれるままに、レイはディッキーの頭を貫通しているナイフの柄を掴んだ。そして1度瞼を下ろしてからすぐに開き、そのナイフを一気に引き抜いた。思ったよりも呆気なく、ナイフは血液のないディッキーの額から、すっぽ抜けた。

「ごめんね、ディッキー」

 “ファルス”が地面を蹴りやり、ナイフを突きだしてくる。レイは謝罪を口にしてから、汗に濡れた手でナイフの柄をしっかり握りしめる。そして、前方に飛び込んだ。

己の身を守れるのは、最終的には、己の力だけだ。私の娘なら、それを必ず忘れるな――。

父の声がレイの脳裏に蘇る。最後に頼れるのは、自分だけ。この危機はレイ自身の手で切り抜けなくてはならない。

 装甲服にこんなちっぽけなナイフが、刺さるはずもない。その前提があるからこそ、レイが狙う場所は一点しか考えられなかった。ディッキーが砕いた腹部の装甲だ。いまやその部分はひび割れ、装甲の断面が露出している。

 その破壊跡に吸い込まれるようにして、レイは全身で“ファルス”にぶつかった。第3者からみれば、そのレイの行為は単なる体当たりにしか見えなかったに違いない。

 だが確実に、レイの放ったナイフは“ファルス”の装甲の欠損箇所を貫いていた。装甲部分を通り抜け、装着している男の腹までナイフの刃は到達していた。皮を裂き、肉を貫く感触がレイの手に跳ね返ってくる。

「やっ……」

 歓喜の声をあげかけたレイは、肩に激痛を感じ、閉口した。見ると、“ファルス”の突き出したナイフもまた、レイの左肩を貫いていた。あと数センチずれていたら、心臓を破られていたところだ。すんでのところで命を散らさずにすんだものの、ダメージを受けたことは覆しようもない事実だ。

 同士討ち。ダブルノックダウン。

 レイと“ファルス”は互いのナイフを体に残したまま、よろよろと後ずさった。そしてほとんど同じタイミングで、崩れ落ちた。

 肩への一撃が致命傷となった、というわけではないだろうが、今の刺し傷がレイの体を追い込むための、ダメ押しになったことは間違いなかった。体が熱い。もう、どんなに無理を利かせようが、体が動きそうにはない。

 しかし、それは“ファルス”も同じようで、必死に手を振り回しながらあがいている。思い通りにならない自身の体に絶望し、愕然とし、競競としているようだった。

「なぜ、私の体は、動かない……。まだ、まだ、そこに亡霊が息をしているというのに」

 “ファルス”はレイに手を伸ばす。だが届くはずもなく、その長い腕は力尽きたように地面に落ちる。その連続だった。荒らげた息の合間を縫うようにして、悔恨の言葉を次々に並びたてながら、草むらを叩く。

 その姿が何だか哀れに見えてきて、レイはそっと視線を逸らした。“ファルス”の後ろでは、まだ2体の怪人が激闘を繰り広げていた。

 もはや戦いは終局に近づいているようだった。殴っては斬り返し、斬られては殴り返しが何度も何度も行われている。“カメキチ”の強靭な皮膚もところどころ痛み、砕けていたり、ひび割れていたりする。しかし“シーラカンス”もダメージとしては同質のようで、あちこち皮膚がへこんでいたり、ひれが折れていたりしている。

「シュワ!」

 “カメキチ”が吼える。その声も、また体と同じようにひび割れていた。

「親父! このカメ野郎、そこをどきやがれ!」

  “シーラカンス”はミドルキックを“カメキチ”の脇腹に叩き込み、距離をとった。そして右手を鉈から外すと、背中に回し、腰の辺りから、鉄の棒を取り出した。その長さは、30センチほどであろうか。ナイフと同じように、暗闇の中で鈍い光をあげている

 “カメキチ”は新たな脅威が現れぬうちとばかりに、ドリルによる突貫を“シーラカンス”に浴びせかけようとする。

 だが、“シーラカンス”は腰を低く落とすと、紙一重でその攻撃を回避し、鉄の棒を、“カメキチ”の腹目がけて突き出した。

 するとその瞬間、鉄の棒はぐんと長さを増し、突如1メートルを超える長いものへと移り変わった。しかもその先端には矢じりが出現している。

 銛だ。海中の魚を突いて捕えるのに使うあの道具だ。その正体にレイが気づいた時には、その銛は“カメキチ”の弾力ある皮膚を貫いていた。

「こいつなら、お前にも通用するらしいな」

 苦痛を声に出す“カメキチ”から銛を抜き取ると、“シーラカンス”は後ろに跳んだ。

 右手に銛。左手に鉈。金属でできた2つの得物を擦り合わせると、“シーラカンス”はその双方を振り上げ、前に飛び出した。

 腹に空いた風穴を気にかけながらも“カメキチ”はドリルの腕を横薙ぎにする。“シーラカンス”は高速回転するドリルの根元を狙って鉈を振るうと、敵の姿勢を無理やり傾けさせた。

 そして、隙の大きく生じた“カメキチ”の腹に再び、銛の切っ先を突っ込んだ。1ミリたりとも違わず、先ほどと同じ穴に、だ。

 まさか、とレイは感づいた。カメキチの皮膚が一切電流を通さないのは、すでに明らかだ。それを踏まえて、シーラカンスは銛を使用し、カメキチを内側から電流で焼くことを思いついたのではないだろうか。やりかねない、と思った。あのシーラカンスの、狂気に満ちた眼差しには、倫理という概念など存在しないように見えた。

 そしてレイの予想は皮肉にも、見事に的中してしまったようだった。銛の先端を“カメキチ”に埋め込んだ状態で、再び“シーラカンス”は青白い光を放った。バチン、と電気がショートした時のような弾ける音が耳をつんざき、直後、“カメキチ”の体が電撃に包まれた。

「カメ……キチ」

 レイにはもう、大声を出す体力も残されていなかった。しかし、その名を口走らずにはいられなかった。“カメキチ”がもがき苦しみながら、絶叫している。その声が今までとはまったく種類の異なるものであったのが、さらにレイの不安を煽った。喉を擦り減り、肺が焼かれているためか、完全に声が裏返っている。もし、怪人に血液が通っているのならば、おびただしいほどの血液を零し、失血死をしてしまうのではないかと思うほどの、悲鳴だった。

 そして“カメキチ”の肩当てが吹き飛び、皮膚が螺旋状の傷を描きながら崩壊していく光景に、レイは涙を流すこともせず、ただただ目を奪われていた。

 悲しく、そして悔しかったのだ。そして、あんなに“カメキチ”が苦しんでいるのに、手を差し伸べる力もなく、救出する手段すらないいまの自分が、ひどく憎かった。

 ディッキーも、熊たちも、成す術なく、殺されていってしまった。レイは近くにいたのに、その死を阻止することができなかった。これでは、白衣の男やファルスたちと何ら変わらないではないか。

 もっと強くなりたいと、レイは心から願う。“完璧な怪人”という名ばかりなものではなく、その名にふさわしいような実力を身につけたい。レイは決意した。そしていまは、ひたすらに、声を押し殺して泣いた。

 電撃を放出し終えた“シーラカンス”は、もはや身じろぐ力さえ残っていない“カメキチ”の腕を鉈の一振りで切り落とした。ドリル状に変形した腕が、あえなく地面に落ちる。

 その時“カメキチ”が動いた。目の焦点が合っておらず、体をふらつかせているが、その体は気力で満ち溢れているようだった。目は爛々と輝いている。

“カメキチ”はゆらりと顔をあげると、その太い腕で、不意に“シーラカンス”の右腕を殴りつけた。“シーラカンス”の肘が、普段とは逆方向に折れ曲がる。その一撃で骨が折れたことは、火を見るよりも明らかだった。

 舌を打つと、“シーラカンス”は鉈を横に薙いだ。その太い刃は見事に、“カメキチ”の首を捉え、そのまま振り抜くと、骨同士の擦れ合う音がした。

 鉈の刃が、“カメキチ”の首にめりこんでいく。

げ、げ、げ、と短い声をあげながら手足をばたつかせる“カメキチ”の息の根をとめるべく、“シーラカンス”は左腕に全体重をかけて、1つの方向に力を傾けた。

 結果、鉈は“カメキチ”の首を見事なまでの手さばきで、削ぎ落した。骨が断たれる音も、肉が切られる音もせず、レイが気づいた時には、“カメキチ”の胴体から首が消え、その首は“シーラカンス”の足元で、まるで漬物石のように寝ころんでいた。

「よく、やりましたね……シーラカンス」

 “ファルス”が喜悦に彩られた声を発すると、カメキチの巨体が大きな音をたてて、地面に崩れ落ちた。埃が舞い、それは風に乗ってレイやファルスの元にも飛んでくる。レイは固く瞼を閉じ、そうやって悲しみを瞳の中に封じ込めた。口を開けば嗚咽がこみ上げてきてしまいそうで、カメキチを悼む声を出すこともできなかった。

 ついにレイを死守してくれていた怪人までもが、殺されてしまった。目を開くと、“シーラカンス”が踵を返し、こちらに向かってくるのが見えた。左手にはカメキチの肉片がこびりついた、大ぶりの鉈が握られている。右腕は相変わらず、へちまの蔓のように、変な方向に曲がったままだった。

 “シーラカンス”の足取りは見るからに重たそうで、息も大分あがっているようだった。かなり疲労している。それほどまでに、やはりいまの戦いは熾烈を極めたものだったらしい。腕以外にも、かなりの箇所を骨折しているようだ。

 右肩を下げた姿勢で、“シーラカンス”は“ファルス”の前で立ち止まった。鉈を後ろ手に隠してから、長い息を吐く。

「親父、大丈夫かい? 俺がすぐに助けてやるからな」

「私は結構です……それよりも、あの娘を、奴を、早く消し去ってください。今なら、あいつは、弱っている。あなたなら、影で捉えられる前に、首を落とせるでしょう」

 救出を断り、“ファルス”はあくまでレイの抹殺を依頼する。“シーラカンス”は苦しげに一瞬、表情を歪めたあと、「分かった」と頷き、レイにつまさきを向けた。

 鉈の先端を地面に引きずりながら、近づいてくる。レイはその足音を耳にしながら、迫りくる自らの死に覚悟を抱くことしかできない。意識が朦朧とし、もはや動くこともままならないのだ。指先がぴりぴりと痺れている。

 影で相手を包みこめばとも思うが、その思惑に反して鳥の形をした影は、レイの腰のあたりで水たまりのような姿を晒したまま、ぴくりとも動かなかった。どうやらこの能力を使うのにも、ある程度、体力が必要らしい。焦り、もがくが、どうにもならない。

 ここまで逃げてきたのに、ファルスを倒したのに、こんなところで人生に幕を下ろされてしまうのだろうか。それではあの男たちに嬲り殺された、女性たちの魂が浮かばれないのではないか。

「親孝行競争は、俺の勝ちみたいだな。悪いな。親父のために、死んでくれ」

 レイの全身を影が包みこみ、鉈を頭上まで振り上げた“シーラカンス”が、すぐ目の前に立ちはだかる。

 慈愛を含んだその声が、レイの鼓膜に反響する。なぜ、この怪人がこんな優しい声を出せるのか、なぜ謝りながら鉈を振り落とすことができるのか。

 その理由は、非論理的で非常識ではあるものの、理解できるような。そんな気が、レイにはした。

 次の瞬間、“シーラカンス”の背景に広がる空の果てに、強い輝きが灯った。

流れ星ではない。まるでカメラのフラッシュのようにその光度は強烈であったし、なによりそれは、レイ目がけて飛んできた。瞬く間にそれは巨大な光球と化し、レイが首を上向かせて光の軌跡を追おうとしたその時には、“シーラカンス”の背中に激突していた。“シーラカンス”は衝撃に、顔面から地面に叩き潰される。

 爆風が吹き荒れ、レイの長い髪が一斉に起き上がった。“怪人”が倒れた時とは比べ物にならないくらいの砂埃が、一瞬で景色をセピア色に変えた。砂塵で視界がうまくとれない。そしてそれ以上に顔面を強烈な風が叩きつけるため、うまく呼吸のできないことが、レイをことさら苦しめた。

 しかしその直後、ぴたりと唐突に風が止んだ。しかし無風なのはレイの正面だけで、周囲では相変わらずの強風が土壁を押している。

 不思議に思い、目を凝らすと、すぐにその真相は見えてきた。答えは単純だった。レイの前に男が立ちはだかり、風除けになってくれていたのだ。

 装甲服を身に纏った男だ。ファルスではなく、アークともまた異なる風貌を持っている。2本のアンテナが伸びたマスクに、耳から伸びたインカム、そして腰の周りにはロングコート状のスカートが巻いてある。

 “ダンテ”――それが、この装甲服の名称であることをレイは知っていた。アークよりも1つ前に作られた装甲服。戦闘員第1号が纏っている戦闘兵器だ。

 男は周囲の風が完全に収まってからレイを振り返ると、レイの肩を抱きながら、切迫した声調で言った。

「大丈夫か、黒城! けがは……あるみたいけど、とりあえず大丈夫か!」

「たくちゃん……先生」

 ダンテを装着している男の名前を、レイは消え入りそうな声で呼び返す。それからうつ伏せになって倒れている“シーラカンス”に目をやった。

「今の光って、先生?」

「あぁ、俺の必殺技だ。そんなことより、お前、ボロボロじゃないか……。こんなに血も出て。ここで一体なにが」

 あって、と続けながら首を巡らし、“ダンテ”の目はある1点で静止した。そこには“ファルス”の姿がある。いまだ地面に転がったまま、彼は荒い呼吸を続けていた。

「そうか……ファルス、またお前の仕業か!」

 “ダンテ”は完全に体を向け直すと、早足で“ファルス”に詰め寄った。その怒りの度合いが、その足跡の深さからも分かる。レイは再び草の上に寝かされることになった。

「黒城をこんな目にあわせて……俺は今度こそお前を許さないぞ!」

 ヒーロー然とする“ダンテ”に、“ファルス”は声をたてて笑った。それは歯の隙間から押し出されたような、虚勢に満ち溢れた笑い方だった。

「ハン。また、あなたですか。あの探偵さんはお元気ですか?」

「どうでもいいだろ! お前には訊きたいことが、山ほどあるんだ。ついてきてもらうぞ、そしてすべてを話してもらう。黙るなよ! 絶対に聞きだしてやるんだからな」

 あいつとの、約束なんだ。強い口調で言うと“ダンテ”は前に屈むと、“ファルス”へと腕を伸ばした。

 “ファルス”は観念したかのように、しかしなんだかわざとらしく俯いたまま、何と手を伸ばし返した。その仮面の下に笑みが宿るのを、レイは経験で、感覚で、勘で、気がついた。見透かした、といっても良かった。この男が“ダンテ”と手を重ねたとき、なにか取り返しのつかないことが起きるのではないかという、漠然とした不安があった。

「速見君、待ちたまえ」

 威圧感のあるその一声に、“ダンテ”は手を止め、顔を向ける。レイも引っ張られるようにして、そちらに目を移した。まさか、と思った。

 黄土色に染め上げられた砂塵の中、“ダンテ”の前に、“アーク”は立っていた。あの鋭いナイフとこれまた同じように、闇の中でその銀色の装甲は、くっきり浮かび上がっているように見える。そのマスク越しに響く声は、間違いなく黒城のものだった。

「お父さん……」

 瞠目する力も、声を張り上げる力もなく、レイは呟くようにして言った。これは夢ではないのかと、一瞬勘違いしてしまいそうになる。なぜ、この場所に父親がいるのか、この場所に来ることができたのか、予想もつかなかった。

「レイ。随分と、やられたみたいだな」

 開口一番、“アーク”は彼にしては小さな声で言った。その声調は優しげで、レイは不覚にも喉を震わせてしまう。

「お父さん、なんで、ここに?」

 その声は、喉からかすかに漏れる吐息のようにはっきりとしたいものだったが、父の耳には届いたようだった。感激が身を駆け抜けていく。

 “ダンテ”の肩を軽く叩きながら、自身の仮面を親指で指し示す。

「この男の背中に乗って、飛んできた。なかなか速かったぞ。褒めてやろう」

「あ、ありがとうございます」

「そうじゃなくて」

 レイの反問は、恐縮する“ダンテ”の声に紛れてしまった。それから“ダンテ”はちらちらと“ファルス”を窺いながらも、“アーク”に体を向けた。

「それで、黒城さん、どうしたんですか。 待てっていうのはどういうことですか?」

 行動を制され、戸惑いがちに“ダンテ”は“アーク”を正面から見る。“アーク”は前に出ると、“ファルス”をまたぎ、周囲を見渡した。

「ふむ」

 右手を顎にあてて、観察を始める。まずはレイを見て、それから草の上に寝転んでいるディッキーと悠を見る。それからファルスを見下ろして、シーラカンスに顔を向けた。

「ふむふむ」

「一体、どうしたんですか?」

 困惑を通り越して、“ダンテ”は不安そうだ。レイも唾を呑み込む。父親の考えていることが不明瞭なのはいつものことだが、この場においても、いかんなくその性質を発揮されると、見ているほうはじれったい気持ちになる。

 “アーク”はしばし空を見上げ、なにか思案を巡らしているような素振りを見せ、大きく息を吐き出した。それから、言った。

「よし、状況はすべて把握した」

「ほ、本当ですか?」

 口の利けないレイの代弁を、“ダンテ”がしてくれる。わずか数秒で、この状況を理解できるとは到底思えない。それが父親だとしても、だ。それほどこの光景は、第三者から見れば混沌の極みにあり、それでいて煩雑としているのではないか。

 ガサリ、と地面が引っかかれる音がした。そしてそれから数秒の猶予も置くことなく、出し抜けに“シーラカンス”が身を起こした。

 左手には鉈を持ったままだ。口からは、音程の外れた管楽器のような呼吸をあげている。鉈で空気を2、3度切りつけると、黄色い眼で“アーク”を睨んだ。

「娘を傷つけたのは、貴様かね?」

 “アーク”は平然としたまま、顎で“シーラカンス”を指す。魚面の怪人は目を寄せた。

「お前は、何だ」

「お前こそ、何だ。人の名を訊くときは、まず己の名を晒せ」

 人語を解し、殺気を剥き出しにしてくる怪人に対しても、黒城はいつものペースを崩さない。双方ともに顔を突きつけ合わせた後、先に言葉を発したのは黒城のほうだった。

「まぁ、いい」

 今度は人差し指を使って“アーク”は、“シーラカンス”を指す。まるでその指先に、己の信念を宿らせているかのような力強さだった。

「レイを傷つけた以上、私には貴様を殺す義務がある。悪く思わないでくれたまえ」

 言い切ったあと、今度はレイのほうに視線を移してくる。レイは薄ぼんやりとした視界越しに、“アーク”を見つめ返した。

「レイ、お前は頑張ったようだな。私の言いつけをしっかりと守った、偉いぞ」

 父親が変化球を使わずに褒めてくれるのは、本当に珍しいことだった。こんな状況なのに、身も心も苦しいのに、なんだかレイは嬉しくなった。胸の奥が、かっと熱くなる。

 それから“アーク”は両手を広げ、上空を仰いだ。まるで、神の洗礼をこれから受けようとしているかのように。

「自分の力を尽くし、頑張りぬいた人間のところだけに、奇跡というものは降り注いでくる。もう安心しろ。奇跡は、この私だ」

 恥ずかしげもなく、言い放つ。それを虚勢やつよがりだと思わせないのは、黒城の口から発せられた言葉だからであろう。こういうときになると、父親は本当に頼もしい。レイはここにきて、そんな当たり前のことを再認識する。

 “シーラカンス”は、鉈を力強く振り下ろしてきた。“アーク”はその一太刀を紙一重で回避すると、敵の腹を軽く蹴りやった。

「“奇跡”に刃を向けるとは、貴様ごときがいい身分だな」

 “アーク”は右腕を、前に突き出す。すると上腕のハッチが、滞りなく展開し、中からハンドガンの銃口が飛び出した。

「その身に刻んでやろう。この私にはむかうことの、恐ろしさを」

 銃声が轟く。胸から火花を吹き、“シーラカンス”の体が背面に大きく傾いだ。そして右腕を伸ばし、容赦なく銃弾を敵に浴びせたまま、“アーク”は体だけで振り返った。

「速見君。君はレイたちを連れて、ここから離れたまえ。あとは私に任せろ」

「は、はい」

 動揺しつつも、“ダンテ”は“ファルス”に視線を落とした。だが、“アーク”は彼の行動に対し、素早く顔の前で手を振った。

「そいつはいい。頼む。奴らは、私の手で始末させてもらえないかね? 君には娘たちの救出に力を注いでもらいたい」

 確かにレイと悠、そしてディッキーという救出対象がいるこの状況で、“ファルス”まで連れて行くことは、“ダンテ”の身1つでは不可能だ。

 “ダンテ”は何か言いたげに体を前に乗り出したものの、“アーク”の強い懇願に負けたのか、それとも自分の娘が傷つけられたという黒城の気持ちを斟酌したのか、もしかしたら黒城が言っても聞かない性格だということを把握しているのか、とにかく、すぐに引き下がった。

「……はい、分かりました」

 そう言いつつも未練たらしく、睨みつけるように“ファルス”にちらちらと視線を送りながら、“ダンテ”は大きく迂回してレイのもとに駆け寄ってきた。

 土が擦れる、音。目をやると、そこには跳躍する“シーラカンス”の後ろ姿があった。銃撃から逃れ、鉈を頭上高く振り上げて“アーク”に兜割を繰り出そうとしている。

 レイは声にならない悲鳴をあげた。“ダンテ”も振り返り、加勢するため足を踏み出そうとする。

 だがその時、“アーク”はくるりと身を翻した。そして落下してくる“シーラカンス”の腹目がけて、鋭い後ろ回し蹴りを叩きこんだ。

 ぐへっ、と胃液を吐きだしながら“シーラカンス”は砂嵐の中を転がる。“アーク”は余裕のある動作で半身になると、両肩のバインダーを跳ね上げた。

「この世の万物は、すべて私の味方だ。この地面も、空も、お前が吸っている空気でさえも」

 舟をひっくり返したような形をしたバインダーが持ちあがると、その下から黒い砲口が出現した。その砲口からいま、眩いまでの光が漏れている。レイのぼんやりとした視界の中でも、それはくっきりと映し出されている。

「私を敵に回すことは、世界と対するものと思いたまえ!」

 まるで決め台詞のような宣言を黒城がすると、“アーク”の二対の砲口から光球が飛び出した。光の砲弾である。それは一切ぶれることなく、一直線に“シーラカンス”へとぶつかった。接触と同時に火柱があがり、思わず身を引いてしまうような爆発音が周囲を満たす。

 だが、悠悠と佇む“アーク”目がけて、“シーラカンス”は爆風を切り裂き、突進してきた。さらに鉈を振るい、袈裟がけに斬りつけようとする。

 固い肉に刺さったものを、引っ張るような音が“ア―ク”の足元で起こる。

「笑止! そのような力ずくで、このアークに勝てるとでも思ったか!」

  その直後、突然、“シーラカンス”の手から鉈が消えた。いや、違う。レイは自然に視線を空に向けている。そこにはまだ薄暗い空気の中に舞う、銀色の輝きが見えた。その光の正体は、鉈だった。彼の振るった鉈が、宙をくるくると過っている。

 それは“アーク”がたった今手にした、その得物によって、“シーラカンス”の頭上へと弾き飛ばされたのだった。

「こんな野蛮なものは、高貴で神聖なアークには本来似合わないが……たまには、新たなテイストを確立してみたい。そうは思わないかね?」

 「想像力は、人類の英知だ」 右手に持った、銛で地表を叩きながら、“アーク”は軽く肩をすくめる。その銛はカメキチに刺さっていたものであることに、レイは即座に気がついた。それはもともと、シーラカンスの武器でもある。

“シーラカンス”はぐにゃりと、その魚の唇を歪めると、高く跳びあがった。

 そして空中で鉈をキャッチすると、一回転し、“アーク”の背後に着地する。再び鉈を発光させると、姿勢を低くし、前に飛び出した。

「どうした、速見君。速く行きたまえ、レイを戦いの巻き沿いにするつもりか?」

 “アーク”は迫りくる敵に、銛を突き出した。鉈を薙ぎかけた“シーラカンス”をけん制し、攻撃の手を緩めさせる。さらに続けて“アーク”の左腕のハッチが開き、そこから先の尖ったアンカーが射出された。

虚空を切り裂き、ワイヤーは“シーラカンス”の枯れ木のような右腕に絡まる。傷ついた腕をきつく締めあげられ、“シーラカンス”の口から、悲鳴が上がった。

 熱に浮かされるまま、ぼんやりと戦いを見物していたレイとダンテは、その猛獣のような野太い悲鳴で我に返った。

「行こう!」

 “ダンテ”が言う。きょろきょろと周囲を窺うような動作の後、レイを背負いあげた。装甲服に包まれた体は冷たく、固かったが、その底のほうからじんわりと温かさがにじみ出てくるかのようだった。

「行きましょう」

 レイも、か細い声で賛成する。ナイフが刺さったままの左肩は動かすことができないので、右手をダンテの首に回し、振り落とされないようにしっかりと掴まった。

 “ダンテ”はさらに悠を拾い上げ、手首を握って引っ張り上げると、そのまま胸に抱いた。それから悠の寝ていた脇で絶命しているディッキーを見ると、彼は首を傾げた。

「なんだ、このネズミは。怪人にしては、実にファンシーだ……」

 面食らう“ダンテ”にレイは慌てて、彼の耳に囁いた。

「お願い、先生。この子も、つれていってあげて」

「……まぁ、お前が言うなら。だけど、ちゃんと訳は説明してもらうぞ。社会で生きるために必要なのは、ホウレンソウだからな」

 教師の口調になると、“ダンテ”は要領を得ない様子のまま、ディッキーを悠と一緒に抱えた。こういう器量の大きさと、融通の利く性格が彼の持ち味だ。そのため、彼の生徒からの評判は他の先生と比べても断トツに良いことを、レイは聞き伝いに知っていた。

「ありがとう」

 レイはお礼を呟き、それから「ございます」と続けた。“ダンテ”は「よし、これでお前も立派なレイディーだ」とこの状況でもわけのわからない返事をしながら、左耳のヘッドホンに手をあてがった。

「2人いるから、お前を支えることはできないぞ。俺の首に腕を回すだけの、力はあるのか?」

 気遣わしげに、背面のレイに言う。その目は主に、レイの左肩に刺さったままのナイフに注がれているようだ。血の滲む感触に恐怖を覚えながらも、レイは深い深呼吸とダンテから伝わってくる優しい鼓動で、窒息しそうな心を抑え込み、己の心に言い聞かせるように大きく頷いた。

「うん、こっちの腕なら、まだ平気。それよりも悠たちをここに置いておくほうが不安だもん。私は、大丈夫だよ」

 じっと、“ダンテ”はレイの顔を見つめている。それから唾を呑みこむ音を出すと、前に向き直った。

「分かった。もし落ちたら、俺が命を賭しても必ず助けてやるから、安心しろ」

 そう決意を声に浮かべる彼の体も、また震えていた。装甲服越しでも分かるくらいに、振動している。

“ダンテ”も恐れを抱いているのだ。自分のせいでレイを命の危機に晒したらどうしようと、悩んでいる。それでもレイの意見を尊重してくれている。己の命を賭けてでも。その言葉に、嘘はないとレイは確信した。

「ありがとうございます、先生」

 安心させるため、その背中に全身を密着させながら、レイはもう1度感謝を口にする。“ダンテ”は何も言わなかった。ただ、その体から震えがわずかに収まったのが感じられた。

 “ダンテ”の両肩から、光でできた翼が出現する。鳥のように1つ1つの羽毛で形成されているわけではなく、どちらかというと虫のように1つの平たい光で姿を保っている翼だ。しかし、それは美しかった。まるで夏の夜空にかかる、天の川のようだ。

 脱出の準備が全て整うと、“ダンテ”は最後に“ファルス”を見下ろした。“ファルス”はひび割れた仮面でこちらを見やりながら、またほくそ笑んだ。

「ハン……。ここで、殺せなかったのは残念ですが、世界中が認めても、私だけはあなたがこの世にいることを、永遠に否定し続けますよ。亡霊は、地獄にいるべきだ。あなたが死ぬことでしか、私の恐怖は晴らせないんだ」

 その恨みの積み重なった言葉に、レイは背筋を震わせた。何も答えられずにいると“ダンテ”が憤った口調で反論してくれた。

「その体でなに言ってんだ。お前は、黒城さんが必ず罰を下す。それが万が一かなわなくても、俺が必ず捕まえる。あいつと、約束したからな」

「ハン。シーラカンスが、どちらも殺せばいいまでです。まだ私は、負けるつもりはない」

「黒城さんは、アークは、負けない」

 “ダンテ”が断言する。その力強い言葉には、頼もしさや勇敢ささえ感じた。

「ハン。私のシーラカンスのほうが、強いね」

 負けじと、“ファルス”もきっぱりと言う。2人は少しの間、顔を突きつけ合わせあったが、やがて“ダンテ”のほうが踵を返した。

「急ぐぞ、黒城! 黒城さんは容赦ないからな……なるべくなら、怪人を潰したところで帰ってきたいところだよ。俺はあいつに話を聞かなきゃいけないし、ファルスも回収しなきゃいけないからな」

「あの人、知ってるの?」

 彼がファルスに対し、最初からなんだか見知った風な口を利いているのが気になっていたので、レイは思い切って質問してみた。すると“ダンテ”は肩越しに、“ファルス”を一瞥すると、うんざりとした声音で言った。

「あいつはただの、人殺しだ。じゃあ、飛ぶぞ。しっかり、本当にしっかり、俺の首を絞めてもいいから掴まってろよ!」

“ダンテ”は最後までファルスを気にしながらも、地面を蹴って、両足を浮かせた。直後、レイを乗せた彼の体は飛び上がった。

 地面がみるみるうちに遠ざかり、そして風の音が大きくなっていく。地表を漂っていた砂煙からも脱出し、ようやく視界が開けるようになる。

 レイはもちろん空を飛んだ経験などなかったので、宙を真っ直ぐ上昇していくその様子に、ほんの少し興奮を覚えていた。陳腐な表現ではあるが、本当に鳥になったかのようだった。夜明け前の空が、瞬きをしている間にも近づいてくる。

 おそるおそる、首をよじって、レイは地上に目を移す。

 “アーク”の銛と、“シーラカンス”の鉈が激しくぶつかり合っているのが見えた。火花があがり、鉄同士がぶつかる甲高い音が、一向に収まらない砂嵐の中でもはっきりと響き渡っている。

 もう、ワイヤーで2人は繋がれていないようだった。青い稲光が轟くが、“アーク”はそれをことごとく回避していく。やはりお父さんは凄い、とレイは感嘆に声をあげることさえ慎んだ。

「レイ、あとはこの私に任せるがいい! お前は早く体を休めるべきだ」

 レイに向かって大声を出しながら、“アーク”は銛を敵目がけて投擲した。“シーラカンス”が鉈でそれを叩き落とすと、“アーク”は自らも飛び込んで拳を振るい、鉈を殴って粉砕した。

砕け散った鉈の金属片が、きらきらと舞い、砂埃の中でそれは星のように見えた。その星たちは“アーク”の体を取り囲むようにしてから、流れ、そして散っていく。その瞬間レイは父親の周りに光が宿るのを、はっきりと目にした。

  “アーク”は両肩の大砲から光球を発射し、“シーラカンス”を退けると、左太股のハッチを開いた。そこには、様々な技を繰り出すために必要なダイヤルが隠されている。

 “アーク”は太股に手を伸ばすと、2目盛り分、そのダイヤルを動かした。するとその体の表面から光の球が生まれ落ち、シャボン玉のようにふわふわと“アーク”の周囲を漂い始める。

 指の腹で叩くようにして、その光を割ると、中から巨大なバズーカ砲が落ちてきた。両手で抱えるようにして、腰を落とし、現れたバズーカ砲を構える。

 “シーラカンス”がなにやら、喚き散らしているのをレイは聞いた。その内容までは聞き取れなかったが、電撃を矢継ぎ早に放出し、なりふり構わず腕を振り回している姿は明らかに逆上しているように見えた。

「いくら訴えようとも、願おうともさ。理不尽な力って、あるよな」

 急に“ダンテ”が言ったので、レイは前に向き直った。遠く狭くなっていく広場とは対称的に、雲の色は濃度を増していく。空気もわずかだが薄くなり、耳鳴りが生じ始める。そのせいで、彼の言葉はレイの耳に届かなかった。

「先生、なにか、言いました?」

「いやさ」

 容赦なく吹きつける風の音で、よく聞き取れなかった。身を迫り出すようにして、“ダンテ”に顔を近づけると、ようやくその声が耳に届いた。

「黒城のお父さんは、凄いって言ったんだよ。色々な意味でさ」

「色々な意味で、ですか」

「最強だよ」

 学校の先生が、そんな子どもみたいな言葉を用いていいのか、とレイは眉を潜める。だがすぐに、悪くはないと思い直した。確かに黒城という男は、あらゆる意味で、最強だ。最強。陳腐な表現だが、口に出すと、なかなか自信が沸いてくる。いい言葉ではないか、とこの状況で初めて気づく。

「お父さんの娘で、私は幸せ者です」

 数日前に唱えたセリフを、今度は上辺だけでなく、心の底から呟いてみる。すると何だか気恥かしくなってきて、レイは深く目を瞑った。たとえどんな真実を突きつけられようとも、この場に及んでも、やはりレイは黒城のことを恨むことはできそうになかった。しかしそれに背徳的なものは、一切感じない。むしろ、揺るがないこの思いに誇りを覚えた。こんなに愛し合っているんだぞ、と声高に叫びたくなる。実際、頭の中でそう自分の声を反響させた。

 背後で黒城の声が聞こえ、レイは目を開けると、振り返った。

 “アーク”は高く跳びあがっていた。バズーカを腕に抱え、地上に向けてその砲口を突きつけている。

 砲口から白い光が飛び出す直前、“シーラカンス”は後ずさりをした。電撃を打つことも、アークを追い縋ることもせずに、片足を引きずるようにして移動し、“ファルス”の前で両手を広げた。

 親父のために死んでくれ。

声高に言い放ちながら、鉈を振り下ろしてきたシーラカンスの目をレイは不意に思い出す。あの愛に満ちた、そして真摯さに充血した眼差しは、レイの心にしがみついて離れない。

 ごめんなさい、とレイは謝った。誰の何に対して謝罪したのかは自分でも分からなかったが、なんだかこのまま別れてはいけないような気がした。

やがて、“アーク”の持つバズーカの砲口から白い光が漏れ広がり、そして、“シーラカンス“も“ファルス”も、大地も木々も空も空気も、そしてレイの視界でさえも。

高さも幅も奥行きもない、綿々と続く空白がそうやってすべてを呑みこんでいった。

真っ白な空間が、レイに迫りくる。“ダンテ”はさらに翼をはためかせ、高度を上げていく。サウナに放り込まれたような熱が体をくるみ、レイは眩暈を感じた。必死にダンテの体にしがみつく。意識を失えば落下し、あの白い輝きに蹂躙された景色に入り込んでしまえば、おそらく命はないだろうということは、容易に想像できた。

赤い花が、地面に咲く。大爆発が山を砕き、破壊する。そして轟音が周囲を揺るがし、破裂した空気が一瞬で、天を焼き焦がした。


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