1、罠
ガタンッ、ガタンガタンッ!
数日前に街を通り過ぎ、
先日は森を、
今は森からの街道を馬車で緩やかに走っている。
「あと少しですね・・・。
ニーナは何をしているでしょうか?」
彼女は巫女の候補の1人ですから、
きっと忙しいのでしょうね。
「・・・早く帰って、お土産を渡したいものです。」
「ええ、そうね。」
「ああ、そうだな。」
どうやら私の独り言が聞こえたようですね。
マックスとエリーの2人も兄弟や彼氏に買ったであろうお土産を手に優しい笑みを浮かべている。
今回の任務は3人である教会の警備。
幸い特にこれといったアクシデントもなく、
恙なく終わった。
「それにしても、アデルが一緒だとやっぱり安心よね。」
「そうそう、なんたって善良なアデルだからな。」
「まったく、からかわないでください。
私は以前異端審問にかけられた身ですから。」
「でも、それも取り消しになったんでしょう?」
「そうそう、んなの気にすんなって。」
・・・2人とも・・・。
私は本当にいい友人に恵まれました。
「マックス、エリー、ありがとう。」
私は心からそんな言葉を贈ると、
2人はどこか違和感のある笑みを浮かべます。
けれど、言葉では、
「いいってことよっ!」
「うふふ。」
などといつもと変わった様子はありません。
「?」
私はそんな疑問をどこかにやり、
2人との会話を楽しむ。
もろもろの報告は2人が引き受けてくれるとのことで、
私は家路を急ぎます。
・・・きっとニーナに似合う・・・喜んでくれるといいですね・・・
花の髪飾りを握りしめ、
走り出す。
家の前に行くと・・・
・・・ん?
・・・なんで教会騎士が・・・?
1人に声をかける。
「何かあったんですか?」
「おいおい・・・知らねえでここに来たのか?」
どこかあきれた様子だ。
「・・・傷害だよ・・・。」
はっ?
「ここの住人が襲われたのさ。」
・・・ここの・・・?
そこはどう見ても私の家で・・・
・・・ってまさかっ!
「ニーナ、ニーナじゃないですよねっ!」
「ん?
なんだ知り合いか?」
話している騎士以外の騎士が驚いたような声をあげる。
「おいっ、なにをして・・・ってそいつ、アデルじゃないかっ!?」
「なにっ!止まれっ!」
けれど私にはそんな声は耳に入らない。
私を捕まえようと、
2人の騎士が襲いかかってくるが、
避けて、扉を開ける。
バタンッ!
「ニーナッ!」
そしてそこには・・・
おびただしい量の血の跡・・・それに・・・どこか変なにおいが・・・。
急に後ろから腕をつかまれる。
「おいっ!
お前を拘束するっ!」
「えっ?」
「なにがえっ?だよ・・・てめえがやったんだろっ!」
「私が・・・私がなぜ?
というか、ニーナは大丈夫なのですかっ!?
こんなに血が、それに変なにおいもっ!?」
「は?
何を言って・・・てめえが犯して、ボコボコに殴ったんじゃあ?」
「何を言ってるんです?」
男は私に軽蔑の視線を送ってくる。
私は彼の視線から彼が言っていることが事実だと確信した。
体中から血の気が引いていく。
・・・ニーナが・・・
・・・お・・・か・・・された・・・。
・・・殴られた・・・。
体の力が抜けていく。
あまりの衝撃に呆然としていると、
腕を引っ張られた。
・・・腕を引っ張られたのだろう。
声が聞こえてくる。
「おいっ!
さっさと連れていくぞっ!」
「なあ、ちょっと待ってくれないか?
どうもこいつの様子は・・・。」
「何を言っているっ!
大司教様がおっしゃっただろうっ!
こいつは元異端候補者・・・それも偽装の能力を持っているんだぞっ!」
「け、けどよ・・・。」
「くどいっ!
なら私が連れていくっ!」
そうして私は腕輪をつけられ連れて行かれる。