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Living...  作者: 名前記入欄
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七話『邪魔』

 あの後、数分後、見知ったような、やはり知らないような青年が、橋に向かって歩いてくるのが見えたが、それが太一だとはすぐに気が付いた。

 まぁ、顔は受験の時に見ていたので、特に問題はなかったのだけれども、しかし、何と言えばいいのか、顔も変わり、体格も変わり、声の質も変わり、それはやはり、俺の記憶に残っている友人とは、とてもかけ離れた様であった。


 俺はといえば、暑さにやられ、堤防から体をずり落ちり、河岸ギリギリで止まっていたのだった。

 落ちてずぶ濡れになる直前で止まったのは良かったが、濡れた濡れたで、涼しめたのではないかという疑念が、俺の中で舞っていたのであった。


 そして、橋から、数分歩いた距離。俺と太一は笹幹家に着いたのであった。


 お邪魔である。

 ところで、なぜ、人の家に上がるときに『お邪魔します』とか「お邪魔しました」とかいうのだろうか。とかいう疑問を、何となく思ったのであった。



 二人で、玄関に上がると。そこにはやはり知らない少女が、立っていた。

 まるで、旧知の敵が乗り込んでくるのを、今かと待ち構えているのような出で立ちであったのは、かなりの印象である。


「あれ、リビングで待っていてって言ったのに」


「お兄ちゃん。なんでソイツを連れて来たんですか?私は、連れてこないよう言ったはずですけど」


 あまり、歓迎されていないようだった。

 少女、実からしたら、俺はそれほど悪い人間に見えるのだろうか。かなり残念である。


「あ、どうも。明人といいます」


「知りません。お引き取りを願います」


「コラ、実!いくら何でも、そういう事を言うもんじゃないよ」


 どうしようか。せっかくと思ってきたのだが、どうでのけ者扱いされるのだったら、いっそあの家に戻ったほうが良いのではないか。

 しかし、どうだろう。


 お父さんから言われた頼み事は、依然来ていないのだ。ここで帰っても何か言われるのではないか。

 此処は、我慢だ。


 所詮、相手は中学生。何を言われようと、ただのガキの戯言だ。聞き流してしまえばいい。

 そういえば、電話を切る前に、太一本人から、妹への注意をしてくれ見たいなことを言われてんだった。この際だ、兄公認に元、一言くらい言っても罰は当たらないだろう。


「あー、実・・・さん?」


「はい?」


 睨まれた。怖い。


「もしかして、こういった態度は、俺以外にもしてるのかな?」


「いえ、別にあなたに限った話ではないです」


「?」


 どういうことなのだろうか。

 つまりは、俺以外にも、似たような態度をとっている奴がいるということなのだろうか。

 それは、なんともひどい。


 と、次に実の口から何か言おうとしたとき、


「おい、それってどういう意味なんだ」


 と、少し厳しめな口調で、太一が口をはさんだ。


 兄だからというより、ただ、『どうして?』というそっちの方が強めの主張であった。


「え、あ・・・それは」


 兄からの言葉に、言葉を詰まらせる妹。まるで濁すように、顔を斜め下に向いて、俺と太一から視線をずらしている。


 数秒間の沈黙。


「あのー・・・」


「話は、後で聞こうか。明人も上がって上がって」


 えーーー。

 もう帰りましょうか。と言おうとしたが、残念、よく分からない形で、兄妹の説教に巻き込まれてしまった。


 腹減ったなー。


 俺は、太一に案内される形で、一階のおよそ一番広い部屋に招かれた。太一には、そこの大机の所の椅子に座っていてくれと、言われ。黙って座った。


 気まずい空気。


 親は、いないようだった。仕事にでも行っているのだろうか、たしか、今日は平日だった。いないのは、当たり前か。

 机には、太一と実が、対面する形で座っていた。俺は、一応太一側の人間であり、妹からは、一応被害は貰っているので太一の隣に座っている。


 妹、実といえば、分が悪いような顔をしている。


 何というか、隠れて悪い事をしていたのが、親にばれて、今からされるであろう説教に怯える子供のようなそんな顔である。


「で、さっきの言葉は、どういうことかな?」


 太一の言葉で、会話は再開する。


「その。あ、えっと」


 先ほど同様、言葉を詰まらした様子の妹。俺に対する態度とはまるで真逆。やはり兄だからなのか。


「こいつは、兄ちゃんの友達だ。分かるか?」


「・・・はい」


「実は、こいつを憶えているか?」


 あれ?俺、コイツ呼ばわりされた。


「一応・・・・・・知ったかぶりのキモい奴」


「あっれ?!」


 思わず、大声を上げてしまった。


 え!、どういうことなのか。俺って、こいつの中で、酷い奴みたいになってるじゃん。

 下手したら、泣きたくなってしまう。


「太一さん太一さん。俺ってそんなひどい人間でしたでしょうか?」


「ごめん。なんでか実の中では、明人は極悪人扱いなんだ」


 太一に説明を求めたが、嬉しい言葉を得ることはできなかった。いや、キモい奴と言われて、それ以上の説明なんて、そうないと思うけど。

 しかし、なんだ。この8年間で、あのピュアそうな女の子が、どういういきさつでこう成長したのか想像できない。というか、どうしたら、俺のイメージが、450度くらい変な曲がり方をするんだ?


「いや。もういいよ、俺のイメージについては。どうせ、今から言っても仕方ないして。そこら辺はおいおい適当に修正してもらえればいいからさ。むしろ、俺や、その他勢に対しての態度を変えてもらいたいのだけれども」


 一つため息をして、俺は、太一にそう言った。

 俺のいないの間に、どういうイメージの変化があったかは知る由がないので、ここはもういい。


 問題は、太一が議題に出した礼儀知らずの件だ。


 ・・・・・・あれ?普通こういった議題は、家族会議でやるもんじゃないないか?

 父親が議長をして、母親がその補佐をする。んで被告人、この場合はそこの妹が説教を食らうわけだが。なぜか、考えればここには、両親がいない。のに、家族でもない俺がいる。

 ・・・・・・俺、邪魔なのではないだろうか。

 そんな事を考えるが、話は進んでいく。


「明人が、そう言うなら、・・・・・・分かったけど。うん、実」


「・・・・・・はい」


「どうして、そういうことをするんだ?」


 しかし、太一の言葉に、実は答えない。うつむいた様子で、口をつぐんでいる。


「小さい頃から言ってたよね。自分がされて嫌なことは、他人にもするなって。電話の時も、びっくりしたけど。玄関でのあの態度。どういうことなのか説明をしてくれる?」


 どうしてだろうか。何か違和感を感じる。

 太一の言葉自体には、何も嘘はないのだけど、何か微妙に違和感を感じるのだ。

 それが何なのかよく分からない。


「その顔が、とても嫌なんです」


 ふと、開いたその口は、俺に向けられていた。そのことに気が付いたのは、キッと実から睨まれてからであった。

 睨まれていることに気が付いた俺は、その様に、一瞬驚き、固まってしまう。女子からキモいと言われる機会はあったが、そこまで嫌われて睨まれることはさすがになかった。


 昼間の出来事のように冷や汗を掻くことはなかったが、すこし背筋が冷たくなった。


「おい、実!」


 太一が叱責したことで、すぐにその目は落ち着いた、こちらを向く視線は、痛かった。


「ごめん。こういったことは。言われた奴も含めて話し合いたかったんだけど。なんだかアレみたいだから」


「分かった。うん」


 結局、話は有耶無耶になった様子。

 結果、分かったのは、俺は友人の妹に、酷く嫌われているという事。それだけだった。


「えっと、俺は帰るわ」


「うん」


 太一も、申し訳なさそうな返事をした。

 俺として、正直どうでもいい話だったので、帰ろうが何だろうがよかったのはここだけの話。要は、連絡が来るまでの時間つぶしだったのだけれども、話もこじれてきたので、家から出るしかなかった。


 話としては、こんな家族会議みたいな事よりも、ここ数年の町の話とか、街の土地とかを題に話をしたかったのだけども。

 それも、後日であろう。


 もしくは、探検まがいというか、一人で散歩がてら歩いていくのも悪くはないのかもしれない。


 して、机から経とうとして、喉がひどく乾いていることを思い出した。


一杯くらい水を貰おうか。嫌われていようが、それぐらい構わないだろう。

水分は、車にて飲んだお茶が最後。喉が酷く乾いている。川の水でも飲んどけばなんてことも考えたが、見た目はきれいでも、そればかりは考え物だ。倫理的にも健康的にも悪そうだ。


「こんなことを言うのも悪いと思うんだけど。水一杯貰ってもいいかな」


「あ、別にいいよ」


 太一はそういうと、そこから部屋を出ていった。多分、台所にでも行ったのだと思う。

 そして、取り残される俺と、友人の妹。


 気まずい空気が、漂っている。

 まるで、出ていけ出ていけ邪魔者は今すぐ立ち去れと言わんばかりの睨みようであった。


 太一には立ち去る前に、睨むなとでも注意してもらいたかった。


「え、あ―――」


「ん、持ってきたぞ」


 何か言うべきかと思ったが、言葉を放したちょうどその時、太一が戻ってきた。

 手には、透明のガラスのコップ。中には八分くらいの水だった。注文通りという感じ。


「あぁ、ありがとう」


 俺は、それを取ろうとした。


 が、その時、それは、俺の手中に入ることはなく、手に取っていたのは、実であった。

 どういうことか、考える暇はなく、気が付くと、俺は、顔がずぶ濡れに濡れてしまっていた。

 どうやら、実は、太一から取り上げたコップの水を、俺にぶっかけたようだった。


 まったく鼻に水が入らなくてよかった。じゃなくて、え?


 数秒間、空気が停まった。

 俺の顔から水が、ピシャリと落ちていく音のみが聞こえていく。


 なんだろうな。


 此処までされるんだから、きっと俺って、小学生の時、何かやらかしてるんじゃないか?

 憶えてないけど。


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