五話『電話』
一話を一万弱で投稿していましたが、意外ときついことが身にして分かりました。
ので、まぁ、3分の1か、それ以上の文字数で、やっていこうかと思います。
それにあたって、以前投稿した分は、分割して掲載し直しました。
日時がおかしなことになっているのは、そのためです。
申し訳、ありませんでした。
結局、昼飯を食いそびれてしまった。
そんな独り言を言う余裕が出始めたのは、とぼとぼと家から追い出されてから十数分。大橋に着いた頃だった。別に目的地ではないから、経過地点という訳だが、腹も減って、気も滅入っており、あまり動こうという気にはなれなかった。
橋の中腹あたりで、腰を下ろし、暑い日差しの下を、汗を流しながら、太ももに腕を乗せて
『西 後田橋』と、刻まれていた橋の石柱は、少し古く、ところどころ石が風化している所が見受けられてた。橋全体を、見渡すが、朱色に塗られた一本の丸く大きく歪曲した木柱も、石柱同様、色が剥げている。
財布は、車の中。コンビニでおにぎりとお茶の一本でも買っておこうか、と考えたが、そのことに気が付くと、誰もいない道中で大きくため息をついてしまった。一回、ため息をつくと腹の減りが際立って、自分に襲い掛かる。一瞬、戻ろうとも思ったのだが、あの時の親父の剣幕?か、アレのせいで、戻る気にはなれなかった。
そういえば、姉貴も追い出されたりしなかったのだろうか。もしかして、俺だけ追い出されたのかな。少しして、歩いた後振り返っても誰もいなかったし、きっと俺だけだったんだろうなぁ。
手持ちは、携帯。それで何ができるんだよって話なんだが、まぁ、出来ることといえば、連絡の取り合いくらいけど。あぁ、そういえば、親父からの連絡はまだ来ていなかった。
先程、橋に着いたときに着信履歴に親父から不在着信が来てないか、確認しても来ていなかったので、今一度、再度確認したが、来ていなかった。
今も、試しにメールの確認もしたけど、それもなし。
まぁ、頼みたい事、というか用事と言われれば、多分、買い出しか何か何だろうな。
「あれ?」
ん、だとしても、今、俺財布持ってないからな。結局、戻ってくることになるな。でも、親父には頼みたいことあるからとか言って、家から追い出されたし。追い出された手前、戻るのも、また何か言われそうだし。うーん、面倒だな。
あれ。どうしよっかな。
汗もかいてくる。橋の、日差しの強いところにいるんじゃなかった。川が流れてるとか、今考えたら訳が分からない理由で止まっているんじゃなかった。
近くに、公園とかなかっただろうか。そっちのほうが、木とか日陰になる場所くらいあるだろうし。水を飲む場所くらいあるだろ。
そうなるや、行動は一つ。近くにあるであろう、公園にて、親父から連絡が来るまで、のんびりいようじゃないか。
そう力ないように意気だって、俺は立ち上がる。立ち上がると同時に、すーっと冷たい風がなびき、俺は涼しく感じるとともに、あの数十分前の出来事を、ふと思い出したのである。そして、今まで湧き出ていたであろう、一人暮らしへの楽しみは、深い沼に消え去ってしまった。
親父が俺を追い出した後の家のあの部屋。詳細には、居間なのだが。あの後、二人がどうしているかなどは、考えたが、正直のところ、あの部屋に戻る気にはなれなかった。アレを見たからには、もう、あの家には居たくない。そう、正直に言うしかない。
せっかく、持ち上がった腰が、橋の柱にのしかかって落ちてしまった。
胃が、何となく気持ちが悪いのは、飯を食わずに歩いていたせいなのか、単なる軽い熱中症なのか、それとも、アレを見たせいなのか。
「はぁーーー。」
なんだ。何かの罰なのか?
正直、考えても仕方がない。仕方がないから、もっと別の事を考えよう。絶対ないだろうけど、逆に、親父が俺を追い出したのが、あれは俺の高校入学のサプライズだとしたらどうだろうか。俺が見たのは、俺を追い出すための・・・いや、違う。アレは、半分、透明だった。あんなことが親父や姉貴にできるわけがない。いたずら好きの姉貴だって、俺を怯えさせるために、あんな事ができるとは思えない。そういえば、霧で3Dの立体スクリーンなんかが作れるらしいけど、やっぱり、一軒家を買ったうえで、そんな高そうな物を買えるとは思えない。
じゃぁ、サプライズ。その線はあっていたとしても、・・・いや、やっぱりその線もないか。あの時の親父の顔が忘れられない。ダメだ。頭が軽く混乱している。胃が気持ち悪いのもあって、考えるだけでも胃に来そうだ。
太陽は、無慈悲にもその日差しを、差し向けてくる。全く、空を見上げれば、雲なんて一つもない。太陽を隠す雲なんて一つもない。今日は、春の始まりなんだぞ。逆に言えば、冬の終わりのはずなんだ。
なんで、桜の咲く前から、夏を感じなければならないんだ。不思議で仕方がない。
「早く、公園。日陰にでも行こう」
軽く、口を押さえながら、立ち上がった。
そうやって、立ち上がったところで、遠くに、何かしら空き地で、遊んでいる子供たちが見えた。小学生くらいか。今どきの子供たちは家でゲームがなんだと遊んでいたが、どうだろうか、こんな土地では、家でゲームという文化的な概念は浸透していなかったか。いや、もしくは、親から「家でダラダラしてないで」とでも言われて、外に追いやられたほうか。
あれは、追いかけっこか。家の土地なんか考えもなしに勝手に跨いでは、家の間を潜り抜けたり、側溝につまずきかけて、コンクリートの道に膝をついていたり。見ていて、いろいろと危なっかしいモノであった。
しかし、どうだろう。見ている分には危なかっしいが、当事者、小学生からしたら、そんな危険な行為が容易にできてしまう。出来る気がして、実際にできてしまうんだ。
俺も、今はどうだろう。そんな事をする子供たちの心理が今なら、なんとなく分かるけど、実際にやってみろと言われれば、多分、出来ないだろうな。
「そういえば」
そういえば、と、そんな子供たちを見ていて、ふと小学生の頃からの友人を思い出した。たしか、受験時に、寄ったのだった。合格したら連絡寄こせと、電話番号を教えてもらっていたが、何分、その頃は自前の携帯を持っていなかったから、親の前で電話をするのも気恥ずかしかったし、合格したときも、連絡を疎かにしていた。
携帯電話を取り出して、電話帳を探してみる。まぁ、探してみるといっても、中身は数える程しかないから、何とも言えないんだけれども。と、
「あった、あった」
入れていたはずだが、軽く緊張が自分の中で走る。が、どうも数日前の自分は割としっかりしていて、よかった。出来れば、その時に、なんで家を買ったという事に疑問を持っていてくれればよかったのだが。
まぁ、そこは過ぎた話だと割り切ろう。
早速、電話をかけて―――と、その前に、日陰に逃げ込む。今でも、軽く気持ち悪いのに、倒れでもしたら、要らぬ心配をしてしまうかもしれない。
橋であったのが良かった。直ぐに堤防があって、そこには木が何本も植えられている。大分、大きい木だ。両手を回しても、ギリギリ届かないくらいの大きさ。
そこに、太陽から逃げるように、木の陰に回り込む。川の南側の堤防の木に座ったおかげか、気のせいか、景色的にも涼しく感じた。
では、ようやく。耳に携帯を押し付ける。
「・・・・・・・・・、あ、もしもし?」
「はい。もしもし、笹幹です。どちら様でしょうか?」
あれ?女子だ。知らない声。
「えっと。お、b僕はえーっと、草間と申しまして」
女子に対して、一気に引き気味になってしまう俺、何だろう、悲しいな。
というか、あれ?番号的に携帯電話に繋がるはずだった気がするけど、気のせいだったかな、固定電話だったかな。あれ?
「はい。どのようなご用件ですか?」
「・・・・・えっと、そちらにお兄さんはいますか?」
「兄ですか?はい。家にいますが、えっと、兄とはどのようなご関係で?」
なんなんだ、この事務的な対応の仕方は。俺は家ではなくてサポートセンターに電話をかけてるのかよ。
それにしても、笹幹家には、そんなしっかり?した大層な人がいたのか。太一の事を兄と言っていたのだから、妹ではあっているのだろうけど。
「あ、はい。えっと、そちらのお兄さんとは小学校からの友達で」
「あぁ、そうですか。なるほど。ちょっとおm―――」
「?」
声が、聞こえなくなった。どうやら、電話が取り上げられたようで、電話から、微かに二人の声が聞こえてくる。
声的には、男と、先ほどの妹。
静音はすぐに終わり、電話からは声が戻ってくるが、しかし、今度は妹ではなかった。
「あ、はい。もしもし?明人?ごめん、実が勝手に電話を取っちゃって。アイツ、人の携帯を取るのが癖でさー。いつも、ダメだって言ってるのに。全く、今度だって、アイツ、『ちょっとお待ちください』なんて言いながら、電話切ろうとしてたんだぜ」
「・・・・・・・・・それは、やべーな」
「だろー?まったくだよ。まったく。しっかし、どうしたんだよ。受験発表の日には電話来るもんだと思ってたのに。来なかったし。んだと思ったら、春休み直後に来て。ん?という事は、受かったの?!よかったじゃん!んで、どうするの、泊るところとかさ、困ってたから電話かけたとか?だったら」
「ちょっと待て、ちょっと待て。誰お前」
「誰って、何だよ。」
「いや、だって、俺の知っている太一って」
俺の知っている太一は、こんな陽気に喋るような男ではない。