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一話『苦言』

3月20日


「あれやこれやと、勇者だ魔王だなんて作品は正直飽きてきた。実際のところ、そんなことは起こらないなんてことは太陽が昇る前から分かってることだし、侵略者が地球を攻めてきたなんてことは百歩譲って起きたとしても、それが人間みたいな超絶美形で超かわいい女子高生みたいな見た目の女の子なんてことは、絶対にありえない。

 何が、転生だ。何が異世界転移だ。糞喰らえ。糞喰らって死んじまえ。そんなもんに次の世を任せるくらいに絶望してんのに、次の人生が優雅な人生とは限らないだろうが。前世がヒキニートでコミュ障のくせして、全くの別世界で新規一転できるわけがないだろうが。それができるくらいなら、前の世界でも十二、三分にエンジョイしてるだろうが。


 訳が分からん!


 まぁ、いいよ。そんなもんは二次元の出来事であって、三次元には関わりのないことだからね。


・・・・・・・・、でもさ!これくらいは言わせてもらわないといけないわけ!分かる!?

テンプレ過ぎんのよ!こいつら、似たような顔の奴ら!どんだけ平凡が好きな主人公が好きなのよ!、そのくせ、前の世界に戻したいとかさー、もう満腹!変わっちまった世界を受け入れようとかそういう姿勢を持ったりしない?おかしな性格とか、趣味とか。何というかさー、もう変に凝ってるだろうとという主張は分かるんだけど、もうそれ自体がテンプレというか。もっと、こーやってくれないかな?


もはや、これは罪だね。大罪!

テロって言ってもいいよ!これは!


人がやらないだろうって思って、書きだす姿勢は良いと思うよ。うん。見習うべき奴だよ。でもだよ、それで、『〇〇は、実は××だったのだ』とか『平凡な△△はこんな過去を有していた』とか『□□は◇◇体質だ』とか・・・。飽きたわ、内容を変えてこようと、全体が変わってねーんだよ!出直してこい、バカが!


似たようなモンばっかり売りやがって。どんだけ作る気ねーんだよ。勇者の孫とか、ドラクエで十分なんだよ。そりゃさ、ドラクエは好きだよ。大好き。もう、何時間もやっても飽きないもん。


ところがどっこい。それを一般人みたいな奴が、一般の世界からやってきて、それを成りやがるだもん。たまったもんじゃねーよ。


最初の頃は良いよ。「斬新だね」「真新しいね」「違う角度から考えたね」とか。それが二度も三度も百も二百も考えられると、それはもはや、ねーーー?」

「いや、知るかよ」


 こんな暑苦しい車の中で、なんで姉貴の糞つまらないオタクみたいな独り言を聞いていなくちゃいけないだよ。最初、何か語りだしたかと思えば、突然素に戻って、熱く他様の作品の文句を言いだし始めたし。


 3月の初旬だというのに、ほとんど夏のように暑い。テレビでは、例年以上の暑さだという。温度計なんかはないから、何とも言え、あぁ、携帯で見ればいいのか。38度。最悪の引っ越し日和だな。


 全くというべきなのだろう。姉貴の文句の言いようも全くというべきなんだろうけど、この暑さもどうにかできない物だろうか。毎年、更新されないか。よく分からん所で、史上最高温度更新とかテレビで言っているような気がする。それこそ、よく飽きずに言ってられるよなと思ってしまう。


「あと、ほら。あの女が万能設定。銃撃戦がすごいだとか。そういう奴がめちゃ糞かわいいんだよ、おかしいと思わ・・・・・・」


 まだ続けるのか。


 ・・・・・・。


「それ言うならさ、テレビとか漫画のモブの女子とか、意外と可愛かったりするじゃん」


「ん、あんた意外とついてくるね。そうよ、三次元の人間なんて99.99パーセントはブサイクかノーマルなのに、二次元は、大抵可愛いか普通じゃん。パーセンテージが逆になってるわけ、ブサイク率が極めて低いのよ。それこそ、ブサイクを売りにきた奴くらいにしかブサイクが存在しないくらいにしかさ」


「ほーん」


 ブサイクブサイク煩いな。ブス専か?あと、ノーマルと普通って何が違うんだ?


 適当に、返事を返すと先ほどサービスエリアに立ち寄った時に買ったお茶を飲む。


よくもまぁ、あんな要らないような知恵を持っているようで。羨ましいような、いや、あんまし羨ましくないか。自分がみじめになりそうだ。


 嫌いな事ばかりを言うのは、正直の話辛くなったりしないだろうか。こんなことばっかり言ってると碌な大人になりかねないんじゃないか?今年で高校2年になるわけだが、あんな人さまのせっかく作ったような作品に対して素人が付けて吐いたような文句をダラダラと。むしろ、逆にそんな事しか口から出て来ないんだから、この16年強、ほとんどアニメラノベ漫画ばかり見ていたのか。別の部屋だから、何とも言えないが、もしかしたら、想像以上に、実は染まっているのかもしれない。


 怖いな。そう思うと、それはそれで怖い。


 後ろの座席で腰を最大限に下して、むしろ寝そべっているような形になっている姉貴を、バックミラー越しに見る。手に持っている本の中身が気になって仕方がない。ブックカバーに阻まれて、表紙どころか題名すら判別しかねない。せいぜい、それが単行本であるという事が分かる程度。ページも紙が薄い物であれば300もいくかどうかのものだろう。そんなものは、世の中幾らでも存在するし。ラノベでも、単行本化した大衆文学の本でもあり得る。


 うむ。今年高校上がる程度の頭では、推理力には限界がある。しかし、先ほどから、こんな苦言を聞かされたのだから、ラノベの線はかなり高いんじゃないだろうか。実際のラノベがどの程度のページの厚さかは知らないわけだけど。


「ふぅ・・・・・・」

「なに、なんか文句がある訳?」

「いんや?よくこんな暑くて、ガタガタ揺れる車の中で本を読んでられるなと。酔わないの?」

「バスで、慣れてるから」


 慣れてるってことは、いつも登下校のバスで読んでるってことか。


「まぁ、それでも、ここまで揺れないけどね」


「揺れるようなボロい車で悪かったな。なんなら、ここいら下して新品の揺れない車にでも乗せてもらえ。あと煩い。黙って読んでいられねーのか?」


 あ、あぁ。


 姉貴の言葉を引き金に、隣で運転してた親父が口を開いた。まぁ、そんな自分の物を貶されるような事を言われたら、誰だって人事くらい言いたくなるものだろう。それに、あれだけ詰まりもせずに口が開いていれば、黙れと言いたくなる。と思う。


 一緒に会話をしていた当事者だけあって、これ以上姉貴の文句を他人事のように言えないのは、気づけば痛かった。


「それに、なんだ。凪沙も人の事言えないだろ。お前のノートにあったおかしなおとg―――」


 え、何?!なんだって?


「ぁああああぁぁあああああ!!!、読んだの!?信じらんない!人の勝手に見るとか、親のすること?!」

「仕方ないだろ、リビングに置いてあったんだから」


 後ろから、声にもならない、悲痛の叫びが微かに聞こえてきた。いやーーー、痛いな。俺なら死にたくなるレベルだ。見えないけど、顔は真っ赤に染まっているんだろうな。見えないけど。


 そこからは、会話にならなかった。こちらから会話を始めようとすると、後ろからの「ちょっと黙って」の一斉カットが放たれる。俺や親父が何か呟いただけでも、「黙って」の連呼。親父も、自分が原因と分かってるだけあって、先ほどのように起こることができないのだろう。ふぅ、と鼻からなのか口からなのか分からないため息をしていた。


 さて、一息静かになったところで、状況説明に入ろうと思う。そうだな、一言で言うならば、今現在行われているのは、一人暮らしのための引っ越し準備兼小物と当人の搬送。という事になるのか。この場合、当人というのは俺にあたるのだけど。


 朝7時あたりから荷物をまとめて、一時間後には出発。お袋は車の容量オーバーで来ず、当人と運転免許は家族で親父だけで、あとは力要因の姉貴が呼ばれたわけ。実際のところ、姉貴が来たら来たで、さっきみたく煩いから、本心を語れば来てほしくなかったという物だけど、家では家事や爺ちゃん婆ちゃんの世話をしなければならなず力仕事の弱いお袋より、高校の部活でバレーを馬鹿みたいにしている姉貴が頼れるというのは、考えたくないモノである。


「~~~~~~~~~~~~~~ッ」


 ・・・・・・にしても、煩い。人が少し言葉を放つだけで、大声で煩い言うくせに、言う本人が一番煩いんだもんな。横を見れば、親父も分が悪そうな顔をしている。すると、目が合ってしまう。俺も、少しばかり気持ちがダウンしてしまう。


「・・・・・・あれって、俺が悪かったのか?」


 小さな声で、車のエンジン音に掻き消されるかどうかのような小さな声で親父が口を開く。相手は、俺のようだ。いや、この状況で、姉貴だったら。多分、親父の命はないだろう。その場合、皆もろともあの世行きか。それは嫌だな。


「・・・・・・さぁ、なんとも言えないけど。ちょっと、俺としては現場にいなかったから。」

「だよな。いや、親というか、人間としては目の前に詳細不明の本があれば、気にならないか?」

「・・・・・・気になる」

「だろ?親としてこういうことを言うのも何だろうけどさ、好奇心は人間の性だと思うんだが」

「いや、最低だな」


 でも、言いたいことは、何となく分かる。俺だって、似たような状況になれば、身も知らない分からないモノなんて、中身が気になっても仕方がないんじゃないか?親父にも非があるだろうけど、こればかりは姉貴が悪いというしかないだろう。


「まぁ、しかしなんだけど、今思ったけど、ネーちゃんも人の事を言いながら、自分も似たようなことをしてたんだな。」

「ん?」


 今先程で、話が終わったのかのような反応で親父は返事する。こちらとしては、まだ気になったことがいくつかあったのだけど。すると、親父も、相変わらず前を見ながら返答してくれる。


「こういう事を、本人の前で言うのも何だが、さっきはおとぎ話なんて可愛い言い方したが、あれはそんな優しいもんじゃなかったな」


「というと?」


 さっきよりも声は小さくなってくる。ちょいと後ろを見れば、姉貴は相変わらず乾いたような威嚇のような声を放っている。時折、声が止むこともあるが、すぐに放たれる。どんだけ恥ずかしかったのか分からないが、手に持っていた紙のブックカバーが破れた事にすら気が付かない程に、真っ赤になっているのだろう。


 因みに、中身は予想の斜め上の漫画だった。

 ガンガンのBL漫画だった。


「・・・・・・・・・」


 これは、見なかったことにした。そうしたほうが、こればかりはみんな幸せだと個人的に思ったから。


「で、何。優しいモンじゃないというと。もっとマニアックだったとかかな?」


 人の作品に対してケチをつけるなと自分で思っておきながら、そういうことに耳が寄ってしまうことを誰が咎めることができよう。

 親父は、俺の言葉に、少しばかり声を鳴らすと、口を開く。


「というとな、さっき凪沙が口々に文句垂らしてたの覚えてるよな」

「まぁ、そうだね」


 ほんと、よく言えたものだと。逆に感心してしまうほどだ。


「いや、よそう。面倒だ」

「え?」

「この話は、無しだ」


 ハンドルを握り直しながら親父は言った。

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