ついに行く道とはかねて聞きしかど
己の責務を全うしたシンカは早々に戦闘音が止んだ事を把握して全てが終わった事を理解した。ゆるりと身体を起こすとナウラが透かさず抱きついて来た。
彼女の強い力に流石のシンカも押し倒されて地に背を付けた。
筋力を強化する僅かな経すら存在せず、また精神の磨耗により経を練ることも出来なかったのだ。
「……終わったのか…?」
その問いに答える者は居ない。
ナウラはシンカの頭を抱えて唇を貪っていた。
零れ落ちた涙がシンカの顔に滴った。
「…また泣いたのか…」
暫くして漸く落ち着いたナウラにそう声を掛けた。
多くの同胞が命を散らした。
形あるもの、いつか必ず朽ち果てる。
人の命は更に儚い。
ふとした弾みで命を失い、動かなくなってしまう。
死ねば体は腐り、軈て大地へと還る。
それ程に脆く儚いにも関わらず、生きていく事も難しい。
食べなければ死ぬ。食べる為に働く必要がある。
働いても食べられない事すらある。仕事が無いこともある。
まるで試練だ。
森渡りに生まれて良かったと思う。
不条理に抗う力をシンカは手に入れた。
飢える事も貪られる事もない。
だが辛い幼少期であったのは事実だ。
世の子供達が鼻を垂れながら駆け回っている時分からシンカ達は知識を学び、体を鍛え、剣を振った。
苛烈な修行であったと思う。
その結果、今シンカ達は己の道を己で切り開く事が出来た。
努力をしてこなかった者に僻まれる謂れはない。
ナウラはシンカの胸を優しく押す。
「貴方は何時も私を不安にさせます。前の冬の様に何の不安もなく穏やかに過ごしましょう。2人で何処か静かなところへ」
シンカはナウラの背に手を回し抱きながら滑らかな肌を撫でる。
ナウラはシンカの事をいつも気にかける。
無表情の上によく人を揶揄うので分かり難いが、誰よりも情緒豊かでシンカのみならずヴィダードやカヤテ、ユタやリンファの事も誰よりも心配をしている。
これ程情の深い女に好かれた事は間違いなくシンカの生において掛け替えの無い出来事の一つであろう。
ナウラの背後で顔を限界まで赤らめたハンニが顔を背けていた。
いつの間にか森の薄暗がりの中にぼんやりとヴィダードの姿が浮かび上がっていた。
半裸で抱き合うシンカとナウラを闇の中から血走った目で見つめている。
明らかに怒っている。
美しい空色の瞳の周りの白目が真っ赤に充血しシンカですら恐怖を感じた。
「うん。2人で何処かへ行こう………と答えたらどうするのだ?」
「……ヴィーとユタは連れていきましょう。……いえ、それでは私の家事負担が……リンファも連れていきましょう」
「おーいっ!1人抜けているぞ!」
汗で額に髪を貼り付けたカヤテが現れる。
「其方達何をしていたのだ!?何故半裸!?」
此処は森の中だ。
騒ぐ場では無い。
しかしカヤテは隠しているがグレンデルの勝利に踊り転げたい筈だ。
だが。
「皆、次の任だ。イブル川を下り河口にて調査を続けるトウリュウに合流する」
グレンデルの生存を賭けた闘いは終わった。
一つの帰結である。
しかし時は止まらない。
この戦争が齎す筈の、次の出来事を解決しなければならない。
己がその物語の登場人物では無いとしても。
先ずはグレンデーラに戻り旅装を整える。
準備が整えば直ぐに出発である。
これから戦後処理が始まる。
死体が腐り疫病や経の変質が始まる前に死体を焼き払い地に返す必要がある。
森渡りは戦争に当たりシカダレスやオスカルに河川付近で戦わない事を了承させていた。
御告げの河口の龍対策である。
翌日早朝、シンカと5人の妻達は朝靄に紛れてグレンデーラを旅立った。
今にも雪が降りそうなどんよりとした空模様であった。
シンカ一向がグレンデーラを旅立った頃、東へ25日の距離、ファブニーラの東、エリンドゥイラの北で森渡りの努力を嘲笑う様に定とも取れる動きが起こっていた。
バラドゥアとエリンドゥイルの戦争を終わらせる為に駆け付けた赤鋼軍の増援、その陣中での出来事であった。
朝日が登る前から戦支度を行っていた赤鋼軍副将セオドール・サフォークの陣中に参謀のウルリク・ヴィゾブニルがやって来た。
「何か気になる事が?」
一通りの定型挨拶を終えてセオドールは剣を腰に括り付けながら尋ねる。
ウルリクは既に装備を整えてある。
「この戦について」
ウルリクに背を向けてセオドールは籠手を嵌める。
手を見下ろすセオドールの視界、己の胸から銀の刃が突如突き出た。
血濡れた銀の剣。
「……な…ぜ……?」
剣が引き抜かれる。
糸目を見開いて血濡れた剣を下げるウルリクを振り向き、息も絶え絶えセオドールは尋ねる。
ウルリクとは何度も戦を共にしていた。
憎まれる様な事をした覚えは無い。
「貴方をどうするか、迷いました。…ですが、我々の計画に貴方は差し障る。そう判断しましてね…」
血の湧き出る傷口を抑え、ウルリクは後退した。
脚が寝台に当たり座り込む。
「…計…画…?何を……」
「…最早貴方が知る必要は無い。大人しく此処で目を閉じて下さい」
寝台に腰掛け荒い息と共にセオドールはウルリクを見上げた。
軈てセオドールは座っている力を失い寝台に倒れる。
寝台が赤く染まる。
ウルリクはセオドールの命が失われていく様をじっと見つめていた。
軈てセオドールが息絶えるとウルリクは彼の遺体を整え毛布をかける。
そうしてセオドールの幕舎を出る。
「サフォーク卿が熱病に罹られている。この幕舎には入らぬ様、注意せよ。今日の戦の指揮は私が執る。よいか?」
「は!」
衛兵が姿勢を正し返答する。
戦の支度に慌ただしい陣中をウルリクは進む。
「本日の指揮は私が執る!日の出より進軍する!支度を進めよ!」
陣中を練り歩きウルリクは幾度も声を張る。
ウルリクが赤鋼軍を動かす事も度々存在した。兵士達は違和感を覚えない。
ウルリクは鞘に収めた血濡れた剣を己の幕舎で取り替えると馬に乗る。
日が登る。兵士達は陣を出て隊列を作る。北東を向き5000の兵士達が指示を待っていた。
視線の先には浅い森で遮られてはいるが、イングヴェイ・エリンドゥイル率いるエリンドゥイル軍が控えている。
ウルリクは剣を抜く。
風行兵が法を行いウルリクの声を拡散する。
「皆!我々が助勢するべきは北バラドゥアでは無い!」
兵士達はその言葉に疑問を持つ。皆バラドゥアに加勢すると認識していた。
バラドゥアは将軍グリシュナクの生家である。
皆が知る事実だ。
「グリシュナク閣下は悩まれていた!閣下の名声を笠に権力を己がままとし!民草を虐げるバラドゥアの在り方を!我等は正義のエリンドゥイルに助勢し悪逆貴公バラドゥアを誅する!全軍!転進!」
ウルリクの剣は北を指し示す。
バラドゥア軍の控える北に赤鋼軍が向きを変えた。
ウルリクは火矢を2発空に向けて放たせる。
北東から地鳴りが響き始めた。
エリンドゥイル軍が進軍を始めたのだ。
「我等も遅れるな!進め!」
龍角笛が吹き鳴らされる。
腹を震わせる重低音が幾重にも響く。
進軍が始まった。進軍の掛け声が早朝の空に響き渡った。
ユーロニモス・バラドゥアは陣中で南から2本の火矢が打ち上げられるのを見ていた。
進軍の合図であった。
「漸く終わる。…クヌート、頼んだぞ」
「は、父上。グレンデルが滅び、エリンドゥイルも滅べば我等バラドゥア一族の更なる発展、間違いございません」
南東に向いた軍が進軍を始める。エリンドゥイル軍とはあいも変わらず同格。
2軍は真っ向からぶつかり合った。
両者不退転。のっけから激しい衝突となった。
クヌートは指揮を執りながら考える。
長く足止めされた。
賊軍グレンデルを討つための軍。エリンドゥイルを下しグレンデーラに辿り着く頃に敵は残っているか。
その様な心配をしていた。
ぶつかり合った2軍に対し横から赤鋼軍がエリンドゥイル目掛けて攻撃を仕掛ければ直ぐにでもエリンドゥイル軍は崩れる。
その後は半数でエリンドゥイラを攻撃して指揮下に収め、残り半数にてグレンデーラに向かう。
エリンドゥイラは交通の要所。クサビナ中枢から離れた地を治めるバラドゥアにとって、重要な拠点となるだろう。
南から軍が押し寄せる。
「……あ?」
赤い鎧の軍勢がバラドゥア軍の脇にぶつかった。
「何故っ!?」
クヌートは雑兵の槍に突かれて馬から落ちる。
地に落ちたクヌートは直ぐに次の槍に突かれ、兵士に踏み潰されて命を失った。
脇を突かれたバラドゥア軍は脆かった。
二方向からの攻撃に耐えられず僅かな時間と共に北西へ追いやられる。
背後は川だ。兵士達はイブル川へ向けて逃げるしか無かった。
ユーロニモスの残った本陣はあっという間に潰される。
「何故…!?何故だ!何故だグリシュナク!?」
老人は踏み荒らされる陣の中、叫び徘徊していた。
その老人の前に騎兵が現れる。
イングヴェイ・エリンドゥイルであった。
「己!何故だ!エリンドゥイルは何故賊軍に味方をする!何故だ!」
全てを失った老人をイングヴェイは馬上から見下した。
「…先に我が一族に危害を加えたのは汝等だ。我等は汝等を決して許さない」
イングヴェイの槍がユーロニモスの胸を貫いた。
「……我等…が、汝等…に…何を、したと……」
老人は膝を突き喘ぐ様に言葉を絞り出す。
「………汝等にとってはその程度の認識という事、分かっていた。………死ね」
ユーロニモスの首が撥ねられた。
バラドゥア軍はイブル川へ追いやられる。
敵に背を向け背後から斬られ、斬られなかった者も雄大なイブル川に飲まれ藻屑と消えていった。
バラドゥア軍が滅びるまでに要した時間は1刻にも満たなかった。
10000のバラドゥア軍は悉く殺され大地は赤く染まり、血の川を作りイブル川に流れた。
イブル川に逃れた兵も溺死し川底に沈んだ。
直ぐに鎧の重さがあっても腐り浮き上がるだろう。
「……これが御告げか……」
森の中、高い木の枝からその有様をシャハンは見ていた。
「スイレン、伝達だ」
「はい」
スイレンが蝙蝠の声真似で情報を発した。
死体と血は腐り、含まれる経は変質するだろう。
もう止める事は出来ない。
「仕方がねぇ。こんなの誰が予想出来るかよ。俺達はエリンドゥイルの動向を窺うぞ」
スイレン隊の面々は無言で頷いた。
イングヴェイはバラドゥア軍を磨り潰すと赤鋼軍のウルリクの元へ向かった。
「イングヴェイ兄、初めまして。……漸く我等の悲願を達しました」
イングヴェイ兄。
ウルリク・ヴィゾブニルはウィルフレド・ヴィゾブニル侯の甥であったが、イングヴェイ・エリンドゥイルの再従兄弟でもあった。
ウルリクの母はイングヴェイの父、ビョルン・エリンドゥイルの従兄弟であったのだ。
「ではウルリク。後を頼むぞ」
イングヴェイは短く告げてウルリクに背を向ける。
向かうは南東。
目指すはクサビナの王都、ケツァルである。
40年程前、国内の4大公は今よりも力関係が偏っていた。
最も力があったのは今と変わらぬグレンデル。
次いでファブニル。
しかし残るエリンドゥイルとバラドゥアは公爵とは名ばかりで自前の兵も少なく家格が下である侯爵の方が権力を有している有様であった。
そこで当時まだ若く未婚であったリベルタス・フレスヴェル、戴冠前の前国王ラムダール8世に最も力の弱かったバラドゥアから当主の長女であるヴェンケ・バラドゥアを王妃として迎えさせた。
そして当時ガルクルトとの国境を巡る戦闘で名を成していた若きグリシュナクを取り立て、行く行くは赤鋼軍の長及びクサビナの将軍位に就けるべく要職に就けた。その位置にはグレンデルからマトウダ・グレンデルを推す者が大多数を占めており異例の人事と言えた。
ラムダール8世の父アウルヴァーグ4世は2大公状態を打破するべく腐心したのだ。
バラドゥアが公爵らしい権勢を得始めると次に着手したのは最後の公爵家、エリンドゥイル家の復権であった。
そもそもエリンドゥイル家は権勢に興味が薄く、質素倹約公明正大な人格者を多く輩出する家柄。復権には興味が薄かった。
ラムダール8世はエリンドゥイルから当主の長女であるベアーテ・エリンドゥイルを第二王妃に娶る事とした。
国内情勢を鑑みればそれは良手であった。
しかしエリンドゥイルは渋った。
当時の当主、ラールス・エリンドゥイルは自家の娘には順当な幸せを手にして欲しいと考えていた。
金にも権力にも携わって来なかった純朴なベアーテが、派閥闘争に明け暮れる後宮に於いて心の平穏を保てるはずもない。女としての幸せは得られないと。
ラールスを説得したのが若きフランクラ・ベックナートであった。
当時既にアウルヴァーグ4世の元で手腕を振るっていたフランクラは国の理想を説き、平和と安寧を語り、最後にベアーテの幸せと安全を誓った。
そうして17の時にベアーテは嫁ぎ、19にはロドルファスを出産した。
そして10年後のある日、彼女は急逝する事となった。29歳の早過ぎる死だった。
ラールス・エリンドゥイルは大層嘆いた。彼女を愛する同胞達も多くが涙した。
エリンドゥイルを訪れたフランクラは涙を流しながら彼女の死を伝えた。
病による急死と伝えた。
クサビナ王政はベアーテを手厚く葬り彼女を送った。
ここまでは表向きの話だ。
第二王妃としてのベアーテは生来の性格上王妃としての政務に熱心に取り組み後宮内の人望を集めていった。そこに他意はなかった。
だが第一王妃のヴェンケはそれを良く思わなかった。
彼女は高慢で己の権力を使える限り使い贅沢を行った。
ベアーテに人望が集まれば集まるほど憎しみを滾らせていった。
ヴェンケはベアーテに先んじて第一王子を出産した。
嫡男である。彼女の子供が将来の国王となる事は明らか。直ぐにベアーテが妊娠したが継承順位は揺るがない。いつしか憎しみは忘れ去られていった。
だがエメリックとロドルファスはその母親と同じ様に成長に従い人望に差が出始めた。
ヴェンケの憎しみは再燃した。
傲岸不遜なエメリックと物腰柔らかく明晰なロドルファス。当然の帰結であった。
ヴェンケは当主を継いでいた兄、ユーロニモス・バラドゥアに連絡を入れ、自家の暗部を担う者達を派遣させた。
そして彼女を毒殺した。
ロドルファスは母が殺された事を悟り、齢10にして己の命を守るべく兄に傅き兄を立て、ヴェンケの憎しみから逃れた。
フランクラは当時から使っていた己の子飼いの暗部によりバラドゥアの手の者がベアーテを毒殺した事を把握した。
だがそれを隠し病死としてエリンドゥイルに告げたのだった。
バラドゥアが次期国王に己の血縁の者が就ける様に手を汚したと、全て察していたにも関わらずである。
隠せば真相には辿り着けないと。
ラールスも、その長男ビョルンも大層悲しんだ。
そして軈て疑惑を抱くに至る。
己の娘、姉を殺した者がバラドゥアでは無いかと。
軈て疑惑は確信へと変わった。
公明正大質素倹約なエリンドゥイルは善政を敷く領主としての表情の裏でバラドゥアに対する冷たく燃え滾る黒い炎を燃やし続けていた。
そして到頭、その時が訪れた。
後に青黄戦線と呼ばれる戦争に端を成した建国以来最大規模の内乱である。
グレンデルとファブニルの争いにクサビナ中の諸侯のみならず周辺諸国まで巻き込んだ大火である。
ファブニルの甘言に乗ったバラドゥアに加え、王家に背くグレンデルを打つべくエリンドゥイルも兵を挙げると誰しもが疑わなかった。
だがエリンドゥイルはバラドゥアを迎え撃った。
赤鋼軍が挙兵しても尚、ファブニルに付かず、バラドゥアと停戦をする事も無かった。
全てはこの日の為にあった。ラールスにとっては娘の仇。ビョルンにとっては姉の仇。
軍を率いるはベアーテの甥に当たるイングヴェイ。
三代をかけてエリンドゥイルはこの時を迎えていた。
フランクラの説得にも応じず頑なにバラドゥアを迎え撃ったのだ。
バラドゥアとエリンドゥイルの裏話には更に底があった。
まず如何にしてエリンドゥイルが第二王妃ベアーテの死をバラドゥアと結び付けたかである。
母が死に幼いながらも己の命を危ぶみ、直感的にエメリックに阿ったロドルファスだったが、前日まで健康的であった母が病で突然死するとは考えられなかった。
そして慎重に隙を窺い己の祖父に疑惑を告げた。
彼等は連絡を控えつつもベアーテの死に関して調査を進めた。
ベアーテが倒れた翌日にロドルファスが母の部屋に赴く事に不思議はなかった。
ロドルファスはそこで母のお気に入りの茶用の杯を寝台の下から見つけていた。
ロドルファスはその杯が数客存在する事を知っており、予備を代わりに転がした。
その杯はベアーテの葬儀が終わり数月後にエリンドゥイルの元に渡る事となった。
杯の内側からエリンドゥイルは毒物を見つけ出した。
ロドルファスからの連携があってから直ぐにエリンドゥイルは彼等の息のかかった者達に後宮の出入りを徹底的に確認させた。
そしてベアーテが死んだ前後に普段は顔を見せない者が出入りしていた事を突き止め、その行方を追った。
その者はケツァルが第二王妃の病死に関わるごたごたが落ち着いた頃商隊と共に王都を出てバラドゥアの領都バラドゥーラに向かった。
彼が犯行を行った証拠は無い。
エリンドゥイルはベアーテが毒殺された証拠と、不自然なエリンドゥイルの者がベアーテの死亡前後に後宮に出入りしていた事実のみしか情報が無かった。
だが彼等にとって証拠は必要無かったのだ。
こうしてエリンドゥイルは憎しみを堆積させ、ロドルファスは己の命を守りながら周囲の人間に対しての影響力を伸ばしていき、エメリックの思考誘導を始めた。彼の自尊心を擽り巧みに操りロドルファスは己に都合の良い状況を作った。
フランクラとシカダレスのグレンデルに対する陰謀を利用すると共に、グレンデルに王家に対する不信感を抱かせる。
エメリックにさり気無くカヤテの危険性を吹き込み危機感を煽らせ思い通りに動かす事でグレンデルと王家の対立は決定的となった。
透かさず打倒グレンデルを掲げたファブニルを煽りつつも赤鋼軍を出し渋りファブニルが痛手を被った時点でグリシュナクを出撃させた。
ロドルファスにとってグレンデルが勝つかグリシュナクが勝つかはどうでも良かった。しかしグリシュナクだけは殺すと考えていた。
互角の戦争が行われる状況を見極めたのだ。
グリシュナクは母を殺した憎き一族だ。生かす事は出来ない。
だから彼に精霊の守りとして剣を贈った。
強く握れば仕込んだ毒針が刺さる様に。
グリシュナクは残念ながら剣を戦場に携えなかったが。
エリンドゥイルと通じた赤鋼軍のウルリクを増援としてバラドゥアに送り裏をかかせてバラドゥア勢を壊滅させた。
そして国軍をラクサスとベルガナへの抑えという体で国境へ派遣し、王都ケツァルは守りを失った。
王家とバラドゥア、最後にフランクラ・ベックナートの所為で敬愛していた姉を失ったと考えるビョルン・エリンドゥイルは長男イングヴェイ・エリンドゥイルにバラドゥアを打ち破った軍勢をそのままケツォルに差し向け、国賊フランクラ・ベックナートを誅するべく進軍したのだ。
その日は朝から粉雪が舞い散る凍える日だった。
フランクラは冷えによる腰痛に苦しみながら日和見を続ける諸侯を説得する為の文を認めていた。
其処に大きな音を立てて合図すら無くヴァルプルガーが駆け込んできた。
「!?何事かっ!?」
痛む腰に顔を顰めながらヴァルプルガーに視線を向けた。
「早馬が!グレンデーラにて赤鋼軍壊滅!」
「…なんと!?誠か!?」
「は。敵が行法により山を生み出したと。グリシュナク閣下も鋼将も討ち取られ、赤将は山に呑まれたと」
「山を、生み出す……?…馬鹿な……」
「フランクラ様。もう一つ。……バラドゥアの増援が寝返りバラドゥア勢は殲滅され、エリンドゥイルがこのケツァルに」
フランクラは激しい頭痛に襲われる。
「…お前が儂に嘘を騙るとは思わん。…何が……。よもや赤鋼軍が敗れるとは……エリンドゥイル………そういう事なのか……」
「フランクラ様。エリンドゥイルは…貴方を私利私欲にて国を惑わす悪臣と……」
「………成る程のう。……仕方ないのやもしれんな」
フランクラはあの時の事を覚えていた。
ベアーテ・エリンドゥイルが死んだ時の事を。
渋るベアーテの父ラールス・エリンドゥイルを説き伏せ、彼女を守ると誓いその命をみすみす失わせたのだ。
そして国を守る為と病死と偽って報告した。
当時ラールスはフランクラの言葉を信じたとフランクラは考えていた。
ラールスは失意により病に倒れた。
以来病を理由に登城しなくなった。嫡男のビョルンが名代として訪れる様になった。
病は真実だ。だが二度とケツァルになど足を踏み入れたくはなかったのだろう。
ビョルンもまたケツァルには余程の事が無い限り訪れなかった。
世間はそれを清廉なるエリンドゥイルの権力から遠ざかろうとする姿勢であると好意的に解釈していたが、違ったのだ。
憎んでいたのだ。
彼等にとってフランクラは娘、姉の仇同然なのだ。
フランクラははたと思い至る。
ロドルファスの目論見を。
彼は知っていたのだ。
母が病死では無い事を。
そしてバラドゥアを憎んだ。
「…行かねば……」
フランクラは歩み出した。
己の部屋を出て国王レムルバード5世の元、玉座の間を目指す。
「フランクラ様、お逃げを!」
ヴァルプルガーが引き止める。
フランクラはそれを無視して歩き続けた。
「エリンドゥイル軍1万は既にケツァル近郊まで!数刻後にはケツァルに」
「……よい。これは儂が撒いた種。あの時、ラールス公に嘘なぞ吐かねば…」
いや、エリンドゥイルがフランクラに憎しみを抱かなかったとしてもエリンドゥイルの憎しみは晴れなかっただろう。この時は必ず来たはずだ。
今更命は惜しく無い。
しかしはっきりさせなければならない事がある。
玉座の間の前まで辿り着く。
衛兵の間を抜けて玉座の間に辿り着いた。
レムルバード5世、ロドルファス・フレスヴェルは玉座に腰掛けていた。
フランクラが来る事を見越し、待っていたのだと悟った。
「…陛下…」
「その様子。企みは成功した様だな、爺」
ロドルファスは穏やかな笑みを浮かべた。
だがその目は何かに濁っている様に感じられた。
幼い頃からロドルファスは巧みなフランクラの誘導に嵌らなかった。
何の事はない。彼にとってフランクラは敵だったのだ。敵の言う事など聞くはずがない。
「……エリンドゥイルに、何をさせるつもりなのですか」
尋ねる。
胃の腑が軋む。
吐き気が込み上げた。
「…彼等の狙いは御義母上の目の前で軟禁されている兄上を殺す事だよ。その後は…残念だけど爺だ」
「なりません!なりませんぞ!これ以上この城で血を流しては!白亜の城が!血塗れの城と呼ばれますぞ!?」
「もう誰も止められないよ。爺」
フランクラはロドルファスの態度に違和感を覚える。
城内が慌ただしくなる。
エリンドゥイル軍が近づいている事が知れ始めたのだろう。
「……陛下、何をお考えなのですか!?」
フランクラは尋ねる。
ロドルファスは薄気味の悪い笑みを浮かべた。
最早隠すまでも無いと言うことか。
この仮面をロドルファスは齢10にして着けて育ってきたのだ。
己の命を長らえる為に母の仇と知りながらヴェンケに阿り、その息子に傅いて来たのだ。
全てはこの時の為に。
「陛下!バラドゥアや私が憎ければ私達だけを罰すればそれで良かったではありませぬか!?何故クサビナ中を巻き込む必要があったのですか!?1,000年の歴史を持つケツァル王城まで!?…この様な…」
鼻にきな臭い匂いが届く。
城に火が放たれているのだと悟った。
ロドルファスはにやけるのを止めて真顔になる。
フランクラの瞳を真っ直ぐに見つめた。
「母を殺したのはこの国だ。…母は優しく清廉な人だった。私は全てが憎かったのだよ。この様な国、滅べば良い。そう考えていた。貴族も兵も、何もかも滅べば良い。其れ程争いたいのなら!幾らでも争えば良い!私はその下地を作っただけのこと!下地を作るだけで皆見事に争い始める!」
ロドルファスの分厚い仮面が剥がれた瞬間だった。
目は吊り上がり赤らみ、獣の様に歯を剥き出し唾を飛ばしながら吠える様に語った。
幼い頃より聡明な王子であった。
母が死に、その聡明さには磨きがかかった。
兄と仲の良い姿を見てロドルファスは将来が安泰だと考えていた。
だが違った。
彼は周囲を破滅させる事を望み、その為の布石を僅か10から打ってきたのだ。
「…………」
フランクラは茫然と立ち尽くすしかなかった。
「爺。爺のおかげで私の計画は早まった。爺がグレンデルを貶めようとファブニルやロボクと示し合わせてくれたお陰でな」
ロドルファスは狂気を収め、穏やかに告げた。
しかしその言葉はフランクラの心を抉った。
どうしようもないほどに抉った。
ふらつき崩れ落ちるフランクラをヴァルプルガーが支えた。
城外が騒がしい。街に敵が近付いているのだろう。
鐘が鳴らされ城門が閉じる鈍い音が耳に届く。
だが王都には殆どの兵が残っていない。
治安維持隊程度が10000のエリンドゥイル軍と戦ったところで4半刻も保たないだろう。
「今となっては何故、グレンデルを貶めようとしたのか…私にも分かりませぬ……。誰かに操られていたと言われた方が納得できる程です」
後悔に潰されながらフランクラは言葉を溢した。
ロドルファスはただ肩を竦めるだけだ。
風に乗って何時もとは異なる喧騒が窓から漂って来た。
誰も動かなかった。
ロドルファスだけが憑物が落ちたかの様な穏やかな表情で喧騒に耳を傾けていた。
軈て戦闘音が聞こえ始めた。
フランクラは立ち上がりふらふらと窓に歩み寄る。
その時、ケツァルの西門が破られ兵士が雪崩れ込んで来る映像が目に映った。
「フランクラ様!父上!お逃げを!」
弱々しくヴァルプルガーを振り返る。
その肩口に玉座を下りて歩むロドルファスの姿が見えた。
「くだらない人生だった。母を殺され、その仇に傅き生きながらえた。怒りを殺し己の不甲斐なさに夜な夜な涙を流した。そんな私の脇で、皆くだらない利権を争って醜い戦いを繰り広げた。くだらない人間達の王。私もまたくだらない人間なのだと思い知らされた」
「……陛下」
ロドルファスは壁際まで歩き、壁の松明を手に取った。
「ではな、爺。ビョルンは爺を激しく憎んだが、私はそうでは無かった。母をみすみす殺させ、エリンドゥイルを騙した爺の罪悪感が成せる物だったかもしれないが、母を失った私を構い、守ってくれたのも間違いない事実だ。礼を言おう。ありがとう、爺……」
ロドルファスは油差しを手に取る。
「いけません!陛下無くしてこの国は!」
ロドルファスを除く王族の内、年嵩のいった者は皆死んでいる。
王女は他国へ嫁ぎ、王子は死んだ。
ヴェンケの手である事は分かっている。
「それではな、爺。憎悪でこの身が悪霊へと転じる前に、私は自らを浄化しよう。母上の元に辿り着ける様に、荼毘に付そう……」
そう言ってロドルファスは油を被った。
「母上……終わりました……今行きます………」
油を被ったロドルファスは己に松明の火を当てた。
そして炎の中で最期に一言呟き、呻き一つあげずに炎に焼かれた。
フランクラが止める隙は無かった。
フランクラはただ口を開けて手を伸ばし立ったまま焼けていくロドルファスを見送った。
ロドルファスの姿は炎に巻かれ、輪郭しか判別出来なくなる。
ロドルファスは終ぞ苦悶の声一つ出さなかった。
炎の中で手を握り合わせ、何かに祈りを捧げていた。
己の良かれと思っての行動が全て裏目に出て、国を荒れさせた。
その後悔がフランクラに鉛を飲み込んだ様に胃を重くさせ、絶望は頭を白紙にさせた。
軈て身を業火に焼かれ、立ったまま生き絶えたロドルファスがゆっくりと崩れ落ちる姿も言葉一つ、身動き一つせずに見送っていた。
ロドルファスは到頭最期まで悲鳴を上げなかった。
騎乗したイングヴェイが騎馬隊と共に街を駆け抜ける様子を認め、ヴァルプルガーは漸く動き始めた。
最早エリンドゥイル軍を防ぎ切る事などできない。
時間を稼いで無事な脱出口からフランクラを逃す事しかできる事はない。
ヴァルプルガーは配下に防衛の指示を出しつつ城を駆ける。
幸い火の手はあれど城は石造りである。
垂れ布や絨毯が燃えても城自体が燃え落ちる事はない。
だが煙に巻かれて死ぬ者は出るだろう。
ヴァルプルガーは禁書庫に辿り着く。
火は掛けられていなかった。
王立書館への抜け道が使えるだろう。
玉座の間へとヴァルプルガーは向かう。既に城内での戦闘が始まっていた。
ヴァルプルガーは敵との遭遇を避けつつ玉座の間へと急いだ。
しかし其処にはフランクラの姿は無い。
嫌な匂いを漂わせ火の手を上げるロドルファスの遺体が転がるだけだ。
ヴァルプルガーは城内を駆ける。
至る所で剣戟の音と人が争う怒声が聞こえる。
「ああっ!?」
燃え盛る王城を父と慕うフランクラを探し駆けずり回っていたヴァルプルガーはその光景を見て寡黙な彼に似合わず悲鳴を上げた。
まさかと思い燃え盛る王城の中をフランクラの自室目掛けて走り、扉を開けた先。そこでヴァルプルガーは縄で首を吊った老宰相の体を見つけた。
縄は軋みを上げ老人を揺らしていた。
「そんな!どうして!?」
慌てて駆け寄り糞尿に汚れた下半身など歯牙にもかけず身体を抱き止め、縄を切ってフランクラを床に寝かせた。
息を引き取っていた。
「……父上………………」
業火が迫り、黒煙が流れ込む中、ヴァルプルガーはただフランクラの身体を搔き抱いて座り込んでいた。
クサビナを良い国家であれと願い腐心し続けたその身体は枯れ枝の様に痩せ細っていた。
何も考える事すら出来ず、ヴァルプルガーはただ涙を流して父の身体を抱きしめていた。
ヴァルプルガーの生家、マクロリー家は滅びたハンネラ人の一貴族であった。
ヴァルプルガーの母は怒り狂ったバラドゥア軍の虜囚となりクサビナへと連れて来られた。
幼かった母は軈てベックナート家の侍女となる。
其処でベックナート家の当主に手を付けられ、ヴァルプルガーを孕んだ。
当主は母を追放し、母は場末の酒場で働きながらヴァルプルガーを産もうとした。
それを哀れみ助けたのがフランクラだった。
フランクラは母を匿い援助した。
しかし母は産後の肥立ちが悪く、ヴァルプルガーを産んで一月程でその命を落とした。
フランクラはそんなヴァルプルガーを引き取って育ててくれたのだ。
父の役に立ちたいと努力を続けてきた。
だが、あまりな最期だった。
己の所為で国を崩したと絶望して自ら命を絶ってしまった。
フランクラの部屋にも火が回っていた。
全てがどうでも良くなったヴァルプルガーは父の遺体を抱いて窓の外を飛ぶ黒い鳥を眺めていた。
「ヴァル」
そんなヴァルプルガーに声をかける者がいた。
「……」
彼は振り向きすらしない。虚ろな表情で虚空を見つめるだけだった。
「ヴァル!」
声の主、サンゴはヴァルプルガーの正面に立つと彼の頬を張った。
鋭く肉を打つ音が場外の騒音に紛れて響いた。
「貴方がお父様の為に必死で努力して、今それを失くしてしまった事は分かる。でもこれだけは誓えるわ。貴方にまで死んで欲しいと思うような人では無い!」
サンゴは必死にヴァルプルガーに語りかける。
「……俺は……父上に報いる為に……」
「知っているわ。貴方が御父様の為にどれ程必死だったか!」
「何も出来なかった……。父上は生を儚んで死んでしまった……」
ヴァルプルガーはフランクラを強く抱きしめて目を強く瞑った。
「最早…生きる意味は無い……」
ヴァルプルガーの決意の言葉だった。
しかしサンゴは諦めずヴァルプルガーの目を覗き込んだ。
「私じゃ貴方が生きる為の理由にはなれないの?」
部屋が燃えている。
炎に照らされながらサンゴをぼんやりと見つめ返す。
サンゴは目に涙を溜めながらもヴァルプルガーの肩を掴み、必死に言葉を紡いでいた。
「貴方は御父様の役に立つ為、ただそれしか考えていなかったかもしれない!でも浮浪孤児だった私は貴方に拾われて、鍛えられて、仕事を与えられて、人になる事ができた!貴方を尊敬してる!愛してる!……もし貴方が少しでも私を思ってくれているなら……お願い。私の為に生きて欲しい…」
「……お前は生きろ……」
ヴァルプルガーは言葉を振り絞る。
サンゴには、己が愛する女には死んでは欲しくなかった。
「……貴方がここで死ぬなら、私も一緒に残る。貴方にとって御父様が全てだった様に、私にとっても貴方が全てなのよ…」
ヴァルプルガーは首を振る。
それは受け入れる事ができなかった。
「頼む。父上と一緒に…」
「其処に私が居てもいいでしょ?」
ヴァルプルガーは苦悩した。
サンゴは梃子でも動きそうになかった。
軈てヴァルプルガーは立ち上がる。
彼女を死なせたくなかった。
父には申し訳が立たないが、フランクラが蘇る事だけは有り得ない。
崩れ始める白亜の城の中、2人の若い男女は寄り添いあいながら黒煙の向こうへと消えて行った。
森暦196年冬中月、エケベルにて戦端が開かれた青黄戦線に端をなすクサビナ史上最大の内乱、三色の役は数多の被害と共に終結した。
結果、内乱の中心にあったグレンデルは己らの土地を守り切った。
グレンデルとの戦の先陣を切ったファブニルは兵の殆どを失い、一族も殆どが戦死した。嫡男であるフィリコ・ファブニルが跡目を継ぐものの、以降急速に衰退していく事となる。
グリシュナク・バラドゥア率いる名高い赤鋼軍は壊滅し、将軍グリシュナクも戦死を遂げた。
ウルリク・ヴィゾブニル率いる赤鋼軍はバラドゥアの領都バラドゥーラを攻め落とし、バラドゥア一族は滅びる事となる。
グレンデルから解放された赤鋼軍の生存者はウルリクと合流し、以降ガルクルトやリュギルへの抑えとしてバラドゥーラにて徐々に兵力を回復させる。
生き残ったルーザースの雨月旅団員は負傷し戦線から外れていたクシャラに率いられてルーザースへと戻る。10000の兵は2000まで数を減らしていた。
帰りに傭兵たちは離散していき、数百にまで減った所でクシャラは雨月旅団を解散させた。
ルーザース王国お抱えの傭兵団にまで登り詰めていた彼等の呆気ない幕引きであった。
イングヴェイ・エリンドゥイルは王城を攻めて幽閉されていたエメリックを殺害しその首を母のヴェンケへと投げ渡した。
ヴェンケは気をやり泡を吹いた。ヴェンケ・バラドゥアはロドルファスを弑して己の子を王座に就けようと考えていた。だが死んではそれも叶わない。
クサビナ稀代の悪女はそのまま胸を貫かれて死んだ。
エリンドゥイルはその目的を達すると侍女に連れられて落ち延びた幼い王子を擁立し国の再建を図り始めた。
以降彼等は善政を布く事となる。
争っていた北方諸侯と中央諸侯は衝撃的な結末に矛を収める。
不可侵条約を其々が締結する事となるが、当然中央諸侯に些か不利な約締であった。
最後にグレンデルは荒らされた無人の街や村を再建し、春を待って領民を返した。
グレンデルの被害も馬鹿にはならなかったが、領都を守り切った彼等は更なる発展を遂げる事となる。
そしてゆくゆくはエリンドゥイルと協力してクサビナ王家を再び復権せるに至る。
多くの兵が命を失う壮絶な内乱であった。
後の歴史家はそれまで平穏を保って来たクサビナに何故これ程大きな内乱が起きたか首を傾げる事となる。
様々な説が提唱されたが、最も有力な説はエメリックとロドルファスの跡目争いにクサビナ諸侯が其々の思惑をもって参戦したというものだ。
だがその説にも不可解な点は多く、正しいと思われる解答は今日に至るまで導き出せていない。
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