選定されし者
しばらくダイスケと無言で歩く
ダイスケは嬉しそうだった
そんなにエインヘリャルが出ることは
光栄なことなんだろう
そう考えていたら昨日交代した
大きな白人男性が座り込み
ブツブツと言っている
「ダイスケさん、あの時から休み無く神様業務やっているんですか?」
ダイスケはニコニコしながら答える
「そうだよー。日本の治安の良さはここから来てるんだよね〜、代理神も手を抜かず業務やってくれるから治安も良いんだよね〜、他の国じゃこうはならないよ〜」
ダイスケは私を前に出し交代してみろと
ジェスチャーで表してくる
私はドキドキしながら白人男性の肩を叩き
「交代の時間です。お疲れ様でした」
白人男性は疲れた様子も見せずに
「憧れの日本を担当出来て光栄です。お疲れ様でした」
と一礼してくるこちらもつられて
一礼をすると白人男性は大きな身体を揺らし
タイムカードの方へと歩き出した
「さぁユウジ、今日は特別な日だからね〜、気合い入れて業務しようね〜」
私はゆっくり頷くと座り込みあぐらをかく
ダイスケも座り私の右肩に手を乗せる
また瞬間的に様々な思いが頭を巡る
出来る限り一つ一つに対応していく
昨日一日中やってある程度は分かっている
エインヘリャル!どんな屈強な男性だろうか?
片思いの女子高生
この願いは叶えてあげたい
安産祈願するお腹の大きな女性
よし安産にしてあげよう
明日の追試が延期になります様に
こんな願いも聞こえる
自力で頑張りなさいこの願いはスルーする
今度はコンビニ強盗だ
店員の命は助けよう
強く願うと強盗はお金だけ持って逃げて行く
そんなこんなでもう昼くらいだろうか?
神様業務を続けていると
虐待を受け首を締められてる小学低学年の女の子
これは是非助けてあげたい
そう考える瞬間ダイスケが肩から手を離した
パチュンッと画面が消えたみたいに
映像も音も思いも消えてしまった
「ちょっとダイスケさん、大切なところなんで、早く肩に手を乗せてください!」
私は焦ってそう言った
ダイスケの顔は真っ青だった気分でも悪いのか?
「ちょっとダイスケさん聞いてます?早く助けてあげたいんですけど?」
ダイスケが弱々しく答える
「助ける必要はない。助けちゃ駄目なんだ」
私は意味がわからないダイスケの左肩を掴み
「助ける必要ないってどういう意味ですか?小さな子が死にかけてるんですよ?」
「あの子なんだ」
ダイスケは弱々しく答える
「なにがですか?早く肩に手を、、」
そこまで言いかけた
ダイスケは強い口調で
「エインヘリャルはあの子なんだよ!」
えっ?あの女の子が?戦士?
「えっ?でも小学生ですよ?助けてあげないと」
ダイスケは声を荒げて
「年齢性別は規定がない、話したよね?あの子は選定された人間なんだよ!」
状況が把握出来ない軽くパニック状態だった
私は天界の戦士と聞いていたから
てっきり屈強な男性だと思っていた
しかし天界が選定したのは
小学低学年くらいの女の子だった
「あんな女の子が戦士になるんですか?」
ダイスケは弱々しくゆっくり頷く
天界の都合で女の子は命を失う
神様業務ってなんだよ
助けちゃいけないってなんだよ
私はフツフツと怒りが込み上げてきた
しかし今は神様業務の途中だ
交代までは残りの業務をしないといけない
私はもう手遅れだと察して座り込む
ダイスケは弱々しく肩に手を乗せる
また瞬間的に色々な思いが頭を巡る
競馬で勝ちたい
それは叶えてあげない真面目に働きなさい
誕生日プレゼントに新しいゲームが欲しい
それは叶えてあげる
火事だ!子供と母親が取り残されている
これはなんとか助けてあげたい
近くの窓が割れて煙が吹き出す
その窓から助けを求めて叫ぶ母親
消防隊員がすぐ駆けつけ助かる親子
ほら神様は助けられる
助けてあげられるんだ!
私の中で先ほどの女の子が思い出される
助けてあげられなかった!
助けちゃ駄目ってなんだよ!
きっと辛い思いして怖い思いして
神様に願ったんだろう
それを見殺しにしてしまった
しなくちゃいけなかった
私の中はモヤモヤした気持ちのまま
2日目の業務が終了した
今度の代理神は黒人男性だった
「エインヘリャルおめでとうございます、お疲れ様でした。出来る限り頑張ります」
男性はそう言うと一礼して座り込む
おめでとうございます?
めでたくないよ そう言いかけてしまった
私もダイスケも無言でタイムカードまで歩く
ガシャンと刻印する
2日目の終了だ
ダイスケに色々聞かねば
そう考えながら私は歩く