神様の歯磨き
期待と不安とでなかなか寝付けなかった
しかし天界の処方はどうも強いみたいだ
いつもより2、3時間遅かったが
なんとか眠りにつけた
起きると時間はわからない
天界には時計がないのだ
唯一あるのはタイムカードの時計
みんなどうやって時間を把握しているんだろう
横でダイスケが座っている
「ダイスケさんおはよう、体験間に合うかな?」
ダイスケは顔を上げて
「多分今7時半くらいだから余裕で間に合うよ〜」
何故時間がわかるのか?ダイスケに聞いてみた
「どうして時間わかるんですか?時計もないのに」
ダイスケは胸をトントンと叩きながら
「体内時計さ、多少の誤差はあるだろうけどね〜、感覚でわかるんだよ〜、ユウジも慣れたらきっと分かるようになるよ〜」
朝も夜もないのに体内時計で分かるのか?
神様の力とかで分かるんじゃないんだ
私はちょっと残念な気持ちになった
「じゃあ顔洗って歯磨きしてきます、待っててください」
ダイスケは右手で敬礼の形をして
その手をビッと前に出し行っておいでとする
壁から湧き水のように水が流れ出ている
ここで顔を洗ったり歯磨きしたり
水を飲んだりする場所だ
私は置いてある私の歯ブラシを使って
歯を磨くが他の神様や天使は
食事をほとんどしないからなのか
歯を磨く神様はほぼ居ない
私は毎日食べているので歯を磨く
眠らないからなのか顔を洗う神様も居ない
そういえばお風呂もないな
かと言って汚い感じの神様は居ない
汚れはつかないのかな?
そんなことを考えながら歯磨きを終える
顔をバシャバシャと洗うがタオルはない
いつものように服で顔を拭く
ダイスケのところへ戻る
ダイスケに聞いてみようか
「ダイスケさん、お風呂もありませんけど、神様は汚れないんですか?何かこう神様の力的なものでしょうか?」
ダイスケは笑いながら答える
「ははは、ユウジは面白いこと考えるね〜、神様にそんな力はないよ〜、基本的に身体の汚れって老廃物が出ることなんだよね〜、髪や爪は伸びるけど時間は止まるって説明したよね〜、末期癌の神様の話し覚えている?あれが良い例で、身体の時間は止まっているわけ、それで身体は汚れないではなく汚れの原因が出ないだけなんだよ〜、走って汗をかけばお風呂に入るし、あれ?お風呂はまだ案内してなかったかなぁ〜?」
なるほど肉体的にはほぼ時間が止まっているから
垢やフケの原因になる老廃物が出ないのか
しかし走ったりして運動すると汗は出るのか
その時はお風呂に入るってことか
歯磨きも同じ理由かなぁ?
「じゃあ歯磨きをしない神様が多いのは?ほとんどしない神様ばかりですよね?」
「ああ!その事ね〜、天界に細菌は居ないんだよ〜、ウィルスもだけど口の中の細菌も居ないの、だから虫歯にならないし風邪もひかないんだよね〜、ウィルスや細菌も小さいながらにも生き物だからね〜、天界に入ってこれないんだよ〜」
なるほどだから歯磨きする神様は居ないのか
私は普通に食事しているんだから
歯磨きするのは当たり前だけど
食事もしない細菌も居ない天界で
歯磨きする意味がないってことか
また一つ勉強になったぞ
「そんなことよりユウジ、あまりのんびりしてると遅れるよ〜」
そうだった今日は神様業務体験の初日だ
初日から遅れるわけにはいかない
私は慌てて準備しようとするが
何をしたらいいのかわからない
「ダイスケさん、このままでいいんですかね?」
私は濡れた服を指差す
ダイスケは右手でOKサインを作り
「問題ないよ、少し濡れてるくらい業務体験に支障はないよ〜」
そう言ってダイスケは立ち上がり歩き始めた
いよいよ神様業務体験だ少しドキドキしている
少し歩いて行くと忽然と現れる
タイムカードの乗った小さな雲
隣には沢山のカードがかけ置いてある棚がある
この棚も雲で出来ている徹底してるな
そんなことを考えながらタイムカードの機械の
時間を見ると8時5分前だダイスケの体内時計は
バッチリ機能しているみたいだった
さて5分以内にこの沢山ある中から
私のタイムカードを探せるのか?不安になる
「ユウジは青色のタイムカードだよ〜」
ダイスケがそう言ってくれた
白い沢山あるタイムカードの中程に
一つだけ青色のカードがある
そのカードには『ユウジ』と
カタカナで書いてあった
私はそのカードを手に取ると
タイムカードの機械に上から押し込むと
ガシャンとカードに手ごたえがある
カードを見てみると『7:57』と刻印されている
ダイスケがにこりと笑い
「今回僕は付き添いだからね〜、タイムカードはないんだよ。さあ初めての神様業務を体験してみよう〜」
ダイスケに先導されてまだまばらな神様の中を
2人で進んで行く