景観
ダイスケはしばらく歩いている
私は着実に悪化する幻聴と戦っていた
しかし薬も万能ではなく飲んだからといって
幻聴が治るわけではない少し緩和される程度だ
それでも飲み続けないともっと悪化して
現実と幻聴と妄想の区別がつかなくなる
そうなると入院するしかない
統合失調症とはそういう脳の病気なのだ
世間からはあまり理解はない
ダイスケは歩き続け壁までたどり着く
「薬剤部!」壁に向かって強めに叫ぶ
ここでも変わらないのか
ゆっくりと壁が薬局の窓口へと変わる
ダイスケが何か話している
しばらくすると見慣れた白い紙袋を渡される
更にダイスケは何か話していた
窓口の女性天使がコップを持ってきた
「さあユウジ、薬飲もうか?」
ダイスケから手渡されたのは水の入ったコップだ
私は小包装されている薬の袋を開け中の薬を飲む
コップを女性天使に返却する
この天使も下界へ行きたいのかな?
薬を飲んだ安堵感からなのかわからないが
他の事を考える余裕が出来た
用事が終わるとゆっくりと窓口は
白い壁へと戻っていく
何故いちいち壁になるんだろうか?
ダイスケに聞いてみた
「何故 毎回壁に向かって叫ぶんでしょうか?最初から窓口や店舗で良いのでは?」
ダイスケは少し苦い顔をして答える
「そうなんだよね〜、正直なところ面倒なのが本音だよー。でも神正会の決まりで天界の景観を守るためらしいよ〜、壁一面店舗だったら天界!って感じ出ないよね〜?それを守るためらしいよ〜」
私は何度かゆっくり上下に小さく首を縦に振る
なるほど下界でも世界遺産などの街並みで
建物の高さや色など制限がある国や街もある
それに似た感じだろうか?これも試験に出る?
とりあえず覚えておいて損はないか
そんなことを考えていた
教えることはないとのことだが
まだまだ覚えることは沢山ありそうだ
一年間しっかり覚えて試験に合格しなきゃ
そんな使命感に駆られている
幻聴が少し弱まってきた
下界の薬だとこんなにすぐには効かない
やはり特別なのだろう
しかし弱まっているだけで幻聴は消えはしない
そこは下界の薬とあまり変わらない
この時強い眠気に襲われる
薬の副作用で眠気は来るのだが
ここまで強い眠気は初めてだった
「ダイスケさんめちゃくちゃ眠いです」
ずっと私を見ていたダイスケは
はっ!とした顔をして
「そうか。天界処方だからね〜、標高の高い天界だと下界と処方も違うんだよねー、基本的に強めな処方になっているんだよね〜」
ダイスケの話しと幻聴と眠気で
私は意識が朦朧としている
今すぐにでも眠ってしまいたい
「ここで眠って大丈夫だよー、私は起きているから眠って良いよー」
私はここで?こんなに人がいる場所で?
そう考えていたけど眠気には勝てない
ゆっくりと座り込みそして横になる
床は硬くもなく柔らかくもなくちょうど良い
ダイスケは私の横に座り込みあぐらをかいている
「ユウジおやすみ」
「ダイスケさんおやすみなさい」
私は意識が遠のいていく