(96 β ――ウルクアレク・オブ・ザ・デッド)
ありがとうございます。
こちらは95話までを踏襲したおまけ要素な「96 β話」になります。
ぱんだ亭の常連客らが噂をささやく夜。
すでに異変――いいや変調は起き始めていた。
月の光も隠れるプジョーニの路地裏。
噂のウルクことアレクが人を襲っていた。
ただし戦士は腰の武器を使わず、牙のような尖る歯で咬みつき、食いちぎり相手を殺した。
それから、ふらりふらり。
白目をむくアレクは街中へ姿を消した。
――そうした夜が明け、朝を迎える。
それは、奇妙な朝であった。
霞むそうなうめき声に支配された朝であった。
人の気配はあった。
だがしかし、そこに人の生気が感じられない。
「……ルォォォぉ……ネぁぁァァ」
アレクが何かを求め徘徊するが――。
――それはもう、人ではなくなった姿でのことだった。
青く変色した肌。
だらりとよだれを垂らす口。
意識があるとは到底思えない、光のない眼。
――ずるり、ずるり。
人でなくなったアレクの後ろで、給仕服の少女が足を引きずり歩く。
少女もまたアレクと同じような症状に冒されていた。
むろん。
この二人だけなく、街の者達の大半がこの『ゾンビ症』に感染していた……。
人が暮らす街として、プジョーニが最後の朝を迎えてから、数ヶ月。
400年前に死滅したとされた病原体の繁殖は、腐る人間と壊れた街並みを生み出していた。
今はもう、『ゾンビ症』に冒された者達しかここにはいない。
しかしそこに、生きた人間が足を踏み入れる。
――アーサーら、勇者一行であった。
大陸への被害拡大を防ぐため、彼らはいた。
目的は殲滅。
すべてを焼き尽くし、浄化させる使命を帯びる。
「……本当にいいのかい」
勇者が声をかけた少女は、小さくうなずくと駆け出した。
涙を流す少女が、愛する兄と出会えたかは分からない。
ただはっきりしているのは、袂を分かつ魔法士の少女が死を選んだという事。
「神アマンテラスよ! ここに貴方の慈悲を授け給え」
アーサーはその身に宿す”神の加護”の力を増幅させてゆく――――。
――この日、大陸からプジョーニの街そのすべてが消えた。
こうして、一人の男の冒険譚が完全な終わりを迎えた。
また、それから程なくして、大陸は”大塊受胎”を迎えるのであった――――。
―――― WOLFALEX OF THE DEAD ――――
了




