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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―III 】……魔王討伐編前段階のパートです。
92/147

92 噂の立つところに、ほっかぶり ①


               ※


 ぱんだ亭は、本日も酒飲み達で賑わう。

 店のカウンターには、常連客。

 そのいつもの顔ぶれに、銀髪の幼き少女の顔があった。

 ペットの蛙、並びに恰幅も良い中年の男から視線が注がれるなか、ココアが一心不乱に料理を食す。


――もぐもぐ、んぱんぱ。

 

 ぱんだ亭人気の一品。

 絶妙な味付けのジューシーなイノブタ肉を、さくさくふわふわのパンでサンドした『パンぱんだパン』。


「相変わらずの、いい食いっぷりだな。ま、相変わらず、口の周りを汚すけどな」


 いつもの顔ぶれの一人であるマサから、おしぼりでほっぺたをゴシゴシされる。

 酒場の忙しさもあってか、こうして常連客から面倒をみられながらの晩ごはん。

 それも、ココアには日常となっていた。


「ぷはあ。ヨーコのお姉ちゃん、うまうまーのぱんぱんだぱん、おかわりなのだー」


 ココアのおねだりに、『はいはい』と店主ヨーコが応じる。


――しかしながら。


「けど、ちょっと待ってなさね。新しいお客さんだ――」


 ヨーコの切れ長の目が正面を見た。

 愛想良く迎えたそこには、フードを深く被る客。


「いらっしゃい。なんにするんだい?」


 白いローブを羽織る。

 そのシルエットは丸みを帯び、胸元は膨らむ。

 顔は分からずとも女だと分かる。

 そのフードの客が、覆う顔の向きを変えた。


――店主ヨーコから、幼女ココアへ。


「なーぜに、こんなところに……と、ウチが考えても仕方がないけど」


 すう、と腕を突き出し、指を差す。

 そして、フードから見える口元を、


――にひ、と上げた。


「キミちゃんってば、魔族だよね。いやいや、そこの蛙くんと合わせて、キミちゃん()って言うべきだったかな」


 それは、フードの女にとって思わぬ出来事。

 本日訪れた街での、まさかの遭遇であった――――。



               ※



 大陸の西。

 クジラ月らしく、青空も眩しい昼頃。


 街道の端から馬車が発つ。

 何もない場所のそこには、フードを被る頭を下げる姿がポツンと残る。

 乗せてもらったお礼のお辞儀。

 束ねる青い髪の毛先を見せてはいるものの、童顔のその素顔はフードで覆ったままに。

 そして、彼女は歩き出す。


――おいっちにー、さんっしいー。 


 ブジョーニの街の停留所で下車しなかったぶん、しばらくはこうして徒歩で向かうしかない。

 どうやらあえてのそれは、馬車での出入りは何かと目につくだろうとの判断らしい……。


(ひっがし)から~西(にっし)まで~、駆け巡る~のに忙しいサクラちゃんだぜ~。あ、そ~れ、よよいのエンヤコラ~、エンヤコラ~」


 のぞかせる口元が、独自の曲調で陽気に口ずさむ。

 吟遊詩人や歌手にでも憧れがあるのかはさておき、彼女は神官職の一つ『巫女』を拝命していた。


――巫女の名は、サクラ・ライブラ。


 ついでに、即興の歌に登場させているも、あまり(おおやけ)にはしたくない名でもあるようだ。


 そんな彼女が身にまとう衣装は、もちろん白を基調とした巫女服。

 ただし、正規のモノとはだいぶ異なる装いとなる。


――改造衣装(アレンジ)パーカーローブ。


 王都の若者が『パーカー』と呼ぶ服を模したそれを、ブカブカサイズで着こなす。

 小柄な体ゆえ……でもなく、今も揺らす豊かな胸を理由に。

 さらには、正規のズボンも裾丈が長い膨らむものから、バッサリ短くぴっちりしたものにしている。

 理由は戦闘時の動きやすさから。


「さーてさてさてサクラちゃんよ~、(まっち)で~のランチは、な~ににするのかな~」


 セリフ調で続く『べいびい、そこはやっぱりイノブタステーキだぜ!』。

 ウキウキな巫女サクラちゃんであった。





 ”明確な目的”――。


 それがあって訪れたプジョーニの街。

 サクラ・ライブラは、何かを探るように街中を練り歩く。

 そうしながら、遅めのランチを食べ、滞在する宿を決め、そこでおやつタイムを済ませ、早めのディナーを! と外出していたが。


「ウチは今、まさに幸せを噛み締めているっス。いや~お肉がホロホロ~」


 煮込み料理を前には、にぱーとした微笑み。


【サクラメモ】


 ☆☆☆

 場所:ブジョーニの北通り

 店名:とらとら亭

 品名:オヤジの男鍋

 備考:ハゲのおっちゃんの店。


 手帳を閉じると、巫女サクラは合掌。飲食店をあとにする。

 さすれば……。


「さーてさてさて。次は夜食を求めつつ、探索は続くよ、どこまでも~」


 情報は自らの足で稼ぐ。

 それをモットーに、サクラ・ライブラは再び街中をうろうろするのであった。



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