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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―II´ 】……今回の冒険の結末がさらなる冒険を呼ぶ予感パートです。
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85 ボルザック・ボルゾック ①



               ※



 クリスタの鉱山洞窟から手招きドラゴンが去る。

 それから、一夜が開けた『月の日』。


 遅い朝。もしくは早い昼。

 クリスタの『馬車置き場』にて、快晴の空を見上げるのは、腕に焼印を持つ二人の男ら。


「いい天気だな~。こりゃ祝賀会日和ってもんだ」


 心地よい陽射しのもと、男は魔晶掲示板に顔を向け直す。

 馬車の案内板でもあるそこには、”シンブン玉(巷の最新話題)”も表示されていた。

 もちろん、本日そこを埋め尽くすのは――勇者アーサー関連の話題である。


☆ 『さすが、勇者様御一行。手招きドラゴン討伐をあっさり片付けてしまう!』


☆ 『報奨金3000万ルネ、アーサー様は全額寄付! 教会に1000万、ドラゴン損失の補助金としてクリスタ商工会に1000万、戦闘による崩落も激しかった採掘場復興に1000万』


☆ 『本日夕方より、手招きドラゴン撃退を記念して祝賀会が開催。*一般の参加者抽選はギルド会館にて、お昼から行います――』


 魔晶掲示板、その板面には文字と写影が踊る。


「かあ~、オレもパーティ(祝賀会)ーに行きて~。そして、ナマラティス様を拝みてー」


「お前は、サクラ様派じゃなかったのかよ」


「サクラ様はご出席されないみたいなんだよな、これがあ」


 背の高い男が指をさす。

 板面にある祝賀会の主賓(しゅひん)の項目。

 そこに男を(とりこ)にする『サクラ・ライブラ』の名はない。


「もしかしたら、そのベールに包まれた御尊顔を! と期待もしたんだけどな」


「ああ、それわかるわ~。シンブン玉の写影とかもフードで覆われているのしかないからな……サクラ様」


 ラティス派の背の低い男でも、表に出回っていない”巫女の素顔”は興味をそそられるらしい。


「その御尊顔は、ラティス様に引けを取らない美少女! な噂もあるけどよ……」


 サクラ派の背の高い男が、自分の胸元を押し上げる仕草をしてみせる。


「こっちは、サクラ様の完全圧勝だからな。だからこそ、オレはサクラ様派なわけよ」


 にんまり、と顔を緩めるサクラ派の男。

 そこにはラティス派の男も力強く同意。

 男達がわっとはしゃぐ。


「ま、なんにしろオレ達奴隷じゃ会場にも入れないだろうから、明日のシンブン玉を期待するしかねーよな」


「シンブン玉記者には、ぜひともラティス様特集をお願いしたい!」





 背の高い男と低い男。

 『馬車置き場』で馬車の管理を任される男達が、下世話な話で盛り上がる頃であったろうか。


――いくつもの馬車が繋がれる並びの一つ。


 ハナコとハナゾーと名づけられる馬の荷馬車に、彼らはいた。

 帆布を張る荷台。

 食料などの荷物以上に場所を専有し、アレクが寝転がる。

 その身体が負う傷は、完治したとは思えない。

 それでも、止めるエリを振り切り病院から抜け出した。

 よほど病院が嫌いだったとみえる……。


 そんなアレクが、『一刻も早くクリスタを離れるぞっ』と意気込み、見つけた馬車に乗り込めば、有無も言わさず大の字で眠りこけていた。


――つんつん。


 アレクの頬が突かれる。

 エリが馬車の管理者に話を通しに行ったので、今はアレクと一緒に荷台で待機中のココアであった。


――ずぼり。


 ココアの小さな指が、アレクの鼻の穴に突っ込まれる。

 『ぬががっ』とアレクがびくっと反応すると、すぽり抜かれた指。


――ずぼり。そして、ぬががっ。


 続いて。


――ずぼり。ぬががっ。


 おまけに。


――ずぼり。ぬががっ。


 幼女のしつこい悪戯にも、アレクが目を覚ますことはない。

 かなり深い眠りのようだ。


「アレクー、ぜんぜん、起きないね。ずーと寝てばっかりー」


「おそらくは、傷ついた体のほうがこの者の意志を越え、睡眠を欲しているのでしょうな。人間は魔力を取り込める体質ではないので、疲労は眠りでしか癒せません」


 そう、”蛙”が言う。

 さらに、喋る蛙はこうも続ける。


「しかし、ココア様。人間の恐ろしいところはこの眠りにもありますぞ。戦士のこの男。回復の眠りから目覚めてしまえば、手招き殿との戦いの時よりさらに強さをモノにしていることでしょうな」


 とくに、戦いに関しては、自分の先見に自信があるようだ。

 今はココアの教育係兼護衛の任につく蛙も、昔は戦士として名を馳せた。

 六つの魔象痕に恥じない実力。

 その蛙ことボルザック・ボルゾックが、時に脅威に感じていることがある。


――人間の持つ可能性と天井のない成長。


「おねむなアレクだと、ココアつまんなーい。あと、ボルボルのお話もつまなーい」

 

「ゲココココ。手痛いですな。だとすると、こちらもココア様にはつまらないものになるかと思いますが、教育係としてはお願いしたく」


 ぴょん、と蛙が跳ねる。

 寝そべる胸板に乗る蛙が見上げるのは、アレクの(まぶた)を押し上げる楽しそうなココアの横顔。


「人間どもの前では結構ですが、魔族の者がいる場で、拙者を頭の上に置くのはいかがなものかと思いますぞ」


「なんでー?」


「ダージリン様のご息女のココア様は、一国一城の姫となります。その姫が、ソレガシような下賤の者の下に身を置くなど、他の魔族からどのように思われることやら」


「だって、今の大きさのボルボル、歩くの遅いからー。んーと、ココアが運んでやっているのだー」


 叱られている。

 それを察したココアが反論する。


「そのように言われてしまうと、立つ瀬もありませんな。しかし、拙者の”変態”はこの大きさにしかなれませぬし……。せめて魔族の者がいる前だけでも、ソレガシを――」


 聞く耳持たず。

 ココアの態度から、蛙は残りの台詞を飲み込んだ。

 そうして、ゲココココと吐息を漏らすだろうか。


――鼻を押しつぶしたり、口から舌を引っ張り出したり、出来上がる表情に笑い声をあげる。


 幼きプリンセス(魔族の姫)は、お気に召す人間相手に微笑ましくも戯れる……。



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